彼女はエルリーナ!
宜しくお願い致します。
第二十七話 彼女はエルリーナ!
「いーやーでーすーう!絶対にイヤです!」
「エルル、貴方がお供するって言ったんじゃない!」
「後宮に入るなんて聞いてないですよ!」
「あら、言ってなかったかしら?」
「イオさんを連れて行けば良いじゃないですか!」
「今回はエルルじゃなきゃダメなのよ!」
公爵屋敷のナタリアの部屋でごねるエルルを女性陣皆で囲み皆でエルルにメイド服を着せようと目を輝かせている!
話は昨日まで遡り、
今ナタリアの部屋の美容室では今晩アルマン伯爵家で行われる夜会に出席するマリーのメイクが終わりエルルが用意した夜会用のイブニングドレスに着替えていて、美容室の外には手の空いているメイド達が集まっていてマリーが美容室から出て来るのを今か今かと待っている、
侍女長がソファーに座りくつろいでいるナタリアに、
「大奥様、奥様のドレスはどの様な物でしたか?」
「とても素敵なドレスよ、まあ皆驚くでしょうね、ほら出てくるわよ!」
美容室から出て来たマリーは、シルクサテンの様な光沢がある濃紺色で品があり肩を出すスタイルのイブニングドレスに、白銀のファーショールを羽織り、足元はドレスと同じ濃紺色のエナメルの様な素材のパンプスを履いている、髪は夜会巻きに纏め上げられ、手にはハンドバッグを下げていて、メイド達からわっと歓声が上がりナタリアが、
「マリー綺麗よ、アルクが見たら惚れ直しちゃいそうね、」
「ありがとうございます、義母様イオがいつも良い仕事をしてくれます!」
「私の自慢の付き人よ、イオはこの後お供の子の支度に取り掛かるのよね、」
イオはぺこりと頭を下げるとゲートの中に入って行きマリーが、
「今日のお供はアニーだったかしら、」
「はい、私を除く全員でクジを引きまして今回はアニーが当てました、」
他のメイド 達はマリーの衣装を夢見る少女の様な瞳で見ていて皆ため息を吐いていた。
しばらくするとナタリアの部屋がノックされ、ロバートと共にエルルが用意した衣装に着替えたアルクが入って来てこれまたメイド達を驚かせる、
アルクはタキシードの上からシンプルだか品のあるロングコートを羽織りシルクハットを被っている、マリーが、
「あなた!素敵よ!」
「君もとても美しいよ、」
「アルク!かっこ良いわよ!エドにもその衣装を着せる事にするわ、」
「母上、エルルが男性はこの衣装がお約束だと言っていましたよ、」
皆が盛り上がる中ロバートが、
「主人様お時間でございます、」
と、告げるとメイド達が一斉にに部屋から退出して一階のエントランスに左右に分かれてならぶ、
玄関には執事長、ナターシャ、ナルゼ、アイリスが待っていて、階段を降りて来る父母を見て、
「お父様お母様、素敵です、」
「ナターシャ、ありがとうお留守番を宜しくね、」
ナルゼとアイリスも、
「父上、かっこ良いです!」
「ありがとう二人共、では行ってくるよ、」
玄関の扉が外からジャンとエルルによって左右に大きく開き、馭者のウィンがばしゃの扉を開け頭を下げている、その隣にアニーがイオに夜会用のキツ目のメイクをしてもらい、
纏めた髪にホワイトブリムを付け、エルルが用意した夜会用の裾の短いエプロンドレスに、白いフリルの付いたエプロンを付け、
ホワイトタイツにエナメルの様な光沢のある靴、外出様にエプロンドレスの上からビロードの様な素材のボレロを羽織っていて、ウィンの隣で軽く頭を下げている、
エントランスの中ではメイドの先輩達がアニーの衣装に釘ずけになっちゃってるよ!
アルクが先にマリーを馬車に乗せ最後にアニーが馬車に乗ると馬車が走り出し、使用人一同が頭を下げてお見送りをする、
直後エルルはメイドの先輩達に取り囲まれ、
アニーの衣装について根掘り葉掘り聞かれ、先輩達は執事長からお目玉を貰ってたよ!
