晩餐会が終わったら休暇です!
宜しくお願い致します。
第三十二話 晩餐会が終わったら休暇です!
「陛下、こちらの晩餐会の晩のギルド主体の祭りの企画書を本当に陛下が作られたので御座いますか?」
「オーライドの賢者と言われ予の指南役の男爵から見て如何か?
ギルド統括理事の一人、ジル・アズビー騎士爵からギルドの承認も貰っておるが、」
「いえ、このスポンサーなる広告者という物は画期的で素晴らしい、王宮、ギルド、大商会、が出資し、集まった資金で湖のほとりの会場に出店を出店させる、
また出店の売上の一部は税金として国庫に納められる、
素晴らしい!王都の経済効果の予想などどのようにおもとめになられたのです?」
国王ジュリアスはエルルに書いて貰った小さな紙のカンニングペーパーを見ながら、
「それは、新規に需要が発生することにより、その需要を満たすために生産が連鎖的に誘発される物を算出し、予想したものだ、
あくまでも予想でしかないが、」
「陛下敬服致しました、宰相閣下、王庁から認可して宜しいかと、ですが今からの承認でギルドは宵祭りの準備が週末に間に合いますかな、」
「すでに前からギルドに手を回しておってな、何も問題ない、」
「宰相閣下、よろしいかと、」
御前会議の場で宰相ローレンスが国の学者で賢者と言われる男爵の言葉を受け、
「他に意見のある方はみえますか?
宵祭りは灯りの魔道具の設置から、警備に至るまで全てギルド主体の行事となっていますが王庁より王都警備の騎士団員と各貴族家の騎士団員の一部も警備に加わります、」
「 宮廷魔法士長殿、今回の宵祭りの一番の催し、宮廷魔法士団による宵花火の準備は、如何か?」
「皆様も楽しみにしていて下さい、きっと驚かれますよ、また今回の魔法花火の準備で魔法士達の技量が上がっていまして、皆喜んで花火の訓練を受けていますよ、来年度配属になる者達も参加していまして、魔法士団の士気も上がっています、」
「宰相閣下、そちらにある街灯りの魔道具の見本に入っている王家の紋の所に出資した大商会の名前が入るのですか?」
「はい、すでに大商会だけでなく中小の商会もかなりの数が名乗り出ていまして、ギルドも潤沢な資金ができ、冒険者を警備にあたらせ、女性から子供まで全ての王都民が安全に楽しめるよう配慮するとの事、」
「未だ我らも出資できますかな?」
「はい、貴族の皆様からの出資も大歓迎だそうです、」
「陛下、こたびの宵祭りが成功すれば、オーライドの名物になりますな、」
「ああ、民が心より楽しみにする様な祭りにしたい物だ。」
王都の貴族町の隣にある王宮勤めの人が住む町のブラン家に久しぶりにカレンが帰宅すると、
「カレン久しぶりね、お休みがいただけたの?あと貴女制服でも無いのにどうしてズボンをはいてるの?」
「ただいま、母さん今日は伝えたい事があって帰って来たの、」
「そう、今日はちょうどアニーもお休みで帰って来るわよ、」
「父さんに王宮で今日は家に帰るって伝えてきたよわ、父さんは今日は帰れないって、」
「朝そう言っていたわね、で、アニーの前でも話せる事?」
「話せる事と話せない事があるわ、」
「じゃアニーが帰って来る前に聞かせて、」
「リリス様が近々崩御なさるわ、」
「そう、決められたのね、リリス様はどちらへ?」
「辺境領の魔の森深くの剣聖ラルル・ルコル 様の家に移られるわ、」
「そう、同じ国の方だものね、剣聖様はリリス様の秘密を知ってみえるの?」
「母さん、剣聖様も大魔導師様もお亡くなりになってみえるわ、今はお二人のお孫様が辺境伯様の養子になっていらっしゃるわ、」
「そのお孫様の所に移られるのね、」
「ええ、剣聖様のお姉様の娘で旦那様に先立たれ母の弟を頼ってオーライドに来たリリル・ルコル 様と名乗られるわ、」
「そう、でそのお孫様はリリス様いえ、リリル様の秘密を知ってみえるの?」
「ええ、知ってみえるわ、エルル様と言って今は公爵家で執事見習いとして働いてみえるわ、」
「ではリリル様はお一人で魔の森深くで暮らされるの?」
「母さん私リリス様が崩御されたら騎士を辞めようと思っているの、」
「貴女、リリス様に付いて行くつもりなの?」
「ええ、エルル様の家の使用人になるわ、」
「カレン、そのエルル様は王都に住んでいるのでしょ?二人だけで魔の森で住めるの?」
「母さん、エルル様はリリス様以上のお方なの、お弟子様と共に王都と辺境領を隣の部屋に移動する感覚で行ったり来たりなさるわ、」
「凄い方達なのね、」
「弟子の方は多分リリス様と同じだと思うわ、エルル様は私から見たら神様に近い存在だと思ってる、
あっ、これはあくまでも私の想像だから、
で一応私は辺境伯付きの使用人になるわ、
あと今までと違ってお休みの日は家に帰って来れるわ、」
「魔の森深くに住んでいてお休みの日に帰って来るなんて信じられないわね、エルル様はアニーの同僚って事よね、」
玄関が開く音がして、
「ただいま!わっ!珍しいお姉が帰って来てる!って、お姉!なんでその格好してるの?
