《72》第二陣
すいません遅れました!
――それは、単なる悪ふざけから始まった。
最近巷を賑わせている一人のプレイヤー。
そいつが始めたのは、他のプレイヤーからすれば喉から手が出るほどに欲しいようなレアアイテムばかりが揃っている一つの出店。
されど設定されている値段は正しく『ぼったくり』。こんなにも正々堂々とぼっくる奴が現実に存在するのかと、そう思えるほどの馬鹿げた金額。
目の前にある、にも関わらず手が届かないという陰湿な『嫌がらせ』に苦渋を舐め、血涙を流したプレイヤーたちのもとへとインフォメーションが鳴り響く。
曰く、二階層のボスが攻略されたと。
それを聞いて彼ら彼女らは確信する。
ああ、またこの出店に新たなアイテム入荷されるのか、と。
どうしようもない諦念に乾いた笑みを浮かべ、今日も今日とて無表情に出店でジャ○プ読んでる受付嬢を眺めていた彼らは―へと―
『ポーン! これより【Silver Soul Online】、第二陣の正式サービスが開始されます。始まりの街は大変混雑すると予想されますのでご注意ください』
新たに、そんなインフォメーションが響き渡った。
☆☆☆
《ポーン! エリアボス・グリフォンを討伐しました。2500経験値を獲得しました》
《ポーン! レベルが上がりました》
《ポーン! MVP討伐報酬を受け取りました》
《ポーン! ソロ討伐報酬を受け取りました》
《ポーン! 初討伐報酬を受け取りました》
《ピコンッ! 第二回層の東のエリアボスがプレイヤーによって討伐されました。よって、現時点でのリザルト集計結果を発表します。メールボックスからご確認ください》
そんなインフォメーションが鳴り響き、僕は青いポリゴンとなって消えていくグリフォンを眺めていた。
「……うん、その、なんだ。この力使うもんじゃないな」
言いながら思い出すのは先ほどの瞬殺劇。
多分その理由の一端に『グリフォンの弱点が火属性』みたいなのもあったのだろうが、それを抜きにしてもあまりある攻撃力、破壊力。
それはさながら白虎の咆哮のようで、これ使ってたらまず間違いなくこのゲームがチンケなものに成り下がる。そんな予感がしてならなかった。
「……!」
ふと視線を感じてみれば、そこには期待に胸をふくらませながらこちらを見上げるシロの姿があり、彼女の姿に『お肉はないだろ』と苦笑しながら頭を撫でる。
まぁ、とりあえずボス攻略完了、ステータスに関しては――
【name】 ギン
【種族】 吸血鬼族
【職業】 盗賊
【Lv】 13(↑1)
Str: 19 +26
Vit: 13 +7
Dex: 16 +2
Int: 13
Mnd: 13
Agi: 58 +9 (↑3)
Luk: 24 +10
SP: 0
【カルマ】
-73
【アビリティ】
・吸血Lv.1
・自動回復Lv.2(↑1)
・夜目Lv.4
・モンスター博士
・執念
【スキル 6/6】
・中級剣術Lv.3
・隠密Lv.9
・気配察知Lv.9(↑1)
・心眼Lv.4(↑1)
・中級魔力付与Lv.3
・軽業Lv.9(↑1)
・危険察知Lv.7(↑1)
・糸操作Lv.5(↑1)
【称号】
小さな英雄 月の加護 孤高の王者 最速討伐者 ウルフバスター 生への執念 白虎の加護
【魂の眷属】
・従魔:ヴァルキリー
──────────────
【name】 シロ
【種族】 ヴァルキリー
【職業】 選定者
【Lv】 12(↑1)
Str: 33 +10(↑2)
Vit: 20 +20(↑1)
Dex: 11
Int: 19
Mnd: 13 +20
Agi: 18
Luk: 11
SP: 0
【好感度】
+43
【アビリティ】
・死の選定Lv.2
・素手採取Lv.3
【スキル】
・下級槍術Lv.7(↑2)
・下級盾術Lv.2
・気配察知Lv.6(↑1)
・見切りLv.7(↑1)
・下級光魔法Lv.4
もちろん極振り、迷うことなど微塵もない。
シロに関しちゃちょいと迷うが、それでも彼女が指さした欄へとステータスを振って即完了。問題なく脳筋へと育ってきた彼女である。
で、今回のドロップアイテムの方なのだが――
――――――――
[ソロ討伐報酬]
風鳴の弓 ランクB+
グリフォンの力が宿りし属性弓。
放つ矢に風属性を付与することが出来る。また、風の力により様々な補正がかかっている。
耐久度 150/150
風属性、自動修復、命中率補正、射程補正
[MVP報酬]
グリフォンの肉
グリフォンの肉、部位はご想像にお任せ。
とりあえず美味い、かなり美味い。
――――――――
――なんと、MVPにお肉が来てた。
途端、目をキラッキラと輝かせて僕のローブを引っ張り出すシロ。脳筋ステータスにものを言わせてぐいぐいぐいぐい、もはや引く様子が微塵も見えない彼女の姿に苦笑しながら、とりあえずそれ以外の報酬にも目を通す。
……ん? 初回討伐報酬はって?
