《88》デモンズグリフ
『クェァァァァァァァァ!!』
甲高い鳴き声と共に暴風がふきあれる。
それらは周囲にいた変態共を吹き飛ばすが、不思議と僕とシロには一切の影響を与えず、やがて地面へと降り立ったソレは赤い瞳で僕らを見すえた。
悪魔召喚――デモンズグリフ。
あの悪魔のようなモンスター、グリフォンがドロップした『宝玉』を元に生み出した悪魔だ。
この力は色々と『試す』ってのが難しいため初出しだが……もうね、なんにも考えないでもわかるね。あのグリフォンの悪魔版だぜ?
「弱いわけがないってな」
デモンズグリフは大きく翼をはためかせると、同時に不可視の刃が周囲へと駆け抜けた。それを何とか認識できるのは……僕が召喚者だから、だろうか。
それらは周囲の変態共を切り刻み、待つかなポリゴンへと変化させていく。
これ……リアルだったらすんごいスプラッタだったなぁ……なんて思いながらも、僕はアゾット剣を構えてシロを振り返る。
「行くぞシロ! 一気に突破する!」
「……!」
彼女はこくりと頷き返し、僕らは一気に走り出す。
が、そんな僕らを巨大な影が追い抜いていった……かと思いきや、前方に固まっていてた変態共をデモンズグリフが蹴散らしていく。
ふと、その真っ赤な瞳と目が合うと、なんとなーく『さっさと行け』と言っているように思えた。
「これまた生意気で……すっごい助かる」
僕は笑ってグリフの後へと続くと、彼は集る変態たちには脇目も振らず、タックルで洋館の扉ごと無数の変態たちをすり潰し、ぶっ飛ばした。
僕とシロは一拍遅れて洋館の中へと突入。
すぐさま周囲を確認すると……うっわ、すんごい。
今のタックルで吹き飛ばされたり潰されたり……色々と凄いことになってる変態たち。そして……たぶん罠でも仕掛けてあったんだろうな。圧倒的な重量で粉々にされた罠の残骸がころがっている。トラバサミかな?
『キュルルル……クエエエエエアアアア!!』
先に突入していたグリフが叫ぶ。
その叫びを受けてか、奥の方からぞろぞろと変態……かと思ったけど違うな。鎧のようなモンスターが姿を現した。
動く鎧
脅威度 B-
「見た通りの名前だけど……B-が、こんなに――」
勝てない……とは思えないけど、これは本格的に時間稼ぎにきやがったな……。こいつらを全部おしのけて先に行くってなったらどれだけ時間が……。
そう考えていると、ふと、シロが僕の袖を引っ張った。
「ん?」
「……! ……っ!」
彼女の視線を追えば……嘘ぅ。なんか『乗れ』って目のグリフが身を屈めてる。色々とグリフォンにトラウマがある手前、あんまり直接的な接触はしたくなかったんだけど……。
前方へと視線を向けると、動く鎧の群れは確実に距離を詰めてきている。
「……そうも、言ってられない、か」
僕は大きく息を吐くと、一気にグリフへ跨った。
シロもまた僕の後ろ……かと思ったら、何故か僕の股の間にちょこんと座り込むと、いつの間にか取り出した手網みたいなのを握ってる。
「……!」
シロの目は雄弁に語っていた。
『私がやるから、後ろで弓撃ってて』と。
僕はおもわず頬をひきつらせ、『いや、そんなグリフォンの操縦とか出来るの?』みたいなことを言いかけて。
「いや、そんなグリフぉぉぉぉおおおお!?」
次の瞬間、とてつもない速度でグリフが発進した。
完全に油断してた僕は思いっきり状態を仰け反らせると、『はいやー!』みたいな感じでシロが手網を『バシンっ!』としならせる。
「ちょ、ちょっ! ちょっま! まっ! 待てぇぇえええええい! ちょっと待ってシロ! はやっ! 早すぎ――」
「……!」
悲鳴をあげるが、残念届かず。
彼女は喜色満面で手網を引き、グリフもまたノリノリで動く鎧を蹴散らし、飛び越え、グングンと進んでいく。
動く鎧の集団を前にスピードを落とす……どころか、ちょっとまて、なんかちょっとスピード上がってないか?
