御子様、
宜しくお願い致します。
第四十八話
御子様、
オーライド聖王国の王都ヨツバルンにある女神教の大聖堂で朝の礼拝を行う為に教会の神官とシスターが準備をしている、
「シスターそろそろ皆さんを広間に案内して下さい、」
「では門と入り口の係の者に、」
と広間の入り口から出て行ったシスターがいつまで経っても戻らないのを不審に思った神官が入り口から出てみれば、
何時もは信徒で長蛇の列が出来ている大聖堂の正面広場は晴天にも関わらず信徒の姿は無く、
正門係のシスターも入り口係のシスターもお互い顔を見合わせ首を傾げている、
神官が声をかけたシスターは正面広場まで出て町の様子を眺めている、
神官が、
「この様な事は私がここに勤め出してから初めてです、
朝の礼拝は私が担当ですが一度大神官に報告に行きます、」
と入り口係のシスターに告げその場を後にした。
大神官の執務室で法衣に着替えるザビエス枢機卿は執務室の扉のノックの音に、
「お入りなさい、」
と返事をすると神官の一人が、
「おはよう御座います大神官、
ご報告したい事が、」
「おはよう何かありましたかエナレス司祭」
「はい、朝の礼拝に信徒の皆様が...
見えないのです、」
と口にして戸惑っているエナレスに、
「その様な日もあるでしょう、来て頂いた方達で朝の礼拝を行いなさい、」
「大神官!誰一人見えませんこんな事は初めてです、」
「お一人も?」
「はい、大聖堂前広場にも一人も、」
司祭の報告に流石に驚いた大神官が、
「街の様子は?」
「いえ、特に変わった様な所は、」
「エナレス司祭、定刻になったら何時も通り礼拝を始めなさい、
私も様子を見に行きます、」
「はい大神官、」
そしてその日朝の礼拝は神官とシスターだけの普段見られない礼拝が静かに執り行われた。
午後になっても参拝者は居らず、併設されている治療院の方にはちらほら来院がある様だが何時もと比べればかなり少ないと報告が入っている。
大神官の執務室に司教以上の神官と高位のシスターが集まり、街の外に出た神官やシスターの報告を受けている、
孤児院を統括しているシスターベスが、
「大神官この様な日もありますよ、
外に出た者達も街の様子は何時もと変わらないと言っているではありませんか、」
大神官の隣にいた司教が、
「シスターベスしかし毎日あれだけの参拝があるこの大聖堂に参拝者が居ないのは異常ですぞ、
大神官、王城とジオラフトに報告を入れた方が?」
「あの、宜しいでしょうか?」
と街の様子を報告に来ていたシスターの一人が発言の許可を求める、
「おお!シスターパオラ丁度良い直ちにジオラフトに報告を、」
司教の言葉を大神官が手で制し、
「待ちなさいペダレフ司教、
先ずシスターパオラの話を聞きましょう、」
大神官の言葉に頷く司教を見たパオラが、
「街から戻る際、教会に異常な神力を感じました、
聖女様のお近くでも感じた事の無い様な神力です、」
「パオラ貴女は教会の中でも聖女様からお預かりしている聖女の瞳の一人、
貴女は報告が必要だと考えましたか?」
と大神官に聞かれてパオラは一瞬目を閉じた。
パオラは表向きジオラフトの聖女が各国へ派遣する優秀なシスターの一人で、彼女が属する聖女の瞳とは次代の聖女候補達が世界をその瞳で感じなさいと作られた聖女直轄のシスターと言う事になっているが、
実際は各国の諜報機関員顔負けの諜報員である、
この事実は聖女と枢機卿以上と聖女の瞳に関わる者だけで秘匿されていた。
パオラは目を開けるとこの国の大神官であるザビエス枢機卿に、
「今はまだその時ではないかと、
不測の事態となれば私が転移でジオラフトにお伝えいたしましょう、」
「分かりました、おやおや皆さん何かあった訳ではありませんよ、
