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転生者達は今日も異世界で無双する。  作者: 一影虚一
第1章 魔女と無能のピカレスク
3/6

1-3 Recollection: World Nuke "Dungeon"


「―――それでは、世界核入場の手続きが整いましたので、こちらの紙にサインをお願いします」

「はい、ありがとうございます」


 僕のような子供にも丁寧に接してくれる、甘栗色の髪の仕事人なお姉さんから渡された紙にサインをする。その後証明書を受け取った僕は、日本流の綺麗なお辞儀をして受付出た。階段を下って一階へと降りる。


「手続き終わりましたよ、シスターマリア、みんな」

「あ、ほんと?」


 ログハウスとでもいうのか、木材を組み上げて造られたような建物だった。土台は石造りで、二階建て。公共施設にしてはそこまで大きくはないが、二階の半分は一階からの吹き抜けになっているので、どことなく広く感じる。

 二階には世界核探索に関する受付があって、一階に広がるのは幾つもの丸机と椅子が置かれた食堂だ。探索騎士が情報を交換するために作られた場所で、そのため多くの騎士が座り、ときに酒を飲みながら、言葉を交わし合っている。


「問題はスライムをどうするかだな」

「なあ、最近魔獣が活発になってきてるって噂、本当なのか?」

「ああ。まあ奴らに関して言えば躱すしかあるまい」

「上層の聖騎士が『勇者』召喚を画策してるって話知ってる?」

「さあな。ただ五層で複合種魔獣(コンプレシア)を見たって話は聞いたことがある」

「まさか。そんなことあるはずないだろ」


 年齢層や種族はバラバラ。だけど全員が十五歳以上の成人だったから、丸机の一つを占領する僕達十二歳は若干場違いだった。


 ここは「ギルド」という、ロザリアの国家に所属する騎士の中でも、世界核の調査を主な任務とする探索騎士を監督、補助するために作られた施設だ。同時に特殊な事情による一般市民の世界核立ち入りなどの管理も行っており、僕が行っていた手続きはそれだった。


 基本的に子供や老人など、騎士団に所属してない人間が世界核に入ることはできない。戦闘力がないために危険だからだ。

 しかし特例――例えば商人が国から国への移動距離の短縮に用いたり(いつか言ったとおり、世界中には幾つもの世界核があるが、それぞれが同一の空間に繋がっている)、同じく国の重鎮が他国に移動する際などに、話を通したうえでいくらか金銭を払うことで、世界核の中に入ることができる。

 ちなみにこれはロザリアだけのシステムであり、別の国家では異なる手法を用いて管理しているらしい(つまりとくに管理されていない場合もありえるということだ)。

 そしてそんな特例の一つとして、将来有望な騎士を育成するアムセスの孤児院の生徒は、教員の許可さえあれば、そしてその上でちゃんと手続きを行えば、世界核に出入りすることができるのだった。


「はぁい。ルキウス君、世界核入場の手続き、よくできましたぁ」


 間延びした口調でこちらに喋りかけるのは一人の女性だ。年齢は二十代前半。薄い茶髪をクルクルのロールにし、その上からベールを被り、垂れた瞳は金色。典型的な修道女といった出で立ちの女性――シスターマリアは、柔らかな微笑を浮かべて、僕の頭を撫でる。


「ルキウス君は皆さんよりステータスで劣っていますからねぇ。その分()()()()をお勉強ですよぉ〜」

「……はい」


 ロザリアにおいて、世界核の内部で行動する際に、四人一組となるのが定石だと言われている。

 怪物に最も近いところで戦う「盾の騎士」に、中衛を基本とする武器使いである「剣の騎士」、後衛を担う霊術師の「杖の騎士」。そして、最後の一人は補助を担当する「鎖の騎士」。

 少数精鋭にしてバランスの取れたパーティ。理由としては世界核では柔軟性が大切とされるから。大所帯だと動きにくいし、逆に少数過ぎて能力に偏りがあると緊急時の対処が難しくなる。

