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公爵家使用人達の朝の事情

よろしくお願い致します。


第五話 公爵家使用人達の朝の事情



公爵家使用人の朝は早い、エルルがまだ暗い裏庭で何時もの鍛錬をしていると、

「おはよう、ルコル早いな、」

と、ロバートさんが、木剣を片手に持って、やってきた、

「おはようございます、ロバートさん、ロバートさんも鍛錬ですか?」

「ああ、見ての通り日課でね、どうだ少し手合わせしないか?」

「本当ですか?ロバートさん、ぜひお願いします、あっ、木剣では怪我をしてしまうかもしれません、うちで使っている鍛錬用の剣を使いましょう、エドモンド様も、絶賛してみえましたよ、」

と、いつもの光剣をロバートに渡す、

「これは剣の柄か?」

「ロバートさん、握って柄に魔力を流して下さい、いつも使ってる剣をイメージしながら、」

ロバートさんの柄から光の剣が出来る、かなりの長剣だ、ロバートさんもあんぐり口を開き、光剣を使った皆と同じ反応だったので、いつもの説明をすると、凄く感心されちゃったよ、ロバートさんは、光剣で美しい剣の型をエルルに見せ、

「ルコル、最初から全力でこい!」

と、長剣型の光剣を構えるロバートさんに、

「はい、最初から全開でいきますよ!」

「ギャァ〜〜」

明け方、公爵家の裏庭にロバートの悲鳴が、響渡った。



私の名前は、イオ・タリスマン、十七歳

昨日より公爵家の見習いメイドとして雇って頂きました、一応実家は貴族なのですが、父は領地を持たない王宮勤めの貧乏貴族、しかも三女の私は成人と共に、母方筋の伯爵様に推薦状を書いてもらい、公爵家の使用人試験を受けました、面接試験の後に、戦闘試験があり、

ロバートさんの攻撃を防げたのが、私だけでした、私の唯一の取り柄の防御魔法、私は自身の周りに防御の魔法をかけ、その中に居ただけなのですが、防御魔法が評価された様です、私の他にも、エルル・ルコルさんが、執事見習いとして採用されました、エルルさんに最初に会った時は私と同じメイド見習いかと思いました、珍しい黒髪のショートカットの可愛い女の子だと思っていたので、男の子と聞いた時は凄く驚きました、お屋敷の裏にある使用人寮の部屋の前でエルルさんに挨拶をしたところ、凄く可愛い笑顔で同期の同僚だからよろしくと、挨拶されてお互いに名前で呼び合うことにしました。

日の出前に起きて、トイレに行こうと部屋を出ると背後から、

「おはよう、貴女が新人さん?」

「はい、おはようございます、イオ・タリスマンです、よろしくお願いします、」

「アニー・ブランよ、私が貴女の指導メイドよ、公爵家の使用人は、代々自分の前に入った先輩が、仕事を教えるわ、」

「はい、わかりましたブラン先輩、よろしくお願いします、」

「アニーで良いわよ、じゃ始めに公爵家の使用人は皆名前呼びになるわ、貴女はイオね、」

「はい、アニー先輩、あ、でも執事の方達は違うのですか?昨晩一緒に採用になった執事見習いのエルルさんは苗字で呼ばれてました」

「本当は今日の朝礼で執事長から、紹介があってからなのよ、イオ、今トイレに行こうとしてるわよね、」

「はい、アニー先輩もですか?」

「ええ、そうよ、でね侍女長からイオまで女の使用人は十五人いるわ、ちなみに執事は新人君を合わせて四人ね、で、朝とかトイレが混み合う時間は序列の下から五人は男性トイレを使うのが、暗黙の了解なのよ、まあ男は四人しかいないから、鉢合わせする事も少ないし、向こうも理解してるから問題はないわ、ただ男性トイレは凄く汚くて臭いのよ、

