王族の食事会
宜しくお願い致します。
第四十四話
王族の食事会
エルルがストーキンとルチアを連れて領都の屋敷に戻って来ると屋敷のメイドが、
「代官様応接室にお客様がお待ちになっています、」
「ありがとう待たせちゃったかな、」
「いえ、つい先程いらしたばかりです、
お約束の時間より少々早いご到着の様で外で待つと言われたのですが応接室にお通しいたしました、」
「ありがとう直ぐに行くよ、
じゃあエルル君行こうか、
ルチア後をお願い、」
ルチアははいはいと執務室に向かいエルルはメイドさんの案内でストーキンと共に応接室に入る、
「いやぁー待たせちゃったかな、今王都から帰って来たばかりでね、
あれ、所長と職人頭だけだと思ったのだけどそちらの方達は?」
所長と呼ばれた男の横には男が二人と女性が一人立っていて、
「お初にお目にかかります子爵様私は王都で馬車の商会をしております
クロスト商会の会頭のヘルリッヒでございます、こちらの娘は我が商会の馬車製作部設計主任のマライヒで御座います、」
「所長なんだい王都のお偉い様までお出ましかい?」
「代官様自ら試作された馬車を見せて頂けると王都の商会に連絡したら会頭達が大慌てでナハリに来まして、」
「それはわざわざ遠くからって、
今僕達もギルガス王都屋敷で会議をして来た所だったね、」
皆はえっ!って顔してたけどストーキンさんに尋ねるわけにもいかず、
設計主任のマライヒさんが鞄から分厚い紙束をだし、
「子爵様!こちらのギルドの特許は全て子爵様の御名前で登録して御座いますが馬車の特許だけで百を超えています!
これをお一人で発明されたのですか?」
「あはは、そんなバカなって痛たいたたた、
そっそうだよ、凄いでしょ、」
とストーキンはお尻をさすりながら答えると、
「凄い何て物ではありません!
馬車の革命と言っても良いです、」
「まさか全ての特許の使用許可を取ったのかい?」
「勿論です!すでにライバル商会も全ての特許の使用許可を取り新型馬車の設計に入っていると言う情報も入っています、」
エルルがストーキンの背後でおおっ!と感動していると所長が、
「で代官様そちらの方は?」
「この方は叔父上の息子様だよ、
公爵閣下の弟君と言った方が分かりやすいかな、」
エルルはぺこりと頭を下げ、
「エルルと言います、ストーキンさんには色々勉強させて頂いています、」
「またまた勉強だなんてっ痛っいたたた」
「ストーキンさん折角だから依頼する馬車の設計図をマライヒさんに見て貰いましょう、」
とエルルは大きな図面の束をにゅっと出し、
「これは今回御社に依頼する冷凍庫付き馬車の設計図です、」
ストーキン以外突然あらわれた図面に驚いたがそれより出された図面の見事さにマライヒが、
「こっこの図面はどなたが引かれたのですか?」
「こんな図面はエルルっ痛たたた、
僕が頼んでエルル君に引いて貰ったのさ、」
「信じられない、こんな美しい図面を引く事が出来るだなんて、」
設計図に夢中になっているマライヒの横で会頭のヘルリッヒが、
「姫様娘が失礼致しました、娘は仕事の事になると周りが見えなくなると言いますか、」
「マライヒさんはヘルリッヒさんの本当の娘さんだったのですね、
お仕事熱心なのは良い事だと思いますよ、
あと僕は男ですからね、」
図面に集中していたマライヒが、
「凄いこの馬車新しい特許が全ての所に使われてる、
いえ!この馬車の図面から全ての特許が出ているんだわ!」
「おっ!優秀だねじゃあそろそろ試作品を見てもらおうかな、」
領都屋敷の中庭の隅に蒲鉾型の建物が立っていてストーキンが開戸を開き所長達を中に招き入れる、建物中は暗くエルルが指パッチンをすると照明が付き中央の馬車が照らされ見たことのない形の馬車に皆驚き、
