プリンセス・マスカレード
宜しくお願い致します。
第三十四話
プリンセス マスカレード
「リリル様、本当にこの格好で冒険者登録に行かれるのですか?」
「何だい従者マスカレード、私の事はプリンセスマスカレードとお呼びなさい、」
リリルの言葉に対してカレンは助けを求める様にエルルを見れば、
エルルはひょっとこの仮面を付け、隣でおかめの仮面を付けたイオと話をしている、
駄目だ!私が何とかしないとこの珍妙な格好で人前に出る事になってしまう、
そもそもこの衣装、エルル様の家の書庫にあった異国の絵物語を読んだリリル様がその絵物語を気に入ってしまった、
物語は主人公の王女と侍女が共に変身して、城下にはびこる悪を懲らしめる物語で王女はプリンセスマスカレードと名乗り、白いマントにつばの広い帽子、目の周りに蝶を模した様な美しい仮面を付け、同じ格好をした侍女と共に城下で大活躍する物語で、エルル様によれば変身美少女物だそうだ、
良く意味は分からないが、物語にハマってしまったリリル様にエルル様が、
「リリル姐様、マスカレードの衣装を着てみたいですか?」
とたずねられ、リリル様は、
「本当かい!着たい!着たい!」
と、その場でエルル様が用意なさったマスカレードの衣装に着替えられ、姿見をみながら、
「エルル、似合っているかい?凄いじゃないか!本物のマスカレードみたいだ!」
「ええ、姐様本物よりも美しいですよ、プリンセスは外国の言葉で王女と言う意味ですね、因みにマスカレードは仮面舞踏会だったかな、」
そしてその直後のリリル様の言葉に私の時間が止まってしまった、
「じゃあエルル、カレンにも従者マスカレードの衣装を、」
とリリル様に言われたエルル様は従者マスカレードの衣装をお出しになりとても爽やかな笑顔で、
「さあ!カレンさんも変身してみて下さい、」
どうしてこんな事に!
朝荷造りを終えたリリルとカレンが国王ジュリアスと共に離宮で待っていると、ゲートが開き中からエルルが出て来て、
「 おはようございます国王陛下、」
とかたひざを付き頭をさげる、
「おはようエルル、その様にかしこまるでない、公でない時は叔父として接してくれれば良い、」
とエルルに話しかけるジュリアスの隣から、
「おはようエルル準備は出来ているよ、」
と荷物を指す、
「母上、まだ私がエルルと話しをしておりましたのに、
でエルル、この荷物はどの様に運ぶのだ?」
とジュリアスがたずねた時には荷物は無くなっていて、
「空間魔法でちょちょいと収納しました、リリル姐様、他の王族の方達は良いのですか?」
「エルル、この部屋に入れるのはジュリアスだけでね、コーデリアスとローザンヌには手紙を渡してある、
孫娘はもう少し大きくなったらジュリアスが話すだろう、
城の者達も察しているんじゃないかい、ナタリーが私を訪ね、その後近習のカレンが騎士団を退団するんだ皆ピンとくるさ、」
「分かりました、今イオがナタリアお母さんを迎えに行っています、お母さん引越しのお手伝いをしてくれるそうですよ、」
「エルル、姉上が手伝いなどするわけがなかろう、」
「私もそう思うよ、おおかた増築した屋敷を見る為の口実だよ、」
ナタリアお母さん、ひどい言われようだよ、
エルルは苦笑いしながら、
「ではカレンさん、リリル姐様こちらから入って下さい屋敷の玄関に繋がっています、」
「エルル!予も少しだけ其方の屋敷に行っても良いか?
