《82》ボス
先月は出せずにすいません!
俺の名は、ドン・アンブレンシア=ヘクタール。
なぁに、今ではしがない盗賊団の頭領さ。
俺の始まりは、と聞かれたら。
それは多分、帝国の宰相、イジワ・ルーイベンに陥れられたことだろう。
かつて、俺は帝国において名のある冒険者だった。
竜を狩り、死霊王を屠り、獣王を真正面から打ち破り、あらゆるモンスターを片っ端から倒しまくることから、俺は『殲滅の勇者(笑)』と呼ばれていた。
まぁ、倒した竜というのは翼を怪我して墜落した最下級クラスのワイバーン(瀕死)だったし、死霊王というのもユニーク個体のスケルトン(受付嬢には通常個体ですと言われた。断固として信じないが)だったし、獣王もまた草原のラビットの姿をとった化け物(これもまた受付嬢に(以下略))だったが、見る人は俺の活躍を見てくれていたのだろう。
え? あぁ、最後についている『(笑)』というのが何かは知らない。
閑話休題。
……なぁ。
閑話休題ってよ。今初めて使ったんだけど、なんかカッコイイよな。
それ使ってるだけで『デキる男』って感じしねぇ?
……え。しないって?
あ、そう。ならいいや。
こんどこそ閑話休題。
帝国において、殲滅の勇者(笑)として絶大な知名度を誇っていた俺は、ある日、帝国の王女様へと呼び出されたんだ。
なんでも、『殲滅の勇者……ぶふっ、と、そ、そんなご大層なお名前で呼ばれている方を……ぷっ、い、一度でいいから見てみたいものだわ……っ!』との事らしく、その伝言を伝えに来た兵士が妙に笑いを堪えていたのを覚えている。たぶん生の俺に会えたことが嬉しすぎたんだろうさ。
そんなことがあって、俺は帝国の首都、帝都の城へと呼び出された。
俺様のカッコ良さを一目見たいって言ってくれてるんだし。別に普段通りの格好でも問題ないかなーとか、そんなことも思ったんだけどよ。
まぁ、いっても王族だし? 偉い人だし。
正直いって、ちょっとびびった。
なので、スーツを着てくことにした。
生まれてこの方スーツなんて来たことねぇからよ。見様見真似でネクタイ? あのヒモみたいなやつを首に巻いてよ。雰囲気的にはマフラーみたいなもんだろあれ。大量のネクタイを首に巻いて、スーツ着込んで城に出向いたわけよ。
そうしたら、どうなったと思う?
え、追い出された?
……なんで分かるんだよ、その通りだ。
意味わかんねぇよ。俺の勇姿を見たいからってせっかく大量のネクタイ巻いて行ったのに、門前払いからの何とか入場、歩いてる最中に追い出されそうになって、何とか王女様の元へと逃げてったら着替え中でよ。
ひゃっほう『ラッキーすけべ』ってやつだ!
そう、俺は歓喜乱舞したね。
あれって、あれだろ?
覗きとか完全に犯罪のくせして、別に偶然覗いただけならほっぺた引っぱたかれるだけでなんのお咎めもないんだろ?
すごいよな、それ開発したやつ天才だぜ。
ということで、どーせ許されるんなら色々やってやろうと、俺は王女様の全裸をガン見した。あと近くに置いてあったドレスとかも奪ってやった。
そうしたら、どうなったと思う?
……そうだよ、ぶっ殺されかけたんだよ。
話が違ぇじゃねぇか!
なんで……なんでラッキーすけべが許されねぇ!
ふざけんなよ! なんで漫画、アニメ、ラノベの主人公は『もうっ、次覗いたら許さないんだからねっ! ぷいっ!』とかで許されるのに、俺みたいなオッサンになったら許されねぇんだ!
何たる理不尽!
ぜってー許さねぇッ!
ということで、俺は逃げた。
いや、天下の大英雄でも、さすがに帝国の軍隊に囲まれて袋叩きにあったらマジで死ぬ。いや、死にはしないけどかなりやばい。全然勝てるけどねむしろ。でもなんとなく逃げた。別にびびった訳じゃない。
俺は帝都を秘密裏に後にして、世界中を旅して回った。
逃避行ってやつだ。なんか響きがカッコイイからよく使ってる。
そうしているうちに、俺の首には賞金がかかった。
城への侵入、騎士達への傷害、王女の私室への侵入、その他諸々。
それらによってかけられた賞金額……なんと『四億ベリー』!
……え、金の単位が違う?
気にすんなよ。世界的な政府の代わりに帝国に喧嘩売って、天の竜の人の代わりに本物のドラゴンをぶっ飛ばしたってだけさ。それだけの金額もうなずける。
というわけで、大量の賞金を首に背負っちまった俺は、不承不承ながら、『これは裏で生きるしかない』と考えた。
だから、俺は仲間を集めた。
個人的には航海士とか船大工とか集めたかったところだが、よく考えたらそんな奴いても陸地じゃ意味ねぇなと思い直す。
そのため、とりあえず裏で生きてたヤツら片っ端から声をかけた。
もちろん従わねぇやつも多かった。
けど、腕っ節で黙らせた。
……ははん、さてはお前、俺の実力疑ってるな?
