《86》アイテム探し
でれれでっでれー!
そんな効果音と共に、シロはそのアイテムを天に掲げた。
――あの後。
死に戻りのせいでバットステータスをくらってしまった僕らだったが、結果としてあの邪竜……じゃなかった。スライムを倒せたことには変わりなく、問題なくその報酬を手に入れることが出来た。
の、だったが。
「……にしても、なんのアイテムなんだろうな。それ」
「……?」
小首を傾げ、ふりふりとそのアイテムをいじくるシロ。
彼女が持っているのは、なにやら筒状の赤い物体だ。
プルタブ付けたら即コーラになりそうな物体X。
その概要を見てみるも、結果として意味不明なことには変わりない。
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紅蓮の円柱 ランクC-
使い道の特定できない不思議な円柱。
中に入れたアイテムの使用時間を引き伸ばすことが可能。
消して壊れることの無い特性を保有しているが、そもそも壊れることがないため何かの材料にすることも出来ない。
現在、中身は空洞になっている。なにか入っていた形跡もあるが……?
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なんだよ『なにか入っていた形跡もあるが……』って。いきなり無料ゲームアプリの推理のヒントみたいになってきたんだけど。
シロからその円柱を受け取って調べてみるも、特にそれといった特徴は見当たらない。説明文に従って中身を除くと……なんだろうコレ。なんだか底の部分に溝が円状に広がっている。中身になにか入ってた、って、この溝になにかがハマるって事なのか?
「うーん……やっぱりあの依頼も違ったのかな」
さすがに、そうそうパッと見あたった依頼が事件解決の糸口に……なんて、なるはずもないか。
顎に手を当てて考え込んでいると……ふと、風に乗って誰かの話し声が聞こえてきた。
「聞いたかよ! 北の霧の森! あの浅い所で、霧を晴らせるアイテムが見つかったんだとよ!」
「ま、まじかよ……、純粋にそこでアイテム見つけりゃ攻略できる、って感じだったのか……」
「まぁ、なんか見つけたはいいけど困ってる、みたいなのは聞こえてくるけどな」
そんな話し声に、シロがぴくんと反応した。
彼女はグイグイっと僕の袖を引っ張り始め、『早く行こう』とでも言わんばかりの姿に苦笑してしまう。
「こちとら、死んだ直後だってのに……まったく」
僕の死への恐怖を具現化した存在『禍神』。
このゲームからの脱出手段はメドついたものの、同時にその難易度に半分意識が飛びそうになってる。少なくとも……もう一つ。白虎と同じようにかつての力が戻れば或いは……とも思うが、それにしてもまだ先のこと。
「……たしかに、今は先に進むしかないんだろうな」
結局のところそう結論づけると、僕は彼女に手を引かれて歩き出す。
目指すは、再びトラウマの森――北の洋館エリアだ。
☆☆☆
「……股間にフル装備してる奴の姿が目立つな」
「……!」
森に来て、最初の感想がそれだった。
周囲を見渡せば、そこには股間に……なんて言うんだろう。鋼の鎧をはめた男たちの姿があり、なんだか卑猥に見えてシロの両目を塞いだ。なんちゅーものを見せやがるんだあの野郎ども。浅い場所じゃあの股間握りお化けは出てこないだろうに。
「……! ……!」
「あっ、ごめんシロ」
真っ暗になり、あたふたと前の方へと手を伸ばすシロ。
彼女の両目から手を退け、股間装備連中とは逆向きへと歩き出す。
「さ、てと。早速来ては見たものの……どれだ? その霧を晴らすとかいうアイテムは?」
周囲には、かるーく霧がかかっている。
まだまだ視界良好の範囲内。奇襲なんてありえない程度だが、それでも深く進みすぎるのは危険だろう。またあの野郎にナニかを潰されかねない。この短期間で三回も死ぬのは嫌だからな。
と、言うわけで。
「……おっ、アイツらいいんじゃないか?」
ふと、見つけた冒険者パーティ。
なにやら白銀の鎧を身にまとった金髪の……うん。誰とは言わないが、異世界で出会ったとある人物を彷彿とさせるような主人公っぽい少年。そんな彼を中心に、なにやら女の子たちがゾロゾロとパーティを成している。
「ハーレム、ってやつかぁ……」
「……?」
『はーれむ? なにそれ食べれる?』みたいな感じで僕を見上げるシロ。食べ物じゃないよと苦笑しながら木の幹に隠れると、早速尾行を開始する。
今回の作戦。
それは、情報がない、そして情報をタダで貰えるほど好感度も高くないこの僕が、第三者がアイテムを入手する方法を盗み出そう、というものだったりする。
「一体、どうやってアイテム入手するんだろうかな」
僕の見様見真似で、僕の背中に姿を隠すシロ。
なんだか親の真似してる子供みたいで微笑ましいな、なんて思ったけれど、冒険者パーティが移動を始めたことで僕らもそのあとについて行く。
「ちょっぉー! ホントにそんなアイテムあるのぉ?」
ふと、会話が聞こえてくる。
ものすごい猫なで声に「あっ、こいつ嫌いなタイプ」と確信していると、少女の声にイケメン少年が振り返る。
「あぁ、情報屋からの確かな情報だよ。……なんとか、ここまでは何とかスタートダッシュを決めることが出来たんだ。ここでこのエリアをいの一番に攻略できれば、その時は僕らが攻略組になれるからね!」
スタートダッシュ……?