母上がこれからどの様な所で暮らすのか見てみたい、」
「ジュリアス、あんた早く執務に戻らないと文官達が困るだろ、」
「母上、今日の公務は昼からと伝えてあるので大丈夫ですよ、」
「では陛下もこちらにお入り下さい、」
三人がゲートを潜り抜けると屋敷の玄関でイオが待っていて、
イオはジュリアスに気付くと、直ぐに片膝を付き頭を下げる、
「其方確かイオだったな、其方も予がここに来ている時は親戚の伯父くらいで接してくれれば良い、」
「そうだよイオ、ジュリアスの事はほって置いて、早く私の部屋に案内しておくれ、」
イオがジュリアスにお客様用のスリッパを出すとエルルが、
「陛下、いえ伯父上様この家は靴を履かずに生活しています、
以外に気持ち良いんですよ、」
「ほう、辺境領には変わった風習があるのだな、」
と、ペタペタとスリッパの音を立てながらイオ達の後に付いて行くジュリアスに、
陛下素足で生活しているのはこの国でここだけですよと内心苦笑しながらエルルが最後に居間に入ると、
ジュリアスが居間から見える景色に驚き中庭に向かい歩いて行く所で、
気付いたイオが声をかけるより早く、ジュリアスはガラス張りの壁に鼻をぶつけしゃがみ込む、
それを見たリリルが、
「ぷっ!ジュリアス、あんたは必ずやると思ったよ、公爵屋敷でも気をつけてと言われていたじゃないか、」
と笑われたジュリアスは鼻を摩りながら、
「母上、思われたなら先に注意して下さい、
それにしても公爵屋敷の部屋や庭にも驚いたが、この部屋や庭も見た事の無い様式でとても美しい!」
「ジュリアス、あの庭に少し見えている池は温泉なんだよ、この家自慢の露天風呂って言うのだったねエルル!」
「ええ、伯父上様大丈夫ですか?皆さんよくぶつけられるんです、」
ジュリアスは庭に向かい置いてあるソファーに座り、
「大丈夫だ!それにしてもこのソファーもなんとも座り心地が良い、
くつろぐとはこういう事なのだな、」
「エルル、ジュリアスはほっておいて、早く私の部屋に案内しておくれ、」
イオが用意した紅茶を飲み、ソファーに座りまったりしているジュリアスにぺこりと頭を下げエルルは増築した建物の方に入って行く、
「姐様、こちらが増築した部屋になります、部屋の様式がまた少し変わっているんですよ、
一番手前の部屋は皆の居間になります、部屋は扉では無く引き戸になっていますのでこの様に、」
と、障子戸を開けると、中は畳部屋で真ん中には囲炉裏があり隣には掘りごたつが付いている、
今はコタツ布団の掛けてないテーブルでナタリアがお煎餅を食べながらこちらを見て、
「エルル、母様おはよう!素敵な居間じゃない、」
「おはようございますお母さん、
畳みと言う床に直接座る様式の部屋です、姐様達のお部屋もこの様式になっています、姐様達の部屋に荷物を降ろしたらこの部屋でお茶にしましょう、
隣が姐様の部屋になります、」
「楽しみだねえ、早く案内しておくれ、」
「はいでもその前に、
イオさんカレンさんの部屋の案内をお願いします、これとこれがカレンさんの荷物です、」
イオはエルルが出した荷物をアイテムボックスにしまうと、
「じゃカレンさん、お部屋に案内しますねって言ってもリリル様の隣なのですがこちらです、」
「はい、よろしくお願いします、」
とカレンはイオに付いて廊下の奥の部屋に入って行く、
エルルも廊下に出て隣の部屋の引き戸を開くと中に上がり端があり、
エルルはスリッパを脱ぎ上がり端に上がり障子襖を開け部屋の中に入る、その部屋は先程の居間と同じ畳部屋で部屋の中には品の良い座卓が置いてある、
エルルが奥の障子襖を開けるとガラス戸の二重扉になって扉から中庭に出られる様になっていて、エルルは部屋から縁側に出ながら、
「リリル姐様、この部屋が姐様の部屋になります、隣の部屋はクローゼットじゃなくて、衣装部屋ですね、
あとこの様式の部屋は寝具を床に直接敷いて寝ます、寝具はこちらの押し入れに入っています、」
と押し入れを開けて見せる、
リリルは子供の様に目をキラキラ輝かせながら部屋を隅々まで見て回り、
「エルル!気に入ったよ!素敵な部屋じゃないかい!特にこの縁側って所が良いじゃないかい、」
「気に入って頂けて良かったです、もしも王都のお母さんのお部屋みたいな部屋が良かったら、僕の部屋と変えますが?」
とエルルが悪戯っぽい顔をしながら聞くとリリルは慌てて、
「ダメだよ!ここは私の部屋だよ!
