昔の話を思い出す3
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第四話 昔の話を思い出す3
いつもと変わらない普通の日々、この世界の成人となる十七歳まで後二月、いつもの様に風呂上がりの爺ちゃんから、声がかかる、
「エルル、上がったぞい、いつもの頼むぞい、」
「わかったー、今持ってくよ、」
と、いつものフルーツ牛乳を冷蔵庫から出すと、婆ちゃんが、
「エルルや、私が持って行くさね、」
と、珍しくフルーツ牛乳を爺ちゃんの所へ届けに行った、なかなか帰らない二人に話込んでいるのかと、東屋を覗くと、婆ちゃんが爺ちゃんを抱えて、泣いていた、
「ラルル、お疲れ様、あんたよく頑張ったよ、」
婆ちゃんに、ゆっくり、
「爺ちゃん、逝っちゃったの?」
と、聴くと、
「ああ、エルル、見とくれよこの幸せそうな顔を、」
婆ちゃんのうでの中には、いつもお気に入りのソファで気持ち良さそうに、うたた寝した時の爺ちゃんがいた。
エルルはラルルを抱きかかえ寝室ベッドに寝かせる、
ベッドの脇に婆ちゃんが座り、愛しそうに爺ちゃんの頰を撫でながら、
「エルル、今日の夜のあれはいいよ、私のわがままを今まで聞いてくれて、ありがとう、エルルのおかげで、ラルルを看取れたよ、」
「婆ちゃんも、逝くんだね、」
「エルル、私は生まれ変わっても、必ずもう一度ラルルと恋をするさね、そしてまた一緒になって、今度はエルル、あんたを産むさね、おやすみ、私の可愛い、エルル、」
「おやすみ、婆ちゃん、良い夢を、」
と、部屋を出て、森の中へ走りだす、分かってた、いつかこの日が来る事も、少し前から爺ちゃんが逝くまでと、頼まれて婆ちゃんを延命させていた、エルルは泣いた、一晩中泣いた。
あの日から二月、裏庭の研究施設の脇の大きな木の下の、二人のお墓の前でエルルは手を合わせ、
「爺ちゃん、婆ちゃん、やっと落ち着いたよ、今日これから、エド様の所へ行って来るね、」
と報告して立ち上がる、
家の中の爺ちゃん達の私物は全てアイテムボックスに入れてある、二人からの手紙も入っていたが、内容は今は秘密、
家も爺ちゃん達の部屋以外は改修して、今はリゾートの高級ペンションの様になっている。
領都グランドバレスの人気の無い裏路地に転移して、領主館を目指す、小高い丘に一際目立つ大きな砦の様な建物、近くまで行くと門には衛兵が二人立っていて、近づくエルルに、
「止まりなさい、お嬢ちゃん、領主館に用事かな?」
僕か?僕の事か?と、戸惑いながらも、
「領主様にエルル・ルコルが来たと、お伝え下さい、」
「わかったよ、お嬢ちゃん、一応確認して来るから待ってな、」
「はい、よろしくお願いします、」
城門の前で待っていると、執事服を着た老人が出て来て、
「よく来て下さいました、エルル様、主人が待っております、さあ、こちらへ、」
と、笑顔で話かけてきた、
「はい、よろしくお願いします、」
と、執事さんについて館の中へ入り、長い廊下を進む途中、何人かのメイドさんとすれ違ったが、皆笑顔で頭を下げてくれる、思わずこちらも、ぺこぺこ頭を下げちゃったよ、
執事さんがひときわ大きな扉のを優雅にノックすると中から、エド様の声が聞こえ、
執事さんが扉を開け、頭を下げたので、ぺこりと頭を下げ中に入る、
屋敷の中もそうだったが、あまり華美では無いが、質の良さそうなソファセットの向こうの執務机からエド様が立ち上がり、
「よく来たな我が娘よ、」
と、ぎゅっと抱きしめられた、いつもだったら嫌がるが、何故だか今日は少し安心してしまう、勧められてソファにすわり、エド様を真っ直ぐに見つめ、
「二ヶ月程前に、祖父、祖母が冥府の女神ソルス様の所に旅立ちました、おちつきましたので、ご挨拶に伺いました、」
エド様は、僕を見て察していたのだろう、一度顔を天に向け、こちらに向き直り、
「お二人一緒に逝かれるとは、最後までおしどり夫婦であったな、」
と、寂しそうに微笑んだ、
「はい、祖母に頼まれ祖父が逝くまでと、少し前より、僕が祖母を延命していました、爺ちゃんの最後は、大好きなお風呂から上がって、エルル、いつもの頼むーでしたよ、」
