イオのクレープ屋さん
よろしくお願い致します。
第十五話 イオのクレープ屋さん
「ねぇ、ソフィア今日エルルお休みなのでしょう、朝は何を食べたの?」
「奥様、エルルは昨晩から実家に帰っていまして今朝は何時もの食事でしたよ、今日はお昼過ぎに帰って来てまた直ぐに出かけるそうですよ、」
「夜には帰って来るのでしょう、今日は屋台を出さないのかしら?」
「奥様!使用人寮に来てはいけませんよ、先日は特別です、」
「ずるいわ!いいわよ、夜勤の子たちに聞くから!」
ソフィアは思った、奥様は来る気満々だと!
先程は普通の食事だと伝えたが、最近のサムはエルルから色々な料理のレシピを習って以前と思えば格段に美味しくなっている、サム曰くエルル様の魔法の調味料のおかげらしいが、ソフィア自身今晩エルルが屋台を出してくれるのではないかと期待している、
コンコン、と奥様の部屋の扉がノックされ扉を開けると、新しいシーツを抱えたアニーが頭を下げ入ってくる、アニーは何か良い事があったのか、とても上機嫌でシーツを変えていて、そんなアニーに奥様も気付いたらしく、
「アニー、ご機嫌ね!何か良い事が有ったのかしら、」
「はい奥様、先程イオにあいまして今晩は、イオが屋台を出すそうなんです!」
「イオってエルル付きのメイドだったわね、でどんな屋台を出すのかしら、」
アニーは自慢げにメイド服のポケットから丁寧に折り畳んだ紙を取り出しマリーとソフィアの前で広げる、紙には精密な絵と文字で、
イオのクレープ屋さんと書いてあり、クレープのメニューが三種類載っていて詳しく説明が書いてあり、どれもとても美味しそうだ、
「私、イオにどれが一番美味しいの?と聞いたら、そんなのどれも凄く美味し過ぎて選べませんって言われちゃいました!」
「でアニー、この紙はどうしたの?」
「はい奥様、イオに沢山渡され一枚は食堂に貼ってあとは食堂のカウンターに置いて来ました、」
「アニー、私にも一枚貰って来てくれないかしら、」
「奥様、これで良ければ差し上げますよ、寮に帰ればまだあると思いますので、」
「アニー!ありがとう、うーんどれにしようかしら悩んじゃうわね、」
ソフィアが呆れて
「奥様!先程寮には来てわダメですよって言ったばかりじゃないですか!」
ノックと共に少し開いていた扉から侍女長が
「ソフィア、声が外まで漏れていますよ、」
「すみません侍女長、奥様がまた寮に来たいと言ってみえまして、」
「奥様、先日主人様から叱られたばかりではないですか、また何かありましたか?」
「侍女長これを見てちょうだい!こんなの見せられたら我慢できないわ!」
紙を見せられた侍女長はしばらく固まり、
「奥様、この紙はどうされたのです?」
「今アニーから貰ったのよ!でもこの二番目と三番目のカスタードクリームとチョコレートって何かしら?説明にはどっしりとした濃厚な甘さと、甘くてほろ苦い何て書いてあるんだけど、」
アニーが自慢げに、
「イオから聞いたのですが、どれも凄く美味しいらしいですよ、好みによるそうですがイオはどのクレープもパンケーキより好みだと言っていましたよ、」
「何ですって!パンケーキより美味しいですって!」
侍女長の食い付きに引き気味のアニーは、
「では、私は失礼致します、」
と頭を下げ退出しようとして、ソフィアが、
「アニー、ちょっと待って!聞きたい事があったのよ、貴女昨夜侍女長と一緒に男性風呂から出てきたそうね、しかも二人とも気持ちよさげなローブを着ていたそうねどうして男性風呂から出て来たのかしら?」