そんな中ストーキンが、
「これが輸送専用の貨物馬車だよ、基本馬二頭立ての馬車なんだけど最高六頭立てまでいけるよ、
先ずは馭者席から見て貰おうか、」
と言うが通常馭者席が付いている所に席は無くストーキンが馬車前方の側面の扉を開けて、
「こちらが馭者席だよ、室内から馬を操る使用なんだ、
で画期的な物の一つ目はこれ、」
と馭者席の足元にあるペダルを指す、
「これはええっと、」
「ブレーキですよ!」
「そうそうブレーキって言うんだけど、踏み込めば馬車の急制動が出来る装置だね、これが有れば馬車の事故が確実に少なくなるよ、」
マライヒが鞄から書類を取り出し、
「これが特許の急制動装置!図面と説明では分かりづらい所があったけどこう言う物なのね、
馭者席が室内何て初めてだわ!」
「手綱があるから完全な密室ではないけど雨天などの時馭者が濡れずに済むし、暑い時はこの様に屋根のカバーを外せば良い、」
とロックを外し屋根を荷台の方に収納する、
「次は荷台だよこの馬車の荷台は普通の馬車の二倍近い長さがあるのだけど、この馬車の荷台の半分は冷凍庫になっているんだ、
さあ背後から荷台に入るよ、」
呆けている者達を荷台の中に入れ奥の扉を開けると冷気が外に漏れ出す、
「何?氷室なの?」
「そう氷室では無いけれど氷室を作る魔導具と言えば分かり易いかな、
新鮮な魚や肉を保存しながら運べるんだよ、」
「凄い!物流が変わるわ!」
「君凄く優秀だね、
そうこれから物流の革命が起こるよ、それは君達馬車職人に掛かっていると言っても過言だと僕は思わない、」
「ですが子爵様素晴らしい荷物馬車ですがこれだけの馬車が馬二頭で引けるのですか?」
ストーキンは良く聞いてくれたとばかりに、
「はいはい!ここでこの馬車の画期的な所その二は足回りさ、
所長ちょっと馬車を引っ張ってみて、」
「えっ!代官様この様な大型の馬車が人に引けるとは、」
「所長引いてみようじゃないか!」
「会頭までっ!」
と呆れながら馬の鞍に付ける部分を手に取りよいしょと引けば驚く程簡単に動きストーキンが自慢気に、
「じゃあ次は左右に引いてみて、」
所長が左側に力を入れながら馬車を引けば馬車は少し左に向き、
「どんな魔法が掛けてあるのですか?」
「あはは、魔法は使ってないよ、魔導具なら先程の冷凍庫と夜間道を照らす照明灯ぐらいだよ、」
マライヒを見れば床一面に設計図と特許の説明書を並べて車輪の周りを調べ、
「この馬車車軸に対して全ての車輪が独立してる!
あと車軸自体が何枚もの板バネで道の凸凹の吸収もするのね、
これはとんでもない出来の馬車だわ、
ライバル商会が特許を全て購入したとしても理解出来なかったら宝の持ち腐れよ、
私だって実物を見たからこそやっと理解しかかっている位なのに、」
ヘルリッヒがストーキンに、
「子爵様!是非この馬車を私共の商会に譲って下さいませ、
お金に糸目は付けません、」
ストーキンは頭をかきながら、
「済まない会頭、この馬車はギルガス家が出資と言う型でアズビー商会に譲渡が決まっているんだ、」
「そんな!」
エルルが、
「会頭様、アズビー商会が御社に後二台馬車の注文をする予定です、詳しくはクレオさんからギルドを通して連絡が行くはずですのでこの馬車をしばらくこちらに置いて置きます、
馬車製作の参考にして下さいその設計図はお渡ししておきます、
後ほどストーキンさんに屋敷に入る許可証をマライヒさんと職人頭さんに出して貰います、」
設計図と馬車を交互に見入っていたマライヒが、
「子爵様なにとぞ暫くこちらに泊まり込む許可を下さいませ、」
「えっ!この小屋にかい?」
「はい!今の私共にはこの馬車を作る様な技術がありません!