……ははん、さてはこの少年、第二軍だな?
そういえばソフト販売の第二回が行われるとかなんとか言ってたっけ。この短期間でこのエリアまで来ていることに少し……いや、結構驚いてはいるが、難しい敵はだいたい僕らが先に倒しちゃってるからな。
この少年はセイクリッドオーガも、ミノタウロスも、白虎も相手することなくこの街までやってくることが出来たのだろう。
「……!」
「あ、そういや、一層で『二号店』開いてたしな」
金さえあれば、あの店は二階層のアイテムだって購入できる。
なにせ、手にした素材は片っ端から売りに出してるからな。
今じゃ所持金は天井知らず。加えて好感度も底無し状態だ。
閑話休題。
あの少年も二号店の被害者なんだろうな……とか、考えていると、ハーレムメンバーの一人が声を上げる。
「はわわっ! そ、それで、そのアイテムはどうやって手に入れるんでしょうかっ! はわわっ!」
「そうっすよ! 情報屋って言ってもあの幼女、どこまで信用できるかわかったもんじゃないっす!」
色々とツッコミどころはあるが、うん、まぁ、そういう口癖もあるよね! 少なくとも僕は異世界を旅して『はわわっ!』って実際に口に出すような人見たことない気がするけど!
そして、何気にディスられてるのがアスパが可哀想になってくる。あれでも中身は普通の成人サラリーウーマンだってんだから、彼女からしたら年下に貶されてたまったもんじゃないだろう。
とか、そんなことを考えていると。
「ふふっ、心配はいらないよ。女の子に悪い人はいないからね」
などというトチ狂い発言。
えっ、もしかして聞き間違えた?
なんか、いい感じの決め台詞っぽい雰囲気で、なんかよく内容のわかりたくない発言が聞こてきたんだけど。
「女の子に……悪い人いないっていったか? あの子」
「……!」
こくり、とシロが首肯。
その反応に、思わず僕は頭を抱えた。
……なんだろう。
その、なんというか、ね。
つくづく【あの野郎】を彷彿とさせる子だね君は。
異世界転移まもなく、最初の街で、僕は【全く人の話を聞かない上に、見てる世界を全部自分の都合のいいように解釈してしまう】という厄介極まりないオリジナルユニークスキルを所有した厄介極まりない少年と出会ってしまった。
その子は紆余曲折という名の物理攻撃の後、色々あって改心したんだが……うん、マジでその子を彷彿とさせる少年だね君は。あのオリジナルユニークスキルは決してオリジナルというわけではなかったんだね。
「もうっ、そんなんじゃ足元すくわれるわよ!」
「はわわっ! わ、私は……その、転びそうになっても、私の方に倒れてきてくだされば、受け止めますのでっ!」
「ははは……そんな事が無いよう頑張るよ。……でもまぁ、僕がピンチになった時にはよろしくね、みんな」
「は、はわわっ! は、はひっ! おまかせを!」
ああ、なんだろう腹が立つ。
見ててなんだかムカついてきた。
なにこれ、青春?
青春ってこんなに黒ずんでたっけ? 数年後には黒歴史になってる未来しか想定できないんですけども。
僕はイライラと身を隠す木の幹を指で叩いていると、やっとこさ会話が終わったのか、アイテム探しに動き出すハーレム野郎ども。
「……やっと動き出したか。シロ、行くぞ。手に入れるの面倒くさそうだったら、最悪横からかっさらう」
「!?」
僕の発言に驚いたように目を見開きながら、シロは僕の隣をちょこちょことついてくる。
そんな彼女を横目に、僕は警戒レベルを一つ繰り上げる。
彼らの話の内容は空っぽだけれど、それとは別に注意しておこう。
この先は、少し霧が深くなり始めている。
まだ大丈夫だとは思うが……この先は、きっと出る。
だから。
「……もしも、向こうが潰されたら即逃げる。離れるなよシロ」
「……!」
僕は彼女の手を握り、彼らの後に続いて歩き出す。
もう二度と、同じ轍は踏みたくないもんである。