声をかけられたアニーは扉に向いていた身体の首から上だけで振り向いて、
「昨晩はエルルとイオが居なかったので、代わりに私が掃除をしたからです、侍女長にはトラブルが無い様に立ち会って貰いました、では失礼します、」
ソフィアが声をかける前にアニーはそそくさと退散し残された侍女長に、
「侍女長本当ですか?」
「ええそれは本当よソフィア、イオとエルルが掃除をする様になってから、お風呂が見違える程綺麗になったでしょ、でイオが広い女性風呂の掃除をお風呂上がりからでは可哀想じゃない?だから、イオは最後に男性風呂を使っているのよ、で一緒に掃除をしているエルルはああ見えても男の子じゃない、間違いがあってはいけないと、私が見ているからよ、」
「分かりました侍女長、では今日から私がエルルとイオを監督しましょう!わざわざ侍女長にお手間をかけさせられません、」
「ダメよ!ソフィアその仕事は私の責任だもの!」
慌てる侍女長を見て、マリーは我慢出来ずついに吹き出し、お腹を抱えて笑う、」
「侍女長!必死ねもう隠さず話しちゃいなさいな男性風呂の秘密を、今晩はクレープを食べたら私も入りに行くから!」
ソフィアも笑いながら、
「私も奥様と一緒に入りに行きますよ!で侍女長ローブはどうしたのですか?」
侍女長は、はぁーっとため息を吐くと、
「奥様、ソフィア悪い事は言いません、あのお風呂を体験してしまったら、他のお風呂は入れなくなってしまいますよ!あとローブでは無くてバスローブです、ローブがタオル地になっていまして湯上りにそのまま羽織ると最高なんですよ!私とイオの髪が見違える程美しくなったのは、髪専用のシャンプートリートメントを使って髪を洗ったあとでエルルに髪を乾かして貰ったからですよ、一度エルルに乾かして貰えば、次からは備え付けの魔道具で乾かせば良いんです、今ならバスローブに名前が入って、石鹸にシャンプー、トリートメントのセットに洗面器が付いて銀貨七枚です、男の人なんて脱衣所の専用ハンガーに皆ローブを掛けていて、エルルが掃除の時にクリーンの魔法をかけてくれているのですよ、公爵家の男性使用人が羨ましいです、」
「ねぇ、これから三人で男性風呂に入りに行かない?」
マリーの言葉に侍女長マチルダは、これでまた二人男性風呂の秘密を知る者が増えてしまったと、心の中で盛大にため息を吐くのであった。
私の名前はカーン・バイツ元宮廷料理人でナタリア様が公爵家に降嫁された時に公爵家の料理長を拝命しました、今ナタリア様は辺境領にいらっしゃるが彼方は息子のジーンに任せている、最近執事とメイドの使用人が増えたらしいが、見習い期間はまず自分達と会う事は無いだろう、執事に至ってはジャンに初めてあったのは、ジャンが入ってから八ヶ月後の新年の挨拶の時だった。
昼食の片付けも終わり一息入れていると、弟子のロックが、
「大将!最近メイド達が変わりましたよね!前はこう、俺達が作った料理をキラキラした目で見てたって言うか、最近は料理を運ぶだけって感じで、俺っちはちょっぴり寂しいんですよ!」
「サムが最近自分で下処理もやらせて下さいってやる気を出してるから、美味しい賄いを作っているんじゃないか?」
「サムは俺っちの次に才能がありますからねぇ、」
「良し!ロック、ちょっとここお前に預けるぞ!久しぶりにサムを手伝ってメイド達に美味しい賄いを作って来るから!」