何とか力を込めて状態を起こすが、なんかもう風圧で目も開けてられない。なに、こんな状態でグリフ操ってるシロって何者? ヴァルキリーだし空飛んでるイメージあるし、風圧には耐性でもあるんだろうか。
そんな現実逃避もつかの間、グリフはどんとん突き進む。
『ふっふっふ……さて侵入者よ、そろそろあまりの変態の多さに嫌になってきている事かと思っ…………あれっ? え、どこ行った?』
ふと、屋敷の中に聞き覚えのある声が響いた。
そうだ、魔人ヒテルスだ。ヤツは……うん、たぶん入口の外を見て言ったんだろうね。でも残念、普通に突入済んでます。
果たしてグリフの突き進むこの道が合ってるのかどうかは知らないけど、多分遠くないうちにお前のところに突入するはずなのでご安心を。
とか、思っていたら。
「ぬ、ぬああ! アアアアアア! 居た! やっと見つけたぞ貴様ら! というか何その巨大なモンスター! はぁ? そこいらのボスモンスターよりつよいじゃん! なにそれ、どっから出しやがった侵入者ども!」
そう叫ぶヒテルス。
だがグリフは止まらない。
『はっ、話を聞けぇぇぇぇ! いや、ちょっと待って! ねぇ待って! そのまま進んだらすぐ着いちゃうから! 俺、普通に【徒歩で】制限時間内につけちゃうような場所に居るから! そんな速度想定してないから!』
「……!」
「シロが仰せだ。『それは純粋に計算をミスったお前の落ち度だ』とな。よってそれも致し方なし! 行けシロ! この方向で合ってるそうだ!」
『待てって言ってるよねえええええええ!?』
どこからか『来ないでぇぇええええ!』と悲鳴が響くが完全に無視。
やがて前方にそれっぽい扉が見えてくる。
扉に近づくにつれて悲鳴は大きくなってゆき……やがて、グリフは情け容赦なくその扉をぶち破った。
『クエエエエエアアアアアアアアア!!!』
大きな破壊音と衝撃。
そしてグリフの大きな声が響き渡り……僕は前方へと視線を向ける。
目の前に広がっていたのは、巨大な謁見の間だった。
明らかにこんな洋館にこのサイズが入っているはずがない。そんな、物理法則を完全に無視した巨大な空間だった。
「こ、こここ、こ、コナクソォォォォォ!!」
ふと、声が響いてそちらを見る。
そこには……玉座だろうか。そこから立ち上がる一人の男の姿があり、その額からは悪魔のような角が生えている。
――魔人ヒテルス。
その本人に間違いないだろう。
現に、その手には見覚えのある『騎獣』の卵が握られている。
僕はグリフから飛び降りると、ヒテルスへとアゾット剣を構えた。
「さぁ、来たぞ。卵をかえしやがれ」
「さぁ、来たぞ。卵をかえしやがれ――じゃ、ねぇんだよバァァァァカ! ふっざけんなよ!? せっかく作った罠全部とびこえて、せっかく雇ったモンスターぜーんぶ重量でぶっ飛ばして……ええ!? どういうつもりですかってんだよこの野郎ども! ぶっ殺すぞ!?」
「……いや、だってルールの範囲内だし」
「範囲内だとしても反則だろうよォ!? なに、おまえチートって言葉知らないのぉ!? 鏡みてみろよ、反則の塊みたいな野郎が映ってるからさぁ!」
なんというか、半狂乱な魔人ヒテルス。
その姿に何だか哀れみを覚え……かけたけれど、直ぐにやめた。そもそもこいつが卵を奪ったから悪い。僕がこいつの立場だったら全く同じこと言ってるだろうなぁ、とは思うが、こいつが悪いから仕方ない。黙って卵をかえしやがれ。
そんなことを思っていると、ひとしきり叫んだ魔人ヒテルスは、ぜはぜは息を整え、僕を睨んだ。
「くっそぉ……! これだけ用意してればこっちの勝ちだと思ってたのによォ……! アッタマきたぜ! もういい、この俺が……この手で自らぶっ殺してやるさ!」
「卵返してくれる約束は……」
「知るかバァァァァカ! 俺に勝てたらくれてやるよォ!」
ヒテルスはそう叫ぶと、ゴゴゴゴゴ……と奴の背後から振動が響く。
思わず驚き、ヒテルスの方を見つめていると……やがて、やつの背後の地面を突き破り、巨大な【杭】が突き出してくる。
「あ、れは……」
一階層の北でも、見た覚えがある。
北の初回ボス、ミノタウロスが守っていた禍々しい杭。
何故かシロが回収できたから今はイベントリに入っているが……間違いない、あれと同種の杭だと思う。
「我が名は魔人ヒテルス! 魔神アザトース様の加護を受けた、人間を超越した存在! ただの人間風情が……勝てるなどと思うなよ!」
【唐突なイベント発生!】
魔人ヒテルスが逆ギレ、襲いかかってきた!
魔人ヒテルスを見事打ち倒せ!
そんなインフォメーションが響き、僕は構える。
かくして、僕らと魔人ヒテルスとの戦闘が始まる……みたいである。




