リリスの海岸物語
宜しくお願い致します。
第四十六話
リリスの海岸物語
「エルルはまたどうしちまったんだい、
朝あんなだったのに帰って来た時は目が輝いていたよ、」
「母様元気になったのなら良かったんじゃない、」
イオはユユを抱えながら、
「海辺の漁師さん達の鍋楽しみです!しかも味付けはエルルさんだそうですし、お刺身もあるんですよ、」
と女性陣で話している所に研究室に行っていたエルルが戻って来て、
「じゃあ僕は鍋を作りに一足先に浜辺に行って来ます、
準備が出来たら迎えに来ますのでちょっと待ってて下さいね、
あとユユは何時ものリュックに入って今日は知らない人がいっぱいいるから頭を出しちゃ駄目だよ、
とエルルがイオの腕の中のユユの頭を撫でると、
「ピィー!」
と短い両手を上げ答えるのを見てエルルはクスッと笑い皆に手を振り転移して行った。
浜辺では男達が大鍋の用意をしていて女達は魚を捌いている、
指示を出していた漁村の村長が浜に入って来たエルルに気付き、
「エルル様この様な所まで良く来て下さいました、
ご家族の方々は?」
「準備が出来次第直ぐに連れて来ますよ、」
と笑顔で応えるエルルに村長は不思議そうな顔をしていたが近くで走り回っていた子供達に、
「お前達!姫様に採って来た海藻を!」
と伝えると子供達がエルルの周りに集まり、
「お姉ちゃんお姫様なの?」
エルルは子供達に、
「お姉ちゃんじゃなくて、お兄ちゃんだよ!あとお姫様じゃなくて魔法使いだよ、」
「ええっ〜嘘ぉ!お姉ちゃんだぁ!」
「お姉ちゃんこっちこっち!たくさん海草採ってきたよ、」
と子供達に手を引かれるエルルの後を村長さんが頭をぺこぺこ下げながら付いて来る、
女達が魚を捌いている隣の木の板の上に海藻が並べられていてそれを見たエルルは目を輝かせ、
「これですこれ!これを一度乾燥させた物を切って鍋のだしにすると美味しいんですよ、
本当なら数日天日干しするのですが今日は魔法でちょちょいっと、」
と言いながら前世の昆布に似た海藻を一瞬でカリカリに乾燥させる、
エルルは驚きで目を白黒させる子供達を笑いながら村長に、
「村長さん乾燥させるとこんな感じになるんですよ、
お代もちゃんと払いますからね、
みんなも沢山集めてくれてありがとう、
みんなには食事が終わったら面白いお菓子をだすからね、」
エルルの言葉に子供達は目をキラキラ輝かせ、
「やったぁ!」
「お姉ちゃん!お菓子ってどんなお菓子!」
とエルルに詰め寄る子供達に村長が、
「こらっ!お前達姫様いえエルル様に失礼だぞ!
申し訳ありませんエルル様子供達が」
と言って子供達をエルルから離す、
ぶうぶう文句を言いながら離れて行く子供達にエルルは後でねと手を振ると村長が、
「採って来た海藻のお代など頂けません、
また新しい村の産物が出来たのですお代など頂いたらバチが当たります、」
と深く頭をさげエルルは頭をポリポリかきながら、
「村長さん辞めて下さい僕は美味しい物が食べたいだけなんです、
さあ僕は鍋の支度を手伝いにいきますね、」
とエルルは作った乾燥昆布を抱えて大鍋に向った。
エルルは大鍋の周りに集まっていた人達に、
「村長さんから今日の大鍋の味付けを任せて頂いたエルルと言います、
具の魚を入れる前に皆さんに採って来て頂いた海藻を加工した物と僕の家で作った調味料を入れますね、」
「へい、姫様宜しくお願い致しやす、
が姫様あっしらに言っていただけりゃあ何でもしますぜ、」
とガタイのでかい日焼けしたおっちゃん達が言う、
そこに肝っ玉母ちゃんみたいなおばちゃん達が魚の切り身を盆に乗せ、