 深く考えるまでもなく四人一組で偏りがない方が効率的なのだ。


 だから孤児院の班分けも、それを基本として行われる。


 そして僕はその役割四つの内、最後の「鎖の騎士」となることが義務付けられている。というのも、無能で、前の三役が全く務まらないから、それになるほかに道がないのである。


 とはいっても「鎖の騎士」の種類は千差万別だ。中には特殊なスキルや能力を用いてパーティの戦闘をサポートするものもいれば、戦闘には参加せず雑務を行うものもいる。おそらく僕は後者になるのだろうし、そのため、僕はこうして今のうちに、まだ授業では習っていない様々な雑学的知識を教わっているのだった。


「マリねぇマリねぇ、それで、これからどうすればいいの?」


 ぴょんぴょんと跳ねながら、およそ百六十センチ弱のシスターに肉薄するリズは、孤児院では規定の制服とされる白のワンピースを纏っていない。

 銀の胸当てに、同種の手甲、足甲、それらをつなぎ合わせるのは皮の衣服。そして、腰に携えられたのはレイピア。軽さと防御力のバランスを保った「剣の騎士」向けのものだった。


 そしてギドとレオ、そして僕も、世界核探索のために支給された戦闘着に着替えていた。


 ギドは黒鉄のフルプレートで身を包んだ「盾の騎士」姿。盾は持っておらず、しかし背に取り付けられたのは、身の丈を悠々と超える大剣だった。


 レオは顔以外の全身を霊術師用のローブで隠している。その下に鎧は着ていないが、代わりに鎖帷子を纏っていることだろう。手に持った銀の錫杖は身の丈ほどで、典型的な「杖の騎士」の装いだ。


 そして「鎖の騎士」志望の僕はというと、防御力を底上げする鉄甲を一切纏えず、ただリズの内装のような皮の衣服の上から、防刃のコートを羽織っているだけという簡素なものだった。鉄は鉱石であるためにとても重く、筋力値が低い僕には持てないのである。手に持つ武器は刃渡り三十センチ程度の短剣で、リュックには儀式を省略して霊術を発動できるスクロールが三枚と、四人一食ずつ程度の食料が入っていた。


 ちなみに、探索騎士はその能力に見合った武装を国から無償で与えられる。そして孤児院の生徒は能力値よりも高価な武装を使うことが許可されているのだった。


「はぁい、これからあなた達六七班には世界核の探索を行ってもらいまぁす。しかし、十の試練の形式に則って私は同行することができませんので、あなた達だけの力で響鳴石を探してくださぁい」


 実際のところ、すでに僕達は世界核の中に頻繁に出入りしている。人対人の訓練は地上でできても、魔物が地上に現れることないため、世界核の中でしか戦闘訓練ができないのだ。

 ただこれまではシスターマリアや神父エドワードと言った教員達が同行していた。そしてシスターの宣言通り、彼女は今日僕達の同行しない。というか、十の試練において教員の干渉は禁止されており、あくまで前後過程のサポートのみしか行えないのだった。


「それでは私がこの建物を出た直後から試練はスタートです。五時間後までにここに現れなかった場合は試練失格とみなしま〜す」


 軽やかに笑ってさり気なく怖いことを言いながら、シスターマリアは出ていった。


「なにそれ聞いてないんすけど……………」

「だ、大丈夫でしょうか」

「チッ」


 上から順に僕、レオ、ギド。リズはあまりよくわかっていないように首を傾げている。


「だから半日程度は世界核(ココ)に居座る予定だったのが、シスターが急に時間制限を設けたことによって予定が大幅に狭まったつーことだバカ」


「えぇ!?」


 ギドの暴言を交えた説明に驚くリズ。

 現在の時刻は朝の七時。六時間移動で六時間探索という割合だったはずが、大幅に狂ってしまった。


「急がないと、このままじゃ間に合わない」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 それから僕達はギルドを出て、隣接した世界核に入るための施設の前までやって来た。

 広場をそのまま柵で囲った程度の簡素な場所だったが、こちらもギルド同様に騎士達でごった返している。


 簡素といってもどこか重層感のある石造りの柵に、目の前に存在する太さが数十メートルもある巨大な樹木と、その前に埋め込まれた木製の豪奢な門。高さ三メートル程度の門は子供の僕達からしたら大きいものの、樹木と比べれば小さすぎるように思えるだろう。

