《75》騎獣
アイデア枯渇……っ!
すいません、今月は一話投稿です。
――騎獣。
ソレは従魔とは似ているようで明らかに異なるものらしい。
まず一つ、パーティ枠を消費しない。
ソレは僕のようなソロプレイ(というか嫌われててパーティプレイとかまず不可能)勢からすれば大したことはないが、対してパーティプレイ勢からすれば喉から手が出るほどに欲しい存在だと思う。
次に二つ、経験値が分散しない。
これはもう皆が皆歓喜モノのシステムだろう。
騎獣のレベルはその主であるプレイヤーのレベル『マイナス五』で固定される。
だからこそ騎獣を成長させるにはまず自身のレベルを上げなければいけないわけで、逆にレベル五以下――つまり誰かに寄生して二階層にたどり着いたプレイヤーからすればどれだけほしくても手に入らない存在でもあるわけだ。
ま、それ以外は基本的に従魔と同じように体に収納するのも可能だし、同じようにご飯も与えないといけないみたいだが――
「ま、ここから先は騎獣なしじゃ、多分まともに冒険することもままならないと思うよ。見たところ君は騎獣を持っていなさそうだったら、一番狭い森の主を討伐してくるようお願いしたんだけれど、正直それ以外の場所は始まりの街周辺のエリアよりもずっと広いんだ」
珍しくマトモな事言ってるギルドマスターの言葉に耳を傾けながら考える。
正直、全くと言っていいほどに情報がないからなんとも言えないが、たしかに一階層程度の広さならそれほど時間をかけることなく階層ボス戦にまで達してしまいそうな予感がある。
逆に、一階層よりもさらに広いステージが待っているのだとすれば、それはその分攻略速度が遅くなり、長く楽しめることになる訳だけど、逆に移動するのに時間がかかりすぎて『ハッ、やってられっかよこんなゲーム!』みたいな事にもなるかもしれない。
「騎獣……ねぇ?」
チラリと白の方へと視線を向ける。
すると全く話に興味が無いのか、グリフォンの肉に思いを馳せて涎を垂らしている彼女の姿がある。……うん、たしかに冒険先でお肉とか入手した際、帰りが徒歩だと『遅いっ!』みたいな感じで駄々こねられそうな予感がするな。
「ということで、君には竜から蛇からミミズまで、何が出るか全くわからない騎獣屋において、特別にどんな種類の騎獣を召喚するか、選択できるチケッツを上げることにするよ!」
そんなギルドマスターの声が響くと同時、頭の中にクエスト達成のインフォメーションが鳴り響く。
たしかに騎獣を召喚しておいて、いざ出てきたのがムカデとかだったらまず間違いなくこのゲームほっぽり出す自信あるしな……。
「分かったよ、助かるギルマス。それで件の騎獣屋って言うのはどこにあるんだ?」
そう問いかけた僕に、ギルマスはフフンと得意げに笑ってその場所を口にした――
☆☆☆
――の、だが。
「騎獣屋、始めました」
「……お久しぶりです」
目の前でニヒルな笑みを浮かべてそんなことを言い出したのは、顔に痛々しい傷跡のある巨漢だった。
その姿は正しく『荒くれ者』と言った感じだが、僕は既にこの巨漢を知っていた。
というのも、この男――アレクは、他でもない従魔屋で店主をやっていた男……というか、やっている男なのだから。
「……なに、最近じゃ従魔も売れ行きが悪くなってきてな。それなら心機一転、従魔の他にも『騎獣』なんてのを仕入れてみたわけだ」
「……なるほど」
確かに従魔って一時期はかなーりフィーバーしてたみたいだけど、新規プレイヤーはあんまり仲間にしてる雰囲気ないもんな。
そう、改めて一階層『はじまりの街』へと戻ってきた僕は、従魔屋兼騎獣屋の窓の外から一階層の町並みを見つめてみる。
するとチラホラとは従魔の姿も見当たるのだが、そこらじゅうに姿の見える新規プレイヤーの総数から考えると、あまり『流行ってる』とは言えないだろう。
「で、兄ちゃん。今日は騎獣屋に御用か? 前のヴァルキリーとも上手くやってるみたいだし、兄ちゃんにならそれなりに融通聞かせるぜ」
「助かります。……あ、それとこれ、マーレの街のギルドマスターから」
言いながら彼へとギルマスからのチケットを手渡すと、彼は小さく目を見張り、けれどもすぐに頷いた。