「大将、お願いしますよ!こっちは任せといて下さいよ!」
カーンが使用人寮に入ると嗅いだ事の無い香辛料の香りがする、サムが何かを作っているのだろう興味が湧きカーンが食堂に入ると
そこにはカーンの知っている食堂は無かった。
食堂の中は元宮廷料理人のカーンが見たどの食堂より洗練されたデザインで高級とは違う質の高いテーブルや椅子が並び極め付けはカウンター越しに調理場が見えてる、
カーンは吸い寄せられるように中に入って行くとカウンターの上に数枚の紙が置いてあり、手に取ってみると、
紙には精密な絵と文字で屋台の紹介とメニューが描かれている、
イオのクレープ屋さん!メニューを見るとデザートと書いてありどうやら甘味の様だ、
カーンが見た事も無い未知の食べ物に驚き
カウンターの中を覗いて更に驚く、
これまた見た事の無い美しい厨房!全て磨き上げられた銀色で統一されていて使い方が分からない調理器具が並んでいる、
調理場の中でサムが簡易椅子に座り遅めの昼食を食べており、同時に夕食の準備で何かを煮込んでるようだ、
視線を感じたのかサムが振り返り、
「カーン様?何故こちらに?」
驚くサムに、
「ああ、サム驚かせて済まないが私の方が驚いていてね、賄いを食べていたのかい?見た事が無い料理の様だが、」
「へい、余り物で作ったチャーハンって料理でさぁ!」
「チャーハン?聞いた事が無い料理の名前だ、あと何を煮ているんだい?今日の夕飯かい?」
「へい、夕食のカレーと白米を炊いてやす、」
「サム私は今、全てに混乱していてね、」
「カーン様、分かりまさぁ!あっしも同じでしたから、」
「サム厨房に入って良いかい?」
「へい、構いやせん、」
厨房に入ったカーンが見たのは、厨房の美しさだけでなく、その恐ろしく計算された見事な配置の調理器具、実際半分以上の器具が分からないが、料理人に取っては夢の様な職場だ、
「サム何から聞いて良いか分からないが、今食べている物を少し食べさせてくれないか?」
「あっしの食べかけなど、とんでも無いでさぁ!ちょっと待って下さりゃあお作りしやす、」
「悪いね、良いのかい?」
「へい!あとあっしの答える事が出来る事なら何でも聞いてくだせい!」
サムは魔導冷蔵庫から、カット済みの具材を取り出して中華鍋で炒めていく、オタマで卵とご飯を絡め味付けをしながら豪快に炒め、
皿に盛り付ける、
「カーン様、お待たせしやしたどうぞ、」
「サム、ありがとう頂こう、」
美味しい!味わった事が無い美味しさだ!
穀物を焼いている?私の知らない調味料を使っている?
「サム、穀物が焼いてあるのは分かるが、この様な穀物は見た事が無い、なんと言う穀物だい?」
「馬廻りのウィンの所で貰ってきた白麦草の実でさぁ!白米って呼ぶそうですが、あっしも最初は驚きましたよ!この穀物はただ焼くだけではダメなんでさぁ
今丁度、炊いている所でして、チャーハンは炊いた白米を炒めているんでさぁ!」
「白麦草?家畜の餌になる雑草じゃないか!
その実がこの様な穀物だったなんて、」
「何でも白米はパンより力が出る様でして、騎士団は朝以外は白米の食事だと、兄貴が言ってやした、!」
話をしながらも夢中でチャーハンを食べながら、
「では、今晩は白米とそちらの大鍋で煮てるスープかい?」
「いいえ、確かにスープの様ですがトロみが有り白米にかけて食べます、」
「サム、そのスープはもう食べられるのかい?」