「あんたらが手ェ出したら何時もみたいな塩っ辛い鍋になっちまうじゃないかい!」
「何だよかかぁ!あの味が漁師の味なんでぃ!」
「はいはい!姫様
馬鹿達はほっといて味付けをお願いします、」
エルルは漁師夫婦の小君好いやり取りに笑顔で、
「はい、今日は僕が味付けしますが今度は漁師さん達の鍋も食べさせて下さいね、」
と言いながら抱えていた乾燥昆布を適当に切り大鍋に入れ鍋の下の火に手をかざす、
すると炎は青色に変わり一瞬で中の水がぐらぐら沸き立つ、
「何だ!すげぇ火が青くなって鍋が一瞬で沸いたぞ!魔法なのか?」
エルルは直ぐに火を弱め、にゅっと大き目の味噌玉を出し、
大きなお玉と長い菜箸で味噌玉を鍋の中で溶いていく、
途端味噌と昆布が溶け合う香りがしだすとエルルが、
「さあ奥様方魚を入れていって下さい、」
とのエルルの言葉に、
「まぁ奥様なんてどうしましょう、」
何て言いながらも豪快に魚を大鍋の中に入れていく、」
「こりゃ良い匂いだ!匂いだけで例の穀物が食えるぞ、」
「だな、あの穀物の皮取りがもうちっと簡単だったら良いんだが、」
「ああ、でもよ子供達の良い小遣い稼ぎになってるから良いじゃねえか、」
「かかぁ!今日もあの穀物炊いてんだろ、」
漁師達の言葉に、
「あいよ!もう直ぐ炊き上がるよ!」
「おう!だがよ村長とこの息子のキョウが白麦草の食べ方のレシピをギルドで買って来たと聞いた時は村長親子揃ってどうかしちまったのかと心配したぜ、」
「ああ、あの時の寄り合いは今じゃ笑い話だが家畜の餌を食わせんのか!って大喧嘩になりかけたもんな、」
鍋を女性陣に説明していたエルルが、
「ご飯があるなら少し分けて下さい刺身をのせた美味しい食べ方があるんです!」
「沢山炊きましたからどんだけでも使って下さいよ姫様、
でも本当に美味しそうな匂いの鍋ですね、」
「ちょっと味見してみますか?」
とエルルが女達に言えば俺も!俺もと男達が大鍋の周りに集まる、
「もうあんた達の仕事は終わったよ!大人しく子供達と待ってな!」
と肝っ玉母ちゃん達に叱られた男達はぶうぶう文句をいいながら、
浜辺に敷かれたござの様な物の方に歩いて行った。
エルルは小皿を出しお玉で汁を少し取り分け自身で味見して、
「わっ!美味しい!魚の旨味が程よく溶け出しこれは良いです!」
「ひ姫様私達にも!」
「すいません!凄く美味しくって!」
と言いながら小皿を次々女性陣に渡して行く、
「まぁ!美味しいわこのスープ!」
「この味付けは香辛料とは違うんじゃないかしら?」
盛り上がる女達に子供と男達があちらからぶうぶう言っている、
エルルは村長に、
「あの村長このお鍋に少しだけ貰っていっても良いですか?」
「ええエルル様が作られた物ですからの、どれだけでも持ってって下さい、」
「ありがとうございますじゃあちょっとだけ、
あと直ぐ家族を連れて来ますのでちょっとだけ待ってて下さい、」
と言って鍋にスープを移しその場からスッと消え、
残された者達の目が皆点になっていた。
「料理長!お待たせこれ魚のスープ今晩主人様達に出して下さい!」
「はっはい!」
と突然厨房に現れたエルルから鍋をいきなり渡されて驚く料理長にぺこっと頭を下げエルルは直ぐに転移して行く、
鍋を抱え呆けていた料理長にロックが、
「大将エルル様のスープが冷めないうちに主人様達の食事を出しましょう、」
「ああ、そうだなそれにしても美味しそうな匂いがたまらんな、」
「ええ大将ちょっとは残しといて下さいよ!」
「分かっているがメイド達には内緒だぞ、」