」
「アニー私騎士を辞める事にしたの、これは新しい勤め先の制服みたいな物よ、」
「辞めるってお姉!皇太后様の近習なんでしょ、ってまさか!」
「アニー、誰にも言っては駄目よ、でもそういう事よ、」
「そう分かった、でお姉の新しい勤め先はどこなの?」
「アニー、きっと驚くわよ」
カレンはニヤニヤしながら、
「私、エルル様の所の使用人になるの、一応辺境伯付きだからアニーの同僚になるわね、よろしくねアニー、」
アニーは目を白黒させながら、
「お姉!だからイオと同じ衣装なんだ、お姉ずるい!どうやってエルル君の所の使用人になれたのよ!私がなりたいわよ!で、お姉エルル君の家に言った事があるの?」
「当たり前じゃない私の仕事場になる所だもの、」
「お姉、代わってよ私がエルル君にお願いするから、」
「バカねぇ、そんな事出来るわけ無いじゃない宜しくね、アニー先輩!」
ゴースロ共和国の王宮に飛隼がオーライドの大使館より密書を届け、宰相がゴースロ国王ドルトカトフの前で、
「陛下、殿下より飛隼にて密書が届きました、」
「うむ、読み上げてくれ、」
「はっ、昨晩ギルガス公爵家の夜会に招待され参加した所、面白き童に会いましたぞ、
ギルガス前公爵の養子だというその童はファーセル、オーライドの皇太子夫妻とお忍びで参加されたオラリウス陛下を持て成し、この世の物とは思えぬ至高の酒と料理を出してその場にいた全ての者がその食事に心奪われてしまいましたわ!
しかも童は超高位の医者とこれまた超高位の治癒術師で鍛治師病の事を知っていて、儂の目をその場で一瞬で治し、見ていた者を驚愕させましたぞ、
また童は、鍛治仕事を行う時の目を守る眼鏡がギルドから紹介されていると言い、その保護眼鏡なる物を付ければ鍛治師病にならないそうですぞ、
早急にギルドに確認して対応してくだされ、
最後にファーセルの剣姫に師匠の形見だと言って見事なレイピアを見せられたが、なんと!その童が打った物らしい、
見た目は童だが、儂には大賢者のように見えましたぞ、」
密書を読み上げた宰相が、
「鍛治師病を治す事が出来る者がいるとは、
陛下その者を我が国に招いては、」
「宰相よ、まず我が国の眼鏡を作る職人を集め、その者達に保護眼鏡の話をしてギルドで確認させよ、
あと息子に我が国の医者や神官でも鍛治師病が治せる様になるのかを確認する様に密書を送れ、」
「直ちに、」
と宰相は頭を下げ退出して行く、
執務室に残ったドルトカトフは鍛治師病で見えにくくなった目を閉じ、
この国の国民病の様な鍛治師病が治せる様になれば、目を患った多くの鍛治師が仕事に戻れる、
息子の話しは全て事実なのであろう、
オラリウス陛下がお忍びでその者達の接待を受ける様な仲であればその者をこの国に招くことは難しい、病の予防が出来る様になれば、我が国を支える主要産業を守る事が出来る先ずはそこからかの、
あと儂も一度お忍びで妃達を連れオーライドに行ってみるかの、
王都ヨツバルンの蒼き湖の湖畔に宮廷魔法士団が宵花火の現地訓練のために集っていて、 魔法士達の手には王庁より貸与された魔法花火を打ち上げるための杖が握られている、
「団長、いくら昼間とは言えここで魔法花火を打ち上げれば多くの者に見られてしまうのでは?」
「大丈夫だ、私の身内の者が結界を張ってくれる、皆に伝えておくが、これから見聞きする事は魔法士団職務規定の職務中に知り得た情報だ、外部に漏洩してはならない!」
ノーラスの言葉に団員たちが頷いていると、
いきなりローブのフードを深く被り顔には面妖な仮面を付けた者が二人団員達の前に現れる、
魔法士達は突然現れた二人を見て一瞬固まったが、二人の仮面を見て吹き出す者や口に手を当て笑うのを我慢している者もいる、
仮面の一人が、