で、エルルそこの隅にある花瓶の花の横に飾ってあるのは木剣かい?
とても美しい装飾がしてあるね、美術品なのかい?」
と、リリルは床の間に飾ってある刀を指差す、
「姐様美しいでしょう!刀と言う武器です、僕の一番得意な武器ですよ、また後で詳しく説明しますね、
今は持って来た荷物を衣装部屋と押し入れにしまってしまいましょう、」
とエルルは衣装部屋に入り預かった荷物を出しているとナタリアとジュリアスが部屋に入ってきて、
「こちらが母上の部屋になるのですか、先程の居間にも驚きましたが、
こちらの部屋は異国に来た様ですね、」
「母様、良いじゃない私もこの部屋に泊まってみたいわ!
それに中庭に直接出られるなんて素敵じゃない!」
と言いながら部屋のあちこちを見回す二人にリリルが、
「二人共突っ立ってないでエルルを手伝って荷解きをしな!
うちは働かざるもの食うべからずだよ!」
と、リリルがたしなめると、
ナタリアとジュリアスはぶうぶう文句を言いながらもエルルが出した荷物を衣装部屋と押し入れに片付けて
いった。
隣の部屋ではイオがカレンに、
「このお部屋がカレンさんの部屋になります、このお部屋もリリル様のお部屋と同じ様式になっています、」
カレンもまた目をキラキラ輝かせ部屋の中を見渡し障子襖とガラス窓を開け縁側に出て中庭を見ながら、
「素敵な部屋です!私こんな素敵なお部屋で生活出来る何て夢を見ている様です!
この縁側と言う所はリリル様のお部屋と繋がっているのですね、」
「ええ、先程ナタリア様がみえた居間まで繋がっていますよ、
カレンさん、少し狭いですがちゃんと衣装室も有りますのでそちらに荷物を出しておきますね、」
と衣装部屋に入って行くイオに付いてカレンも中に入ると、
すでに沢山の服がかかっていて、
「イオさん、この服は?」
「カレンさんの服ですよ、制服とか無いので自由に選んで着て下さいね、
あちらのタンスには下着とかシャツやパンツが入っています、
実は私、こちらに来てから、自分が持って来た服を着た事無いんです、」
カレンはハンガーに掛けてある羽織りやタンスの服を一枚一枚大切な物を扱う様に確認しながら、
「イオさん、その気持ち分かります、私も自分で持って来た服はそのまま押し入れの奥にしまっても良いかも、なんて真剣に思っています、」
「カレンさん荷物を片付けたら一度居間に戻りましょう、午後からはこの屋敷の中を案内しますね、」
「分かりました、パパッと片付けてしまいます、」
エルル達が囲炉裏がある居間に戻ってくるとイオとカレンが全員分のお茶を用意していて、
「エルルさん、もうお蕎麦出しちゃっても良いですか?」
「はい、イオさんお願いします、」
引っ越し蕎麦って本当は越してきた者が周りに蕎麦を配るのが確か正しかったんだっけ、まあ異世界だから良いよね、
などとエルルが考えているうちにイオは皆の前に蕎麦を並べていく、
「エルルこれは先日公爵家で食べたラーメンなる物か?」
「似てはいますが別物なんですよ、
でもこちらも美味しいので食べてみてください、」
ナタリアお母さんとイオは箸を器用に使い蕎麦をズルズル啜っているが、リリル姐様達はまだ箸に慣れていないのでホークを使って食べて貰ってるけど、皆夢中で啜ってるから気に入って貰えたのかな、
食後のデザートに出したクレープを夢中で食べるジュリアスにリリルが、
「ジュリアスあんたそろそろ戻らないと後宮の前で文官達がやきもきしているんじゃないかい?」
「もうそんな時間ですか?