少しでも事細かく調べこの新しい技術を習得したいのです、」
「でもここにはベッドも無いし、」
「大丈夫です!旅用の寝袋を持って参ります、」
エルルは簡易ベッドに広めの机と椅子を出し、
「マライヒさんこれで良いでしょう、あとちゃんとご飯を食べてお風呂にも入って下さいね、」
エルルが出したベッドや机に皆固まっていたがマライヒは感動して、
「姫様ありがとうございます!」
とエルルの手をぎゅっと両手で握る、
「僕は男の子ですってばもう!
マライヒさん達が作る馬車を楽しみにしていますからね、」
細かな話も終わりマライヒさん達も一度商会に戻ると言う事で解散した後エルルはストーキンとルチアのいる執務室に戻り、
「ルチアさん話し合いも無事終わりましたので僕は帰ります、
後ほどストーキンさんからお話があると思いますがクロスト商会の出入りの件宜しくお願いします、」
「エルル様お疲れ様でした、またいらして下さいね、
あっ!出来たらまたお寿司を食べさせて下さいませ、」
エルルはびっと親指を立て
「はい、また来ます、」
とエルルは笑顔で転移した。
クロスト商会ナハリ支店の商談室に戻った四人はテーブルを囲み、
「信じられんあの様な画期的な物を設計だけならまだしも実車を組み上げてしまうなど、」
ヘルリッヒの言葉に職人頭が、
「あっしらにあの馬車の製作は無理ですぜい!
お嬢様はどう思われやした、」
「パパ、この姫様から預かった設計図はあの馬車の簡易版だわ、
細かな所や材質があの馬車と設計図で異なっていたわ、」
「ではその簡易版の馬車の製作は出来そうなのか?」
「ええ、既存の部品の流用や他の部品の加工方法まで詳しく描かれてる、
こちらの技術水準まで考えられた設計図ね、」
「流石は子爵様だ数々の魔導具の特許をお持ちだが我々の分野までとわ、」
「そうね、私も子爵様の事は以前から尊敬してるわ、
だから今回も子爵様が製作された馬車を見せて頂けると聞いて居ても立っても居られずナハリまで来たのよ、
ただ今回の馬車の特許の件で少し不思議に思っていた事があったのだけど、
今日子爵様達にお会いして納得したわ、」
「マライヒどう言う事だい?」
「今回の馬車の開発には姫様も関わっていらっしゃるわ、」
「何だって!」
「隠されている様だったけれど姫様と子爵様の会話で子爵様が姫様に確認された時があったわ、
勿論子爵様と姫様の共同製作だと思うのだけど姫様の発明が多いのだと思う、
あと特許の件よ、
子爵様の特許登録は今まで全てナハリのギルドで登録されているの、
でも今回の馬車の登録は王都のギルドでしかも特許権を放棄なさっているわ、
王都のギルドで数々の特許をギルドに登録されその特許権を全て放棄なさっていらっしゃるのは、」
「賢者と名高い統括理事の騎士爵様か!騎士爵様と子爵様との繋がりが有るとマライヒは思っているのかい?」
「分からないわ騎士爵様にお会いした事がないから、
でも今回のお話は公爵家とアズビー商会が関わった新しい事業よ、
騎士爵様はアズビー商会の前会頭そこにあの公爵家の姫様、
もし騎士爵様と姫様が昔から親交があり登録された特許が全て姫様が考えられた物だったら、」
ヘルリッヒは目を剥き、
「そんな事が!
いやマライヒその事を他言してはならん!