ナタリアの部屋にエルルが執事長達と戻って来ると、イオがナタリアにお茶を入れていてナタリアが、
「ペレス、明日お昼過ぎに王宮に行くから、馬車の手配をお願い、私とエルルよ、」
「かしこまりました、」
エルルの隣で侍女長が、
「ねえ、エルル今日のアニーの衣装は素敵だったわね、」
「侍女長!私も着てみたいって思っちゃいました!」
エルルはとっさにに今日のアニーの衣装を着た侍女長が脳裏に浮かび、
ダメだ!それだけはダメだ!ヒィ〜、
「エルル!エルル!どうしたの?」
「はっ!何でも無いてす、どうかしましたか?」
「貴方がよ!白目むいてたわよ、」
と言われたエルルはナタリアと目をあわせず、
「そんな事無いですよ、」
と口をとんがらせて答え、皆にぷっ!と笑われちゃったよ!
アルク達を乗せた馬車が伯爵家の門から庭に入ると馬車が並んでいて、屋敷の玄関でノーラスとエバが執事と共にお出迎えをしている、
アルク達の前に停まる馬車にはスパロン家の紋章が入っていて馬車から宰相ローレンスと妻イセリナが使用人と共に馬車から降り、ノーラスとエバが出迎えている、
馬車が前に進み、ウィンが扉を開け先にアニーが降りノーラスとエバに一礼して、ウィンと共にマリーとアルクが馬車から降りるのを待つ、
アルクが先に降りてマリーの手を取りマリーを馬車から降ろすとノーラスに向かい帽子をとり軽く頭を下げる、
「閣下良くおいでくださいました、今宵は楽しんで行って下さいませ、」
「ノーラス殿、お招き感謝します、アニー!」
アニーは馬車の中から上質な布の包みを取り出しアルクに渡しアルクはそのままノーラスに、
「心ばかりの物ですが、受け取って下さい、」
「お心遣いに感謝します、さあ中へ」
伯爵家の執事がアルク達を屋敷の中に案内する、エバがマリーに声を掛けようとしたが、ノーラスに止められ三人は屋敷の中に入って行く、
屋敷のエントランスはホールの様に広く飾り付けられ隅には豪華な料理が並べられていて、沢山の貴族が立食形式でお酒を飲んだり食事をしていたが、入って来たマリーやアルクを見て目を奪われてしまう、
公式の夜会では格下の家の者から話掛けるのはマナー違反なので声を掛けて来る者はおらず、アルクは軽く頭を下げて、執事に続き隣のサロンに入って行く、
サロンの中にはアルマン伯爵夫妻にスパロン公爵夫妻が椅子に座り挨拶をしていて
執事が公爵夫妻の到着を告げ一礼してサロンから出て行く、
「閣下アルマン家にようこそ、」
「アルマン卿お招きいただきありがとうございます、」
「ささ!こちらの席にお座り下さい、」
アルクとマリーがサロンの椅子に座ると、
宰相ローレンスが、アルク達に、
「アルク、なんて仕立ての良い衣装を着ているのだ、奥方も素敵な衣装ですね、」
「マリー様、ずるいですわ!先生のお弟子様に美しくして頂いているのですね!」
その時会場から大きな歓声が上がり、ローレンスが、
「何か始まったようですねアルマン卿、」
「ええ、招待した方が揃われた様ですので目玉料理が出たのでしょう、」
部屋にモントン伯爵に義息子のオージュとマーガレットが入って来て、
「ノルド!ワイバーンの肉を出すとは!しかも料理人にその場で調理させるなど、会場は大盛況だぞ!」
「バークル!閣下達の前だぞ!」
「これは失礼しましたな、宰相閣下、閣下、」
「いや、モントン卿楽しい宴の席お気になさいますな、」
「父上、飲み過ぎですわ、姉上からも言って下さいませ、」
「良いではありませんかマーガレット様、」
と入り口からノーラスが声をかけエバと使用人がトレーにお酒と焼いたワイバーンのお肉を持って入って来る、
「焼きたてのワイバーンのお肉ですわ、お酒と共に召し上がって下さいませ、」
使用人が取り分けた肉を宰相夫妻が食べ、
イセリナが幸せそうな顔をしている隣でローレンスが、
「アルマン卿、貴重なワイバーンの肉を良く手に入れられましたね、」
「ええ、たまたま身内の者から沢山貰いましてな、」
バークルが、
「では私も余興に先日我が領であったワイバーン討伐の話を致しましょう、」
「父上!私はもうその話は耳が腫れるほど聞きました!」
「まあまあ、マーガレット殿せっかくの卿からのお話、聴かせて貰おうではないか、 」
お酒も入って陽気になっているバークルはワイバーン討伐に行って返り討ちにあい、命からがら逃げ帰った事を面白おかしく話していく、
そして翌日の早朝ワイバーンが町に飛来した時の話になり、
「その時、私を庇ってオージュがワイバーンの毒に侵されてしまった!そこに新手のワイバーンが!儂は覚悟を決めて飛び出した!皆がもう駄目かとあきらめかけたその時二人の仮面を付けた魔法使いが現れ一瞬で五匹のワイバーンを狩ってしまったのだ!