まだあちらの居間のソファーでくつろいでいたいのですが、」
「あんた何言ってんたい、エルル直ぐにジュリアスを後宮に送ってくれるかい、」
エルルがその場にゲートを開くとジュリアスが、
「エルルまた余をここに連れて来ておくれ、」
「はい、伯父上様の都合と私達の時間が合いました時には、」
「うむ、エルルではまたな母上を頼むよ、」
と笑顔でゲートの中に入って行くジュリアスを見送るとエルルが、
「じゃあイオさんはカレンさんに家の事一通り教えてくれるかな、僕は夕食の食材を取りに行ってきます、」
「エルル私も一緒に森に出るよ!」
「僕は構いませんがお母さんはどうします?」
「私は書庫の本でも読んで留守番しているわ、」
「わかりました、じゃあリリル姐様着替えて玄関に来て下さいね、」
エルルが玄関先の庭でリリルを待っているとリリルはジャージ姿で出て来て、
「ナタリアに運動しやすい服を頼んだらこの服を用意してくれたよ、
なかなか動きやすい服じゃないかい、」
「姐様、たしかに運動用の衣装ですが、森の中に入る時には不向きですよ、まぁ姐様なら大丈夫だと思いますが、その服は家着なんです、
一応服の上からこのローブを羽織って下さい、」
エルルが出したローブを羽織ったリリルが、
「で、エルルこの間の魔法の馬に乗ってみたい!」
「はいはい、姐様では操縦の仕方を教えて行きますね、」
エルルは魔導バイクを取り出し、
「姐様、先ずはバイクいえ、馬にまたがってハンドルじゃない、手綱を握って下さい、」
「こんな感じかい、」
「ええ、あと鐙に足を乗せて、
そう、そんな感じです、
動かし方は右手から魔力を流すと動き出します、
手綱を引き込めは上昇して、押し出せば下降します、魔力の込め具合でスピードが上がり、鐙を踏み込めば止まる事ができます、
曲がりたい時は曲がりたい方向に手綱と身体を傾ければ曲がれますよ、
最初は少しずつ魔力を流してみて下さいね、」
リリルが魔力を込めるとスルスルと魔導バイクが動きだす、
最初はおっかなびっくり動かし、直ぐに鐙を踏み止まっていたが、
慣れて来ると空中に舞い上がり右へ左へ蛇行させながら空に輪を描いた後エルルが待つ庭先に降りて来て、
「どうだいエルル!こんな感じかい?」
「はい、姐様とても上手に乗りこなしてみえますよ!」
「本当かい!この間から早く乗りたくてしかたなかったんだよ!
前にエルルの後ろに乗っていた時に大体の感覚は掴んでたからね、
自分で動かせるようになって今は楽しくて仕方ないよ!」
「じゃあ姐様、僕の後に付いて来て下さいね、例の泉に流れ込む川の上流に行きます、」
「分かったよ、今晩は川魚かい?」
「秘密です、楽しみにしていて下さい、」
イオはカレンに屋敷の魔道具の使い方を丁寧に教えて行き今は魔導洗濯機の使い方を教えている、
「でカレンさん下着を洗濯機に入れる時は、この網の入れ物の中に入れて洗濯をして下さい、」
「イオさんこの箱、洗濯をしてくれるのですか?」
「ええ、入れておけば洗って乾かしてくれます、最初に洗濯物とこちらの洗剤を入れて下さい、
半刻位で洗濯が終わっています、」
「凄い魔道具なんですね、」
「はい、どの魔道具もとても便利です、次は厨房に行きましょう、」
イオ達が厨房に行く為居間を通るとナタリアがソファーにねっ転がり絵物語を読んでいて、
居間に入って来た二人に、
「魔道具の説明は終わったの?」
「後は厨房の魔道具ですね、
細々した魔道具はその都度説明します、
ナタリア様は何をお読みになっているのですか?」
「これ、プリンセス・マスカレードって絵物語よ、簡単な物語だから片手間に読めちゃうのよ、」
「私はまだ読んだ事がない本です、
今読んでいる本を読み終えたら私も読んでみます、」
「イオさん殿下が読んでいらっしゃる本も見た事の無い様式の本です、異国の本なのですか?」
「貴女カレンだったかしら、貴女も私の事は名前で呼びなさい、
で本は全て異国の物よ、殆どの本はこの国の言葉で訳してあるのよ、
書庫に沢山あるから貴女も暇な時に読んでみなさいな、」