ひょっとしたら天使様がこっそり降臨あそばされたのかもしれませんね、」
と大神官が笑顔で告げれば皆の張り詰めた空気が弛緩する、
そこにドアのノックの音が聞こえ、
司教の許可と共に入って来たシスターが走って来たのだろう肩で息をしながら、
「信徒の方が参拝されています、」
と告げる、
普段であればそれがどうした?となる所だがそれを聞いたパオラは一礼すると執務室を飛び出して行く、
報告に来たシスターが、
「パオラ?」
と呼びかけた時にはパオラの姿は何処にも無かった。
「まああの子ったらあんなに慌ててって私も興味があるから見に行くわ、」
とお茶目に部屋を出るベスに、
「シスターベス貴女まで!」
と執務室から出て行くベスにペダレフ司教が呆れていると、
「私も、」
とベスに続き大神官まで執務室を出て行った。
「何だこれ、麻呂じゃん!」
と鏡を見ながらエルルは自身の眉の辺りをぺたぺた触り、眼鏡を外しもう一度手鏡を確認して、よよよと泣き崩れる、
「ぷぷっぷっ!」
とイオは必死で笑うのを堪えながら、
「エルルさん!眼鏡!眼鏡!ぷっ、」
とエルルに眼鏡をかけイオは化粧道具を取り出し、
「エルルさん大丈夫ですよ、ぷぷっ、ちゃんと何時もの眉を描いてあげます、」
と手速くエルルの眉を整え、まだ涙目のエルルに、
「はいっ!エルルさん完璧です!」
エルルはしゃくり上げながら鏡を見て、
「イオさん!イオさん!ありがとう!イオさんは心の友ですっ!」
とイオのローブにしがみ付く、
「はいはい!エルルさん分かりましたから!さあ祭壇前でお参りしますよ、」
と言いエルルの耳元に顔を寄せ小さな声で
「あと私じゃないですが少し魔力と言うか力を抑えた方が良いですよ、
身体薄っすら光っちゃってます、」
「えっ!本当だここは力の管理が外と違うみたいだ!イオさんみたいに腕輪した方が良いかも、」
「私達しか居なくて良かったですね、さあ女神様の前でお祈りしましょう、」
祭壇前でお互いむにゃむにゃ祈りを捧げ、イオの隣でエルルはかなりぶつぶつぼやいている、
そこにシスターさんから声がかかり、
「あら可愛い娘さん達が熱心にお祈りをしていらしたから思わず声をかけてしまったわ、
ごめんなさいねお祈りの邪魔をしてしまったかしら?」
イオがぶんぶん手を振り、
「シスター様この様にゆっくり祈りを捧げられたのは初めてです、
大聖堂に着いた時はお休みかと思ってしまいました、」
「まぁ!ふふふ、教会にお休みは有りませんよ、」
エルルがイオの隣りから、
「ほらっ!イオさんお休み何てある訳無いじゃないですか、」
「エルルさんは普段の教会を知らないからそんな事が言えるんですよ、
何時もは凄い人がならんでいて祭壇の前でもお祈りどころじゃないんですよ、」
二人のやりとりにシスターは苦笑しながらエルルをよく見て、
「あらっ、貴女は確か公爵家の?」
エルルも眼鏡越しにシスターを見直し、
「確かお祭りの時にお会いしたシスター様ですね、」
「ええ、その節はお世話になりました、」
「いえいえ私達は主人の言付け通り仕事をこなしているだけで御座いますシスター様、」
「そのお姿お二人は魔法士様なのですか?」
「はい、二人共普段は公爵家に仕える者ですが休暇中でして、」
「おやおやシスターベスのお知り合いの方達ですかな?」
と笑顔で広間に入って来た老人にシスターが、
「まあ大神官様がおいでになるとは!こちらの方達はギルガス公爵家の使用人の方達ですわ、」
「なんと!公爵様には何時も多大なお心遣いを頂いております、
御礼にお伺いする事も出来ず心苦しい思いをしておりましたが、
このたびの孤児院への企画を含め改めて御礼申し上げます、」
と大神官は胸に手を当て深くお辞儀をする、
エルルとイオは膝を付き頭を下げ、