儂は一刻も早くオージュを神官の所に連れて行こうと魔法使いに礼をしようとしたら、仮面の魔法使いの一人は高位の医者であると言う、その仮面の魔法使いはワイバーンの毒に効く貴重な薬を譲ってくれ、しかも毒に侵された傷口を一瞬で治癒してしまったんだ!
そして魔法使いの二人は残りのワイバーンも狩って来るとワイバーン二匹とミスリル鉱を交換して帰って行った、
信じて貰えんかも知れんが本当の話で、二人の魔法使いは、おかめとひょっとこと名乗っていたな、」
ぶぅっー、っとアルクが呑んでいた酒を盛大に吹き出し、マリーも下を向き笑うのを我慢して顔が真っ赤になっている、
部屋の隅でスパロン家のメイドと共に立っていたアニーも笑いを堪えるのに必死で凄い顔をしている、
オージュも、
「私もワイバーンの毒に侵されていた時でさえ、ひょっとこの顔を見た途端吹き出してしまいましたよ!」
「儂もだ!おや閣下如何されたおかめとひょっとこが面白かったですかな?」
「ひぃ〜ひぃ、申し訳無い話の途中ですが、その者たちの名前が面白くて、」
「アルクそんな吹き出す程面白い名前では無いと思うが、」
不思議そうにアルクを見る宰相ローレンスにバーグルが、
「宰相閣下、公爵閣下はおかめとひょっとこを見た事があるのでしょう、マリーや使用人まで笑っている、そう言えばマーガレットに初めて話した時も吹き出しておりましたな、
」
バークルはそう言うとアルクに深く頭を下げ、
「閣下、危ない所を救って頂き感謝致します、仮面の二人は旅の魔法使いと言っていましたが、儂に閣下の家の紋章が入った地図を出しワイバーンの巣の位置を教えて欲しいと言いましてな、」
アルクはやれやれと言う顔で、
「ひょっとこは私とマリーの弟なんですよ、少々規格外の者でしてこっそり卿をお助けするつもりだったのですが、」
ノルドも、
「儂の身内でもあるのだ、このワイバーンの肉はその時討伐したワイバーンだったのだな、」
「ノルド、公爵家に関係がある方とは思っていたが、お前の身内でもあったとは!ワイバーンを身内の者から貰ったと聞いた時は驚いたぞ!」
「バーグル、お前だって娘の弟だ他人ではないぞ、」
「モントン卿、貴方達を助けたのは旅の魔法使いと言う事にしておいて下さい、弟の事は秘密にして頂きたい、」
「閣下、わかっているつもりです、ただもう一度弟君に直接お礼が言いたいとお伝え下さい、」
「閣下!私からもお願い致します、」
と、バーグルとオージュはアルクに頭を下げる、
「モントン卿、わかりました帰ったら弟に必ず伝えましょう、」
ずっとノルドの傍で黙って話を聞いていた伯爵夫人フランチェスカが、
「貴方もエバもあの子に会っているから良いわよ、私は暫く会ってないから私も逢いたいわ!」
「フラン、また遊びに来てくれるよ、」
皆がエルルの話で盛り上がっていると、執事がサロンに入って来て、
「旦那様、皆様がお待ちです、」
「うむ、わかった直ぐに行く、さあ皆様もホールの方へ、」
ノルドに案内されホールに入ったマリーとアルクはあっと言う間に貴族達に囲まれて夜会が終わるまで引っ張りだこであった。
翌日のお昼ナタリアの部屋で支度を済ませたナタリアが、
「マリー、昨晩の夜会はどうだったの?」
「はい、義母様エルルが持って行ったワイバーンのお肉を料理人がその場で調理をして大盛況でしたよ、あと私やアルクの衣装の話題でもちきりでした、」
「そう、最後の宮中晩餐会はうちの後だもの、去年のままだったら、今年王族は大恥を晒してしまうわね、」
コンコンと扉がノックされ、イオが扉を開け廊下に立っていたエルルを部屋の中に招き入れると鍵をかける、
「お母さん用意は出来ましたか?僕はいつでも行けますよ、」
「あら、エルル今日はその格好では駄目よ、その格好だと後宮に入れないわ!」
「えっ!お母さん僕は後宮には入れませんよ!」
「大丈夫よ!エルルがメイドの格好をすれば良いのよ!」