「皆さん今日は宜しくお願いします、私の名前はひょっとこ、こちらはおかめです、」
と言って二人そろって頭をペコリと下げる、
途端魔法士達は我慢が出来ず笑い出し、
ノーラスもエルル達が仮面を着けて来るとは思っておらず必死に笑うのをこらえている、
おかめが女性魔法士達の所に向かって手を振り、手を振る先にいたリツが先輩魔法士に、
「新人さん、貴女あのヘンテコな仮面の人と知り合いなの?」
リツは首を横にぶんぶん振り、
「しっ、知らない人です!」
皆が笑う中ひょっとこがおかめに、
「じゃ、おかめさん腕輪を外してこの辺りを覆う結界を張って下さい、」
「了解です、ひょっとこさん、」
と言っておかめが魔力を抑える腕輪を外した瞬間、笑っていた魔法士達の笑顔が消え、中にはおかめの魔力に当てられ気を失う者まで出ている、
おかめは湖に向かいそのまま湖の上を歩いてこの辺り一帯を覆う巨大な結界を張る、
ひょっとこがその場で指パッチンをするとおかめの張った結界が光を遮り辺りが夜の様に暗くなる、
「さあ、魔法士様達思いっきり練習ができますよ、先日魔法士団長より配っていただいた段取り表どうりに魔法花火を打ち上げて下さいね、
一応個々の魔力量に対して負荷をかけない段取りになっていますが、キツかったら申し出て下さいね、
あとのびちゃってる人がみえますが、ドラゴンに会うとあんな感じですよ、
では僕達はあちらで見学させて頂きますね、」
と言ってひょっとこと名乗った魔法使いはその場から消え、
湖の中に立っているおかめの隣に現れその場に椅子を二つ並べ、二人で椅子にちょこんと座りこちらに手を振っている、
魔法士団の各隊長達がノーラスの周りに集まり、
「団長、身内の方と言ってみえましたが二人共うちの新人達と変わらない位の歳に感じましたが、何者なのです?」
「中隊長、詮索は無しだ!のびている者達を起こし訓練にはいるぞ!」
ギルド庁舎の中のジルの部屋にモルガン商会会頭のベルレッタが来ていて、
「ジル様ご注文の赤玉の実ご用意させて頂きましたが、この様に大量の赤玉の実が売れるのですか?生物ですので売れ残ってしまいますと、」
「大丈夫ですよ会頭、赤玉の実に一手間かけてお菓子として屋台で売ります、追加で注文をかけておいて下さい、」
「屋台でお菓子ですか?」
「ええ、今回は王都て有名なお菓子店も沢山出店するんですよ、」
「ジル様では尚更赤玉の実は売れないのでは?確かに有名店のお菓子と思えば子供の駄賃で買える物ですが、」
「そこがミソです、子供達がこぞって買いに来ますよ勿論大人もですよ、
私も家族に試供品を食べさせたのですが大好評でしたよ、会頭にも試供品をお一つ、」
と言ってジルは鞄からリンゴ飴を出してベルレッタに差し出す、
「外国の言葉でリンゴ飴と言うお菓子だそうです、赤玉の実の売り値が一つ銅貨一枚なのでこの菓子を銅貨三枚て売ろうと思っています、」
ベルレッタはリンゴ飴をかじろうとして、
「堅っ!でもこれは甘い飴?舐めていると飴の部分が無くなって赤玉の実が食べられるようになる訳ですか、面白いわ!このお菓子が銅貨三枚なら必ず売れるわ!」
「はい、間違いなく完売しますよ、」
「ジル様、この商品を考えられたのはエルル様でございますか?」
「当たりです、祭りが終わった後エルルを交えて新しい商売の話しをしましょう、」
「分かりました、エルル様がうちにお見えになってから氷室の海の魚がお貴族様に売れる様になりまして、不思議な方です、」
公爵家の使用人寮でマチルダが食事を取っていると、
「侍女長!私のシフトを週末お休みにして下さい、」
「ミオン、貴女で六人目よ貴女も連絡ボードに貼ってある売り子のお手伝い募集を見たのね、」
侍女長がチラリと連絡ボードの方に目をやるとそこには、
宵祭りの屋台のお手伝いさん募集!