「勿論ですとも大将!」
と厨房で料理人二人は悪い笑みを交わした。
エルルが森の家に転移して来ると全員髪を纏め上げ、ジャージの上からエプロンをかけていてカレンはユユが入ったリュックを前掛けしている、
ナタリアがエルルに、
「エルル準備は万端よ!あちらは?」
「はい、すっごく美味しいスープが出来ましたよ、」
リリルが待ちきれないとばかりに、
「じゃあ早く行こうじゃないか!」
とエルルをせかせる、
「はい姐様、じゃあこちらのゲートに入って下さい、」
とエルルはゲートを開きリリルを先頭に女性陣がぞろぞろゲートの中に入って行った。
浜辺では突然開いたゲートからリリル達が出て来てそれを見た漁村の住民が皆ぽかんと口を開けている、
最後に出て来たエルルが、
「お待たせしました、こちらは僕の家族なので皆さん気遣いは無用ですよ、」
と伝えれば村長と漁村の皆が集まり、
「良くお越し下さいました、
何も無い漁村で御座いますが楽しんでいって下さいませ、」
と皆で頭を下げるとリリルが、
「村長さんかい、世話になるよエルルも言っていたが私達への気遣いは無用だよ、」
とひらひら手を振る、
日が沈みかけ辺りが薄暗くなってきて男達が篝火を付け出すとナタリアが、
「情緒があって良いわね海風が心地良いわ、」
エルルも焚かれた篝火を見ながら、
「はい僕もそう思います、
それじゃあテーブルを用意しますね、」
と言うとエルルは砂浜に手を付き土魔法を使い一瞬で全員が一度に食事が取れる長いテーブルセットを創り上げる、
皆驚き特に子供達はエルルの周りに集まり、
「凄い!お姉ちゃん!本当に魔法士様だったんだね!」
「馬鹿だなお前!お姉ちゃんさっき消えてたじゃないか!」
とわいわい言いながらエルルを取り巻くが直ぐに女達に抱えられ連れ去られていく、
村長が、
「ささエルル様皆様テーブルの上座へ、」
とエルル達を座らせエルルの所へおひつの様な物を抱えた女が、
「姫様穀物が炊き上がっています、いかがされます?」
と聞くとエルルはどんぶりを出し、
「ありがとうございます、頂きますね、」
と取り出したどんぶりにご飯をよそっていく、
エルル達の前には木の大皿が置かれて皿の上には色とりどりの魚の刺身が所狭しと並んでいてエルルの隣のイオが目を輝かせ、
「エルルさん見て下さい!美味しそうなお刺身がいっぱいです、」
ナタリアはエルルの前に並べられたどんぶりを見て、
「エルルそのご飯はどうするの?」
エルルはどんぶりの一つを取りご飯の上に綺麗に刺身を並べて行き、
並べ終えると水根の根を擦り下ろした物を醤油で溶いてそれをどんぶりにかけ、
「じゃぁ〜ん!海鮮丼の出来上がりです!
この海鮮丼と大鍋のお汁は最高にあいますよ!」
「エルルどんぶりをおよこし!」
とリリルがエルルの用意したどんぶりと箸を取りエルルの真似をして海鮮丼を作っていく、
女達が木のお碗に海鮮スープを取り分け一番上座に座るリリカから配って行きエルル達に配り終わると村長が、
「エルル様、皆様この様な物しかご用意出来ませんでしたが、
村の皆の感謝の気持ちで御座います、」
と村長の合図と共に村民皆でもう一度頭を下げる、
エルルはぶんぶんと手を振り、
「村長さん辞めて下さい僕はただ美味しい物が食べたいだけの食いしん坊なんですよ、
さあ皆さんも席に着いて一緒に食べましょう、
エルルの言葉に子供達がエルルの近くに集まって座りエルルが作った海鮮丼を見て、
「わぁっ!お姉ちゃんお姫様でもこの穀物たべるんだぁ!」
「お姉ちゃんが作ったそのお碗美味しそう!