エルルははっとして周りを見渡すと手が空いたメイドの先輩達が集まっていて皆目を光らせているイオが、
「さあ!エルルさん美容室に入って下さい、メイクしちゃいますから、」
「いーやーでーす!絶対にいやです!」
「エルル、貴方がお供するって言ったんじゃない!」
「後宮に入るなんて聞いてないですよ!」
「あら、言ってなかったかしら?」
「イオさんを連れて行けば良いじゃないですか!」
「今回はエルルじゃなきゃダメなのよ!」
「なぜです、バレたら大変じゃないですか?」
「貴方だったら絶対大丈夫よ!じつは弟から連絡があって母様が体調を崩されたそうなの、」
「お母さんの母様って皇太后様なんでしょ、宮中のお医者様がいるじゃないですか、それに弟って王様ですよね?」
「ええそうよ、でも貴方に見て貰った方が良いじゃない!エルル知ってた、この国は皇太后になると後宮の奥の離宮に入って、表に出て来る事は無いわ、もし崩御されても王族だけで密葬され公表される事もないの、母様にもしもの事があったらと思ったら、エルルお願い!」
「ああ!もう分かりました!ただ自分で着替えて来ますから、ちょっと待ってて下さいよ!」
「エルルさん!私お手伝いしますよ!」
「駄目です!イオさん、男の娘には色々準備があるんです!じゃあ、」
とエルルは皆の前から消える、
「ナタリア様、エルルさん行っちゃいましたね、あの綺麗なお顔にメイクしてみたかったです、」
「そうね、でもエルルがどんな格好をして来るか楽しみね、あっ、イオ料理長の所に行ってお土産のケーキを貰って来てちょうだい、」
「分かりました直ぐ貰ってきますね、」
イオもその場からゲートに入って出て行く、
エルルは森の家に戻ると身体にクリーンの魔法をかけ執事服を脱ぎ漆黒ののメイド服を着る、
わっ!やっぱりこかーんがすうすうしちゃうよ!
エルルは黒いタイツを履き鏡を見ながら薄化粧をして黒髪のウィッグを着け最後に眼鏡をかけ鏡を見る、
鏡にはメガネをかけた知的で美しいメイドさんが映っていて、エルルは鏡に映る自身をしばらく見ていて、
「・・ ・・泣いちゃおっかな、」
イオがお土産を料理長から貰って来てしばらくすると皆の前に長い黒髪に漆黒のメイド服に純白のブリムとエプロンを着けて黒のタイツに黒いローファーを履き、
これまた漆黒のロングコートを羽織ったエルルが現れる、
良く見るとエルルは薄化粧をして、銀の細身のメガネをかけ白い手袋をはめた手には大きな黒い革の鞄をさげていた、
「キャァー!可愛い!お人形さんみたい!」
先輩メイドに取り囲まれて魂を抜かれて人形の様になっているエルルに、
「さあエルル行くわよ、イオ私のコートも出してちょうだい、」
ナタリアはいつものパンツルックの上にイオが出したベージュのロングコートを羽織ると、
「じゃあ行って来るわね、エルル今日の貴女の名前はエルリーナよ!」
公爵家の馬車が王宮の王族専用の入り口に入ると衛士さん達が並んでいてエルルに手を引かれたナタリアが降りて来ると、並んでいる衛士さん達が少し戸惑っている、
きっとナタリア様だと分からないんじゃ無いかな、
衛士さん達の背後から執事服を着た老人が現れ、
「何を呆けておる!姫殿下失礼致しました一応規則ですのでこの魔道具に手を乗せて下さいませ、」
「侍従長久しぶりね、元気そうで安心したわ、」
と言いながらナタリアは侍従長が出した魔道具に手を置くと魔道具に付いている水晶の様な球が青く光る、
「はい確認させて頂きました、姫殿下の美しさに皆驚いてしまって惚けていたのでしょう、
しかしながら護衛も付けず側仕え一人だけとはいささか不用心が過ぎますぞ、」
ナタリアはぷっと吹き出し、
「じい、この子が居るじゃない」
ナタリアの言葉を聞いた 侍従長が笑顔のままエルルを見る、
このじじい笑顔でとんでもない殺気飛ばしやがってこんな可愛いメイドに何て事するんだ!