当日お休みの方、
日給、金貨一枚銀貨二枚、
衣装支給、
連絡はエルルまで!
マチルダは一つため息を吐くと、
「ミオン他の子にも言っておいて、シフトは変えられないわ、私だってお休みだったらお手伝いにいきたいわよ、」
二人が話しているとジャンが連絡ボードの所へ行きお手伝いさん募集の張り紙を剥がす、
「ジャンどうして張り紙を外してしまうの?」
「ミオン先輩、お手伝いが決まったからですよ、このお店僕の実家が出す店なんです、
僕とリナが手伝う事になりまして、先程帰って来たエルルに剥がしておいて欲しいと頼まれたんです、」
侍女長が、
「戻って来たエルルは?」
「エルルはまた出かけましたよ、一緒に戻って来たイオは大奥様と王宮へ行くそうですよ、」
「そう、あの子達色々な所から引っ張りだこね、」
「ええ、主人様の所へ使者の方が毎日みえているのですが、
すでにエルルの予定がいっぱいになってまして、今は執事長が全て丁重にお断りしていますよ、」
「あの子は公爵家の執事見習いなんだけど、」
と、侍女長は諦め混じりのため息をついた。
「また父上達からの催促か?」
ファーセル大使館でターナスがため息をつきながら転移して来た魔法士に声をかける、
魔法士はターナスの前で片膝をつき皇王よりの書状を渡しながら、
「殿下、先日お預かりした新たな調味料の国営事業化の企画書と、
企画書と一緒にお持ちした調味料と調味料を使った料理を皆様夢中でお召し上がりになられまして、皇王陛下をはじめ元老院の方々からも今回の殿下の企画を早急に始めたいとの事、
皇王陛下より、殿下に早急に帰国するようにと命を受けてまいりました、」
「なんだと!私に帰国しろと!」
ターナスは受け取った書状をを開け確認するとそこには、
ターナス、我が息子ながら素晴らしい企画である、長老達も大いに乗り気でな、
ついてはお前に事業の指揮を取ってもらいたい早急に帰国いたせ、
あとオラリウス陛下にファーセルの正式な友好訪問団がオーライドに入国出来るよう許可を取っておいてくれ、くれぐれも訪問団の件たのんだぞ、
書状を読んだターナスは書状を丸め、あのクソじじい達総出で童の至高の料理を食べに来るつもりだな、
と苦い顔をしていると、部屋にテュレイカとランが入って来てテュレイカが、
「あなたそんなお顔をしてどうかなさいましたの?」
「妃よこれを読んでくれ!」
と丸めた書状をテュレイカに渡す、
テュレイカは丸められた書状を読んで、
「まぁ!あなた気を付けてお帰りになって、私は訪問団の案内役を致しますわ、」
妻の言葉に固まってしまうターナスにランが、
「殿下、テュカ様の事は心配なさいますなこの儂が責任を持って護衛致しまする、
あと娘に伝言があれば伝えますぞ、」
笑顔で話す二人の言葉を聞いたターナスは固まるのを通り越して灰の様になっていた。
「王妃様、一体何人の女官が集まっていますの?」
「義姉様、ローザと読んで下さいませ、」
「王妃様、貴女はこの後宮の主人、ここで貴女を名前で呼ぶ事は出来ないわ、」
「義姉様、後宮の主人と言っても今は私と、娘が住んでいるだけですわ、」
「確か姫殿下はうちのナルゼど同級生でしたわね、」
「はい、仲良くして頂いている様ですわ、
義姉様こちらの方が今日の講師の方ですの?アルマンの方かしら、」
「宰相秘書官のご令嬢のイオよ、私お気に入りで末の息子の弟子でもあるわ、」
イオはペコリと頭を下げ、
「イオ・タリスマンでございます、王妃殿下、」
「宜しくね、貴女本当に綺麗よ、
義姉様が先日連れてみえた側仕えもとても美しい娘でしたが、たしかエルリーナだったかしら、」
途端ナタリアとイオが吹き出し、
「王妃殿下、ごめんなさいあの子はエルル、私の可愛い末の息子よ、」
ナタリアの言葉に驚いている王妃ローザンヌに、
「じゃあイオのメイク講座をはじめるわよ、
何人の女官がいるの?代替わりしているから私の知っている者はいないわね、」
女官の一人が、
「殿下、女官長のスミでございます、