「へい、大丈夫ですが煮込めば煮込むほど美味しくなりやして、夕食の時間まで煮込もうとしてやした、白米はまだ炊き上がりやせんので、邪道ですが、チャーハンにカレーを少しかけて良いですか?」
「ああ、頼む先程から匂っているのはこのスープの匂いだろう、食欲を誘う匂いだな、」
サムはカレーをおたまにすくいカーンのチャーハンに少しかけ、
「カーン様、やはりもうちょっと煮込んだ方が美味しくなりやすがどうぞ、」
カーンはカレーののった部分を一口食べ、自身が使う塩や、高級品の胡椒では出せない辛みに絶句してしまう、ただ辛いだけでは無い癖になる複雑な辛み、
何も言わないカーンに、
「カーン様、口に合いやせんでしたか?メイド様達には大人気のメニューなんですが、もし良かったらあっしの甘いデザートが有りやすが、」
「違うんだ!サム!この料理の味の深みに驚いてしまって、あと甘いデザートとはカウンターのチラシの屋台でサムが買ってきたのかい?屋台で甘味など聞いた事が無いが、」
「いいえ、甘味の屋台なんて王都で聞いた事がありやせん!チラシは今晩の夕食時にメイドのイオ様が、食堂の隅で屋台を出して、使用人の皆様に食後のデザートを出すんでさぁ!イオ様が屋台を出すのは初めてですが、あの、エルル様のお弟子様ですから今回も皆期待していらっしゃる様でさぁ!」
「済まない、どうやら私の知らない者達ばかりだ!まず!サム教えてくれ!この食堂と厨房はどうしたのだ?」
「エルル様が改装なさりました、美味しい食事を食べたかったら、最低でもこの位の厨房でないととおっしゃって、」
「サム、エルル様とはどなただい?」
「へい、エルル様は大旦那様の御養子様でございます、今はこちらで執事見習いとして働いてみえやす、」
「知らなかった!一体何処の職人に改装させたのだい?」
「あの、カーン様信じられないと思いやすが、あっしが帰る時に食堂と調理場を改装するからと言われ、朝来たらこうなってやした、あとエルル様の趣味が料理だそうでエルル様の休日は厨房に立たれる時もありやすし、食堂の隅で屋台を出す時もありやす、」
「サム、エルル様とはどんなお人なんだ?」
「凄腕のお医者様で超高位の治癒術師でさぁ、兄貴がウッディ団長の腕を治したって言っていやした!あと魔法の達人で、大旦那様より剣術が得意だそうでさぁ、」
「サム、エルル様にはいつ会える?」
「昨晩は実家の辺境領に弟子のイオ様と帰られていて、先程戻ってみえて今はジャン様の
ご実家に行ってみえやす!イオ様は屋台があるので夕食時迄には帰ってみえやすが、エルル様はわかりゃせん、」
「分かったサム、エルル様にお会いしたら私が会いたがっていたと、伝えてくれるかい?あと良かったらそのスープを少し分けてくれるかい?」
「へい、分かりやした!」
カーンは小鍋に入ったカレーを大切そうに抱え、屋敷に帰っていった。
アズビー家の門の前で次男ショーンが馬車の到着を待っていると時間通りに馬車が到着して、馬車から商人のショーンが見た事が無い高級な魔法使いのローブを着た少女が二人、お尻を抑えながら降りて来て黒髪の少女が、
「エルル・ルコルです、こちらは私の弟子のイオです、」
と二人同時にぺこりと頭を下げる、
エルルと名乗った少女に驚きしばらく固まっていたショーンが、
「ショーン・アズビーです、父が待っていますこちらへ、」
ショーンさんに案内されたお屋敷は公爵家程ではないが、下手な貴族より立派なお屋敷だったよ、凄く広い居間に案内されると、居間にはジルおじさんの家族が勢ぞろいで歓迎してくれたよ!