お前達もだ!」
「ごめんなさい私の考えすぎね、
でもパパ今日馬車の素晴らしさに隠れてしまっているけれど姫様はとんでもない高位の魔法士様だわ、」
「はっくしょん!」
居間に入って来るなりいきなりくしゃみをしたエルルにリリルが、
「何だいエルル天使様に噂されてるのかい?」
と笑っている隣ではリリカもクスクス笑っていてエルルは、
「姐様達なんですその天使様って?」
「ブリネンではくしゃみをすると天使様に噂されてるって言うのよ、」
ソファーに座りユユを抱いていたナタリアが、
「そう言えば私も子供の時に母様から言われた事があったわね、」
「初めて聞きましたよ、お母さんユユただいま!」
ユユはナタリアの腕の中から飛び上がりエルルの前まで飛んで来てエルルの肩に乗り頭をエルルの頬にすりすりして、
「ピィー!」
と鳴く、
「はいはい、ただいまユユ、」
エルルはユユを肩に乗せたまま、
「お母さん新しい家族のユユです、」
ナタリアは思い出した様に頬を膨らませ、
「エルル家族が増えた事をお母さんに話さない何て悪い子ね、」
「ナタリーいつまで拗ねてんだい、」
リリカも笑いながら、
「うちのリリアと拗ね方がそっくりよ流石従姉妹ね、」
「もう!母様達までお二人共ずるいわ、」
「ナタリー何言ってんだいここは私の家だよ、」
「母様こそ何言ってるのよ!私が連れて来てあげたんじゃない!」
エルルはぱんぱんと手を叩き、
「はいはいお母さん今日はお母さんの好きな食べ物にしますから機嫌を治して下さいね、
でイオさんとカレンさんは?」
「洗濯したシーツを付けに行ってるわ、
あとエルル今晩はラーメンにしてちょうだい、
何時ものラーメンに乗っているあのお肉多目にして頂戴、
「チャーシューの事ですね了解です!じゃあ今晩は味噌チャーシュー麺にしますね、」
皆でラーメンをずるずる啜りナタリアが、
「エルルこのチャーシューってお肉美味しいわ!森豚の角煮に少し似ているわね、」
「このチャーシューも森豚のお肉から作ってますからね、」
イオが、
「エルルさん私ラン様が食べられていたゴルマ味噌ラーメンも食べてみたいです、」
エルルは少し悪い顔をして、
「あのラーメンは見た目と違って凄くヘルシーなんですよ、」
皆の動きが止まりイオが、
「エルルさんそれってこのラーメンはヘルシーじゃないって事ですよね、」
「毎日じゃ無かったら大丈夫ですって!
それに毎日鍛錬や狩をしてたら問題ないですよ、」
気付けばリリカとナタリアの箸が止まっていて、
「私は久しぶりだから大丈夫よねエルル?」
そんな事を言うナタリアにエルルの横でべっこう飴のステックを夢中で舐めていたユユがナタリアを見て直ぐに顔を外らせ、
「ピュゥ〜ウ」
と変な鳴き方をするユユにナタリアが、
「ユユまでエルルみたいな顔しないの!」
ユユとナタリアのやり取りを見て皆一斉に吹き出し森の家の食卓が笑いに包まれた。
食後の居間のソファーに座るナタリア達に、
「お母さんブリネンの女王陛下がお母さんと陛下に会いたいって言っていらっしゃいましたよ、」
「私は何時もかまわないわよ、ジュリアスだって公務が終わった夜だったら何時でも良いんじゃない?」
エルルは顎に指をちょんと当て、
「リリカ姐様陛下は如何でしょう?」
「うちも夜なら良いんじゃない、」
「分かりました明日僕が両陛下の所に行って来ますね、」
「うちは私の部屋に直接飛んで女官にリリアの所へ連れて行って貰うと良いわ、」
「分かりました姐様せっかくですので夕食会にしましょう、何かメニューのリクエストはありますか?」
「はい!はい!はい!エルル私はすき焼きが良いよ!イオもカレンもどうだい?」
「私も賛成です!」
とイオも両拳をギュッと握りしめ即答するイオの隣ではカレンも同意の様で、
それを見たナタリアが、
「もうっ!イオやカレンも私の知らない所で美味しい物を食べているのね!」
