整いました。
宜しくお願い致します。
第三十三話 整いました!
「おい!そちらのスープはどうなっている!」
「はい!料理長もう少しです!」
「助っ人達はまだか?」
「はい!もうすぐかと!」
「兄貴!侍従と配膳係の女官たちが打ち合わせに来てるが!」
「早いな、分かった今行く、ヒルズ!カーン達が来たら段取りの説明を頼む、」
「分かった!」
今、王宮の調理場では今晩行われる宮中晩餐会の準備が大詰めを迎えていて、料理人達が慌ただしく動き回っている、
「オヤジ!」
突然現れた息子に驚くヒルズが、
「カーン、来てくれたか結局デザートのケーキはお前たちに用意して貰う事になってしまったな、」
「なに問題無いさすでに用意してある、これからエルル様のお弟子様がロックと一緒に持って来る、
氷室に案内してくれ、」
カーンが話している横にロックとイオが出てきて、
「大将おまたせ!」
「来たかロック、イオさんありがとうございます、」
「いえ大丈夫ですよ、私はケーキを置いて帰りますどちらにお持ちすれば?」
手ぶらのイオに戸惑うヒルズに、
「オヤジ、イオさんも忙しいんだ早く氷室に案内してくれ、」
「済まない、こちらだ、」
ヒルズに案内され調理場の隅の階段を降り氷室に入る、
「わぁ!大きな氷室ですね、じゃあ運び出し易い様に棚ごと置いてっちゃいますね、」
とイオは何段もある大きな棚を氷室の中に取り出す、驚いて口をパクパクさせるヒルズの隣のロックに、
「ロックさんお預かりしたケーキは以上です、私は帰りますので晩餐会のお手伝い頑張って下さいね、」
と言って未だ固まっているヒルズにペコリと頭を下げゲートを出し帰って行く、
「さあ!副長固まってないで、俺っちと大将に指示を下さい!」
「料理長大ホールの準備は整いました、
席次表と、本日のお品書きも既に各席に配り終わっています、」
「分かった、今晩の晩餐会は今までの立食パーティーから全員席に着いてのコース料理に変更したからな、
皆戸惑う事も多いと思うが宜しく頼む、」
「なあに料理長私はこのコース料理、良いと思いますよ、給仕のしがいがあります、きっと良い晩餐会になります、」
「では先日渡した教本通り頼むよ、」
「はいお任せ下さい!皆何度も教本を読んで感心していましたよ、」
「ただいま戻りました、エルルさんついでに着替えて来ましたよ、」
「おかえりなさいイオさん、食堂でジャン先輩達と合流して会場に向かいましょう、」
エルル達が食堂に入るとジャンとリナがジャージを着て待っていて、
「先輩達おまたせしました!
二人共ジャージが似合っていますよ、」
「エルル君このジャージって服スゥーが部屋着にしているのと同じね、とても楽で着心地が良いわ、」
「はい、スゥー先輩に以前お仕事を依頼した時に着て貰ったんですよ、
じゃあお二人共このエプロンを着けて下さい、着け終わったら祭り会場まで飛びますよ、」
「ショーン店の準備はどうだ?」
「オヤジか、準備はほとんど終わっている、後はジャン達を待つだけだ、
メイン会場の方はどうなってるんだ?」
「王都で人気の吟遊詩人達が本番に向けてのリハーサル中だ王庁より貸与された拡声の魔道具をあんな風に使うなんて、彼奴ら皆のりのりで、ほら聞こえてきた!」
美しい女性の歌声が会場中に響き渡り、準備をしていた者達が皆手を止め歌に聞き入っている、
「凄いな、吟遊詩人達がギルドの依頼で歌い報酬を受け取る、新しい働き方だ、」
皆が歌に聴き入っていると、
「おまたせしました!」
とエルル達が現れ、
「エルル待っていたよ、どうだ吟遊詩人達の歌声は?」
「わっ!いいじゃないですか!お祭りって感じがしますね、
お店の準備はどうですか?」
「全て終わっているぞ、で赤玉の実も新たに届いているが、」
「ではジャン先輩とリナ先輩は僕が出したリンゴ飴を並べていって下さい、僕とイオさんで新しいリンゴ飴を作って行きます、」
「了解した、ショーン兄貴リンゴ飴の出店はこっちでいいかい?」
「ああ、ここに並べてくれ、
それにしてもジャンお前の服はなんだ?変わった服だな、」