 樹木は天を貫くほどに長く、枝分かれして伸びる木々は側面に森を作っている。それらの草木は空を隠し、辺り一面はわずかな陽光を残して薄暗さを生み出していた。


 この樹木こそが世界核の杭の一つで、別名世界樹と呼ばれる古代遺産だ。地上と地獄、そして天国とを強引に繋ぎ止める役割を担う鎖で、魔獣や聖霊を生み出し、未知なる物質が存在する永久に未開拓の地である。


 僕達は門前の入場管理者に証明証を渡し、そのまま門へと入った。内側の光景は樹木から連想できる幹の中のような光景ではなく、硬質な石の洞窟だ。壁から生えた宝石が光を発し、暗闇を照らしている。洞窟は長々と続いていて、ところどころに分かれ道があったが、幾度となく通った道だ。迷うこと無く進んでいく。

 やがて十分ほど経って、これまでの洞窟とは異なった、若干広い場所に到着した。


 どこからともなく放たれる月光のような光に照らされた、神聖な祭壇だった。やや迫り上がった円形の大理石に、中央に設置された石の机。その上には奇妙な輝きを発する十字架が置かれ、月明かりもどきと合わさってキラキラと光っている。


 僕達は祭壇の上に登る。レオが机の前に立ち錫杖を掲げる。十字架に触れると、たちまち十字架は一層に輝きを強め、周囲の宙空に無数の文字式が展開された。これらの文字はこの世以外のありとあらゆる言語へと、秒を数えるたびに変化してゆく。中には異世界の言葉である日本語もあった。そして、日本語以外の言葉を僕は知らなかったが、それでも同じ文章が次々と編訳されていっているのだということを、僕は前々から知っていた。

 レオはその文を詠唱式として、淀むこと無く詠み上げる。


「―――祖は無にして有。存在と非存在のどちらでもある彼の祖は、故にどこにでもいて、どこにもいない。ならば誰しもの霊魂はここにあらず、そしてまた異なる場所にて存在しているのだということ」


 文が進む度に十字架の光は増し、やがて文章の終結とともにピークに達する。同時に、レオが普段のそれとは絶する大きな声音で、高らかに叫んだ。


「『第七聖書十五章』より――。我は略式の祭壇を持って主に願う。我を、我らを、こことは異なる場所へと届け給え―――『トランスポート』ッ!」


 際限なく放たれる光の波に五感が飲み込まれる。

 そして、僕達は祭壇から消え去った。



 やがて異なる座標にて再生される。場所は先と同じ形状の祭壇。辺りも、一見するば先程と変わらない洞窟だが、辺りには魔獣が発する魔力が充満し、またところどころに毒々しい色合いの発光する植物が咲いている。全体的にどこか湿っていて、それらの水気を吸い取って植物は育っているようだ。


 ここは目的地である『角犬の洞窟』。つまり世界核第三層に存在する祭壇だった。


 瞬間移動、空間転移。祭壇から祭壇へ、僕達は瞬く間に移動したのだ。量子力学か未来科学でも持ち込まない限り、前世の技術では起こり得ない現象だった。


 その未知なる現象―――難読な第七聖書の霊術とされる『トランスポート』は、肉体を分解し全く異なる場所で再構成させるという高位霊術だ。

 本来であれば非常に長い詠唱とほぼ無限に近い量の霊力を必要とされるこの術式は、古代人の発明によって生まれた『略式の祭壇』によって簡略化され、()()()()()()()()()()()()()()()()という制約を残しつつも、略された詠唱と、世界核内に存在する霊力により発動するできるようになっていた。


 ただそれでも精神的に疲れるらしく、また短くなったとはいえ若干の長文を一息に唱えるのは大変なようで、苦笑するレオは肩で息をしていた。


「祭壇が代償を肩代わりするといっても、やっぱり高位聖書の霊術行使は疲れます」

「レオちゃんお疲れ様」


 リズの労いが洞窟に反響した。リズが呼吸を整えるのを待つ前に、僕はおもむろにステータスを表示させる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名称/性別/年齢:【無聖印】ルキウス・アムセス/男/12