とまた拗ねるとリリルが、
「ナタリー明日すき焼きが食べられるのだから機嫌をお治し、」
と声をかけカレンの腕の中にいたユユがパタパタとナタリアの所まで飛んで来て肩に乗るとナタリアを慰める様に頬に頭をすりすり、
「キュゥ〜、」
と鳴き思わずナタリアはぷっと吹き出してしまい、
「ユユ貴女には負けたわ、」
とユユの頭を撫でた。
次の日オーライドの王宮の入り口にある入城希望者窓口には執事やメイドに、商人や出入り業者が長椅子に座り入城許可が出るのを待っていて、
受付の列に並んでいたエルルの番になり受付の衛士さんが、
「お嬢さん目的別の申請書に必要事項を書いてくれるかな、
白い用紙は出入り業者用で青が商業許可証用で赤が貴族用で用件のある貴族の名前や役職を書いてくれ、」
「すいません陛下にお会いしたい場合はどの用紙に記入したら良いのですか?」
「えっ!お嬢さん何言ってるんだふざけているのかい?」
そこに入り口から王宮職員らしき者達が入って来てエルルを担当していた衛士が、
「お帰りなさい宰相秘書官視察お疲れ様です、」
宰相秘書官との言葉にエルルが振り向くとウォーレンと目が合いエルルが、
「もしかしてイオさんのお父様ですか?」
ウォーレンは黒髪の美少女を見て、
「エルル様なのですか?」
「始めましてエルル・ルコルです、
何時もイオさんにお世話になっています、」
一瞬ほうけたウォーレンは慌てて、
「とんでもない!こちらこそ家族皆でお世話になっていますエルル様!」
受付の衛士さんが、
「秘書官こちらのお嬢さんとお知り合いですか?
こちらのお嬢さんが陛下にお会いしたいと言われまして、」
「分かった、私がお連れする申請書など不要だ、」
衛士が慌てて、
「しかし秘書官規則が、」
衛士の言葉をウォーレンは途中で制し、
「こちらのお方は陛下の甥ご様にあたる、
なに君達に迷惑はかけないよ、
行きましょうエルル様こちらです、」
とウォーレンに言われたエルルは担当した衛士にぺこりと頭を下げ王城の中に入っていった。
ウォーレンの執務室に入るとエルルは応接用の椅子を勧められウォーレンもエルルの向かいの椅子にすわり、
「お会いしたかったですよエルル様、」
「はい僕もお父上様にお会いしたかったです、
食事会の時にお会い出来ませんでしたので、」
とエルルがちょっぴり寂しそうに言うと、
「あの時は閣下達の妬みっ、いえ急な視察が入ってしまいまして、」
「お父上様次回は必ず参加して下さいませ、」
「もちろんです!あの様な至高のお酒や料理が忘れられません、
あとレンを診ていただきありがとうございます、」
「イオさんの家族は僕の家族当然です、」
ウォーレンはエルルから顔を外らせ鼻をすすると、
「エルル様にその様に思って頂ける我が家の者は幸せです、
陛下は今宰相達と会議中でして終わり次第陛下の所にご案内しますよ、
それまでお茶でも如何ですか、」
とウォーレンは部下の文官を呼ぼうとするとエルルが湯飲みと急須に海苔巻き煎餅を出し、
「何時も飲まれているお茶とは違うお茶ですがこのお菓子と合いますよ、」
ウォーレンはぼりぼりと煎餅を食べお茶を飲むと、
「これは美味しいですね、手が止まらなくなる菓子です、」
エルルも煎餅をぼりぼり食べながら、
「はい僕もつい食べ過ぎちゃいますよ、
あとこれは僕からのお土産ですこちらのお酒も飲んでみて下さい、
外国にいる僕の伯父にあたる方にも大変気に入って頂けました、
こんな飲み方も面白いですよ、」
とエルルは同じ酒とグラスに炭酸水と氷を出しグラスに酒を入れ炭酸水で割り氷を入れ柑橘の実の薄く輪切りにした物を浮かべ軽く混ぜ、
「こちらはセットで母様の鞄に入れておきますので今晩母様に出して貰って下さいね、
あっ!知っていらっしゃると思いますが鞄の中は時間経過がないので氷も炭酸水もそのまま使って頂けますよ、」
