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Silver Soul Online~もう一つの物語~  作者: 藍澤 建
二階層・マーレの街
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《80》A-ランクの依頼

『無理ゲー』


 アスパは今の北の森をそう言い表した。

 といっても、彼女が『あーあー、もうだめ、こんなのやってられっかよクソが。もうこのゲーム糞ゲー!』とか、そういうことを言ってい訳では無い。


『多分ね、あの森は現時点では【攻略不可能】って設定になってるんだよ。でなきゃあれほどの濃霧に加えて気配察知不能のモンスター、現時点で分かってるだけでも【トレント】と【名称不明のデスオーガ】……。リアルチートと名高いギンくんでも今回ばかりは攻略出来なかったでしょ?』


 と、そういうことである。

 つまるところ、何かしらの『イベント前のイベント』があり、それをクリアした上で北の森に望む。そうすれば魔人の洋館までたどり着ける仕組み、とアスパは予測していた。

 僕は『イベント前のイベント』って単語自体浮かばなかったし、やっぱりこういう分野で言えば生粋のゲーマー、アスパの方が向いてるんだろう。


「と、いうことで」


 やって来ました冒険者ギルド。

 イベントを起こす、あるいは探すと言っても僕にはそもそも伝がない。街の人々に片っ端から話しかけるのも難しい。ということで、何かしら関連の依頼でもないものかと冒険者ギルドにやってきたわけである。なんだかんだでギルド登録してから一回もまともに依頼やってないしな。


「『粘着芋虫の討伐』『コーカサスオオクワガタの捕獲』『デカカブトの幼虫の体液採取』……。こんなゲテモノ誰がいるんだか……」


 デカカブトの幼虫ってアレだろ? あの殺した途端に破裂して体液撒き散らすやつ。ん? あれは粘着芋虫だったか……いや、もうなんかトラウマすぎて記憶がフワッフワだ。


「……!」


 ふと、シロからローブを引っ張られ、トラウマと現実の狭間から意識が戻ってくる。おっといけない、危うく芋虫だらけの暗黒面に落ちるところだった。

 見ればシロはどこからか一枚の依頼を持ってきており、その依頼を見て小さく眉尻を吊り上げる。


「なんだ、この依頼……」


 さっき見た中にはなかった気がしたが……。

 とりあえず彼女から依頼書を受け取って内容を確認する。



 ――――――――――――――――

【依頼】盗賊団の宝を追え!

【難易度】A-

【内容】

 マーレの街、地下水道に盗賊団の拠点を発見。

 日々人々へと悪逆の限りを尽くす盗賊団の拠点を制圧、盗賊団の『ボス』である『ガルダルーグ』を討ち取るべし。

【報酬】

 盗賊団の宝

 ――――――――――――――――



 難易度『A-』か……。

 シルバーナイトウルフより上で、逆にミノタウロスやセイクリッドオーガよりは下……と言った感じか。どっちにしろ要注意だな。普通に油断してたら死ぬレベルだ。

 まぁ、モンスターと依頼の難易度を一緒に考えていいのかは分からないけど、少なくとも油断はできなさそうだな。


「で、シロはこれがいいと思うのか?」

「……!」


 勢いよく首肯するシロ。

 うーむ……盗賊団とかどう考えても関係ないと思うんだが、彼女がそこまで言うなら受けるべき……なのかな。少しでも早く取られた卵を取り返したい気持ちもあるが、だからって焦っても何も始まらない。

 それに現状、手当たり次第に動いていくしかないわけで。


「……ま、分かったよ。それじゃあこの依頼から受けてみようか」


 そう笑った僕に、彼女は元気よく『おー!』と拳を突き上げた。




 ☆☆☆




 ということで、やって来ました地下水道の入口。


「ここ……でいいんだよな」


 ギルドで受け取った地図と確認するが、ここで場所はあっている。

 目の前には地面にポッカリと空いた穴があり、斜めに続く穴の先からは海の匂いが香ってくる。これでも海に面した街だからな。地下水道に海の水が入ってきてる可能性は高い。


「こんな場所にその盗賊団ってのは住んでるのか……。物好きなのか、あるいは表で暮らせないくらい顔が知られてるのか」


 できれば前者であって欲しいな。あんまり強いヤツだと苦戦しそうだし。むしろこんな地下水道の中でボスレベルの力を持った奴出てきたらかなりきつい。弓も使いにくければシロの槍も多少は制限されそうだし。