「俺だけじゃなくて、エルル達も皆着てるだろとても動きやすいんだよ、」
エルルが赤玉の実にクリーンの魔法をかけ、目にも留まらぬ速さで棒を刺して行く、
それをイオが寸胴鍋の中で溶けた飴の中に赤玉の実を潜らせ出来た物を次々並べていると、
「エルル、お客さんが来てるぞ、」
とジルに話しかけられそちらを見るとそこにはお婆ちゃんのシスターさんと若いシスターさんが立っていて、お婆ちゃんシスターさんが、
「公爵家の方でございますか?」
「はい、執事見習いでございますシスター様、」
「私は教会所属の孤児院の院長をしておりますベスと申します、公爵様には毎年多額の寄付を頂いて感謝致しております、また今回は宵祭りに合わせて子供達全員に珍しいお菓子を振舞って頂きありがとうございます、
会場で公爵家の方が出店を出してみえると聞きまして、大司教からの御礼の文を預かって参りました、」
「シスター様、承りました主人に必ず届けます、
あっ、これ良かったら召し上がって下さい、」
と出来たてのリンゴ飴を渡す、
「売り物をよろしいのですか?」
「はい、子供のお菓子の様な物ですが美味しいですよ、」
リンゴ飴を受け取った若いシスターさんの目がキラキラ光っちゃってたよ、
「ありがとうございます、貴女に女神フィーネス様の加護がありますように、」
と優しく微笑み、お婆ちゃんシスターさん達は深く頭を下げ帰っていった。
そう言えば王都に来てからまだ大聖堂に御参りしてなかったな、ひと段落したら忘れず御参りに行かなくっちゃ!
「エルルさん私、」
「あっ、了解です一度戻ってお母さん達の仕度ですね、
残りのリンゴ飴は僕が作っておきます、帰って来たらまたお手伝いをお願いしますね、」
「はい了解です、行ってきます!」
と言ってイオはゲートの中に入って行き、
エルルは残りのリンゴ飴を仕上げて行く、
周りを見ればどの出店も準備が終わり、
皆宵祭りが始まる大聖堂の夕刻の鐘を待っていた。
イオがナタリアの部屋に戻って来ると、
「イオ待っていたわよ、会場はどうだった?」
「はい、沢山の出店が準備をしていまして広場に小さな町が出来たみたいです、
あと会場中に吟遊詩人の方達の歌声が聞こえていまして、皆歌に聴き入っていました、」
「盛り上がっているみたいね、お祭りに参加出来ないのが残念だわ、」
「はい義母様、晩餐会に出席する貴族は参加できませんわ」
イオは話しながらもテキパキと二人の仕度を整えていく、
「ねえイオ、リリル様のお住まいはどうなっているの?」
「はい、増築も終わりまして素敵なお部屋が増えました、」
「義母様、私をエルルの実家に連れて行ってくれる様にお願いして下さいませ、」
「マリー今はダメよ、リリル様が落ち着かれるまでは待ってなさい、」
「リリル様とは夜会の時にみえた黒髪の女性でしたわね、」
「ええ、エルルの伯母に当たる方よ、
落ち着かれたら皆にも正式に紹介するわ、」
二人の仕度が終わり執事やメイドが勢ぞろいで玄関ホールに並ぶ中ナタリアが、
「王宮に行くのに馬車なんて面倒だわ、」
「ナタリー、それが普通でエルル達は特別なんだよ、」
「分かっていても最近イオが近くに居ないと落ち着かないのよ、」
ナタリアの言葉にアルクは呆れ顔で、
「母上、明日より二人共長期休暇に入ります、
エルル達が休みの間はどちらで過ごされますか?」
「一応辺境領にエドと一緒に帰るつもりだわ、」
話をしている所にペレスが、
「主人様、お時間が、」
「すまん、すまん、では皆行ってくる、ペレス留守を頼む、」
「かしこまりました、行ってらっしゃいませ、」
と一礼するとペレスに合わせ使用人全員が、
「行ってらっしゃいませ、」
と頭をさげる、
馬車を見送ると侍女長がイオに、
「イオ、貴女は祭り会場に戻るのよね、」
「はい、これから食堂の冷蔵庫に今日屋台で売るりんご飴を置いて行きますので、食後のデザート代わりに食べて下さい、」
「ありがとう、私も宵祭りの花火が見たかったわ、」
侍女長の言葉に回りのメイド達も
頷く、