「ありがとうございます、ナタリア様、楽しみにしています、」
「じゃあカレンさん厨房に行きましょう!」
エルルとリリルは魔導バイクを並走させながら、
「エルルどうだい、私は上手く乗りこなせてるかい?」
「ええ姐様、今日初めて動かしたとは思えませんよ、
あっ、あそこに降りますよ、」
エルルは森の開けた所まで来ると、
魔導バイクを停めてそこから森の中に入って行く、
後を付いて行くリリルが、
「エルルあの馬は私達でないと乗れないね、ナタリーやカレンだったら直ぐに倒れてしまうね、」
「はい、制御に魔力を常に使いますので魔力量の多い方でないと無理ですね、
一応誰でも動かす事くらいは出来ますが、」
エルル達が森に入ってからしばらく歩くとせせらぎの音が聞こえてきて、
森の中の岩場の間に小川が流れている、
「エルル、魚を捕るのかい?」
「ええ、ちょっと前に罠を仕掛けておいたのでその罠に入っている魚を今晩の夕食にしようと思いまして、」
と言いながらエルルは岩場の近くにある木に括り付けてある紐を引き小川の中から節の木で編んだ筒を引き上げる、
エルルは引き上げた筒の中身をみて、
「わっ!三匹も入ってる!他の仕掛けはどうかな、」
「エルル取れたのかい?私にも見せておくれ、」
エルルはにやにやしながら筒の口をリリルに向けると、
「ギンじゃないかい!」
「えっ!姐様この魚を知っているのですか?」
「知っているさ!ブリネンではギンをスープで煮込む料理があってね、
向こうにいた時はよく食べていたんだよ、この国に嫁いでからは一度も食べた事が無かったね、」
「爺ちゃんもこの魚の事ギンって呼んでいましたよ、婆ちゃんは川ヘビなんて言っていましたが、」
「ラルルはギンをどう料理して食べていたんだい?
やっぱり煮込んでかい?」
「僕が、料理する様になってからは蒲焼きですね、
爺ちゃんも婆ちゃんもギンの蒲焼き丼が好物の一つでしたよ、」
「へぇ、焼いて食べるのかいそれは楽しみだ、エルル早く帰ろう!」
「姐様待って下さいまだ沢山仕掛けてあるんです、」
とエルルは近くに仕掛けてあった罠を全て引き上げ前世の鰻を、全てアイテムボックスにしまい、
リリルに急かされながら森の家に帰った。
「母様お帰りなさい、エルルは?」
「ナタリーただいま、エルルは中庭で魚をさばいて焼くそうだよ、でナタリーは本を読んでいたのかい?」
「ええ、絵物語だから異国の本でも簡単によめるのよ、
母様も読んでみる?」
「へえー異国の絵物語ねえ、食事を待つ間にちょっと読んでみるかね、」
「じゃあこれ一巻よ、」
「エルルさんお帰りなさい、カレンさんと一緒に厨房で御飯を炊いておきましたよ、」
「イオさんもカレンさんもご苦労様、じゃあこの重箱に御飯をよそって下さい、」
エルルは鰻をさばき串に刺して軽く焼く、
そして壺に入ったエルル特製のタレの中に潜らせもう一度焼けた炭で焼き上げる、
重箱を持ったカレンが鼻をヒクヒクさせながら、
「エルル様、とても良い匂いです、
これ箱の中にご飯を詰めてきました、」
「ありがとうカレンさん、
じゃあ先ず御飯にタレを掛けて焼いたギンを乗せもう一度タレをかけたら完成っと!」
いつの間にか、匂いに誘われたナタリアお母さんも中庭に出て来て、
「エルル、この匂いたまんないわ、
美味しそうじゃない!」
「はい、お母さん新しい居間で待っていて下さい、
でお母さんリリル姐様は?」
「エルル母様ったら、プリンセス・マスカレードにハマっちゃったみたいで、居間のソファーで読書中よ、」
「わかりました、食事が出来ましたので姐様を新しい居間に連れて来て下さい、」
居間の堀コタツの上に重箱がならび、皆が席に着くとエルルが立ち上がって、
「皆さん引越しお疲れ様でした、
無事引越しが終わり明日は朝からエド様と冒険者登録を行いにグランドバレスのギルドへ行く予定です、
あと今日の料理はギンの蒲焼きですよ!」
「エルル良い匂いだねえ!焼いたギンを食べるのは初めてだよ、」
と重箱を開けホークでギンとご飯を食べ、暫く動きが止まり直後、夢中で食べ出すリリルに、
「母様、この料理はそんなに美味しいの?