掃除も新人の仕事になるんだけど、一番若い執事さんは、仕事が忙しくて、自分達のお風呂や、トイレ掃除とかが、いい加減なの、何時も先輩達が手伝ってるわ、まあ、イオも入れば分かるわ、鼻をつまんで入りなさい、」

イオは男性トイレの前まで来ると、ノックをしてから息を止め、ドアを開けて、固まる、イオの後ろのアニーが、

「ね、凄く汚いでしょ、さあ、頑張って中に入るのよ、」

「あ、あの、アニー先輩、ここ本当にトイレですか?」

「はあ?何言ってるのよ、」

と、アニーもトイレの中を覗き込む、が、中を見て驚く、昨日まで使っていたトイレは無くなり、磨き上げられた石の床や、壁、公爵屋敷にも無い大きな一枚鏡が付いた化粧台、

三つある個室の中も見た事が無い便器、一番奥など、どの様な使い方をするのかさえ解らない、イオが個室を覗き込みながら、

「アニー先輩、個室の壁にトイレの使用方法が絵と、言葉で書いてあります、公爵家って凄いんですね、トイレなのに何か良い匂いもしますよ、」

アニーは自分が昨日まで使っていたトイレとの違いに驚いていたが、イオの言葉に、

「じゃあ、イオ、貴女その個室を使ってみなさいよ、私は化粧台で身なりを整えてるから、」

と、イオを奥の個室に押し込む、イオが中で使用方法を読みながらゴソゴソやっていると、トイレの中に新しく三人のメイド姿の女が入ってきて、固まっていたが、アニーを見て、

「アニー、ここ男性トイレよね、どうなっちゃってるの?」

「スゥー先輩、私にも訳が分からないです、ただ、今奥の個室に新人のイオが入っているんですよ、」

「アニー、あと二つ空いてるじゃない、入らないの?」

「一番奥の個室だけ特別みたいなんです、で感想をイオに聞いて私も入ろうかと、」

「空いてる二つも見た事も無いおトイレなんだけど、」

と、四人のメイドが話をしていると、化粧台の脇に置いてある箱から、プシューと、音がして、部屋の中に花の良い香りが広がる、

「今の何?、部屋の中に良い香りが広がったわ、」

「ええ、化粧台の鏡の所の箱から、香りが飛び出したって感じだったわ、」

「でも良い香りね、で新人さんはどうかしら、」

四人が奥の個室の方を見ると、カチャっと音共に扉が開き、赤い顔をしたイオが出で来る、アニーが、

「勇者イオ、で、そのおトイレの使い心地はどうだったのよ、」

アニーの質問に、イオの顔はますます赤くなり、

「先輩方、このおトイレ凄いんです、私、これからは、他のトイレは使いたく無いです、勇気のある方はぜひ挑戦してみて下さい、驚きますよ、」

「わかったわ、イオ、じゃあ私が行って来るわ、先輩方は、時間も無いので空いている所を使って下さい、そちらの感想も聴きたいです、」

と、言い残し奥の個室に入っていった、イオが、

「先輩方、アニー先輩を待ってでも、あのおトイレを経験するべきです、大きな声では言えませんが、耳を貸して下さい、ごにょのごにょの、」

「何ですって!本当なの?、」

話の途中であったが、奥の個室の扉が開き、皆の視線が集まる、アニーが、これまた赤い顔をしながら出て来て、

「イオ、貴女が言っていた事が分かったわ、ねえ、女子トイレも、変わってるのかしら、変わって無いのなら、このトイレの事は私達五人の秘密よ、もし先輩達にバレたら、必ず代われと、言われちゃうわ、先輩方もお願いしますよ、イオもね、」