「必ず主人にお伝え致します大神官様、」
「お二人共お立ち下さい、ここでお会い出来たのも女神様のお導きご一緒にお茶でも如何ですかな、」
エルルは立ち上がり頭を下げ、
「ありがとうございます、大神官様家族の者が家で待っておりますので今日は失礼させて頂きます、
またお休みの日に参拝させて頂きます、」
「そうですか、今日は参拝ありがとうございます、お二人に女神フィーネス様の加護がありますように、」
と笑顔で声をかける大神官とシスターにエルル達はもう一度頭を下げ教会の大広間を後にした。
教会から出て相変わらず人の居ない広場を通り表の街道に入った所でエルルは耳のイヤリングに手を添え小声で、
「イオさん教会から付いて来てる人がいます、
念のためそこの角を曲ったら家迄転移しましょう、」
エルルの言葉にイオは軽く頷き二人は街角を曲がると同時にその場から消えた。
エルル達の後を目立たないローブを羽織ったパオラが気配を消して転移しながら着いて行く、
前方の少女達が角を曲がるとパオラは距離を詰め建物の角から少女達が曲がった道を覗けば少女達の姿は無く、
「くっ!気付かれたか、」
と自身もその場からスッと消えた。
少女達が帰った広間で大神官が、
「シスターベス彼女達の事を詳しく聞かせて欲しいのだが、」
「大神官、私も公爵家の使用人だと言う事以外は何も知りませんわ、
ただ魔法士だと言っていましたが二人共全く魔力を感じ無かったわ、」
「シスターベス彼女達は公爵家の使用人だと言いましたがあの二人が着ていたローブは聖女様や教皇様が身に付ける御召し物より上質な様に感じました
本当に不思議な少女達でしたね、」
私の名前はパオラ、イスタリアの下級貴族の家に生まれ初等学園の入学検査で治癒魔法と時空魔法の適性がある事と人並み外れた魔力を保有している事が分かった。
父母は大変喜び私は母の知り合いのシスターから治癒魔法を習いながら学園に通った、
そして学園を卒業したら国家魔導院へ勤務する事が自身の夢であった。
だがある日父の元に国の宰相閣下と、教会の大司教様がおとずれ、
帝国の中にあるジオラフト市国の女神教総本山からの召喚状を父に渡し帰って行った。
我が家は熱心な信徒では無かったが総本山からの召喚となれば選択肢は無く私は出家することになった。
私は総本山のシスター見習いとして一年研修し、其の後聖女様直属の聖女の瞳に配属になった。
実家に聖女の瞳に選ばれたと手紙を出した所それを読んだ父はその場で卒倒したらしい、
聖女の瞳に入ると言う事は次代の聖女候補の一人で王妃になるより光栄で難しいと一般に言われている、
そもそも先ず第一に人並み外れた魔力を有している事、
第二は治癒魔法が使える事が聖女になる必須事項でここまででも狭き門なのに実際には時空魔法が使える事が追加される。
そして聖女の瞳に配属され私は聖女の瞳の真の意味と目的を知った、
聖女の瞳とは次代の聖女候補に世界を見せる為に各国の教会に派遣し学ばせると正に組織の名前通りなのだが、
真の目的は派遣された国の動向を逐一総本山へ報告し不穏な動向が有れば教会やギルドを通じて一早く秘密裏に不穏の種を潰し世界の平和を守る組織なのだ、
実際聖女の瞳が発足して以来国同士での大戦は起こっていない。
私の配属はオーライドであった、
オーライドの現王妃はジオラフト市国があるイスタリアの出で両国の仲は大変良好だ、
二つの国の間にはファーセルとゴースロがあり両国共に種族が違うため親密では無いが仲が悪いと言う事も無く、交易などは盛んである、
聖女の瞳のシスターはジオラフトと行ったり来たりするのでオーライドに住んでいると言う感覚は薄すいが、普段は優秀な治癒師として教会に隣接する治療院で勤務している、