「侍女長、お屋敷の二階の窓から見えると思いますよ、」
イオの言葉に回りにいたメイド達が、
「ねぇイオ、花火ってどんな物なの?湖の辺りで行う花火がお屋敷の二階から見えるの?」
「そうですねぇ、夜空に大きな光の花が咲くって感じですかね、
とても綺麗なんです、
もしかしたらお庭からも見えるかも知れませんよ、」
「あーん!今日お休みだったら会場に行けたのに!」
「あっ、侍女長!姫様と若様達にもりんご飴をお渡しして下さい、
では食堂に寄って戻ります、」
イオがゲートを出し中に入りかけ突然自身の耳に手を添え、
「はい!イオです、もしもしエルルさん!はい、ええ、わかりました侍女長に伝えます、」
いきなり一人で話し出したイオに回りのメイド達が驚いていると、
「侍女長、エルルさんが屋敷の皆さんを内緒で宵花火の特等席に招待してくれるそうですよ、
花火を見に行きたい方は夜の鐘二つにここに集まっていて下さい、私が迎えにきます、」
そこにいた全ての者が、
「分かったわ!皆で待ってるから!」
イオは頭をさげ、ゲートを開き中に入って行った。
王宮に勤める者が休憩を取る食堂が今日は閑散としていて食堂の隅で二人の女性衛士が、
「流石に今日は皆忙しそうね、」
「はいカレン先輩、私達後宮衛士以外は晩餐会の警備で忙しそうです、」
「衛士と文官の幹部達はお客様側になるからね、」
「あの、先輩本当に騎士団を退団なさるのですか?」
「ええ、もう次の仕事も決まっているわ、」
「先輩ではあのお噂は・・」
「リン!詮索してはダメよ、」
「はい先輩、でカレン先輩の次の仕事とは?」
「貴女の妹と同じで辺境伯付きの使用人になるわ、」
「カレン先輩辺境領の騎士は公爵家の騎士団員が交代で勤務しているのでは?」
「私、騎士はやらないわよ、エルル様の家の使用人になるの、リンもエルル様は知っているわよね、」
「えっ!あの素敵なお屋敷で働けるのですか?」
「リン、貴女あのお屋敷に行った事があるの?」
「はい、エルル様には家族として接して頂いています、」
「エルル様の家族なんて羨ましいわ、」
「カレン先輩こそ、あのお屋敷で仕事とはいえ生活出来るなんて羨ましいです、」
カレンは思い出し笑いをこらえながら、
「妹にも変わって!っていわれたわ、」
「私も変わって欲しいです!
そう言えば妹さんも公爵家で働いていましたね、」
「ええ、エルル様の同僚のメイドをしてるわ、」
「実は私の一番下の妹が公爵家の私兵騎士団を希望していまして、
エルル様が推薦人になって下さいまして、来週入団試験を受けるんですよ、」
「それはもう入団が決まった様なものね、」
「ええ、少し前から公爵家の騎士団本部で訓練に参加していまして、すでに内定を頂いています、
あっ!内緒ですよ!」
「おめでとう、じゃあ妹さんも私の同僚になるわね、」
「はい、来春より妹を宜しくお願いします、あ!イオも、」
「リン、イオさんは一応同僚になるけれどエルル様の身内になるから、ルコル家でお仕えする三人のお一人になるわ、
イオさんには同僚として接して下さいって言われているけど、」
「あの子そういうの苦手なんです、」
「ええ、とても可愛らしい妹が出来て嬉しいわ、」
大聖堂の夕刻の鐘が鳴り、会場に入る道に出来た長蛇の列が入場はまだかまだかと待っている、
ギルドの運営本部では運営委員の職員が、
「統括!会場の案内アナウンスと、灯の魔道具の点灯の指示を!」
ジルが頷くと女性職員が拡声の魔道具に向かい、
「 長らくお待たせ致しました、これより会場への入場を解禁いたします、
皆様、黄色いギルドの腕章を付けた職員、又は同じ腕章を付けた冒険者の指示に従って入場して下さい、
また、お困りの事がございましたら黄色い腕章を付けた者にお声がけ下さい、」
アナウンスが流れたと同時に一斉に灯りの魔道具に明かりが入り会場が昼の様に明るくなる、
会場に入って来る者達から歓声が上がり広場に出来た出店やメイン会場の広場に散って行く、
メイン会場に出来たステージに拡声の魔道具を持った男女が現れ、
「オーライドの宵祭りにようこそ!