種族:平地の民 

レベル:8

筋力:5 耐久:7 俊敏:6 知識:11 技術:9 霊力:5

スキル:なし

保有物:()()()()()()()()

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 基礎アビリティやレベルに変化はない。成長期真っ只中である少年少女は、本来ならば一日寝ただけでステータスが成長していることだってあるのだが、僕の場合は無能なせいかそれもまた顕著だった。唯一普段と違うのは保有物の有無で、僕は保有物欄を凝視して、トーチを取り出す。


 空間がぐにゃりと歪んで、手元に現れたのは煌々と燃える松明。


 この世界の人間は、ステータスの中に異空間を保有している。そこに物を入れ、またいつだって願えば取り出すことができる。ゲームに時々登場するインベントリのようなものだ。


 とはいえステータスのこの機能は、思った以上に使えない機能として有名だった。

 これは人によるのだが(まあこれも才能の一種だ)、殆どの人は保有物を一つしか入れることはできないし、その物の大きさもある程度限られてしまう。

 しかも中にある物は誰にでも観覧できてしまうから、盗まれないように財布を入れたとしても逆に目立ってしまう。


 逆に利点を挙げるなら、インベントリの中にある物は時間が停止されるため、こうして燃えているものをそのまま取り込んでも問題がないということくらいだろう。


「さて、行こうか皆」


 手に持ったトーチを掲げて、辺りを照らす。目の前には、薄暗い闇が延々と広がっている。


「何仕切ってんだクソ無能」


 ギドの悪言を聞き流しながして、僕達は世界核を進んでいった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 




「―――シッ!」


 一閃。

 点と点、場所と場所、座標と座標。それを繋ぎ合わせて、高速で、雷光のように駆けるリズ。

 瞬く間。まばたきする間。僕の動体視力では追いつけない速度。否、角猪(ホーンボア)であっても、見えてはいないのだろう。


 「そこ」から「あそこ」へ。いつの間にかそこにいて、気がつけばあそこにいる。視覚の認識速度を超えて行われる移動。閃光が走ったと思えば、リズのレイピアは引き抜かれ、魔物の身体に傷が付く。


 一閃。一閃。一閃。一閃。


 何度も何度も同じことを繰り返す。しかし、スキル【閃光一閃(フラッシュライン)】を続けざまに行使していたリズは、後方で錫杖を構えて霊力を発するレオの隣で停止した。


 数瞬を置いてドスンと角猪が倒れる音。全身から血を流して絶命した魔物は、その形を魔力に変えて消え去っていった。


「フフン」


 満足げな顔で笑いながら、レイピアに付着した血液を振るって落とすリズ。



 その背後で、ズドンと重い音がした。フルプレートに身を包んだギドは、高いアビリティ値をふんだんに用いて大剣を操る。


 狭い洞窟の中で有りながら、時には筋力で強引に、時には器用に大剣を振り回して、ギドは角猪(ホーンボア)に迫ってゆく。


 鋭い振り下ろし。重さの上に遠心力による速さが加算された大剣は直線状に突進してくる魔物を真正面で受け止める。


 三メートル強の巨大な猪に相対するのは、その半分にも満たない身長の少年。本来ならば踏み潰されて終わりだが、しかしどうしたことか、魔物の槍の如き角と少年の繰る大剣は鍔迫り合いをしていた。それはすなわち、ギドの力が角猪(ホーンボア)の力と同格だということだ。

もしくは、それ以上か。


「ハァッ!!」


 叫びとともに膂力を上げたギドは、角猪(ホーンボア)を弾き返し、そのまま横に薙いだ。


 胴が二つに千切れ、魔力となり消えてゆく魔物。


「ほら、はやくしろよ無能」

「あ、うん」


 さり気なく戦闘を観察していた僕に気が付いて、血に濡れた大剣を肩に担いだギドは睨みを効かせた。


「戦いを見てる暇があったら響鳴石を探せ。お前にはソレくらいしかできねぇだろうが」


 まあ、それもそうだ。

 僕達はかれこれ一時間程度、響鳴石を探して辺りをうろうろしている。しかし、分かれ道も多く、複雑な形状が特色の三層で、とはいえたった一つの鉱石を探すのは困難なのだった。これぞいわゆる物欲センサー。運命の狂気なのか、なんて。