アニーの言葉に、皆、うんうんと、頷くのであった。


私の名前は、ペレス・レバンチェ、公爵家の執事長をしている、昨日から、新しい使用人が二人増えたのだが、先代様が執事にと望まれているエルル・ルコル、どうやら、あの者は私や、当主アルク様が思っているより、かなり規格外の存在のようだ、昨日自分宛に届いた先代様の手紙には、エルルを早急に、ギルガス私兵騎士団の詰所に出向させ、兵団長の肩の治療と、団員全員の健康診断、剣術の指南をしてもらえと、指示が出ている、今朝裏庭から、ロバートの悲鳴が聞こえていたが、きっとエルルと模擬戦でもしたのであろう、考え事をしながらトイレに向かい、トイレに入って一瞬部屋を間違えたと、一度廊下に戻り、男性トイレと、確認してもう一度中に入る、何があった、昨日までの入るのを躊躇するトイレが、面影もなく屋敷の化粧室よりも立派な化粧台が備え付けられ奥の個室などは使い方がわからない、が、中に入ると、絵と文字で使用方法が丁寧に書かれており、使ってみることにする、あまりの使用感の良さに、個室の中で先代様の手紙を読み直していると、誰かが入って来て驚いている様だ、

「ロバートか?」

「執事長ですか?ここはいったい、」

「私も驚いているよ、お前はこのトイレに心当たりはないか?」

「そう言えば、昨晩ルコルが血相を変えて、

このトイレでは用を達せないから、改修させてくれと、言ってきたので、掃除でもするのだろうと、綺麗になったトイレを楽しみにしていると、言っておきましたが、まさかこんな事になっているとは、」

「そうか、やはりエルルか、でロバート、今朝の悲鳴はお前だろう?」

「はい、常人を逸脱した強さです、で執事長、よくそれ程長く入っていられますね、」

「ああ、この個室のトイレは実に心地よいよ、癖になってしまいそうだ、」

「そう言えばルコルがトイレの一つは、自分の所のトイレと同じにするとか言っていましたが、そこの事の様ですね、執事長、早く変わって下さい、朝の朝礼が始まってしまいます、」

「すまんが今日は別の所を使ってくれ、今先代様からの手紙を読んでいる、で、ロバート、明日から二日程、エルルを私兵騎士団の詰所に出向させる、予定を組んでくれ、後程侍女長にも話を付けておく、」

「わかりましたが、早く変わって下さいよ、私もどうせならその個室が使ってみたいです、」


朝の使用人食堂にメイドが集まり、その中に一人黒髪の執事服の少女に見える者が皆から、注目されている、そんなエルルにイオが、

「おはようございます、エルルさん、」

「おはようございます、イオさん、メイド服が似合っていますよ、」

「そんな、エルルさんも、男装の麗人の様で、カッコ良いですよ、」

「イオさん、男装は勘弁して下さい、」

「ねえ、イオ、この子が執事見習いの子?あっ、執事長達が来たわ、またね、執事君!」

食堂に執事長と侍女長、最後にロバートが入って来ると全員が、三人に注目する、ロバートが、

「皆おはよう、今日は昨日入った新人を紹介する、ルコル、タリスマン、前に来て挨拶を、」

呼ばれた二人は前に出て

「執事見習いになりました、エルル・ルコルです、よろしくお願いします、」

「メイド見習いになりました、イオ・タリスマンです、よろしくお願いします、」

と、挨拶をして二人はぺこりと頭を下げると、皆が拍手をしながら、よろしくね、と声を掛けてくれる、ロバートさんが、

「ルコル、タリスマン、公爵家の使用人は皆家族だ、だから名前で呼び合う、エルル、イオ、これより食事をとり、イオはアニーに付いて研修を始めてくれ、エルルは私が指導係になる、各自あちらの壁のシフト表を確認すること、」