侍従長は直ぐにエルルから視線を外し、
「では姫殿下、陛下がお待ちですこちらへ、」
侍従長に案内されたのは王族の居住区域にある庭のテラスで数人の者達がすでに座っていて侍従長が一礼すると、
「じいご苦労、さあ姉上こちらへ、」
と言ったまま固まってしまってる、隣の女性とその周りの者達も同様に固まっている、
「オラリウス陛下、姉をお忘れになられたか!」
ナタリアの他人行儀な声を聞いた国王オラリウスが
「姉上!見違えましたよ、あの母上譲りのひどい癖毛は如何されたのです?
あとこの場には宰相を除けば身内しかおりませんジュリアスと呼んで下さい、」
「ひどい癖毛とは母様と私に失礼よ!ジュリアス、」
と言いながらナタリアはコートを脱ぎ、スッと背後に現れたエルルに渡す、
エルルは預かったコートをまるで机の上で、畳んでいる様に空中で器用に畳み持っていた革の鞄の中にしまう、実際には何時もの薄い結界の上で畳み、アイテムボックスにしまったのだが、
そんなエルルを、見た宰相と宰相の娘ディアナは不思議そうにエルルを見ている、
「姉上様!なんて素敵な衣装を着ていらっしゃいますの、それに髪やお肌も美しいですわ!それに背後に控える使用人の着ている衣装も私達の衣装より上質ですわ」
「伯母上素敵な衣装ですが何故ズボンを履いていらっしゃるのです?」
「皆いっぺんに聞かれたら困ってしまうわ、初めてお会いする方をまず紹介して頂けるかしら、」
「すまない姉上、宰相は知っていると思うが、こちらは宰相の娘のディアナ嬢、息子コーデリアスの婚約者だ、」
「初めましてディアナ嬢、婚約おめでとう、コーデリアスの伯母のナタリアよ、」
「ディアナで御座います、宜しくお願い致します、あと先日先生に身体を治して頂きましたありがとうございます、」
とディアナは頭を下げ最後に背後に控えるエルルに視線を向ける、」
「ディアナ嬢、私の側仕えが気になるの?
あの子はエルリーナ!私のお気に入りよ、」
と、ディアナにウインクをするが、宰相ローレンスは飲んでいたお茶を盛大に吹き出した、
「我が宰相如何した」
「陛下、なんでも御座いませんお茶でむせてしまいました、」
「さようか、なら良いが、」
と言い、国王ジュリアスもエルルを見て、
姉上それにしても、いくらお気に入りの側仕えと言えど護衛も付けず二人だけで登城されるとはいささか不用心が過ぎまする、」
「あら、ジュリアス私のエルリーナはとても強いのよ、この城の近衛が一斉に掛かって来ても瞬殺よ!ちなみにエドが何時も瞬殺されているわよ、」
「なんと!義兄上いえ、バレス辺境伯が瞬殺などと姉上私をからかっておいでか、面白いそこの近衛中隊長と模擬戦を 」
話の途中に、
「陛下!なりませぬ!近衛が模擬試合であっても、城の中で外部の者に敗北してはなりませぬ!」
突然の侍従長の言葉に、ナタリアが
「流石はじいね、ジュリアス!じいの言う通りよ、」
「じい!この可愛らしい娘がそれほど強いと申すか?」
「陛下、見た目は美しい娘ですが、天災級の化け物かと、先程私はソルス様の元に召されそうになりました、」
「じい!私の可愛いエルリーナに何て事言うのよ!」
「姫殿下その様なお顔をなさいますな、彼女の強さを陛下に理解して頂くための方便で御座いまする、さあ宮廷料理長が作りましたケーキと言う王都で流行りの菓子をご用意致しました、」
と給仕係の者がケーキを並べて行く、
「おお!ケーキか私は甘いものに目がなくてな最近気に入っているのだ、姉上もきっと気に入りますよ、」
ナタリアは出されたケーキを一口食べ直ぐにフォークを置き、
「じい、料理長をここに読んで!」
「姫殿下、そんなに気に入られたのですか、直接お伝えになるとは、直ちに、」
侍従長は目だけで使いを出す、
「じい、その逆よ!城で出されたケーキがこんな物だったら貴族達に笑われてしまうわよ、