治療には沢山の人が訪れ、色々な情報が入ってくるのだ、
今私がオーライドで注目している一人はオーライドのギルド統括理事のジル・アズビー騎士爵だ、
彼は画期的な特許をギルドに無償で提供しギルドに莫大な貢献をしている、
そしてオーライドは今急速に文化の革命が起きつつある、
その種を蒔いているのが騎士爵だ、
元々大商会の会頭だったのだ、お金には困ってはいないだろうがなかなか出来る事では無い、
ちなみに今パオラ達シスターの全員で大神官にトイレの改装を願っている、
あと最近ジオラフトによく帰るのは少し前に王都ヨツバルンにある有名なお菓子店が最近売り出したケーキと言う菓子を聖女様と同僚に土産で持っていった所、聖女様を筆頭に全員どハマりしてしまい聖女様自らお小遣いを渡され買って来る様に頼まれているからだ、
しかしそんな中、治療院で高位の貴族夫人を治療していた時今話題のケーキの話になりその夫人が公爵家の夜会で振る舞われたケーキは絶品で、有名店のケーキなどとは比べ物にならないと言う、
そう!私がもう一つ注目しているのはギルガス公爵家だ、
今貴族方の話題は常に公爵家で色々な噂が流れている、
全て本当だとは思えないが、以前大神官が匙を投げた私兵騎士団長の肩を治療した超高位の医者がいて、
治癒魔法で治せないと言われる難病を治療出来ると言う、
とにわかに信じられない話しだ、
他にも先日大神官に手渡された公爵からの提案書だ、
そこに書かれていた内容を見た大神官は目を見開き読み終わった後に天を仰ぎ祈りを捧げた。
その提案書には孤児院の子供達に穀物を加工させ自分達で食べ余剰分を売り孤児院運営の足しにする方法と手順が細かくまとめられていたのだ、
穀物とは畑を作り育てなければならない孤児院にはその様な土地も無ければ農耕の技術も無い、
しかしその穀物とは雑草で教会の奉仕活動で刈る白麦草だと言う、
白麦草の実の殻を取り実を水で炊けば白米と言う食べ物になり、一部の貴族の中では既に食べられていると言う、
この公爵家からの話が事実なら、世界中の教会の運営にも多大な助けになる、何せ白麦草は年がら年中街のいたる所に生えて来る雑草なのだ、
あり得ない事だと思うがもし王都中の白麦草を採り尽くしたとしても王都を一歩出ればそこは白麦草の大草原なのだから、
後日大神官がシスターベスと共に公爵家に招待され実際にその穀物を食べ判断して欲しいそうだ、
大神官の許可が出れば直ぐにでもジオラフトに伝えたい情報だが、大神官が実際穀物を食べてからになっていて大神官に私も公爵家に付き添わせて欲しいと伝えてある。
非番の朝部屋にいたら何やら教会の中が騒がしい、
まあ騒がしいのはいつもの事で沢山の信徒が朝の礼拝に参加する為に早朝から教会前広場に長蛇の列を作っている、
しかし今日は同僚達が何やら走り回っている様だ、
ドアを開け丁度走って来た同僚に、
「ねえ何かあったの?」
「パオラ!それがね信徒さんが見えて無いの、」
「何それ礼拝者が少ないって事?」
「違うわ!誰一人居ないの!
今教会の中がちょっとした騒ぎになってる、」
「私もちょっと見に行くわ!」
とパオラはシスター服の上からローブを羽織り教会の裏口から表広場に出て驚く誰一人居ないのだ、
何時もなら長蛇の列が出来るこの時間に、
パオラはそのまま街に出て昼過ぎまで王都の街中の様子を確認し回ったが変わった様子は無く教会に帰ろうとすればまるで人払いの結界の様な神力を教会から感じ大神官に報告に行く、
大神官の執務室ではパオラと同じく街に出ていた神官が街の様子を報告していて、
自身が教会に帰る時に感じた神力の話を報告すれば、大神官が皆の不安を和ます様に天使様が降臨あそばせたなどとおっしゃったが、私は天使様が本当に人払いをされているのではないかと思っていた、