母ちゃん!おいらにもお碗に穀物入れて!」
「あたしも!」
「おいらも!」
とせがみ女達が子供達に木のお碗によそったご飯を渡して行くと子供達はフォークで好みの魚をエルルの真似をして乗せて行く、
エルルは小皿に醤油を小分けすると、
「はい、これ良かったらお魚にかけてみて、
好き嫌いがあるから少し舐めてみてからかけてね、
エルルの出した黒い液体を見た子供達は、
「わっ!黒いよこれ!」
「お前舐めてみろよ!」
子供達のやり取りを笑いながら見ていたリリルが、
「さあ冷めてしまう前に頂こうじゃないかい、」
とスープを飲むと、
「こりゃ旨いねぇ」
そして海鮮丼を食べもう一度スープを飲み、
「旨い!幸せだねぇ!村長とても美味しいよ、ありがとう、」
と言ってまた海鮮丼を食べだす、
隣ではリリカやナタリアもスープを飲み海鮮丼を食べ幸せそうな顔をしていてカレンは小さく切ったお刺身をこっそり鞄の中に入れている、
子供達がとても美味しそうに海鮮丼を食べるイオをみて、
「あの綺麗なお姉ちゃんも美味しそうに食べてるぞおいらもっ!」
と小皿の醤油をかけ刺身とご飯を食べ、
「この黒いのしょっぱくて美味しいぞ!」
と夢中で食べ出しスープを飲めば、
「うんめぇっ!いつもの汁と全然違う!」
子供達があまりに美味しそうに食べるので男達が子供達の真似をして海鮮丼を作るとエルルが水根の根を擦り下ろした薬味と醤油の壺を出し、
「大人の方はこの薬味を溶いてかけてみて下さい、」
そして男達が溶いた醤油をかけ海鮮丼をたべれば、
「こりゃ旨い!塩油とは違う旨さたな、」
「おい!汁も飲んでみろ無茶苦茶旨いぞ!
穀物がどんだけでも食べられらぁ!」
と女達に空になった碗を差し出す、
「あんた達まだあたいらはまだ頂いて無いんだよ、
そんな勢いで食べたらあたいらの分が無くなっちまうよ!」
と言いながら女達も自身のお碗にご飯をよそう、
「母ちゃんおいらもお代わり!」
「かかぁ!俺も!」
と次々碗を差し出す村人達を村長は笑顔で見守っていた。
そして海鮮汁も刺身もご飯も綺麗になくなり女達が片付け始めると子供達がエルルの所に集まり、
「お姉ちゃん約束の面白いお菓子ちょうだい!」
「はいはいそうだったね、
あと僕はお兄ちゃんだからね、
じゃあみんなちょっと離れててね、」
子供達を離しにゅっと屋台を出し目を丸くする子供達にエルルは屋台の中に入り、
「はい不思議な雲のお菓子屋さんだよ、」
とエルルは屋台の中の大きいたらいのような容器の真ん中に筒状の釜があり、その釜に小さい穴がたくさん開けられた魔導具に木の棒をかざす、
すると棒の回りに薄っすら雲の様な物が巻き付きだしその雲は次第に大きくなり子供達が目を輝かせ、
「わっ!凄い雲が出来てる!」
「見て!雲がだんだん大きくなってく!」
エルルは前世の綿菓子を屋台の前にいた一番小さな女の子に渡して、
「はい雲飴だよ、その雲を舐めてみてごらん、」
エルルに手渡された自身の顔より大きな雲飴を少女が恐る恐る舐めると、
途端目を輝かせ、
「わっ!雲ってあまぁーい!」
と夢中で雲飴を舐めだす、
それを見た子供達はエルルに、
「お姉ちゃんおいらも!」
「わたしも!」
と屋台に詰め寄る子供達にエルルは雲飴を作りながら、
「はいはい、ちょっとだけ待っててね直ぐに出来るから、」
と言って出来上がった雲飴を子供達に配って行く、
子供達は雲飴を舐め幸せそうな顔をしてその雲飴を親の所に持って行き自慢気に、
「母ちゃん見てよこのお姉ちゃんに貰った雲!凄く甘いんだ!」
「本当かい?じゃあちょっと舐めさせておくれ、」
子供は直ぐに雲飴を身体の後ろに隠して、
「ええっ!やだぁ!」
と笑いながら慌てて逃げて行く、
子供達に雲飴を配り終わるとイオが屋台の前に来て、
「さあエルルさん私にもその雲飴を、」
と自身の箸を取り出し、たらいの魔導具に箸をかざしくるくると器用に雲飴を巻き取って子供達の倍はありそうな大きな雲飴を創り上げる、
そしてナタリア達に自慢気に、
「みて下さいこの大きな雲飴!」
と雲飴を自慢気に見せ子供達の様にぺろぺろ舐めそれを見たナタリアが、
「エルル私達にもそのお菓子を作ってちょうだい、
でもその前に村の人達にも作ってあげて、」
「はい、お母さん了解です!