ウォーレンはエルルが手に持つ特製ハイボールに釘付けで、
「エルル様そのお酒を今飲ませて頂けませんか?」
「えっ!お父上様今お仕事中では?このお酒もグラスに蓋をして母様の鞄に入れておきますよ?」
「なに、大丈夫です一口だけです!」
と前世の手を合わせて拝む様な仕草をして必死に頼むウォーレンに、
「もう!一口だけですからね、」
とエルルはグラスを渡すとウォーレンはグラスを両手で受け取りくいっと一飲みすれば、
「ぷっはぁーこれは美味しい!」
とウォーレンが言い終わると同時に執務室の扉が開き、
「ウォーレン帰っていたのか、で美味しいなどと叫んでいたがどうした?」
と宰相ローレンスが入って来て、慌てるウォーレンとゆっくり振り向いたエルルにローレンスが、
「エルルじゃないかウォーレンの執務室でどうした?」
「陛下に用事がありまして、お父上様の所で待たせて頂きました、」
ウォーレンは机の上が茶菓子と湯呑みしか無くなっている事に気付き、
「宰相会議が終わられたのですね、
エルル様に珍しいお菓子を頂いたのですがとても美味しくて、
さあエルル様陛下の所にご案内しますよ、」
と慌ただしく立ち上がりエルルの手を引いて執務室から出て行き、
ぽかんとしているローレンスにエルルはぺこりと頭を下げウォーレンに引かれ国王の執務室に向かった。
国王の執務室で紅茶を飲んでいたジュリアスの所に侍従が、
「陛下宰相秘書官が陛下にお目通りを願っておりますが、」
「子爵がか?珍しいな通せ、」
侍従が一礼して出て行った後ウォーレンに連れられたエルルが入って来る、
「陛下エルル様をお連れ致しました、」
国王ジュリアスは驚き、
「エルルじゃないか!エルルだったら直接この部屋に来れば良いではないか、」
「陛下その様な事を許可無く行えば僕はお尋ね者になっちゃいますよ!
今日は、」
とエルルがそこまで言うと、ジュリアスが制し、
「子爵ご苦労様下がってくれ、あと人払いを頼む、」
言われたウォーレンは頭を下げて部屋から出て行く、
「エルル話の途中であったなすまん、
で叔母上がいらっしゃっているそうだな、ブリネンの大使殿がエルルに付いて聴きたいと訪ねて来た時には驚いたぞ、
私の甥ごだと説明したら叔母上の事を話されたのでエルルの元に居る限りこのオーライドの何処よりも安全だと説明しておいたわ、」
「やはり知っていらっしゃったのですね今日は今晩食事会のお誘いに上がりました、」
ジュリアスは座っていた椅子から立ち上がり、
「おお!エルルの家で食事会か!行く、絶対にいくぞ!」
そんなジュリアスにエルルは小声で、
「陛下実はブリネンの女王陛下もこれからお誘いに上がろうと思っていますので出来る限り内密でお願い致します、」
「なに!従姉妹殿もいらっしゃるのか?」
「まだ分かりませんがおそらくお見えになられると、
これから先方に伺ますので夕方陛下は皇太后様のお部屋だった所で待っていて頂けますか?」
「よし心得た、じいに上手くやって貰うとしよう、」
「では夕方迎えに上がりますね、」
と言ってエルルはぺこりと頭を下げエルルはゲートを開きブリネンの王宮へ
向かった。
ブリネンのリリカの部屋に転移して来ると待っていたかの様に隣の部屋から女官さんが出て来てエルルの前で一礼する、
エルルは慌てて、
「突然すいません女王陛下にお会いしたいのですが、」
と女官に伝えると、
「承りました、」
と頭を下げ部屋から出て行こうとする、」
「あっ!ちょっと待って下さいこれお土産です女官の皆さんで召し上がってください、」
とクッキーを詰めた大きな箱を渡すと、
女官さんは目をキラキラさせ、
「ルコルの姫様私達の様な者に宜しいのですか?」
エルルは手にぱっとクッキーを取り出し、
「中身はクッキーと言う焼き菓子ですこんなのです食べてみて下さい、」