「わかりました、」

「イオ、じゃあ、こっちで食事を取るわよ、」

と、アニーが手招きをして先程トイレで知り合った者達が座るテーブルに呼ぶ、

「では、エルルこちらに、」

と、執事長と、侍女長が座るテーブルに案内され、テーブルに着き、執事長と侍女長に、

「おはようございます、執事長侍女長、」

「おはよう、エルル、」

と、挨拶を交わし合う、テーブルにはスープと、パンが用意されていて、皆が食べ出すと、テーブルに多分この世界のコックと思われる格好をした男が来て、ロバートさんが、

「エルル、この者は、調理場の下働きのサムだ、サム、新人のエルルだ、」

「エルルです、よろしくお願いしますサムさん、」

と、頭を下げると、

「やめて下さい、エルル様、私達下働きには呼び捨てで頼みますよ、」

エルルはロバートの方を見ると、

「ああ、この公爵家で下働きは、私達より下の使用人となる、だからサムと、読んでやってくれ、」

「わかりました、サム、よろしくね、あと僕が非番の日に賄いを作るのを手伝わせて欲しいんだけど、良いかな?料理をして、美味しい物を食べる事が趣味なんだ、」

「あっしは構いませんが、ロバート様、良いんですかい?」

サムの言葉にロバートでは無く執事長が、

「エルル、休みの日なら構わんよ、」

「執事長、ありがとうございます、サム、僕の休みの日によろしくね、」

「はい、エルル様、では、」

と、頭を下げ食堂の厨房へと帰って行く、

エルルは自分のシフト表を見て、

「あの、ロバートさん、僕、明日と明後日、出向になってるんですけど、」

「ああ、エルルは医術の心得があるのだろ、

公爵家の私兵騎士団の所で、騎士団長の治療と、騎士団員の健康診断を行なってくれ、御隠居様からの指示でな、」

言われたエルルは、内心、あの親父いきなりこき使いやがって、と思ったが顔には出さず、

「はい、了解です、頑張ります、」

と、笑顔で返事をする、

エルル達のテーブルにメイドさんが来て、

「侍女長、ミオンが体調を崩まして、シフトを変えたいのですが、」

「やはり駄目でしたか、昨日手違いで無理をさせてしまったから、わかったわ、で丁度良いわ、エルル、貴方ミオンを見てちょうだい、ソフィー、貴女、エルルをミオンの部屋に連れて行ってくれる、この子医者でもあるし、高位神官クラスの治癒師でもあるのよ、」