「エルル・ルコルです、ジルおじさんには幼い頃からお世話になっています、こちらの者は私の弟子のイオです、」
ジルおじさんはイオさんを見てびっくりしていたが、直ぐにソファーに案内され家族の紹介をして貰ったよ、なんと長男のクレオさんには奥さんと赤ちゃんがいてジルお爺ちゃんだったよ、
一通り紹介が終わるとジルおじさんが、
「イオさんと言ったね貴女はアルマンの家に連なる方かな?」
「ジルおじさん、イオさんがどうかしたの?」
「いやエルル、イオさんがあまりにノア様の若い頃に似ていたので、それとその髪と瞳の色はアルマンの家以外ではめったにいない色なんだ、」
「そうなの?イオさん?そう言えばイオさんのお祖母様は婆ちゃんそっくりだって言ってたよね、」
「はい、アルマン伯爵様は母方の祖母の従兄弟になり、私の公爵家への推薦状はアルマン伯爵様に書いて頂きました、」
「では君はノア様の従姉妹のお孫さんなんだね、納得したよエルルの弟子になったのも何かの縁だったのだろう、イオさんエルルを頼みますよ、」
「えっ!ジルおじさん婆ちゃん若い時こんなに可愛かったの?」
「エルル、ノア様が生きて見えたら、ソルス様の元へ送られるぞ!」
「ジルおじさん、じゃあ僕はトイレを改装してくるから!イオさん、あそこの隅で皆さんにクレープを振る舞ってくれるかな、」
「エルルさん良いのですか?」
「イオさんここは僕達の身内ばかりだから大丈夫だよ、ジルおじさん!あそこの隅で甘味の屋台を出しても良い?凄く美味しいよ!」
ジルおじさんよりも、奥さんやお嫁さんの方がノリノリで、先にイオから渡されたイオのクレープ屋さんのチラシを見て、メイドさん達も集めちゃってるよ、
トイレの改装をちょちょいと終わらせて居間に戻ると、皆クレープの美味しさの虜になっちゃってたよ、
「イオさん!ごめん少し時間が押しちゃってる!直ぐに送るから、準備してくれる?あっこれ夕食の代わりに食べて!」
「はい、エルルさん了解です!」
イオは一瞬で屋台を消し、皆が唖然としている中僕が出したゲートをくぐって帰って貰ったよ!
「エルル、彼女も凄いな!」
「はい彼女は天才ですね、ジルおじさん厨房貸して下さい、約束通りカツカレーを作ります、」
「待ってました!こっちだ!」
子供の様に走って行く父親を見たクレオとショーンが、
「作戦は失敗だな、」
「ああ、無理だ!」
エルルに姿絵の話をしてジルに出させる作戦を立てていた二人だったが、エルルが美少女にしか見えず、とてもあの姿絵の話など出来ない兄弟であった。
イオがゲートをくぐると、エルルの部屋で帰りがけに渡された包みを開くと、丸いパンの間に厚いベーコンが挟んであった、イオはパンを頬張り、うっとりしながらも小豆色の前掛けを腰につけ廊下に出る、
廊下にはカレーの良い匂いがしていて、すでに夜勤の先輩達が食事をしながら話している声が聞こえる、イオは食堂に入って夜勤の先輩達に挨拶をすると、先輩達は期待の目でイオを見ながらサムズアップをする、
イオは何時もの屋台の定位置にエルルの様に一瞬で屋台を出し中に入って準備にかかる、
夜勤の先輩達はチラシを見て相談している間に屋台が出来ていて驚いたが、食事を終えカウンターにトレーを戻し屋台の前まで来て、
「イオ、来たわよ!取り敢えず生クリームのクレープを作ってみて!」
「はい、了解です!」
イオは何も無い所から薄い生地をとりだし、バターを軽く塗るとガラスの器からシロップに使ったフルーツを乗せて、上から生クリームを絵を描く様に絞り出し器用に折りくるくるっと巻いて紙で作ってある三角の容器にさして、
「お待たせしました先輩!生クリームのクレープです、」
渡された先輩が両手で大切そうにクレープを持ち、他の先輩達とまた相談を始め結局他の種類を頼んで、食べさせ合う事にしたようで、イオはカスタードとチョコレートのクレープを作り渡そうとしたら、食事前の先輩達が夜勤の先輩達の手元をガン見していた。