あとカレンさんユユこの甘い匂いに釣られて鞄から顔だしちゃってます!」
と言うとカレンさんは慌ててリュックを押さえた。
雲飴は村の皆さんに凄く喜んで貰えたよ、先に食べちゃった子供達が親の雲飴をたかりにいって返り討ちにされてて笑っちゃったよ!
イオさんも子供達に囲まれて自慢の大きな雲飴をたかられ大きかった雲飴が今は箸だけになっちゃってる、
そう言えば屋台を作る前から姐様を見てないけど、
「お母さん姐様を見てませんか?」
雲飴を舐めていたナタリアが、
「さっき海を見て来るって言っていたわ、」
「そうだったのですね、先程から姿が見えなかったので、」
カレンがリュックに雲飴の棒を入れながら、
「そう言えば久しぶりに海が見たいと言ってらっしゃいましたね、」
リリルが水際まで来て真っ暗な海を見れば遠くにナハリ港の灯りが見え、
ナハリ港かい懐かしいねぇもう何年前になるかねぇ・・・ ・ ・
「殿下!未だその様な御姿でもう直ぐ下船で御座いますお付きの者達は如何しました?」
「もぅ!ラルル式典の準備が終わって使者が迎えに来る迄は大丈夫よ、
今から正装していては疲れてしまうわ、」
「使者殿が乗船されてからでは遅いです、」
「あーあー耳が腫れてしまいました、
でラルル私に付いて来て良かったのかしら、港を出る時大公爵や姉君達泣いてらしたわよ、」
ラルルは苦い顔をしながら、
「私がブリネンに居たらルコル家の今後に良くないと考えた末の事です、」
「貴方を大公爵にとの事?」
「それもありますが、王家と共に大公爵家も代々女系の家私は産まれて来る家を間違えてしまったようです、」
とますます苦い顔をするラルルに、
リリスが悪い笑顔で、
「で本当の所は?」
ラルルは目を伏せため息を一つ吐くと、
「私は結婚がしたいのです!
ブリネンで私に結婚しろと?」
リリスは王女らしくなくぶぅっと吹き出しころころ笑いながら、
「そうねブリネンで貴方の奥様になったら命がいくつあっても足りないわね、」
・・あん時のラルルの心からの叫びったらもう、
でもその後のナハリの民達の歓迎振りに感動したねぇ、当時のギルガス公爵も家督を継いだばかりでえらく緊張してて王都までの旅路は公爵の過剰な気遣いでこちらが疲れてしまったよ、
ただ道中ラルルとやたら仲良くなり息子が出来たらラルルに剣を習わせるって言っていたねえ・・・ ・
父ちゃんに初めて会った時も驚いたよ!あんた王子じゃないだろう!って
・・・
「遠路遥々よく来て下さった、我が妻殿私はダライアス、オーライドの皇太子です、」
「殿下、私はリリス、リリスとお呼び下さいませ、」
ダライアスは彼の背後に立つ近習に、
「私は妻とゆっくり話がしたいゆえ其方は下がれ、」
近習は一礼した後殿下をひと睨みして部屋から出て行ったがあの時父ちゃんにやらかすなよって目で釘を刺したんだと後から気付く事になったね、
近習が出て行くとダライアスは近習が出て行った扉まで行き扉に耳を当て暫くするとこちらまで来て、
「あー良く来たなリリス、俺はダライアスよろしくな!」
「えっ!殿下?」
「あっ、リリス俺そう言うの苦手だから俺の事はダー君で良いよー!
で子供が出来たら父ちゃんで宜しく、」
あの自己紹介で私も吹っ切れたね、
「貴方本当に王族なの?」
「おいおい、リリス王族なんて数多ある仕事の一つじゃないか、
それは商人や農民役人でも変わらねえ俺のダチには平民と呼ばれる者達が沢山いる、
そいつらとはしてる仕事が違うだけで皆同じゃないのか?