最初っから言ってんだろ、俺、まじ、強いって。
それはもう飛んでくる不良ども相手に無双状態よ。
『必殺! 不知火型・極天魔槍絶地斬!』
『『『『ぐああああああああっっ!』』』』
って感じよ、まじで。
え、お前信じてないだろ。
は? まじでお前ふざけんなよ。マジで不知火型・極天魔槍絶地斬食らわすぞ。食らったおまえ一瞬で灰燼と帰すからなまじで。
閑話休題。
ということで、俺は仲間を集めた。
組織をつくりあげた。
その組織のなは――『誘宵』。
……え? 盗賊団が秘密結社みたいな名前つけてんじゃねぇよって?
いやいや、ひとつくらい秘密結社みたいな名前の盗賊団あってもいいだろうがよ。
そんなこんなで、俺は盗賊団をまとめあげ、かつて俺を嵌めてくれた帝国、しいてはラッキーすけべを許してくれなかった王女に復讐するべく行動に映った。
まず、一番にやるべき事は金策だった。
金がねえ、ただひたすらに。
俺は一気に組織を拡大させすぎた。
武器を揃える金も、どころか全員を食わしていくだけの金もねぇ。
もはや絶体絶命、最強最悪のピンチ。
あんなピンチは王女様に顔面グーパンチを受けた時以来だったぜ。
俺に負かされて配下に着いたヤツらは金がなくて機嫌が悪い。
このまんまだと組織結成の翌日クーデター、みたいなことも十分にありえる。
だから俺は考えた。
考えて、考えて、考えて……。
それで、どうしたと思う?
ん? 馬車を襲った?
おいおい、んな事するわけねぇだろ。
アルバイトだよ、アルバイト。
組織全員で街中入って、片っ端から仕事してやったんだよ。
そりゃあもう、嫌がってるやつからも仕事をもらい、やらなくていいって所まで仕事をやり、余計な金まで巻き上げる。
これぞ盗賊ッ!
アイツらの困ったような顔、傑作だったぜ!
……あ、それで思い出した。
たしか盗賊団を結成して間もない頃。なんか見知らぬ旅人にモンスターの卵をもらってよ。
羽化したドラゴンがこれまた可愛くて、最初は俺をさし抜いて『ボス』とか呼ばれていたちやほやされてたんだが……なんか、途中から邪気を纏い始めてよ。
あいつ、そう言えばどうしたんだっけ。
なんか途中で世話するのが面倒臭く……というか、純粋に俺たちじゃ世話しきれなくなってどうにかしたと思ったんだが……はて、忘れちまったな。悪ぃ。
ということで、アルバイトして貯めた金で武器を買い揃え、いざ復習のはじまりさ!
初っ端、まず近くの領主宅を襲撃した。
……おい、なんか反応しろよ。
なに鼻くそほじって興味無さそうにしてんだよ。なぁ、こっから面白くなるんだぜ? 領主宅襲撃編から始まって、その後の――
☆☆☆
「ぶげらっはぁ!?」
「お前、話が長い」
とりあえず、ぶん殴った。
場所は地下水路の奥深く。
周囲にはコイツの仲間らしい多くの盗賊が転がっており、ぶん殴って吹き飛んだ頭領らしき男――たしか名前は……なんだったか。ドン・アンブレンシア=ヘクタール、とか言ってたっけ。
そいつは白目を剥いてぴくぴくと痙攣しており、ワンパンで沈んだボスに思わず引き攣った笑みが零れる。
「…………え、もしかしてこれで終わり?」
なんか4000字で一話のところ、3000字くらいアイツの独白に潰されたような気がするんだが。
隣のシロはつまらなさそうに槍の先で倒れたアンブレンシアをつんつんしており、そんな彼女の首根っこを引っ張りながら、周囲へと視線を向ける。
「ボスって……コイツだよな? え、これで終わり? A-のクエストだろこれ」
明らかに、おかしい。
これで終わり……だったらA-とかありえない。
だって戦闘よりも道中の罠の方が難しかったもの。
そう考えて周囲を見渡していると……ふと、なにか引っ掛かりを覚えた。
「…………ん?」
なんだろう、この違和感。
何かを忘れているような感じ。
「……なんだ、何を忘れてる?」
とりあえず、依頼書を取り出してみる。
そこには盗賊団の『ボス』を倒せという依頼書が……。
「…………って、あれっ?」
その依頼書を見直して、思わず体が硬直する。
特別、なにかおかしな事がある訳じゃない。
ただ、一点――。
――――――――――――――――
【依頼】盗賊団の宝を追え!
【難易度】A-
【内容】
マーレの街、地下水道に盗賊団の拠点を発見。
日々人々へと悪逆の限りを尽くす盗賊団の拠点を制圧、盗賊団の『ボス』である『ガルダルーグ』を討ち取るべし。
【報酬】
盗賊団の宝
――――――――――――――――
「……ボスの名前、違くない?」
僕がそう呟いた、次の瞬間。
盗賊たちの住居が立ち並ぶ区域。
その最奥、石の壁が勢いよく爆ぜ、衝撃波と共に鋭い咆哮が周囲に響く。
それを前に思わず目を剥く僕を前に、現れたのは一体の黒竜。
【BOSS】
ガルダルーグ(邪竜)
脅威度S
『グオオオオオオオオオオォォォォンッ!!』
咆哮が轟き、僕は叫ぶ。
「ぼ、ボスって……ペットの方の『ボス』かァァァァ!!」
盗賊団との前哨戦が終わり。
そして、邪竜とのガチバトルが幕を開ける――!