じゃ私も、」
とナタリアは器用に箸で食べ、これまた無言で食べ出す、
イオとカレンも黙々とギンの蒲焼きを食べる、
皆がギンを食べ終わり幸せそうな顔をしながら、
「エルルこんな美味しいギンは初めてだよ、また食べさせてちょうだい、」
「ええ、本当に美味しかったわ、
でエルルこのギンって川で獲ってきたんでしょ、どんな魚なの?」
「姐様の国ではギンって呼ぶそうですが婆ちゃんは川ヘビって言っていましたよ、」
エルルの言葉にリリル以外の者は皆顔の表情が無くなっちゃってたよ。
皆が温泉から上がりそれぞれパジャマに着替えソファーのあるリビングで冷えた炭酸果実水を飲みくつろいでいるとエルルが、
「少し聞いて下さい、
明日、冒険者登録に行きますが、多分僕達周りの人達が驚くランクになるそうです、」
「エルル、何を今更カレン以外は化け物ばかりだよ、」
「でしょ!だから名前と顔を隠して登録しようと思います、
因みに僕の名前はひょっとこ、こんなお面をつけます、」
「私はおかめです、」
とエルルとイオがパジャマの上からローブを羽織り仮面を着けると、
「ぷっ!ぷぷっ!わははは!なんだいあんた達のそのお面、
やめて!こっち向かないで!息が!息が出来ない!いーひひ、ヒィヒィ助けてー」
「母様、笑い過ぎよ確かに面白いけれどエルル、母様達はどうするの、」
エルルはひょっとこの仮面を顔の横にずらし、少し考え、笑い転げているリリルの手の本をみて、
「姐様、プリンセスマスカレードの衣装を着てみませんか?」
笑い転げていたリリルが笑うのをピタリと辞め、
「エルル!本当かい!この本のマスカレードの衣装なのかい?」
エルルはにゅぅーっとマントに帽子、ブーツを出し最後に絵物語より見事な蝶を模した仮面を取り出し、
「はい、明日の格好と名前が決まりましたね、
プリンセスマスカレード!」
「エルル!ちょっと待ってな!直ぐ着替えて来るよ!」
と言って部屋に帰って行き、
数分後絵物語より美しいプリンセスマスカレードがリリルの部屋から出て来て、
「エルル、似合っているかい?」
「ええ、本物より美しいですよ、」
「じゃあ私は明日この衣装でプリンセスマスカレードとして冒険者登録をしようかね、
エルル、カレンにも従者マスカレードの衣装を、」
リリルの言葉に固まっているカレンにエルルは、にやにやしながら、
「さあ、カレンさんも従者マスカレードに変身して下さい!」
と言って変身セットをカレンに渡す、
そして暫く経って、カレンの部屋から涙目の従者マスカレードが恥ずかしそうに出て来るのであった。
ありがとうございました。