「師匠らしい最後だな、」
「はい、爺ちゃんからの遺言で、これを、」
と、アイテムボックスから、上品な布に包んだ物をギル様の前に三つおく、
「右端からエド様、真ん中はジルおじさんに、最後の一つは、ランファンという方にとの事ですが、エド様に渡せば分かると、」
エド様は中身を察しているのだろう、
「エルル、ジルへの物は王都に行った時公爵家の執事長ペレスに渡してくれ連絡はしておく、ランへの物は連絡をしておくが、預かって置いてくれ、」
「エド様、ランファンと、いう方は?」
と、エルルに聞かれた、エド様は、
「師匠の三番目の弟子だな、ランは師匠の妻だと、何時も言っていて、ノア様とよく喧嘩をしていたな、今は国に帰っているよ、」
oh!爺ちゃんに外国人の女が、エド様には、爺ちゃん達の面白い話が聞けそうだ、
エルルはアイテムボックスに二つね包みをしまい、エド様は、自分の包みを開け剣を眺め、師匠っと小さく呟いた、そして剣を持ち上げた所で、ぱさっと、何かがエド様の足元に落ちた、エド様は自分の足元を見つめ、震え出す、ああっ、あああ!と声にならない様だ、両手で拾い上たお宝写真集、oh!sukebee!を天に掲げ、
「おお!師匠心の友よ!」
エド様!貴方もか!っとその時、バンっと勢いよく扉が開き、
「エド、エルルが来てるんですって、どうして教えないのよ!」
びっくりして振り返ると、きつめのウエーブの掛かった金髪で、翠色の瞳、ボンキュボンのナイスバディの女の人が、両手を広げ、いきなり抱きしめられた、エルルは不意に前世の母を思い出して、あたたかい気持ちになる、エド様が、
「ナタリー、エルルがビックリしてるぞ、離してあげなさい、エルルすまない、私の妻、ナタリア・ユノス・フォン・ギルガスだ、」
ナタリーと、呼ばれたエド様の奥さんは、
「エルル、初めまして、お母さんよ、ナタリーお母さんと、呼んでちょうだい、」
「初めましてナタリア様、エルル・ルコルと申します、」
と、頭をぺこりと下げる、
「エルル、お母さんと呼んでちょうだい、エドから聞いていたけど、本当に可愛らしいわ、それにエルル、貴女とても良い匂いがするわ、香水、いえ違うわ、エドが貴女の所から帰って来た時も、同じ匂いがしたわ、それにその服変わったデザインだけど何て上品な仕立てなの、触り心地も、最高だわ、本当に魔の森の奥から出て来たの?」
「ナタリー、いい加減にしなさい、」
と、いわれナタリア様は僕の隣にぺったりくっ付き座る、ナタリア様がふとテーブルの無造作に置かれて布を見て、
「ねえ、この布は何、何が入っていたの?エド?」
このおやじ、やっちまったな、エロ写真集を慌ててポーチに入れて、一緒に剣まで入れちゃったみたいだ、まあ、正直にポーチから剣を出せば良いんだけど、ナタリア様にもポーチの事秘密にしていたのかなと、エド様を見ると、顔が青を通り越して緑になっちゃてるよ、エド様に目で、大丈夫、話して良いよ、だから剣だけ出しなよ、と微笑みたがら合図するが、エド様の目は死んだ魚の様な白目になっていた、
「ナタリア様、申し訳ありません、エド様に僕が口止めしていたのです、ですからエド様祖父の形見の剣を出して下さい、」
エド様は壊れたロボットの様な動きでポーチからすぅーと、美しい剣を取り出す、ナタリア様は最初驚いていたが、エルルより詳しい説明を受け納得してくれたみたいだ、ただ、エド様を見て目を細め、
「エド、あなたエルルの所から、帰った時、あの素晴らしい焼き菓子を自慢しながら一つ私にくれたわよね、確かマドレーヌだったかしら、私があまりの美味しさにもう一つとお願いしたら、その小さなポーチーの中を見せてもう無いよって言ったわよね、」
小刻みに震えるエド様を見て、このおやじ残りのお菓子を独り占めしたな、仕方ない助けてあげるか、
「申し訳ありません、ナタリア様、エド様の帰り道にでも食べて頂こうと、お渡ししたのです、気が付かず申し訳ありません、お母様、」
と、瞳をうるうるさせ訴える、そしてエド様を見て、貸し一な!と目で訴えるのを忘れない、エド様も目をうるうるさせて僕を見ている、だから気持ち悪いって、エド様!