今宵の司会進行をします、
ヨツバルン座のダニーです!」
「アシスタントのモニカよ!」
二人の声を聞いた瞬間大歓声が上がる、
女性からは、
「キャー!亡国の姫と騎士の騎士様役のダニー様よ!信じられない!こんなに近くで見えるなんて!」
男達から、
「おおー!モニカ嬢!綺麗だー!嫁になってくれー!」
会場前広場はアッと言う間に人で埋め尽くされ、
皆ヨツバルンにある劇場の花形役者の登場に大興奮で一目見ようとステージ前の広場に集まってくる、
「それじゃあみんな!先ずは酒場の歌姫シリカさんの登場よ!みんな拍手でむかえてね!」
紹介された女性がギターに似た楽器を持ちながらステージに上がり職員が出した椅子と固定式の拡声の魔道具に向かって美しい声で歌い出す、
会場中に響き渡る歌声に皆が聞き入り宵祭りが始まった。
「お姉ちゃん、このりんご飴一つちょうだい!」
「ありがとう!銅貨三枚よ、
はいこれ、落としちゃだめよ!」
「わぁ!ありがとう!」
「リナ先輩お客様の入りはどうですか?」
「イオお帰り、まだ始まったばかりだからぼちぼちよ、
でも孤児院の子達がみんなで買いに来てくれたから良い宣伝になってるみたいよ、
りんご飴を持ってる子を見た人達がこの店を探してるって、」
「エルルさんは?」
「魔法士団の天幕に行ってるわよ、ここは私とジャンで大丈夫だからイオもエルル君の所に行って来たら?」
「ありがとうございます、連絡取ってみますね、」
と言いイオは耳のイヤリングに触れエルルに連絡を入れる、
「エルルさん今戻りました、」
「お帰りなさいイオさん、今魔法士団の皆さんのテントに来ています、
イオさんローブと仮面を付けて魔法士団の天幕まで来て下さい、」
「はい、了解ですリナ先輩達に伝言が有れば伝えますが?」
「そちらはジャン先輩達に任せましょう、
新しく作った物も全て渡してあります、」
「わかりました、これからそちらに向かいます、」
通信を終えるとイオはローブを羽織り仮面を付け、エルルが待つ天幕に向った。
王宮の入り口で貴族達が侍従より席次表を渡され、大ホールに用意された自分の席に着いて行く、
アルク達のテーブルは一番上座の雛段に近い丸いテーブルで
テーブルには、スパロン公爵家とギルガス公爵家、バレス辺境伯家の三家が座る、
「宰相閣下、公爵夫人御機嫌よう、」
「殿下、バレス伯様ご機嫌麗しゅう御座います、」
「何だかお堅い挨拶になってしまうな、宰相閣下、」
「皆さんもうこの辺りで、」
宰相の苦笑の言葉に、アルクが、
「全くだ、だかこの会場の雰囲気に当てられお堅い挨拶になってしまうな、」
ナタリアが自分の前に置いてあるお品書きを手に取り、
「エド、これ見て結構頑張ったみたいね、」
「へぇ、海魚のカルパッチョにメイン料理は竜肉のシチューか、皆食べた時の顔が想像出来るな、」
「殿下、殿下はこちらに書いてあるメニューをお食べになられた事が?」
「ええ、今日の料理は息子が監修しているの、だから私とエドは今日のコースと同じ物を先日試食しているわ、」
「義母様、またお二人だけでずるいですわ、」
「マリー、この場で初めて食べた方が良いでしょう、
ほら御覧なさい、皆お品書きを見て盛り上がっているわよ、」
周りを見ればお品書きを見た貴族達が未だ見ぬ料理に思いを語り合っている、
女官が見事なガラスのグラスにお酒を注いで回り終わると、
雛段奥の扉から王族が入って来る、
貴族達は立ち上がり少し頭を下げて待つ、
「皆の者、予の晩餐会にようこそ、
今年は少々趣向を変えた晩餐会にしてみたので楽しんでいってくれ、
では乾杯!」
貴族達の乾杯の声を合図に侍従と女官が一糸乱れぬ動きで料理を配膳して行く、
皆配膳された料理に王族とナタリア達以外は驚き、料理を食べその美味しさに驚愕する貴族達を見て、