先輩達が席に戻ると、イオからは先輩達を見る事は出来ないが、先輩達を虜にした事は間違い無い様だ、
暫くすると、スゥー先輩とミオン先輩が屋台の前に来て、
「イオ、私は生クリーム!ミオン先輩はチョコレートをお願い!」
「はい、了解です!」
イオがそれぞれクレープを渡すと、スウ先輩はその場で一かじりして、
「イオ!ヤバイはねこれ!」
「はい、私もそう思います!」
「スゥー!ちゃんと座って食べるわよ!」
スゥー先輩はミオン先輩に連れられ気付けば先輩達の列が出来ていて、次々と注文が入る、
イオは一つ一つ丁寧に注文のクレープを作って行き、列の最後尾にいたアニー先輩が、
「イオ!私、未だに決められないの!イオのおすすめで作って!」
イオは周りを見渡し先輩達が席に戻っている事を確認するとアニーに、しぃーっと人差し指を口の前に置き、チョコ、カスタード、生クリームの三層クレープを作り素早くアニーに渡す、アニーはとても嬉しそうにクレープを受け取り、
「イオ!ありがとう!貴女は心の友よ!」
と言って席に戻って行った。
しばらくするとソフィア先輩と侍女長が
「イオ、お願いがあるのだけど、」
「お疲れ様です、侍女長、ソフィア先輩遅かったですね、私に出来る事でしたら!」
「実は奥様がクレープをこっそり食べに来る筈だったの、でも主人様に行ってはダメと釘を刺されてしまって、お屋敷の方でもお店を開いてくれないかしら?」
「イオさん、行ってあげて下さい、」
「あっ!エルルさんお帰りなさい!」
「ただ今戻りました、アズビー家の方達がイオさんのクレープはとても美味しかったと、大好評でしたよ!あとお屋敷でクレープを作る時は若様のメガネの確認だけお願いしますね、」
「はい、分かりました侍女長達のクレープは私が帰って来てからでも良いですか?それとも今お作りしましょうか?」
「イオさん作ってあげて、少しの間だから作った後冷蔵庫に入れておけば大丈夫だよ、」
「では侍女長、ソフィア先輩何になさいますか?」
侍女長は顎の下に手を置き、
「ねえ、イオ少しだけカスタードを味見させてくれない?生クリームとチョコレートは味が判るのだけど、ダメ?」
おばさんのお願いポーズにイオの隣で見ていたエルルはドン引きしていて、イオは苦笑いをしながら、生地を少しだけ切り取りカスタードクリームを乗せ、
「はい、侍女長どうぞ!」
侍女長はカスタードクリームを食べ、
「成る程!確かにどっしりとした甘さね、
生クリームと甲乙付けがたいわ!イオ、私はカスタードクリームでお願い!」
ソフィア先輩はジト目で侍女長を見ながら、
「侍女長がチョコレートを何処で食べたか知らないですが、イオ私はチョコレートをお願い!」
「はい、では作って冷蔵庫に入れて置きますね、」
侍女長達が食事を取りに行き冷蔵庫にクレープを入れ終わったイオが屋台を消すと、
「イオさん、お屋敷に行く前に僕の部屋によって下さい、」
「はい、エルルさん何かありましたか?」
エルルは何も答えず歩き出す、
エルルとイオが部屋に入ると壁に見た事が無い魔方陣が見え、イオは何気なく魔方陣に触れながら、
「エルルさん、この壁の魔方陣は何ですか?」
と聞いた時には、そこにエルルはおらず、イオは魔の森の家の自分の部屋の前の廊下に立っていた。
イオは驚き固まっていると、すぐ隣にエルルが現れ、
「イオさん!説明前に飛んでっちゃうから焦りましたよ!でも成功ですね、ここ見て下さい僕の部屋に描いてあった魔方陣と同じ物です、この魔方陣は空間魔法の魔方陣で素養がある者が魔方陣に触れると、対になる魔方陣まで空間移動が出来ます、まぁゲートの魔法の練習魔方陣だと思って下さい、これでいつでもこちらに来れますね、後でイオさんの部屋にも魔方陣を描いて置きます、あっ!勝手に部屋に入っても良いですか?」
イオは目を輝かせて、