女官さんは驚きながらもクッキーを食べれば」
「ルコルの姫様素晴らしいお菓子で御座います、この様に美味しい焼き菓子は初めてでございます、」
気付けば女官さんが入って来た扉から数人の女官さんが顔を出していて、
エルルの前の女官さんが、
「貴女達、上皇陛下付きの女官としてはしたないわよ、
さあ貴女達もこちらに来て姫様に御礼を、」
エルルが女官達と話をしながらリリアを待っていると部屋にリリアを連れた女官が入って来て、
エルルとリリカ付きの女官が慌てて一斉に片膝を付くのを見たリリアは思わず、
「ぷっ、なに貴女達皆で慌てて私に隠し事かしら?」
と笑いながら聞けばエルルが、
「女王陛下虐めないで下さいませ、
今日は陛下に食事会のお誘いに上がりました、」
「それは母様が行っている貴女の家の食事会かしら?」
「はい、今晩は僕のお母さんいえ、ナタリア様とオーライドのオラリウス陛下も参加して頂けます、」
「エルル喜んで参加させて貰うわ、
少し待ってて直ぐ仕度するから、」
と言うリリアにエルルは慌てて、
「陛下後ほどお迎えに上がりますよ、」
「大丈夫よ旦那に一言伝えれば問題ないわ、」
と慌てて出て行きしばらくすると宰相チャーチルを連れて帰って来て、
「エルル良いわよ連れて行ってちょうだい、チャーチル後は頼んだわよ、」
はいはい、と諦めたように手をひらひらさせるチャーチルがエルルに、
「エルル君リリアを頼むよ、」
エルルは甘笹の蒸留酒を出し、
「こちらは宰相様へのお土産です、伯父上にも気に入って頂いています、」
チャーチルは美しい酒瓶を手に取ると、
「これはターチルが自慢した至高の酒!
ありがとうエルル君先日この酒を飲んでからこの酒の事が忘れられなくてね、楽しませて貰うよ、」
エルルの隣でリリアが、
「さあエルル早く行きましょう!」
と急かされエルルはゲートを開きリリアを送り皆にぺこりと頭を下げ自身もゲートの中に入っていった。
リリアがゲートから出ると家の奥からカレンが出て来てリリアに気付くと片膝をつく、
エルルがリリアの背後から、
「陛下こちらはうちのお手伝いのカレンさんです、
カレンさん陛下にスリッパを出してくれるかな、」
カレンはお客様用のスリッパを出し下がるとリリアが、
「その様にかしこまらないで今日は親戚が来たとでも思ってちょうだい、」
エルルが、
「さあ陛下中へ、カレンさん陛下にお茶を、」
「はい直ぐに、」
と奥に入って行きリリアが居間に入るとリリルはソファーに寝そべりリリカはソファーで例の絵物語を読みナタリアがユユと共にうっつらうっつら船を漕いでいて、
入って来たリリアに気付くとリリカが、
「リリア早かったのね、」
リリアはそこに居た者達よりも外の庭が丸見えの居間に驚き固まってしまっていて、」
寝そべっていたリリルが起きて、
「お姉ちゃん娘をちゃんと紹介してくれるかい、」
リリカより早くエルルが、
「陛下、こちらのリリル姐様とは面識が有ると思いますが、」
リリルがエルルを制し途中から、
「この間は挨拶も出来ず悪かったね、
今はリリルと名乗っているがリリス・バチュラ・ブリネンよ貴女の叔母に当たるわ、
でそこの娘がナタリア貴女の従姉妹ね、」
ナタリアはユユを抱いたまま、
「ナタリアよ、私は王籍から外れてエルルの母親をしているわ、
リリア様とお呼びした方が良いかしら、」
ナタリアの腕の中からユユも尾をふりふり挨拶のつもりなのか
「キュゥー!」
と鳴く、
リリアは直ぐに返事が出来ず、
「ごめんなさい驚き過ぎてしまって、
私はリリア・バチュラ・ブリネンそこの母親に代わってブリネンの女王をしているわ、
でもここにいる時は親戚の娘だと思って下さいね、」
リリルが、
「この家では身分なんて関係ないからね、
何せこの家に住んでいるのは化け物ばかりだから王族なんて可愛いいもんだよ、