今日勤務の女官十二人が居ります、皆王妃様の側仕えでございます、」
「そう、分かったわじゃあこの中からイオにメイクをして貰いたい者がいたら名乗り出でて、すると女官長を始め全員がてを上げる、
ローザンヌが、
「義姉様!私では駄目なのですか?」
「貴女は今日ここで勉強する女官達に美しくして貰いなさいな、じゃあ女官長貴女にするわ、イオ支度してくれる、
あと、これからここで見聞きする事を他人に話してはいけないわ、守れない子はこの部屋より出て行きなさい、」
ナタリアの言葉に女官達が神妙な顔をして頷くのを確認してナタリアはイオに目配せをする、
イオは部屋の端に移動してそこにエルルが作った簡易美容椅子と洗面台に大きな鏡台をだし、驚いている女官達に向かい、
「では女官長様こちらへ、他の皆様は私の手元が見易い位置へ移動をお願いします、」
イオは椅子におっかなびっくり座る女官長を洗面台で洗顔させそのまま髪を洗い、トリートメントまで済ませると周りで食い入る様に見つめる女官達に髪のカットのコツを丁寧に教えていく、
女官達はイオの巧みなカットを見て驚いていたが一番驚いたのはイオが眉毛をカットして整えた時であった、
そして魔導ドライヤーで髪をブローしセットし終えた時にはため息が聞こえてくる、
イオは王宮が用意したメイクセットを使い女官長の顔にメイクをしながら化粧の入れ方を丁寧に教えていく、やがてため息は驚愕にかわり、
「はい、これで完成です、女官長様鏡で確認して下さい、」
女官長は自身の姿を見て驚愕している女官達を見てドキドキしながら鏡を見るとそこには知らない美しい女性が映っていて、二度三度鏡を見直す、
ローザンヌがナタリアに、
「義姉様!魔法ですの?」
ナタリアは真剣に聞いて来るローザンヌに笑いながら、
「いいえ、技術よでも女官長綺麗になったわね、」
と女官達に囲まれて呆けている女官長を見てまたクスリと笑う、
女官長は何度も自身を見返した後イオに、
「先生!この魔法は今晩まで持ちますか?」
凄い食いつきでイオに詰め寄る女官長にイオはひきながら、
「女官長様、魔法ではございませんので洗顔する迄はそのままでございます、」
イオの言葉に女官長は心からホッとする、
女官長は今日の業務終了後の想い人の文官に会う迄は絶対にメイクを崩さないと心に誓った。
エルルは乗合馬車で貴族町の中のドルドマ男爵家の門の前に来ている、公爵家と違い門に騎士さんが詰めてはおらず門に付いている魔道具に触れ、しばらく待っていると屋敷から初老の執事さんが出て来て、
「先生ドルドマ家にようこそ、主人は王宮に出仕しておりますが、奥様と先代様達、それと奥様の母君様がお出でになっています、
さあこちらへ、」
エルルはペコリと頭を下げ、
「エルル・ルコルと言います、宜しくお願いにします、」
執事さんはエルルに一礼して屋敷の中に入って行く、
部屋の前まで来て執事さんがドアをノックするとメイドさんがドアを開けエルルに一礼する、執事さんが扉の中に向かって、
「奥様、先生が来て下さいました、」
「ありがとう、入って頂いて、」
扉の向こうからレンの声が聞こえてくる、
エルルが頭を下げ部屋の中に入るとミリアが、
「エルル様、お忙しい中ありがとうございます、」
「いえいえ母様、お姉様の事です当然ですよ、」
「エルル様ありがとうございます、今日イオは?」
ベッドの上に座っているレンの言葉に、
「今イオさんはナタリアお母さんと一緒に王宮に行っていますよ、」
部屋の中にいた品の良いお爺ちゃんとお婆ちゃんが、
「レン、私達を先生に紹介してくれないか、」
「はい義父様、
エルル様こちらは義父様と義母様ですわ、」
「はじめまして先代様、私はエルル・ルコルと申します、今はギルガス家で執事見習いをしています、」
「貴女が噂の公爵家の医者殿か、私はトーマスの父のパーマスだ、こちらは私の妻だ、
先生私達は中々子宝に恵まれずかなりの年になってからトーマスが産まれてね、孫が見れずソルス様の元に行かなければならないかと思っていましたが、」