そんな時に同僚から信徒の方が拝礼していると聞いた私は大神官達に頭を下げ部屋を飛び出した、
廊下を走りながら大広間の祭壇の裏に転移しそこからこっそり覗けば、
魔法士が好むローブを羽織った自身と同じ位の少女が二人ぶつぶつ祈りを捧げている、
少し離れているが遠目に見ても二人のローブはとても上質そうで二人共に目が覚める程の美人だ、
ただ二人から魔法士が纏う魔力を感じない、
そんな二人にシスターベスが話しかけ、こっそり聞き耳を立てていれば、
何と二人は公爵家の使用人で魔法士だと言う、
そこに大神官まで話に加わり二人に興味を持った私は広間を出て行く二人の後をこっそり付いて行く事にした。
私は転移を併用した尾行で二人が大聖堂前広場から街道に出るのを確認した後広場に転移する、
二人が街角を曲がった所で転移で距離を詰め角から街道を覗けば二人の姿は無く、
くっ!気付かれた?どちらかが時空魔法士だったのか?私達女神の瞳の尾行が気付かれるとは、
いや偶然かも知れないが一度戻ろう、
自身の部屋に転移して来てローブを脱げばドアのノック音と共に大神官付きの事務方のシスターが
「お帰りなさいシスターパオラ、大神官がお呼びよ、」
と声がかかりドア越しに、
「直ぐに行くわ、」
と応えシスター服を整え大神官の執務室に向かった。
「不思議な少女達でしたねシスターパオラ、」
「ええ、偶然かも知れませんが尾行に気付かれました、
あとどちらかは時空魔法士です、」
「ほう、公爵家の使用人と言っていましたがお抱え魔法士とかでしょうかね、とても使用人には見えない上品な身なりでしたよ、休暇中だと言っていましたね、」
「公爵家であれば使用人が貴族の子女でもおかしくはありません、
公爵家には例の噂もありますし、」
「何か分かりましたか?」
「いえ、未だ確証は無いのですが私兵団長の肩が治ったのは事実のようです、
この件に関しては秘匿されて無い様ですね、」
「私以上の治癒師いえ、噂では医者殿でしたか、」
「ええ、高位の医者が居ると言う噂ですね、
あと頻繁にファーセル皇国の馬車が公爵家を訪問していると言う情報もあります、」
「ほう、今オーライドにはファーセルとゴースロの皇太子夫妻がお忍びで滞在していると言う未確認情報も有りますし、
何より私は閣下にお会いするのが楽しみですよ、」
「大神官私もお供させて下さい、」
「シスターパオラは次代の聖女様候補ですからね、」
「大神官からかわないで下さい、」
「まあ丁度良い機会でしょう、貴女を公爵閣下に紹介しますよ、」
執務室のドアのノックと共に話は終わり入って来たシスターが、
「大神官いつも通り沢山の信徒がいらして下さいました、」
それを聞いたパオラは思う、
まるであの少女達を迎える為に人払いがされた様だと、
あの二人も要チェックね。
「ただいま戻りました!」
「お帰りイオ、ってエルルどうしたんだいそんなに窶れちまって?」
エルルはそのままソファーに座り込み、
「姐様、大聖堂で大変だったんですよ!」
リリルは納得した様に、
「ああ、あそこは何時も混んでるからねぇ、人に酔っちまったんだろ、」
「リリル様違うんです、参拝者が私とエルルさんだけで大聖堂がお休みかと思っちゃいましたよ!」
イオの言葉にリリルは目を丸くして、
「何だって?イオ他の教会と間違えたんじゃないのかい?」
「リリル様!エルルさんならともかく私は間違えませんよ、」
「にわかに信じられないねえ、じゃあエルルはどうしてあんなんなんだい?」
「えっとエルルさんが教会に入ったら真なる姿が現れちゃったと言いますか、
私が読んでる小説に出てくる人みたいに、鎮まれ我の身体に封印されし力よ!
みたいな厨ニ病的状態になっちゃって!