ディアナ嬢、貴女このケーキを食べてどう思ったかしら正直に話して、」
ディアナは父ローレンスを見る、国王ジュリアスが、
「ディアナ嬢、構わない正直に言ってくれ、」
「おそれながら国王陛下、私が公爵家で頂いたケーキとは別物かと、」
「エルリーナ、土産を出して皆に振る舞ってちょうだい、」
エルルは一礼すると鞄の中からケーキが入った箱を出し優雅な仕草でテーブルの上に白磁の見事な皿を国王から順に並べていき銀に輝く美しいフォークを置いていく、
皆先程ナタリアのコートを入れた鞄から出てくるはずがない物が次々と出て来て固まってるや、
エルルが箱の中からカーン達の作った見事なケーキを優雅に皿に乗せると、自然にため息が聞こえてくる、
エルルが一礼してナタリアの背後に下がると、
「公爵家の料理人が作ったケーキよ、うちはお客様にこのケーキを出しているわ、見ての通り皆それぞれ味が違うけれど、どのケーキも絶品だから食べてみてね、」
「姉上、これは食べ物なのか、まるで美しい彫刻の様だ、食べてしまうのが惜しいが、」
「素晴らしい味だわ!なんて至福な気持ちになる味、この世の物とはおもえませんわ!」
我慢出来なかった王妃が、先にケーキを食べて思わず叫んでしまう、
「うっ!これはなんたる美味!我が妃が叫んでしまうのもわかるな、」
そこに宮廷料理長が小走りで走ってきて、
片膝をつき、
「陛下、お召しにより参上致しました、
姫殿下、お久しぶりでございます、甥のカーンは元気にやっていますでしょうか、」
「料理長久しぶりね、貴方この私の前にあるケーキを食べてみて、」
料理長はナタリアの前の見事なケーキを見て驚くが料理人としての興味からか、失礼しますと、フォークにとり口にいれ、動かなくなる、
「料理長、そのケーキをどの様に思っても構わないけど貴方、公爵家の夜会までの間うちの厨房で勉強しなさい、貴方はこの国で一番の料理人でないといけないわ、
正直今のままだと宮中晩餐会で王族は大恥を晒す事になるわ、
ちなみに昨晩アルマン家の夜会ではワイバーンのお肉が料理人によって貴族の前で焼かれ
大盛況だったそうよ、」
料理長が国王ジュリアスに向かい、
「陛下、しばらくお暇するご許可を下さい、必ず国一番の料理人となって晩餐会までに必ず帰ってまいります、」
ジュリアスはナタリアに向かい、
「姉上、アルクに確認せずに良いのですか?」
「大丈夫よ、もう話は付けてあるから、それと私の養子の件はどうなってるの?」
「あの件ですか、いきなり養子縁組みの申請がバレス辺境伯から届いた時には驚きましたよ、
爵位の継承がない養子縁組みなので問題なく王庁から承認されていますよ、
って!まさか背後の娘が養子なのですか?」
「ありがとう!今はまだ秘密よ、でもジュリアス晩餐会の前に一度お忍びで夜会にいらっしゃいな、その時紹介するから、
今日はこれから母様の所に行ってくるわね、
では皆様御機嫌よう、
エルルじゃない!エルリーナ行くわよ!」
お母さん!エルルって言っちゃってるよ!
でも家族や使用人思いの優しいお母さんだよ!
エルルはこっそり宰相ローレンスに手を振りその場を後にした。
後宮の入り口で侍従長さんが女性衛士さんと挨拶を交わし、ナタリア様に一礼して帰って行く、女性衛士さんはなんとリンお姉様で、
驚いちゃったよ!
お姉様は僕を見て一瞬目を見開いたが、そのまま後宮最奥の離宮に案内してくれたよ、
お姉様が一礼して帰って行くと、離宮の入り口でナタリア様が、
「エルル、何を見ても驚かないでね、」
「お母さん皇太后様はそんなにお悪いのですか?」
「入ればわかるわ、」
ナタリアが扉をノックすると、しばらくして扉を開けたのは汗だくの近習で、部屋の奥から、
「ふん!ふん!ふん!ふん!」
と声が聞こえナタリア様に付いて、部屋の中に入ったら、アマゾネスみたいな女性がものすごい勢いで腹筋してたよ。
ありがとうございました。




