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Silver Soul Online~もう一つの物語~  作者: 藍澤 建
二階層・マーレの街
79/89

《78》奪われた卵

間に合った!

 ――気がついたら、街中だった。

 片割れにはきょとんとしたシロが居て。

 僕は大地に横たわりながら、絞り出すようにしてこう叫ぶ。


「クッソ……、潰された!」


 プレイヤー名、ギン。

 二階層に来て初めての死に戻りは――涙の味がした。




 ☆☆☆




 周囲を見れば、なにやら股間を押さえ、内股になっている男性プレイヤーの姿が見える。

 この町の中心部。つまるところ死に戻りセーブポイントにいるってことは……まあ、彼らもそういうことなんだろう。その他にも胸を押さえて顔を真っ赤にした女性プレイヤーとかもいるが、彼女らはおそらくあの化け物に体を触られ、逃げた先でトレントに――って感じかな。

 まあ、とにもかくにも。


「おいコラ運営、二階層からハードル高すぎだろうが!」


 僕は叫んだ。

 叫ばずにはいられなかった。

 なにせ、この町に来てからというもの、遭遇してるのといえばナルシストギルドマスターに、体液ぶちまけるのが生きがいといわんばかりの昆虫芋虫の群れ。そして終いにはあの股間鷲づかみ化け物(気配なし)である。

 ……なあ運営、お前ちょっとアレじゃない?

 控えめに言って――僕のこと殺しに来てない?

 芋虫嫌いな僕のこと嫌がらせに来てたり、気配察知にかなり頼りっきりな攻略してる僕の弱点突いてきたり……なんだかダイレクトでピンポイントな悪意を感じるんだが。


「くっそ……死に戻りか。なくなってるアイテムとかはたいしたことないからよかったけど……」


 それに、あれだけ完膚なきまでにやられておいて、さっそく打開策が思いつくほど僕も全能、万能ってわけじゃない。死に戻ったせいでステータスも一時的にダウンしてるし……。ひとまずは打開策を考えることと、情報収集に努めること。その二つに専念しよう。


「それじゃ、シロ。早速情報仕入れに行ってくるか」


 言いながら、隣のシロへと視線を向ける。

 ――そして、ほんのり違和感を覚えた。


「…………な、なあ。シロちゃん」

「……?」


 僕の言葉に、彼女は不思議そうに首をかしげる。

 ……いや、ね?

 別にシロがまったく違う誰かと入れ替わってたりだとか。

 彼女の体に異変があるとか……そういうのじゃないんだ。

 ただ……その、なんていうか。


「――卵入ってるバッグ、最初からそんなに潰れてたっけ?」


 その言葉に、僕らの時間が凍りつく。

 彼女はしばらくの硬直の後、まるで錆び付いたブリキ人形のように『ぎぎぎ』っと自身のバッグへと視線を向ける。

 そこには、どういうわけかぺしゃんとしおれた、まるで『中身が入っていない』ようなバッグの姿があり、彼女は焦ったようにそのバッグを開けて――唖然とした。


「……嘘、だろ?」


 その光景には、僕も思わず声を漏らす。

 なにせ、つい先ほどまで――()()()()()()()()確かにそこに収まっていたはずの卵が。

 ラグビーボールほどもあった、騎獣の、卵が……!



「――な、なくなってる……!」




 ☆☆☆





「あ、あああああああアスパああああ!」


 その後。

 急いで情報屋へと駆けこんだ僕が見たのは、大量の人ごみだった。

 そこには顔を真っ赤にしたり、股間を押さえたり、怒りだったり羞恥だったりに顔を歪めたプレイヤーたちが大勢おり、彼ら彼女らの視線の先には困惑したように顔をこわばらせる情報屋――アスパの姿があった。


「ちょ、ちょっとどうなってんのよ! 私の武器、死に戻りしたら無くなってたんだけど!」

「武器って装備してるやつは死に戻っても無くなんないはずだろう!」

「というか俺、持ってた騎獣の卵無くなっちまったんだけど……!」

「なあ情報屋! どうなってんだよ今回のイベントはぁ!」

「ふざけんなよ! 俺の騎獣の卵もなくなっちまったんだけど!」

「僕も僕も! ふざけんなよ情報屋! この年齢不詳のロリが!」

「ちょ、ちょっと待ってよ! というか最後の言ったの誰! 十中八九ギンくんでしょ! 私に責任擦り付けないでよちょっとねえ!」


 そんな声が聞こえてくるが、たぶん気のせいだと言ってやりたい。

 叫んだアスパは人ごみの中に飲まれて姿は見えない。

 しかし……話を聞くに、僕以外にも騎獣の卵をスられた奴がいるのか。

 そうなるとアレだな。騎獣の卵が基本的にドロップしてしまうアイテム扱いと考えていいのか、あるいは今回のイベントに限りそういう感じになっているのか……。

 いずれにしても、現状はこれがベーシック。

 なら。


「……自力で、取り戻すしか……」


 呟き、拳を握る。

 こういう時に味方になってくれるプレイヤーなんていない。

 だって、他のプレイヤーたちと友好関係なんて築いてないし、NPCにしたってこの街の人たちは未だ僕を吸血鬼としてしか見ちゃいない。

 一階層ならまだしも……この階層で救援は望めない。

 つまるところ、行き着く結論は変わらない。


 ――自力で、取り戻す。


 果たして落としたアイテムが残っているのか。

 システム的にどうなっているのかは、分からない。

 もしかしたらそういうシステムで、死に戻りで失ったアイテムは何処にも残ってないのかもしれない――が、運営のことだ。可能性は残ってる。

 しかも今回のイベントは、盗品探し。

『死に戻ったプレイヤーは、魔人ヒテルスにアイテムを盗まれる』とか。

 そういう可能性だって、残ってる。

 なら。


「……シロ、バッドステータスが戻るまで、考えるぞ」


 打開策は浮かばない。

 そも、情報が少なすぎるから。

 だから、バッドステータスが解けるまで、情報収集と現状打破の秘策を考える。

 霧の森。

 木に化けて襲い掛かるトレント。

 そして、気配無く急所を狙い撃つ化け物。

 ……正直、今までになく難しいステージになるだろうが。



「――いいね、久しぶりに燃えてきた」



 拳を握り、大きく笑う。

 何処に打開策があるかなんて知らないが――見つけ出してやる。

 どんな手を使ってでも、解決し、攻略して――


「待ってろ卵、今取り戻す」


 近くをすれ違ったプレイヤーが、恐怖に顔を強張らせてた。


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