「……なるほど、あいわかった。それじゃあ特別に召喚するヤツの種類……っていうのか? どんなヤツが欲しいとかあったら聞くぜ、兄ちゃん」
その言葉が響き――次の瞬間、目の前に透明なウィンドウが浮かび上がった。
驚いてみれば、そのウィンドウには無数の選択肢が浮かび上がっており――
───────────
→犬系統
→猫系統
→馬系統
→鳥系統
→牛系統
→羊系統
→猪系統
→魚系統
→鯨系統
→死霊系統
→竜系統
・
・
・
───────────
――と、まあ。
その他にも諸々と。
正直、目を通すだけでもやっとな名簿がそこには記されており、それらを見つめ、思わず引き攣った笑が漏れる。
もちろんその中には――
───────────
→虫系統
───────────
なんてくそ喰らえな項目もあったりして、これは本格的にギルマスにお礼でも言っとかなきゃまずいかなと思ってしまう。
「これは……説明とかって」
「……ま、そこら辺は兄ちゃんのフィーリング任せだな。ヒントとしては狼だったら犬っぽいし、ライオンや虎だったら猫っぽい。イルカもなんとなーく鯨の仲間っぽい。そんな感じだ」
「なんというテキトーな……」
言いながら、顎に手を当てて呻く。
この中で一番『これじゃね?』って思うのはまず間違いなく『竜系統』とかいう奴だろう。ファンタジーといえば竜、竜といえばファンタジー。正直な話、心の中の少年の部分がその項目を選べとうるさいくらいに叫んでくる。
と、それと同じくらい目に付いたのが『死霊系統』。
死霊といえば、なんとなーく『陽の下では弱体化してしまう』という雰囲気はあるが、その代わり夜なんかだと通常の騎獣に輪をかけて強そうな感じもしなくもない。
他でもないこの僕が『月の加護』とかいう称号を持ってることもあり、どんな死霊になるのか分からないためかなりリスキーだが、その分ハマればかなり上手くいく選択肢だろう。
他にも『テイム系モンスターといえば【ウルフ】だろ!』みたいな感じもしなくもないし、ライオンとかに乗って草原とか駆け抜けてみたい感じもする。
逆に牛とかはタフネスさとパワーを兼ね備えているためにかなり強そうだと思うし、他にも魚系統、鯨系統なんかは水辺のステージにおいて他よりも随分と楽な移動を約束してくれるだろう。
「うーん……」
そう言いながら、顎に添えていた手を離す。
――そんでもって、あんまし迷うことなく『馬系統』をクリックした。
「……おぅ?」
僕の視線が竜系統と死霊系統の間で揺れ動いていたのを察していたか、アレクが驚きに声を漏らした。
顔をあげれば、彼は『本当にそれでいいのか』と言わんばかりの微妙な表情を見せており――
「……ここだけの話だが、竜系統、死霊系統なんかは召喚確率が一パーセント未満の超激レアな騎獣だぞ? 大して馬系統は……正直、犬と猫に次いでありふれてる感じだしな」
一パーセント未満。
そう聞いて、何だか『星5確定10連ガチャ』を前に普通のガチャを10回単発で回そうとしているような、なんとも言えない勿体なさを感じてしまったが、だがしかし。
「……いや、ドラゴンとか死霊とか、明らかに移動ってよりはバトル寄りの騎獣でしょう?」
確かに強そうだし、いざ仲間になるのだとしたら、それらはきっとかなり戦闘において貢献してくれることだろう。
が、明らかに操縦が難しそうな上に落ちたら墜落死間違いなしのドラゴンだったり、骨とか腐肉でそもそも乗れるのかよく分からない死霊だったりは、正直な話『騎獣』の本質からは大幅にズレていると思うのだ。
だからこそ、ここはベーシックに行こうと思う。
「僕が欲しいのは、あくまでも戦う仲間じゃなく、僕らを補助してくれる仲間ですんで。ここは素直に【馬系統】でお願いします」
そう告げた僕を前に、アレクは小さく目を見開く。
されどすぐに口元に笑みを浮かべると、ニヤリと楽しげに顔を歪めてこう告げる。
「――了承した。どんなヤツが召喚されるかは分からんが、後悔だけはしないようにな。兄ちゃん」
その言葉に、僕は迷いなく頷いた。
しかしながらその反面、内心の奥底では未だに『竜系統』に憧憬を抱く少年の心が、悲しいくらいに慟哭を漏らしていた。
 