って痛っ!」
とリリルに説明するイオの頭にエルルは背後から手刀を落とし、
「イオさん厨ニ病は勘弁して下さい、でも男の子は誰でも一度はかかる病気で後々恥ずかしさに悶え死にしそうになっちゃう恐ろしい病いなんですよ、で姐様お母さん達は?」
「皆水泳で疲れたんだろう、囲炉裏部屋でお昼寝中だよ、
だから丁度良いエルルどんな風になったんだい?」
エルルはイオとリリルを見て一度瞳を閉じ瞳を開けば女神の瞳の色と言われる紫色の瞳で、
「本当のお母さんと同じ瞳の色になって身体が光っちゃって大変でしたよ、」
「エルルさん眉も変な形になっちゃったんです、
あっ!そうだ!思い出しました!この物語に出て来る召喚師の眉の様でした、エルルさんはマロとか言っていましたが、」
とイオはこちらの世界で召喚師と訳された陰陽師の絵物語を出す、
「イオさん思い出させないで下さいよ!で今僕の眉どうなってます?」
イオはエルルの顔を覗き込み、
「エルルさん今はちゃんと戻っていますよ、」
「良かった、次から教会に行く時は気を付けなくっちゃ、
でもイオさん気付いていたのですね、」
「エルルさんが御子様だと言う事ですか?」
「ええ、姐様は薄々気付いてらしたみたいですが、」
「エルルさん私の称号は御子の神使ですよ気付くも何もそのままじゃないですか、」
「ですよねぇ、」
リリルは呆れながら、
「でエルル女神様と話せたのかい?」
「いえお母さん今旅行に行っているそうですよ、留守居役の大天使様からお聞きしました、
何でも僕のお父さんに当たる方の世界にお呼ばれしている様です、
で僕の瞳はお母さん、髪や眉はお父さん似の様です、」
「エルルさんぶつぶつ話していたのは本当に天使様と話しをしていたのですね、」
「それにしても女神様が旅行だなんてねえ、」
エルルは口の前に人差し指をちょんとおき、
「今話した事はこの三人の秘密ですよ、」
「分かってるさエルルでも誰も信じないだろうねぇ、」
イオが思い出しましたとばかりに、
「エルルさんそう言えば教会で描いた絵を見せて下さい、
リリル様教会の広間に誰一人居なくて壁に光の絵が映ってそれは綺麗だったんですよ!」
イオの言葉にエルルは苦い顔をしてアイテムボックスから写真を取り出し二人に見せる、
「ええっ!誰です?これもしかして天使様達ですか?」
とイオは写真を見て驚きリリルも、
「私も天使様を初めてみたよ、
でもこれで納得したよ今日教会はあんた達二人の貸し切りで天使様が人払いをされたからあの大聖堂に礼拝者が居なかったのさ、」
「その様ですね、」
「天使様達凄く綺麗です!」
エルルはさっと写真をアイテムボックスに入れ瞳の色を戻す、
すると居間にカレンが入って来て、
「お帰りなさいませエルル様イオさん、」
「カレンさんただいま!ユユは?」
「ナタリア様達と囲炉裏部屋でお昼寝中です、」
「了解です!じゃあ僕は晩ご飯の支度しようかな、
なにかリクエストはありますか?」
エルルの問いにイオがはいはい!と手を上げ、
「エルルさん、私ハンバーグをパンで挟んだハンバーガーでしたかあれが食べたいです、」
「ハンバーガーですか良いですね、
じゃあ今晩はチーズバーガーとかテリヤキバーガーあとフィッシュバーガーも作っちゃいますよ!
早速準備しますね、」
「お手伝いしますよエルルさん!」
エルルは厨房に入りハンバーグを焼き同時に魚の白身フライを揚げながら、
「イオさんは岩芋を茹でたら魔道具に入れて出て来た芋を揚げて下さい、」
「エルルさん了解です、私この芋揚げ大好きです!」
と魔道具のレバーを引き、にゅぅ〜っと出て来たスティック状の芋をそのまま揚げていく、
「カレンさんタルタルソース出来ましたか?」
カレンはボールの中身をエルルに見せ、
「レシピ通りに混ぜました、如何でしょう、」
エルルは小さなスプーンを取り出し一さじすくい口の中に入れ、
「はい!オッケーですね、じゃあカレンさんそこのパンを軽く焼いて並べて下さい、」
エルルはカレンが並べたパンにレタスの様な野菜を敷き、ハンバーグにチーズを乗せたチーズバーガーとテリヤキのタレに付けたお肉にマヨネーズをかけたテリヤキバーガーと魚の白身フライにタルタルソースをかけたフィッシュバーガーを次々仕上げていく、