リリア私の事はリリルと呼びな、」
エルルが、
「姐様!姐様は少し変わってらっしゃるかも知れませんが僕は普通の男の子ですからね、」
エルルの言葉にナタリアとリリアは吹き出し、
「エルル貴女とイオも十分変わってるわよ、あと陛下私の事はナタリアと呼んで下さいな、」
「辞めてちょうだい!従姉妹なんだからリリアよ!」
「分かったわリリア!」
「宜しくナタリア、
でずっと気になってたんだけどそのドラゴンは白竜様?」
「ええ、シルバードラゴンの赤ちゃんで女の子よユユって名前なの、」
リリルが自慢気に、
「うちの家族にふさわしい竜だろ、
ユユおいで!」
とリリルが手を伸ばすとユユはナタリアの腕の中からふわりと浮き上がりリリルの所へ飛んで行く、
居間の中へ紅茶セットとケーキを運んで来たカレンとイオがリリアの前まで来て片膝を付き、
「エルルさんの弟子のイオ・タリスマンです、」
と挨拶をするとナタリアが、
「この子がエルルや母様達とともに少し変わっているイオよ、普段は私の付き人をしてくれてるの、」
イオは変な顔をして、
「ナタリア様何ですか?少し変わってるって、」
「ごめんなさい何でもないわ、リリアにケーキを出してあげて、」
リリアはイオを見て、
「エルルが弟子と認める様な子だもの貴女も常人では無いのね、
確かにその美しさは常人ではないわ、
イオさんだったかしら私の事はリリアと呼んでちょうだい、」
「はいリリア様私の事はイオと呼んで下さい、
色々なケーキをお持ち致しましたどのケーキに致しましょう?」
イオが押して来たキャスターの上にはより取り見取りのケーキが並んでいて、
「凄いこれが皆ケーキなの?いくつ食べても良いのかしら?」
と目を輝かせるリリアにリリルが、
「リリア一つにしておきな、
今晩のすき焼きが食べられなくなるよ、」
「そんな!叔母上この様に美味しそうなケーキを我慢するなんて、」
「リリアリリルの言う事を聞いておいた方が良いわよ、
私もまだ食べた事が無い料理だけどこの家の者達の一推しなんだから今食べ過ぎると必ず後悔するわよ、」
「そうなのナタリア?」
「私も久しぶりにここに来ているから食べた事が無いの、母様ったら自分だけ美味しい食事をしてるのよ、」
エルルがぱんぱんとてを打ち、
「はいはいカレンさん達が淹れてくれたお茶が冷めてしまいますよ、
イオさんカレンさん食材の準備を手伝って下さい、
お母さん達はお茶が終わったら食事前に入浴を済ませちゃって下さい、
今日は囲炉裏部屋で食事ですよ、」
リリルが、
「それは良いねぇ、分かったよこっちは任せときな、」
「宜しくお願いします、リリア様の着替えはカレンさんに持って行ってもらいますので、
僕は準備が出来たら陛下をお迎えに行ってきます、」
おまけ、
夕方宰相家の馬車で送って貰ったウォーレンは我が家の前でエルルから貰った酒を思い出し高ぶる気分を抑え玄関に入り、
「ただいまぁー!」
と声をかけるが返事はなく、居間から娘達の話声が聞こえて来る、
ウォーレンが居間に入ると机の上にケーキや料理が並んでいて、
そこには昼間に見たお酒のセットも出ていてリンとミリアがエルル特製ハイボールを作って呑んでいる、
美味しそうにケーキを頬張っていたナツとリツが、
「あっ!お父さんお帰りっ!今日ねイオ姉が私達の就職祝いってお母さんのバックに色々入れてくれたんだよ!」
お酒を呑んでいたミリア達もウォーレンに気付き、
「あらあなたお帰りなさい、イオが気を遣ってくれたみたいよ、
このお酒も皆が飲みやすい様にこの弾ける水と柑橘の実まで用意してくれてたの!
ほらあなたにも一杯残しておいたわ一緒にリツとナツを祝いましょう!」
ウォーレンは震えながら机の上の美しい酒瓶を見れば中は空で、
「ノォ〜〜〜オ!」
と叫んでウォーレンは気を失った。
ありがとうございました。