「はいっ!お願いします!」
「じゃぁ、イオさん時間が無いので詳しい話は夜に、僕はイオさんの部屋の魔方陣を描き終えたらこちらに居ますので、迎えに来て下さい、」
イオは頷き手を振りながらもう一方の手で魔方陣に触れて戻って行った。
「マリー、いつまで膨れているんだい?いい加減機嫌を直してくれないかい?」
「母上、侍女長が言っていたではないですか、イオを呼んで来ると、」
アイリスに言われマリーは、
「そうよ!イオはまだかしら!」
アルクはそんな妻を見て盛大にため息を吐いていると、扉がノックされメイドの声で、
「メイドのイオが入室を希望して居ます、」
「待ってたわ!入って!」
イオが公爵家の団欒室に入ると主人様が、
「イオ、わがままを言って済まないな、」
と声を掛けイオはぺこりと頭を下げ、
「ではあそこの隅に屋台を出してもよろしいでしょうか?」
マリーと、三人の子供達がうんうん!と首を振って答えイオは、
「若様、眼鏡を掛けて下さい魔法を使います、」
アイリスが眼鏡を掛けたのを確認したイオは屋台を一瞬で取り出し屋台の中に入り、
「お待たせしました、ご注文をどうぞ、」
皆エルルで無くイオが空間魔法を使った事に驚き、ナターシャが、
「貴女が伯父上の弟子になったイオね、」
「はい、一の姫様どのクレープに致しましょう?」
「では、生クリームをお願いするわ!あと伯父上に手を出してわダメよ!」
「一の姫様、先輩達全員から釘を刺されていますのでご安心を、」
イオは話ながら器用にクレープを作りナターシャにクレープを渡すと隣からナルゼが、
「イオ、私も生クリームをお願い!クリーム多めで!」
「ナルゼ!ずるいわよ!」
直ぐにナターシャが突っ込むがナルゼは
「姉上様も二つ目に頼まれたら良いでしょう!」
マリーが、
「二人共ケンカをしない!アイリスは何にするのかしら?」
「イオ、では僕はチョコレートをお願い!」
「かしこまりました若様!奥様は如何されますか?」
「私は生クリームをお願い!」
イオに渡されたクレープを食べた四人が美味しさに感動していて主人様が、
「そんなに美味しいのなら、私にも一つ作ってくれないか?味は皆が頼まなかったカスタードで!」
「はい、主人様ただいま、」
「アルク!私に一口食べさせて!」
「母上ずるい!父上私にも!」
アルクは結局家族皆からクレープを食べられてしまい、いざ食べようと思ったら生地の部分しか残っていなかった。
「ねえ、アルク今年の夜会はエルルに任せてみてはどうかしら?」
「マリー!うちには元宮廷料理人が二人もいるんだ、彼らに任せておけば安心だろう!」
「ねえアルク、貴方一度使用人寮の食堂や、トイレ、お風呂を見てくれば良いわ、そしてエルルの食事を食べて今の台詞をもう一度言えたらアルクの意見に従うわ、でも今度の夜会の日時を決めるお茶会は使用人寮の食堂でエルルに仕切って貰うから!」
「マリー!正気か?使用人寮の食堂にこの国の上位貴族の夫人達を招くなど!」
「正直に言うわよアルク!今公爵家は使用人の方が決して贅沢では無いけど快適な暮らしと、美味しい料理を食べているわ!皆に公爵家の料理と、使用人の賄いどちらを食べたいと聞いたら全員賄いと答えるわよ!」
アルクは信じられないと言う顔をしてイオに、
「イオ、正直に答えてくれ!確か君の家も貴族だったな、では貴族の娘として使用人食堂に入ったらどう思う?」
「主人様、うちは貧乏貴族で私の感覚では当てにならないと思いますが、食堂を見たら驚かれると思います、ただエルルさんの料理やお菓子を食べたら他の物が食べられなくなってしまいそうで心配です、」
「わかった!皆がそこまで言うのなら明日の朝食は使用人食堂で食べよう、イオ帰ったらエルルとペレスに伝えておいてくれ、」
「かしこまりました、」
とイオは頭を下げ、屋台を一瞬で片付け部屋から出て行った。
ありがとうございました。