「義父様、未だ見て頂いていないのですから、」
「すまぬすまぬレン、先生レンをお願い致します、」
と言ってパーマスは奥様と二人で頭を下げる、
エルルはレンの前までくると、
「お姉様、おめでとうございます、順調ですよ、」
「エルル様本当ですか?」
レンではなくミリアがエルルに聞いて来る、
「はい、でも今一番大切な時ですから、馬車は僕が許可するまで、絶対に乗っては駄目です、あと皆様にもお願いを、
よく妊婦さんだから二人分食べないととか言って、食事の量を増やしてはダメですよ、赤ちゃんがお腹の中で大きく育ち過ぎて母体が危険になります、」
「先生私今物を食べると戻してしまって、」
「もう少ししたら悪阻は治ると思います、今日は栄養があるフルーツゼリーをを作って来ました、これだったら食べられると思います、」
「ありがとうございます、エルル様今いただいても?」
「はい、ちゃんと食べて最低限のの栄養は取って下さいね、色々持って来ましたので後で
お母様に渡しておきますね、
で、お姉様は赤ちゃんが男の子か女の子か聞きたいですか?」
エルルがニヤニヤしながらレンに聞くと、パーマスと奥さんが、
「先生!産まれる前に分かるのですか?」
と目を輝かせ聞いて来る、」
「はい、未だ小さいですが、ちゃんと魔力を発しています、人種の魔力は男性と女性でちがいます、
まぁ例外もありましてどちらにも属さない魔力を持っている者もいまして、」
「で!孫はどちらなのです?」
「あなた!レンが聞かないと言ったら聞いてはダメよ!産まれるまで楽しみにしていましょう、」
「そんな!レン!どうなんだい?」
レンはゼリーを夢中で食べていていきなり話しかけられ、
「義父様、主人が産まれるまで聞かないと言ったらちゃんと内緒にして頂けるなら、」
「ああ!勿論黙っているとも、」
エルルはレンが頷くのを確認すると、
「先代様、次代様がお生まれになったら可愛がってあげて下さいませ、」
エルルの言葉にしばらく呆けていたが、
「レン!でかした!儂の跡継ぎがっ!」
パーマスの言葉に皆吹き出し、奥さんが、
「あなた、あなたの跡継ぎはトーマスでしょっ!」
と笑い合う男爵家の方達に、
「でお姉様はどちらで出産されますか?私の方では実家に戻られ出産する方がいますが、僕の実家で出産されても良いですよ、」
「義父様義母様、私エルル様の所で出産したいのですが、駄目でしょうか?」
パーマスはなんとも言えない顔をして、
「レン、それは孫にとっても一番よいのだろうが、噂の超高位の医者殿に我が家がお支払い出来るかどうか、」
そんなパーマスに、
「先代様、自分の姉からお金を取るわけ無いじゃないですか、これからも定期的に診せてもらいますね、
あと、直接この屋敷に転移する許可を下さい、」
「想像以上のお方のようだ、先生、いえエルル様レンを宜しくお願い致します、」
と言ってパーマスは深々と頭を下げる、
「辞めて下さい、私は公爵家の執事見習いですよ、
あとお姉様これを、」
とエルルは手のひらの上にガラス玉を出す、
「エルル様これは?」
「もしもの時はこのガラス玉を破って下さい、どこにいても一瞬で飛んで来ますので、」
レンはガラス玉を胸の前で握りしめ、目に涙を滲ませて、
「ありがとうございます、エルル様、」
感動して涙ぐむレンの隣でミリアが、
「あの、エルル様レンがそちらに行っている間、私もそちらに行っていても良いでしょうか?」
「はい、構いませんよ、あっ!僕の伯母に当たる方が一緒に暮らしていますので今度紹介しますね、」
夜、魔の森の実家でエルルとイオは温泉から上がり二人共ソファーにだらし無く座っている、家の外ではまだゴーレム達がトントン、カンカンと家の増築工事を行っていて、
「ふぅー、エルルさん疲れましたね、」
「そうですねイオさん、もうちょっとだけ頑張りましょう!晩餐会が終わったら休暇です!」
と言ってエルルはぎゅっと拳をにぎりしめた。
ありがとうございました。