勿論王族のお仕事はちゃんとこなすぜ、
ゆくゆくは国王としてこの国を纏めてかねえといけないからな、
だけど家族水入らずの時は俺はこう言う奴だって嫁さんに知って欲しかったんだ、」
「ダー君は私の周りに居なかった男だわ、」
「おっ!リリスお前良い女だな、」
「ダー君私の人を見る眼はちょっとした物よ、さっきの近習はヤバイわね、」
「おっスゲーな判るのかあいつは後々城の裏方の長になる俺の腹心中の腹心だ、」
「多分私が紹介された城の中の人で彼に勝てるのはラルルだけよ、」
「むむっ!剣聖か、あいつ貴族令嬢達の心を総ざらいしやがって!」
「あらダー君妬きもちかしら?」
「ちげーし! だけどブリネンの者達は本当に女神の贈り物を隠さねえんだな、」
「ギフトの事ね、ええ殆どの人が隠さないわね、
でもギフトって取り柄みたいな物でしょ隠す必要があるのかしら?」
「俺は秘密だ!」
「ダー君ずるいわ!」
「ははは、」
「ふふふ、」
でもラルルって本当にモテたねぇあの時も、
王宮の庭園でのお茶会の時だったわ時間より早く着いたらもうノアが来ててノアったら何時もは魔導師団の制服とローブなのに今日はドレスなんて何かあったのかしら?
「ノアどうしてしまったの貴女がドレスなんて、
でも凄く綺麗よ殿下には見せたくないわね、」
「御機嫌麗しゅう妃殿下、」
「ノア貴女熱でもあるの?」
令嬢はくすくす笑い、
「妃殿下私はマイラ、ノアの従姉妹でございます、」
「えっ、ノアの従姉妹?双子じゃなくて?」
「ええ、良く言われますわ、
殿下!未だ誰もいらっしゃらないのでお願いが、」
と赤くなりもじもじし出したマイラに、
「マイラどうしたの?お願いって?」
と聞けばマイラは美しい封筒を出し、
「らっラルル様にお渡し願えませんでしょうか?」
「貴女もラルル狙いなの?ラルルはこの国では貴族じゃ無いわよ、」
「あらマイラ早かったわね、」
とそこに魔法師団のローブを着たノアが他の令嬢を連れてやって来る、
お茶会が始まるとやはりラルルの話になりノアが、
「皆さんは剣聖がカッコ良いと言われますが、あの者の視線は女の胸ばかり見ていますよ、あの者は変態です、
マイラは特に胸が大きいから気を付けて!」
・・・ ・
なんて言ってたノアがラルルの嫁なんだから世の中は面白いよねえ、
「母ちゃんでかしたぞ!可愛らしい娘だ!なんて可愛らしいんだ!
母ちゃんそっくりなくりくりの髪の毛だ母ちゃんみたいな美人になるぞ!」
「父ちゃん名前は決めてあったんだろ、」
「ああ、男だったらジュリアス女だったらナタリア!
この子の名前はナタリアだ!
ナタリー早く大きくなって父ちゃんのお嫁さんになっておくれ!」
「まあ父ちゃんったら私と言う妻がいるのに!」
あの時の父ちゃんは本当にでれでれだったねえ、
でもジュリアスが生まれて大聖堂に行った日の事も忘れられないよ、
「母ちゃんどうした大聖堂から帰ってからおかしかったぞ、」
「父ちゃん私今日ジュリアスと祝福を受けた時、
人じゃなくなっちゃったみたいなの、」
「はぁ?何だって?」
「父ちゃん、父ちゃんの種族は何てなってる?エルフ?ドワーフ?獣人?」
「何言ってんだ母ちゃん?人種だろ!」
「私今日気付いたらハイヒューマンってなってて、称号もとんでもない事になってる、」
「何だって?ハイヒューマン?何だそれ?」
「父ちゃんブリネン王家に言い伝えがあってね、建国の母と言われる初代様はハイヒューマンで聖女であったとか戦乙女だったと言われていて五代に渡って影から女王を支えたと伝わってるわ、
伝説が本当なら私エルフみたいになるわ、」
「母ちゃんそれ本当か!じゃあ俺はずっと若いままの母ちゃんと!」
「父ちゃん何言ってんだい!」
ふふふ、父ちゃんは何だかんだあの時は嬉しそうだったね、
「父上ナタリアは今日エドモンド様の所にお嫁に参ります、
今日まで育てていただきありがとうございました、」
「うぅっ!おれ俺のナタリーが何処の馬の骨ともわからん男に!」