国王ジュリアスはしてやったりと内心ほくそ笑み、
先日食材の請求書を見て真っ青になった王庁財務長官のハット卿に心の中で詫びた。
祭りの本部でギルド理事達が、
「統括、大成功の様ですな、まだ目玉の宵花火が始まっていないのに、この盛り上がり様は、」
「うむ、商業ギルド理事の言う通りだ!今回の祭りで、新しい商売の種子がいくつ出来た事か、
この祭りを企画したのは国王だと聞いたがとんでもない商才だ!」
「ああ、この祭りで商業の在り方が変わるぞ、統括は直接陛下と交渉したのだろ?」
「私は企画書を頂いただけだ、宮廷には学者も沢山いるから、皆で協議されたのではないかな、」
「すでに大商会だけでなく、中小の商会も水面下で動いている所も有ると聞く、」
「ああ、新しい事業がはじまれば、そこから新しい需要と供給が生まれ新規の雇用や生産も増やす事が出来る、」
「おい!ジルお前いつから学者になった?元は騎士様だろ、」
言われたジルは笑いながら、
「我が家には、無敵のコンサルタントが付いていてな、
ギルドの統括理事として恥ずかしくない様ちゃんと勉強しているのさ、」
「言葉の意味は分からんが、俺は実はお前が賢者なんだと打ち明けられても驚かんぞ、」
「あ、あのそろそろ宵花火の開始を魔法士団の方々に、」
「すまん、すまん話し込んでしまった、連絡係を向かわせてくれ、」
イオが魔法士団の控えの天幕に行くと、新人のリツが天幕から出て来た所で、
「あっ!リツお疲れ様、」
「わっ!イオ姉じゃなくって、おかめさん、」
「リツ魔法士団のローブが似合ってるよ、外に出て来てお仕事?」
「ううん、少し緊張しちゃって、外の空気を吸いに来たの、」
「リツでも緊張するんだね、」
「イオ姉のそう言う呑気って言うかマイペースの所が羨ましいよ、」
「もう!それ褒めてないでしょ!」
そこに天幕からひょっとこが出て来て、
「おかめさん、丁度良かった先日魔法士団のリハーサルを見学した所に大きめの結界を敷いて下さい、公爵家の皆さんに特等席で宵花火を見て貰いましょう、」
「でも、エルルさんいくら夜が暗くても花火の明かりで見えちゃうんじゃないですか?」
「大丈夫です、ちゃんと岸からは見えない様にしますよ、
あと、リツちゃん頑張ってね、リツちゃん僕が教えた鍛錬で魔力量がちゃんと増えてきてるよ、自信を持ってね!」
「はいっ!お兄ちゃんじゃない、ひょっとこさん、」
「はい、じゃあこれ元気が出る飴ちゃん、あーんして!」
リツが口を開くとエルルは蜂蜜から作った飴をリツの口に入れる、
「お兄ちゃん!甘くて美味しい!」
「じゃあ頑張ってね!イオさん行きますよ、」
とエルルがイオを見ると、イオはあーんと口を開けて雛鳥の様になっていた。
公爵家のエントランスでナターシャ、ナルゼ、アイリスにメイド達が集まっている、侍女長がペレスに、
「執事長、ロバート、少しの間だけお願い!」
侍女長の隣でナターシャ達も目を潤ませて、ペレスを見ている、
「わかった、わかったから、若様、姫様達もそんな顔をなさいますな、」
ペレスからの承諾にナターシャ達が喜んでいるとゲートが開き、エルルが入って来て、
「お待たせしました、もうすぐ花火が始まりますよ、」
「エルルが迎えに来てくれたのね、」
「ええ、イオさんは場所を確保してくれてます、大迫力で花火が見えますよ、
さあ、皆さんこの中に入って下さい、」
エルルが開いたゲートの中に皆が入って行くと、
「執事長、ロバートさんこれお留守番の差し入れです、」
とそれぞれに美しい酒瓶に入ったお酒を出す、
途端二人の顔がほころび、執事長がエルルに抱きつき、
「おお!エルル心の友よ!」
なんて言っちゃって、おっさんに抱きしめられ、気が遠くなっちゃったよ!