「違うのよ、エルル、たまにねエドが、甘い匂いをさせてる事があったから、もしかして貴女から貰ったポーチに貴女の作ったお菓子を隠してたんじゃないかって思っちゃったのよ、」
女の人の感って凄いね、怖っ!って話がそれちゃったので、エド様に、
「エド様、今日は祖父母の報告と、お墓が出来ましたので、都合の良い日にお参りをして頂けると祖父達も喜ぶと思います、送り迎えも、私が一瞬で出来ますので、ここから飛んで、直ぐに帰ってくる事も出来ますよ、」
エド様は、
「よし、エルル今からいくぞ、今晩は泊めてくれるか?」
「構いませんが、お仕事とかは大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、執事のロータスに任せておけば良い、ただ、エルルの転移能力はまだ知られたくないから、一緒に高級宿に泊まることにしてその部屋から飛んでくれるかい?」
「はい、エド様にお任せします、」
エド様が執事を呼ぶベルを鳴らそうとすると、ナタリア様が、
「エド、勿論私も行くわよ!良いわよね!」
エド様は驚き、
「ナタリー、何を言っているんだ、魔の森の奥だぞ、ダメに決まっているだろう、」
「エルルが転移で連れて行ってくれるのでしょう、だったら良いじゃない、あなたがあれだけ自慢したお屋敷に私も行ってみたいわ、ねぇ、エルル、お願い、良いでしょ?」
エド様を見ると渋々頷いてベルを鳴らす、
直ぐに先程の執事さんが入って来て、エド様が、
「ロータス、エルルと、ナタリーの三人でこれから高級宿に泊まる、宿屋の手配と、明日の夕方までの仕事の段取りを付けてくれ、」
執事さんは、かしこまりましたと、頭を下げ出ていく、ナタリア様が、お出掛け用に着替えて来ると、言って出て行こうとされたので、
「ナタリア様、そのままで良いですよ、何も持たず、身体一つで大丈夫です、」
「でも、エルル、着替えとか、化粧品とか、女には、色々あるのよ、エルルも分かるでしょ、」
「ナタリー、エルルが身体一つで良いと言うんだ、大丈夫だよ、私の経験から言わせてもらうと、多分ナタリーが持っていった物は何一つ使わないと、思うよ」
「まあ、エルルと、エドが言うなら、」
と、用意が出来たと案内に来たメイドさんについて、そのまま馬車に乗ってグランドバレス一の高級宿に着くと、従業員一同にお出迎えされ、一番高級な部屋に案内される、エド様が、支配人に、
「明日、私達がこの部屋から出るまで、一切の立ち入りを禁止する、良いな、」
支配人は、かしこまりました、頭を下げ部屋から出ていった。
エルルは直ぐにゲートを開きエド様とナタリア様を家の裏庭の爺ちゃん達のお墓の前に連れて来る、
「エルル、今の魔法は転移じゃないな?」
「ええ、今のはゲートと言う魔法ですね、」
ナタリア様も驚いていて、
「エルル、貴女凄いのね、宮廷魔法士にも転移出来る者も確かに居るけれど人一人連れて転移でもしようものなら、転移後、三日は起き上がれないわ、」
エド様と、ナタリア様が爺ちゃん達のお墓の前で、頭を下げ、ナタリア様が高級宿が用意した花束をお墓に手向ける、隣ではエド様が号泣していて、思わずもらい泣きをしてしまった。
お参りを済ませた二人を家の中に案内すると二人ともあんぐり口を開けたまま固まっている、リビングの壁が一面全部ガラスで、自慢の露天風呂や庭園、東屋が見える、二人をソファーに案内して、良かったらと、エド様には、爺ちゃんがよく着ていた作務衣、ナタリア様には白い花柄のワンピースを出した、エド様は喜んで作務衣に着替え、勝手に冷蔵庫を開け、ラムネの瓶を取り出し飲んでいる、
ナタリア様が着替えを手伝ってと、言われて、男だから手伝えないと、伝えると、
「エルル、男の子だったの?女の子にしか見えないから良いわ、手伝って、」
と、無理やり着替えをてつだわされ、下着姿のナタリア様を見て、ブラ無しカボチャパンツかよ!
と、突っ込んでしまいそうになり、アイテムボックスから、下着を出して見せる、ブラやパンツに興味津々のナタリア様に説明しながら色や形を選んでもらい、その上から、ワンピースを着て貰った、お母さんの裸だから、なんとも思わないよ!