「父ちゃん何言ってんだい、公爵ん所の息子で最年少で近衛の隊長になった男じゃないかい、」
「ちっ!ラルルの弟子だったかの奴だな、
ラルルめいらん事しおって!」
「陛下その位にして下さりませ、姫殿下は私が責任を持って公爵家にお送りいたします、」
「まあ、爺が送って下さるの、」
「はい、私が手塩にかけてお育て致しました自慢の姫様に御座います、
お送りするのが当然でございます、」
「おい!ナタリーを育てたのは俺と母ちゃんだぞ!」
「爺は姫殿下があの様な物言いにならず心から嬉しゅうございます、
さあ公爵家の護衛と馬車が待っております、」
「ナタリーー!」
父ちゃんあれから暫く元気なかったからね、
ナタリーが孫のアルクを城に連れて来た時は自分の事をじぃーじだよー、
何て言って喜んでたねえ
で決して忘れられないジュリアスの結婚式の夜、
「俺はこれで心置きなくジュリアスに王位を渡せる、
母ちゃんジュリアスに王位を渡したら俺は離宮に母ちゃんと引き篭もってこっそり城下へ抜け出すぜ、
もう話はダチに付けてあるんだ俺が引退したらダチも引退して街でダチ達で遊ぼうって、
だからダチが息子を返せって言いやがるんだ、」
「父ちゃん息子返せってどう言う事だい?」
「俺のダチの息子今近衛副隊長なんだよそいつもラルルの弟子でな、」
「それ私の側使え達が騒いでるアズビーの御曹子じゃないかい」
「おーそれそれ、御曹子何て言ったらあいつまた怒りやがるぞ商人の息子を御曹子何て言うんじゃねぇって、
こないだ副隊長になった時に叙爵したじゃん、
そしたらあいつ商人のせがれが貴族様何てとんだ笑い話だぜ!何て言いやがるんだよ、
母ちゃんもダチで集まった時に紹介するからそいつらに俺の大変さを教えてやっておくれよ、」
「父ちゃん、もうちょっとお仕事頑張りな、」
「えぇ〜、もう良いんじゃね、
俺ダチ達に若くて綺麗な母ちゃんを紹介したいんだ!
母ちゃん俺、母ちゃんより先にソルス様の所に行くと思うけどどんだけでも待ってるからな、」
「父ちゃん何言ってんだい今日は飲み過ぎたんじゃないのかい?」
「違いねえ、今日は先に休むわおやすみ母ちゃん、」
「おやすみ父ちゃん、」
・・・まさかあれが父ちゃんとの最後の会話になるなんてあの時は思いもしなかったねえ父ちゃん、
「リリス様こちらは新任のカレン・ブランです、
カレンリリス様にご挨拶を、
カレン?どうしたの?」
「あっ、いえカレン・ブランで御座います皇太后様、」
「ブランってことはあんたの娘かい?」
「はい、カレンも元々騎士団に所属していまして先日話しました様に模擬戦で娘に負けてしまい、
引退する事に致しました、」
「ああ前から娘に負けたら引退するって言ってたね、
カレン私はリリス私を見て驚いてたみたいだけど人で言ったらまあまあお婆ちゃんだよ、」
「カレンリリス様は特別なお方なの、
これは王族の方々と私や貴女の様な近習、実際には後数人のお付きの者がリリス様の秘密を知ってるわ、」
「承りましたリリス様、」
・・・そしてあの日ナタリアがエルルを連れて来てくれたんだったね、
とリリルが振り向くと、エルルが微笑んで立っていて、
「姐様そろそろお暇しましょう、」
リリルは港の灯りに顔を向け
「そうかい久しぶりにこのナハリの港を見たらこの国に来た時の事や父ちゃんの事を思い出したよ、」
「先王陛下はどの様なお方だったのですか?」
リリルは港を見たまま、
「父ちゃんはかっこ良かったよ、
家族の前では普通の何処にでもいる父ちゃんだったよ、
私はそんな飾らない父ちゃんが今でも大好きさ、」
「素敵な旦那様だったのですね、」
リリルは振り返りエルルを見てニヤリと笑い、
「そうそう父ちゃんもエルルと一緒で艶本が大好きだったねぇ、」
リリルの言葉にエルルは真っ赤になり、
「うわぁ〜〜!」
と叫んで消えていった。
そしてイオのゲートで皆帰って来るとエルルの部屋から何やらばたばた音が聴こえたので帰って来ては居るのだろうが、
その晩エルルが部屋から出て来る事はなかった。
ありがとうございました。