でもゲートに入ろうとしたら二人共、
「楽しんで来いよ!」
と笑顔で手を振って送り出してくれたよ、
メイドの先輩達が次々ゲートから出て来る、
そこにはただイオが小さな明かりの魔道具を持って立っていて、そこにはテーブルとテーブルを囲む様に椅子が並んでいるのだが、
ソフィア先輩が、離れた所の明るい祭り会場を見て、
「ねえ、イオここは何処なの?私にはあそこに湖のほとりの祭り会場がみえるんだけど、」
ソフィアの背後から、
「ソフィア先輩ここは蒼き湖の上ですよ、さあ皆さん座って、座って!
花火が始まりますよ!」
皆暗くてよく見えなかったが、自分達が湖の上に立っていると知り驚きを通り越して、ほおけていたが、エルルに急かされ皆席に着く、
「はい、若様、姫様、これ豆を破ざしたお菓子と、ラムネと言う飲み物です、花火を見物しながら食べて下さいね、」
と、びっくりするぐらい大きな袋に入ったポップコーンの様な物とラムネのジュースをわたす、
袋の大きさに驚いていた姫様達も、今は袋を抱え、夢中でポップコーンを食べている、
それを羨ましそうに見ている侍女長達にも同じ物を出したら皆大喜びで袋を皆抱えポップコーンに手を伸ばしていたよ。
「皆様、これより魔法士団の方々による、宵花火の打ち上げが、はじまります、」
湖のほとりに綱で仕切られた場所に魔法士団員が入って行き、所定の位置に並び魔導中隊長の、
「撃ち方始め!」
の合図と共に最初の一人の打ち上げた花火が、
ドーン!!と地鳴りがする程の音と共に、蒼き湖の上空に見事な大輪の光の花が咲く!花は直ぐに消えてしまうが直ぐに、
ドーン!!と違う色の光の花が咲き、祭り会場から大歓声が上がる、
しかしその大歓声も直ぐに驚きに変わる!
ドーン!ドドドーン!ドドドーン!