「ま、なるようになるか」

「……!」


 僕の言葉を聞いたシロが先行してずんずんと歩いてゆき、その姿に苦笑しながら僕もまた彼女の後を――


「――ッ!?」


 追う寸前。

 唐突に頭の中に危険察知の警鐘が鳴り響き、ほぼ直観に従って彼女の首根っこをつかみ、引っ張る。

 その際に彼女から苦しげな雰囲気が感じられたが、直後に『ガガンッ』と彼女の目の前へと槍が降り注ぎ、驚いたように目を丸くしている。


「……仮にも盗賊団のアジトってか。油断してたら死ぬなコレ。大丈夫だったか? シロ」

「……」


 見たところ怪我は無さそうだが……そりゃビックリするよな。彼女はいまだ放心状態で目の前の槍を見つめている。

 噴射されたと思しき場所を覗き込むと、うまく暗闇に紛れるようにして噴射口が作られている。これはその道のプロでもないと発見は難しいな……。


「かと言って今から戻って、心当たりもないその道の専門連れてくるって言ったってな……どれだけ掛かるか分かったもんじゃない」


 ぶっちゃけこのゲーム来る前の僕なら『え、トラップ? そんなの全部見えてますよ。どころか食らったところで数秒後には全治してるし』とか平気で言えたんだけどなー。こういう時に生前の能力が恨めしい。能力にかまけてないでもうちょっとそっち方面の技術でも学ぶんだった。

 と、そんなことを言っていても始まらないか。


「……仕方ない。シロ、僕が先導して罠発動させてく。後ろからの敵襲とかに注意してついてきてくれ」

「……!」


 やっと現実に戻ってきたシロを引き連れ、地下水道の中へと足を踏み出す。




 ☆☆☆




「……ん、またか」


 地下水道に入って既に数十分は経っただろう。

 先の地面を『糸操作』でペシンと叩くと、途端に天井が崩れ、使っていた糸が瓦礫の下敷きになってしまう。

 その轟音に後ろのシロがピクっと反応するが……まぁ、これで既に罠十三回目だもんな。一分に一度のペースで出会ってる。しかもそのうち三分の一は、僕が必死になっても見つけられない致死トラップ。さっきから糸操作で罠の確認、終わって進んで致死トラップ、の繰り返しだ。何とか生きていられるのはひとえに危険察知のスキルがあるからだろう。


「盗賊団も、これだけ罠作動してたら分かるだろうに……」


 それでもまだ出迎えに来ないってことは、つまり罠をしかけた盗賊団ですら引っかかる可能性のある非常な極悪なトラップ地獄という事だ。


「シロも気をつけろよ、全部トラップは潰してるつもりだけど」


 見よう見まねだからな。全部潰してるつもりでも、多分まだ何個か残ってるような気がする

 と、走行している間にも、徐々に盗賊団の拠点が近づいてくる。ギルドで貰った地図が正しければ……ここの先にある角を右に曲がってすぐの所か。

 糸操作を一旦停止して気配察知に集中すると……おお、ぞろぞろいるな。角から曲がってきたところを八つ裂きにするつもりか、角のすぐ向こう側に十人くらい盗賊達が待ち構えている。

 ふむと頷き、周囲へと視線を向ける。

 今歩いているのは地下水道の両脇に作られた石の歩行足場で、すぐ隣には海水の混ざった水が流れている。鼻は効かず、足音も水の音が通路内に反響していてあまり上手く聞き取れない。低レベルの気配察知スキルだとまず通用しないだろうな。


「……っと」


 足を止めて考えていると……ふと、落とし穴に気づく。

 あれは……角の目の前だな。他のトラップよりも少しバレやすくなっている。あれを見るに、『へっへー、これだけトラップ見てきたらもうバレバレだね! この調子だとこのままアジトまで――』とか、調子乗って油断したバカを角の向こうからざっくり行く寸法か。あるいは普通に落とし穴に引っかかった奴をざっくり行くか。いずれにしても殺意しか感じない。


「うし、それじゃあシロ。あの角のところにピンポイントで最高火力の『ライト』できるか? それはもうこの暗闇に慣れてる中、いきなり直視したら目がやられるレベルの。時間は一秒でいい」

「……?」


 彼女が不思議そうに手を構え、僕は瞼を閉ざして両手で覆う。

 ――次の瞬間。

 両手越しにもぴかっと光ったのが感じられ、同時に角の向こう側から『げへへ、早く来てみろ、来た瞬間にざっくり行ってやるぜ!』と血眼になって角の方を中止していた盗賊たちから悲鳴が上がる。

 光が消えて目を開けると。


「……! ……!?」


 何故か隣でシロもまた目を押さえてワタワタしてた。

 え、いや、なんで? なんでこうなるって分かっててこうなった?

『目が、目がああああああああぁぁぁ!?』と言わんばかりに狼狽えているシロをとりあえず放置し、僕はアゾット剣を抜きはなって角の向こうへと走り出す。

 落とし穴を飛び越えてたどり着いた先には、先程のシロ同様に両目を押さえて慌てふためく荒くれ者たちの姿があり、そんな彼らへと僕は笑ってこう告げる。



「さぁて、仕置きの時間だ、盗賊団」



 そう言って、僕はとりあえず手前の奴を水の中へと蹴り落とす。

 水の流れはそれなりに強いから、目がやられた状態だときついかもしれないが……まぁ、頑張れ! 応援してる!

 そんなことを考えながら、僕は次々盗賊達を水の中へと蹴り落とす。

 もちろん容赦など微塵もなかった。



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