 しかも魔物が次々と表れて、僕達の前に立ちふさがる。時には一匹で、時には群れをなして、迫りくる角猪(ホーンボア)を、リズとギドはハンデを抱えたままで倒してゆかないといけない。ハンデとはもちろん、そもそも動けない僕と、霊力を放出し続けていて戦えないレオのことだ。


 



 僕はレオに振り返る。


「どう? まだいける?」

「すみません、もう無理そぅ……………」


 額から汗を流したレオは、そう言って霊力の放出を停止した。深く息を吐いて座り込む。

 四人の中で一番大変な役はレオだ。霊力を常に放出し続けるということは、全力で走り回っていることと変わらない。霊力値が四人の中で最高であるレオだからこそ、こうして一時間も放出し続けることができたのだろう。


「レオちゃん大丈夫?」


 疲労からか顔を歪めながらも、静かに微笑むレオ。


「大丈夫です。休めば治りますから」

「そっか! 良かった」


 というわけで、休息をとることにした。


 リズ、レオ、僕、ギドの順で並んで、洞窟の隅っこに座る。


 するとギドはおもむろに虚空を弄り、小柄な皮のカバンを取り出した。中に入っていたのは紅茶の入った瓶とアンティーク調のカップ。

 ギドのインベントリは、僕と変わらず一つの物しか入れることができない。しかしここで言う「一つの物」というのが、僕と違い()()()()()()()であるのだった。

 つまり、カバンや容器の中にあるものも一括りにして入れることができるのだ。


 とはいえ、これは才能の違いというわけではなく、シスターマリア曰く「感性の違い」らしい。


 僕は前世経験もあって若干(というか結構?)捻くれているから、異なる二つのものを一括りにできない。例えばカバンと、そこについたキーホルダーを別の物として考えてしまう。

 対してギドは、大雑把なところがあるために二つかそれ以上のものを場合分けで一括りにできてしまう。例えばカバンとキーホルダーはセットだと思えるし、今実際に行ったように「瓶」と「その中の紅茶」を一括に考え、さらに「瓶の中にある紅茶」と「カップの入ったカバン」を一つの物だと思えてしまう。


 僕からすればこれはこれである種の才能なのだが、ともかく。



「…………飲むか?」


 紅茶が入ったカップを僕に向けて、()()()()()ギドはそう尋ねた。

 数秒間無心だったらしい。カップはすでにリズとレオには渡され、二人共美味しそうに紅茶を飲んでいた。


「うん。ありがとう」


 言って、カップを貰った僕はすぐに口をつけた。


 鼻に付くほのかな香り。口に広がる甘み。インベントリに入れたままだったからだろう、紅茶はできたてのように温かかった。

 うん。美味い。

 別に紅茶に詳しいわけではないけれど、それでもこれが高度な技術にできていることはよく分かる。紅茶で、砂糖を全く入れてないのに、甘さを感じるなんておかしいだろう。

 しかもこの紅茶はギドが淹れたものだと言うのだから、一層驚きである。


 ぶっきらぼうで無愛想で口が悪くて大雑把なギドだが、その趣味は可愛らしく紅茶を淹れることらしい。


「んだよ無能、なんか文句あんのか」

「いや、美味いよ」


 素直に言ったのに、舌打ちをしてそっぽを向かれた。解せぬ。


「それにしても見つからないね。響鳴石」

「そうですねぇ。確かに希少度の高い鉱石と言っても、これだけ探し回れば見つかりそうなものですが」


 紅茶を飲んで息をつきながらそんなことを言い合う女子二人。


「試験開始から二時間半。あと半分しか残ってない。急がないと」



 若干焦りをいだきながらも、レオが回復するまで待つ僕達の間には、穏やかな空気が流れていた。


 







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