ナタリア様も下着のつけ心地の良さと、ワンピースの着心地にご満悦で、リビングに戻りラムネを飲んでいるエド様に、ワンピースを自慢していた、そうそう!うちは勿論土足禁止で家の中はスリッパを履いて貰っている。
お茶にしましょうと、キッチンよりトレーの付いたワゴンに数種類のケーキを並べて二人の前に持って行き、
「食事前なので、お一人一つづつですよ、」
と、伝えると、二人はしばらく悩んだ末、
ケーキを半分こにして、二種類のケーキを夢中で食べていたよ、
エド様はソファーでうたた寝をし、ナタリア様はリビングの隅の婆ちゃんが使っていた鏡台に興味を引かれ、色々聞いて来る、
ここで婆ちゃんの髪の手入れや、メイクをしていた、と説明すると、ナタリア様は鏡台の前の椅子に座って、
「エルル、お母さんにも、髪と、メイクを宜しくね、」
と、言うので、
「お母さん、メイク用の化粧品はその人に合った化粧品を一から作るから!一ヶ月はかかるよ、髪だったら出来るよ、どんな感じにして欲しい?」
「ええっ!メイクはダメなの、一ヶ月かぁ、一ヶ月の我慢ね、あと、髪かぁ、エルルの様に真っ直ぐな髪だったら良かったのに、お母さん髪の癖がきついでしょ、小さな頃から結構悩んでたのよね、」
「じゃぁ、真っ直ぐにしちゃいますか?」
「エルル、そんな事出来るの?」
「ええ、婆ちゃんも定期的に真っ直ぐにしてましたよ、」
「じゃお願い、」
はい、と返事をしてナタリア様の髪にストレートパーマをかける、しばらく待ち、ナタリア様の髪を洗い、髪がパーマで痛まない様癒しのヒール付きのトリートメントだ、ナタリア様は気持ち良さに眠ってしまっている、
椅子を起こし、髪を魔導ドライヤーで乾かすと、そこにはサラサラ、ストレートロングの女の人が鏡に映っている、
「凄い!エルル、凄いわ!私のあの、ごわごわしていた髪がこんなにサラサラストレートに、嬉しい、ありがとう、エルル!」
「はい、僕はご飯の準備に行きますね、そろそろエド様を起こして下さい、」
エルルがキッチンで夕食の支度をしていると、リビングから、エド様の驚く声が聞こえる、爺ちゃん達が逝ってから、一人だったから、何と無く暖かい気持ちになった。
夕食が始まると、二人は夢中で食べている、爺ちゃん達が好きだった森豚の薄切り肉を味噌ダレで焼いたものや、一角牛の牛カツ、山芋のコロッケ、トウモロコシに似た野菜のスープと、どれも皆完食してもらえた。
デザートにはプリンを出したら、もう、食べられないと、言っていた二人が、プリンをペロリとと食べ、お代わりまでしちゃったよ、
今は二人で露天風呂に入っている、
二人にバスローブと、フルーツ牛乳を持って行き、バスローブに感動しているナタリア様の横で、マッサージをおねだりするエド様を、気持ち悪いから嫌と、バッサリ断り、代わりにナタリア様にアロママッサージを行うと、
「ああ、エルル、いいわぁー最高よ!私、エルル無しじゃ、もう生きていけないわ、」
なんて言っちゃってるよ、
翌日朝の鍛錬をエド様とこなし、エド様の叫び声を何度も聞いてから、朝食を食べに行き、リビングには、ナタリア様も起きていて、
「おはよう、エルル昨晩は本当にぐっすり眠れたわ、こんなにスッキリした朝は初めてよ、見て、見て、お肌がプルンプルン、それにあのお手洗いは良いわ、もう他のお手洗いではしたくないわ!」
朝食が終わり、エド様が帰る準備をし始めると、ナタリア様が、帰りたくないと、子供の様に駄々をこね出したので、あまり使いたく無かったが、婆ちゃんの化粧品で薄化粧をする、エド様が、ナタリー、美しいよ、屋敷の者達に見せなくちゃ、後、エルルはこれから王都へ行き公爵家の使用人試験を受けてもらう、うちの執事になって帰ってくるんだ、またここに連れて来てくれるよ、
となだめると、
「ここの暮らしは王城よりも、良いのよ、エルル、早くお母さんの所に帰って着てちょうだい、約束よ、」
と、約束させられてしまいました。
高級宿に戻り部屋から出て来たナタリア様を見てビックリ、高貴な方をあまりガン見するのは失礼だが、皆の視線を釘付けにしていた、
領主館に戻ると、屋敷の人達皆でお出迎えされ、一同皆お帰りなさいませ、と頭を下げた後、ナタリア様を見て驚いている、エド様いわく、別人の様だそうだ、確かに、髪もストレートになり、化粧も異世界仕様、美しい白に薄い花柄のワンピースだ、メイドさん達の目が輝いていた。
エルルは一度家に戻り、一週間後旅の支度を整え、エド様が用意した、推薦状を持って、王都に旅立った、王都への道中はまた別のお話で。
ありがとうございました。