イオを見れば大量の芋揚げを作り軽く塩を降って、
「エルルさんこっちも仕上がりましたよ、」
「了解ですこっちもオッケーです皆の所に行きましょう、」
「ピィー!」
エルルが居間に入るとユユが飛んで来てテーブルの上に座りナタリアが、
「エルルお帰り、水泳って結構体力つかうのね、プールから上がった後の畳部屋でのお昼寝は最高だわ、」
「お母さんリリカ姐様ただいま、
普通に運動するより水の中は体力を使いますからね、」
「キュー!キュー!」
とお腹が空いたと催促するユユに、「はいはいごめんねユユ、
皆さんもお待たせ今日の晩ご飯はハンバーガーですよ、好みのバーガーを食べて下さいね、」
ナタリアが皿に盛られた芋揚げを見て目を輝かせ、
「この芋揚げ美味しいのよ母様、」
「お母さんリリカ姐様冷蔵庫からお好きな飲み物を出して下さいね、」
皆が飲み物を用意して好みのバーガーを食べれば、
「エルル、このチーズバーガーっての美味しいじゃないかい、」
「リリルテリヤキバーガーも美味しいわよ、」
「ピュィ!ピュィ!」
とユユもイオと一緒に芋揚げを夢中で食べエルルはフィッシュバーガーを食べながら、
「お母さんフィッシュバーガーもおすすめですよ、」
エルルと同じフィッシュバーガーを食べていたカレンも、
ナタリア様このお魚のパン凄く美味しいです、」
ナタリアが勧められたフィッシュバーガーを食べ、
「わっ、これ美味しいわね、」
「そんなに美味しいのかいナタリー、じゃあ私も食べてみるかね、」
とフィッシュバーガーを食べれば無言で黙々と食べ出す、
そんなリリルを見たリリカは芋揚げを食べるのを止め、
「エルル私はもうパンが食べられないから他のパンを取っておいてくれないかい、」
「はい、沢山作りましたので大丈夫ですよ、」
「ありがとうエルル、リリル達には話したのだけど私一度彼方に戻るわ、
明日の朝送って頂戴、」
「はい了解です!じゃあ明日の朝迄に姐様用のバッグを用意しておきますね、」
リリカは驚き、
「エルルもしかして魔法の鞄?」
「ええ、お母さん達とお揃いの鞄ですよ、イオさんと僕と姐様が使えますのでこちらに来たい時は手紙を入れて下さい、どちらかが迎えに行きますので、」
「エルル!大好きよ!リリルが持ってるポーチ羨ましかったの!」
「お姉ちゃん良かったね、イオに希望のケーキを頼めば後日入れてくれるよ、
ってイオ!あんたユユと二人でその皿の芋揚げ全部食べちまったのかい?」
「ゆ、ユユが沢山食べたんですよ!」
「ピィー!ピィー!」
ユユは尻尾をテーブルにぺしぺしうちながらイオに抗議する、
そんな二人のやり取りに皆がぷっ!と吹き出した。
翌朝ご飯を食べた後エルルが、
「はい姐様このバックに手を入れて下さい、」
「エルル素敵なバックじゃない!
わっ!これ鞄だけでもワイバーンの革製よ!それに小部屋ぐらい迄物が入れられるのね、
ナタリアも同じバックを持っているの?」
ナタリアはリリカのバックを見て、
「伯母様色違いのバックを持っているわ、
エルル伯母様のバックの色も素敵じゃない、」
「お母さんと同じワイバーンの革ですがリリカ姐様のバックはブリネンで討伐したワイバーンの革なんです、」
「ありがとうエルル、私の宝物にするわ!」
とエルルに抱きつきエルルの頬にちゅっとキスをして、
石の様に固まるエルルを笑いながら、
「じゃあイオお願いするわ、」
とイオが出したゲートに二人で入っていった。
「エルル良かったじゃないかい!ブリネンの上皇陛下にキスをしていただける何て光栄の極みだよ、」
石の様に固まっていたエルルは内心、
本当の叔母上に逢えるかと思っちゃったよ!でも叔母上もお母さんと一緒に旅行中で留守なんだけどねと思いながら、
「誰に話しても信じてもらえ無いと思いますが恥ずかしいので秘密にして下さいね、
僕は研究室で明日からの支度をします、
仕事に戻ると言っても夜には一度戻りますし、休みはこちらで過ごしますよ、」
ナタリアが、
「私はイオと暫くプールに通うわ、もう少しで泳げそうなのよ、」
「姐様、カレンさん明日からユユをお願いしますね、」
「ああ任せときな、」
「お任せ下さいエルル様、」
「では昼食の時に、」
とエルルはその場からすっと消えた。
ありがとうございました。