と、悪戯っぽくこちらを見てウインクをして、ソフィーと、呼ばれたメイドの耳元に、一言二言耳打ちをする、メイドが、頷き、

「じゃ、エルル君、これからお願い、」

エルルがロバートの方を見ると、

「エルル頼むぞ、私達はこれから主人様の所で朝の打ち合わせをする、ミオンの治療が終わったら、部屋で待っていてくれ、」

「わかりました、あと、執事長、エドモンド様より預かり物があります、今持って来ますので、少し待っていて下さい、」

エルルは走って部屋に戻りアイテムボックスより、ジルおじさんへの荷物を取り出し、眼鏡を掛け執事服の上から白衣を羽織り、ダミーの鞄を持ち食堂に戻り、

「お待たせしてすみません、執事長、こちらをお願いします、」

と、爺ちゃんの形見が包まれた布を渡す、

「エルル、確かに受け取った、で、その格好は何だ、」

「うちの方では、お医者様はこの衣装ですよ、では行きましょう、」

と、メイドさんに声をかける、

「エルル君、私はソフィアよ、よろしくね、こっちよ、」

と、食堂を出て行く、ソフィアさんの後に続きながら、

「エルルです、よろしくお願いします、ソフィア先輩、」

ソフィアさんは振り向いて、にっこり笑って

頷き、

「こちらこそよろしく、で、エルル君確か辺境領出身だったわよね、」

「はい、正確には、魔の森出身ですね、」

ソフィアさんは一瞬固まったが、ミオンさんの部屋の前まで来たらしく、扉をノックして、

「ミオン、可愛らしいお医者様をお連れしたわよ、」

と、先に部屋の中へ入って行く、中から、

「えっ、お医者様って、お医者様に見てもらうお金なんてないわよ!」

「エルル君、お願い!」

と、ソフィアさんに呼ばれ、部屋の中に入り、

「エルル・ルコルです、今日から公爵家でお世話になります、」


ミオンさんはベッドから身体を起こした姿勢で、

「貴女、新人のメイドなの?」

ソフィアが隣でぷぅっ、と吹き出して、

「こら、ミオン、エルル君は執事だよ、」

「えっ、男の子なの?女の子にしか見えないわ、ってごめんなさい、ミオンよ、よろしくね、エルル君、」

「はい、ミオン先輩、よろしくお願いします、じゃ、診察をしちゃいますね、今の体調を教えて下さい、」

「エルル君って、執事でお医者様なの?体調は熱っぽくて、身体がだるいは、後喉が痛わ、」

「エルル君は治癒師でもあるの、治療魔法で直して貰ったら、」

「ソフィア先輩、治癒魔法って凄く便利だと思われていますが、緊急の場合でない限り使わない方が良いですよ、例えば、ミオン先輩の喉の痛みを治療魔法で直します、直ぐに痛みは無くなりますが、ミオン先輩の身体の病気を治す力が、弱くなってしまいます、僕は薬を飲んで、身体の治癒力で治すのが、一番だと、思います、はい、ミオン先輩、あーんして下さい、」

ミオン先輩が少し赤くなりながら、あーんと口を開くと、喉が炎症を起こし、赤く腫れている、

エルルは鞄の中から、小瓶に入った薬を出し、

「ミオン先輩、この薬を飲んで下さい、あと、食事はとれそうですか?」

ミオンは小瓶の蓋を開けて、グイっと薬を飲み干し、

「この薬、薬なのにほんのり甘いわね、あといつもの賄いはかなり塩辛いから、きついかな、」

「確かに、でも食べ無いと体力が落ちてしまうから、」

と、エルルは鞄に手をいれ、白いコップの様な物と、スプーンを取り出し、

「病気のミオン先輩には、特別に僕が作ったプリンを上げます、はい、あーん、」

エルルはプリンをスプーンですくい、口を開けて待っているミオンに食べさせると、

「おっ、美味しい!何これ、エルル君凄く美味しい!あーん、早く、あーん、」

エルルは雛鳥の様に口を開けて待っているミオンに、

「ミオン先輩、それだけ元気だったら、大丈夫ですね、一人で食べられますか?」

と、笑いをこらえながら言うと、ミオンはコップとスプーンを素早く手に取り、美味しい、美味しい、と、食べている、

エルルの背後から、

「ねぇ、ミオン、そんなに美味しいの?」

と、ソフィア先輩が、ミオン先輩に聞く、エルルが振り向くと、口を半開きにして、綺麗な女の人がしちゃダメな顔をしちゃってる、

「ソフィー先輩、食べ終わるまで待ってて下さい、わぁ、コップの底の所、何これ、美味しいよー、」

「ねぇ、ミオン、一口私に食べさせて、」

「いくらソフィー先輩の頼みでも絶対嫌です、エルル君にお願いして下さい、」

「エルルくーん、」

だからソフィア先輩、そんな顔しちゃダメですって、

「ごめんなさいソフィア先輩、今日おやつに食べようと、思っていた物だから、今度の僕のお休みの日の食事に付けますね、だから今日はこれで我慢して下さいね、はい、あーんして、」