息をつく間も無く夜空に咲く光の花、湖の空が光の花で覆い尽くされ、王都の民を魅了する、
花火は王都の街からでも見る事が出来、街中の者達も夜空に浮かび消える光の花を楽しんだ。
湖の上で見ている公爵家の者達は美しさとその迫力に魅入っていたが、全員一定の間隔で指が抱える袋と口を行き来していた。
エルルがイオに、
「じゃあ、イオさん僕達もちょっとだけお手伝いをしますか、」
「はい、エルルさん、」
と言って二人共両手に花火を出す魔道具を持ち、ほとりの空に向かい!花火を打ち上げる、
ドーン!!!と一際大きな音と共に今までで一番大きな花が開き、
ジリジリ、と音を立てて光の枝垂が降ってくる、
また大歓声が沸き起る中、宵花火はクライマックスに突入した。
王宮の広間では貴族達が、外から聞こえる宵花火の音にそわそわし出している、
思いの外貴族達の食事のペースが予定よりも遅く、まだメインのシチューを夢中で食べているのだが、
外から聞こえる花火の迫力がある音に思わず皆天井近くの高い所にある明かり取りの窓を見てしまうが、花火が見える訳も無く、
この年晩餐会に参加した貴族は宵花火を見る事が出来ず、屋敷に帰った後、使用人や家族の者から花火の事を聞いて盛大に悔しがった、
そして翌年から宵祭りと、晩餐会の日程がずらされる事になる、
イオは屋敷に皆を送り、エルルは出店のジャンの所にいくと、
ジャン先輩とリナ先輩だけで無く、ショーンさんやりんご飴に関わった人達が皆、廃の様になっちゃってたよ、
何でも途中から長蛇の列が出来、大量に作った在庫が空になるまで続いたらしい、
「お二人共お疲れ様でした、お手伝いに来れずすいません、」
「何、大丈夫さ、花火を手伝っていたんだろ、凄く綺麗だったよ!」
「ええ、本当に綺麗だったわ、並んでいた人達も退屈しなかった様だし、」
エルルは小さな小瓶を出し、
「元気が出るドリンクです、これ飲んでて下さい、ジルおじさんに挨拶してきます、」
そこにイオが帰って来て、
「エルルさん皆さんを送り届けて来ましたよ、」
「お疲れ様ですイオさん、ジルおじさんの所へ行きましょう、」
ジルは祭りの大会本部にいて、皆が家路に向かう中、本部も職員の方達が片付けを始めていて、
「ジルおじさん、お疲れ様です、僕達はこれで失礼しようと思っています、」
「お疲れ様、大成功だったよ!色々な事で明日からまた大変になりそうだ、」
「僕達は明日からしばらくお休みです、良いでしょう!」
「ああ、二人が羨ましいよ、またうちにも二人で遊びに来てくれ、」
「はい、分かりました長居してはお邪魔になっちゃうから、帰ります、」
と、二人で頭を下げて出て来る、
「イオさん、ジャン先輩とリナ先輩を連れてお屋敷に戻っていて下さい、
僕はリリル姐様の所に寄って屋敷に帰ります、」
「分かりました、エルルさんお屋敷で待っています、」
と言ってイオと別れて離宮にゲートを開く、
「エルルかい?」
「ええ、リリル姐様、」
「花火綺麗だったよ、ここの最期の日に良い想い出が出来たよ、」
「リリル姐様、あちらの支度は整っています、明日朝迎えに来ますので、荷物も多少はまとめておいて下さいね、」
「ああ、わかったよ明日からが楽しみだねぇ、」
「はい姐様、これ今日のお土産のりんご飴です、カレンさんと一緒にどうぞ、では明日、」
と言ってエルルはりんご飴を渡し、屋敷に帰っていった。
おまけ
アルクの執務室にナタリア、エドモンド、マリー、ペレス、マチルダ、ロバート、ソフィアにエルルとイオが集まりアルクが、
「エルルご苦労様、素晴らしい料理だったぞ、」
「主人様、僕では無く料理長達が凄いんです!」
「まあ、そう言う事にしておこう、
で、明日からナハリに向かうのかい?」
「いえ、こちらに来た伯母の引越しが終わって居ませんので、
そちらを済ませてから、ナハリに向かいます、」
「父上から使用人をエルルの屋敷に付けると聞いている、何でもアニーの姉らしいな、もちろん許可しておいたよ、」
「ありがとうございます、伯母上はブリネンの大公爵家の出でして、
自分達が居ない時にお一人にするのは心配でして、後宮衛士のリンお姉様から、同僚のカレンさんを紹介して頂いたのです、」
「わかった、その方を私達にも紹介してくれるのだろう、」
「はい、リリル姐様が落ち着かれましたら、正式にご挨拶させて頂きます、」
「うむ、分かったエルル、イオゆっくり休暇を楽しんでおいで、」
「ありがとうございます、お土産いっぱい持って帰ってきますね、」
「じゃあエルル私達も送ってくれるかしら、」
「はい、では行ってきます、」
と、エルルとエドモンド達はその場から音も無く消え、
残された者達全員が、少し寂しい気分になるのであった。
ありがとうございました。