エルルは鞄から取り出した小さな包みから、飴玉をつまみ、ソフィアの口に入れてあげる、

「ソフィア先輩、噛んじゃダメですよ、舐めて下さいね、」

ソフィア先輩は口をもごもごさせながら、

「甘くて美味しい、ありがとう、」

と、お礼を言うが、目はエルルが手に持っている小さな包みに釘付けになっている、

ミオンもコップの中身をこれでもかと、ばかりに綺麗に食べきり、ソフィアと、同じく、エルルの手をガン見している、

二人共そんな顔しちゃダメだって、

「はい、はい、ミオン先輩は今日はおとなしく休んでて下さいね、明日には良くなると思いますよ、これは差し上げますので仲良く分けて下さいね、」

と、小さな包みをテーブルに置き、エルルはミオンの部屋をあとにした。


当主アルクの執務室に、執事長ペレス、侍女長マリア、ロバートがアルクの前で、報告をしている、アルクが、

「ペレス、父上から私に来た手紙と、お前に来た手紙はほぼ同じ内容だな、この手紙が事実なら、我が家はとんでもない至宝を手に入れたぞ、ロバート、先程報告した光剣を見せてくれるか、」

アルクに言われロバートは腰のベルトに挟んでいた光剣の柄をアルクの前の執務机に置く、アルクは柄を手に取り、握ってみるが、

ただの柄だけである、

「ロバート、どうやって使うのだ、」

「はい、この光剣には、私の魔力が登録されていて、私しか使うことが出来ません、私がこの様に魔力を流すと、」

と、ロバートの手に持つ柄から、緑に光る長剣が、ブゥンと、音と共に現れ、そこにいた者皆目を見開いて驚いている、続けてロバートが、

「この剣の刀身は光魔法で出来ているそうで

実際にこの剣で斬られても身体が傷つく事は有りません、身体を擦り抜けます、光剣同士ですと、魔法が反発し合い、打ち合う事が出来ます、が、この剣で斬られると、とても気持ちが悪のです、実際に斬られたような錯覚を起こします、」

「成る程、より実戦的な訓練が出来のだな、でロバート、エルルと戦って見てどうであった?」

「今朝、首を落とされました、この世の強さとは、思えません、御隠居様がエルルの推薦状に、死にたく無ければ間違っても戦闘試験などするな、と、書かれていましたが、事実です、流石剣聖様の一番弟子の御隠居様でございます、」

ロバートの話を聞いてアルクは、笑いだす、

「ロバート、その剣聖様の一番弟子がエルルに光剣で斬られて、何度も悲鳴をあげていたと、母上の手紙に書いてあったぞ、あの父上の悲鳴だぞ、私も聞きたかったな、あと、皆には伝えておくが、エルルは事実上、父上と、母上の養子だ、私の弟になる、本人はルコル姓を名乗りたいと、言っているそうだ、

エルルは、あの剣聖ラルル・ルコル様と、大魔導師ノア・ルコル様の孫だそうだ、私も昨晩手紙を読んで驚いたよ、ますます早く弟に会って見たいものだ、エルルは今何をしている、」

侍女長が、

「メイドのミオンが体調を崩しましたので、今は治療に行かせています、」

「そうか、ペレス、明日の騎士団員の健康診断の件、団長の治療、騎士団の光剣訓練の導入、女性騎士の装備変更、全て許可する、」

「承りました、ですが全て身内のエルルが行うので良いですが、実際、騎士団全員を医者殿に見せるなど、普通でしたら、とんでもない金額になりますな、女性騎士の装備変更、光剣に至っては、見た事も無い魔道具、騎士団員全員に公爵家より貸与など、考えたくも無いですな、」

「ああ、全くだな、治療費は全て無料、薬代は身内割り引きで破格の値段て提供、光剣は一振り金貨一枚、女性騎士の装備は父上のお小遣いから、だからな、ロバートはその剣を貰ったのか?私も光剣がほしいのだが、」

「では、主人様我々は仕事に戻ります、」

と、頭を下げて廊下に出ると侍女長が、

「執事長、ロバート、貴方達、香水を付けているのかしら、二人から、同じ良い匂いがするわ、特に執事長、」

「さて、心当たりがないが、ロバートは、」

「さぁ?全く、」

「本当に?二人から凄く良い匂いがするわよ、」

「では、侍女長、私はエルルの所に行きます、」

と、ロバートは使用人寮に向かった。




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