まぁ、アレでしたよ。確かに貰いましたけどそれはまた別のところでお話しよう。
「ま、今はそれよりも――」
言いながらイベントリを閉ざすと、先ほどのインフォメーションに重なって響いた一つのメールを開封する。
――――――――――
これより【Silver Soul Online】、第二陣の正式サービスが開始されます。
今回発売されたソフトは合計で30000台。
それと同数か、それに匹敵する新規プレイヤーが始まりの街に集結いたしますので、始まりの街をメインにプレイしている方々は混雑にお気をつけください。
また、新規プレイヤーへの特典として、Lv.7までの間に獲得する経験値が二倍、また課金アイテムの追加を行います。
課金アイテムにつきましては全プレイヤーが購入できますので、それらを有意義に使って他のプレイヤーと差をつけ、ゲームに役立てて頂けますと幸いです。
加えて新しいシステムとして、相手プレイヤーのアイコンを凝視することで相手の名前、レベルを確認できるようになりましたので、今まで以上にゲームをお楽しみいただけると思います。
――――――――――
「第二陣……ねぇ」
第二陣、つまるところ新規プレイヤー。
正直な話、シロと数日間攻略しなくで攻略組の最前線言ってる僕と、今から一階層の攻略を始める新規プレイヤーが関わりあいを持つだなんて考えられないし、というかあんまし興味もないし。
強いて言うなら始まりの街の『二号店』、あそこはほんのり怪しいが、それでも僕がアイテムを卸しに行ったその時、その瞬間に新規プレイヤーと関わってしまう、なんてこともないだろうし。
「ま、どうでもいっか」
言いながら僕は歩き出す。
肉をくれとこちらを見上げるシロをスルーしながら、とりあえず料理担当キャストさんを探すついでに、今回入手したグリフォン素材を『二号店』に卸すべく、目指す先は一階層『始まりの街』。
混雑してるってのはちょっとめんどくさいが……まぁ、チョチョイといってすぐ帰ってくれば問題あるまい。
そう、楽観的に考えた僕を――
☆☆☆
どうしようもなくぶん殴ってやりたくなる。
そう、数十分前の自身に対して拳を握る僕は、目の前に広がる光景に思いっきり頬を強ばらせていた。
場所は一階層、始まりの街。
今の二階層組がこの階層をメインに攻略を進めていた頃、つまるところ一週間前くらいを彷彿とさせるような混雑っぷりに苦笑いしながら、シロの手を引いて二号店の方へと歩いていた僕は、その目的地にて思わず足を止めてしまい、響く怒声と鋭い毒舌に思わず頬を引き攣らせる。
「おいコラ! NPCが口答えしてんじゃねぇぞ! 俺らはさっさと攻略組に追いつかなきゃなんねぇんだよ!」
「……はぁ、よく分かりませんが、どうぞお好きに」
「……っ! だ、だからアイテムよこせってんだろうが!」
「いやいや、アイテムなら売ってますでしょう。お金を入れて手に取ればいいだけの簡単仕様。私に声をかける必要もない、それこそ猿でも分かる…………ああ、それ以下でしたか、すいません」
「な、んだとコラァ!」
一方的な言葉の暴力に思わず額を押さえながら、とりあえずジャ○プ読んでるだけとはいえ店員を守らないわけにも行かず、「はいはい失礼しますよー」と人混みをかき分け歩き出す。
野次馬たちは僕へと一瞬訝しげな視線を送ってきたが、ちらりと僕の頭上を見上げて限界まで目を見開いてゆく。
「お、おいあれ……!」
「れ、Lv.13……!? 攻略組じゃねぇか!」
「ちょ、ちょっと待て! 攻略組の最前線でもLv.10くらいだぞ! Lv.13って……、一体どこのクランの奴だよアイツ……」
そんな声が聞こえてきて……なんか面倒事が起こりそうな予感にさっさと終わらせて帰ろうと心に決める。そういや新しいシステムがどうのこうの言ってたもんな。
見れば前方には言い争う男性プレイヤーと見覚えのあるギルド職員の姿があり――
「なぁアンタ、なんか不満あるなら僕が聞こうか」
「あァ? なんだテメェいきなり……ッ!?」
不機嫌そうに僕を振り返り、他のプレイヤーたちと同じように名前アイコンを確認した彼は目を大きく見開いた。
けれどもすぐにニヤリと口元を歪めると、彼は勢い増して二号店のカウンターでジャ○プ読んでる受付嬢――アリアさんへと哄笑を漏らす。
「誰だかしらねぇがありがてぇ! おいコラNPC、Lv.13の攻略組から聞きたいことがあるんだとよ!」
その言葉に一瞬困惑して、すぐ気がつく。
僕はアリアさんに何か言いたいことあるなら僕が聞くけど? 的な脅しっぽい意味合いで使ったわけだが、けれども彼は僕の言葉を『何かこの店に言いたいことあるなら僕が代弁してやろうか』的な意味に受け取っちゃったらしい。いやはや難しいね日本語って。
言いながら「なんですか面倒臭い」とでも言いたげなアリアさんへと視線を向けると、ニタニタと笑みを浮かべるそのプレイヤーを前に。
「はいアリアさん、グリフォンの素材とってきたよ」
「あ、それじゃあ価格設定最大限で売っておきますのでさっさとコレどうにかしてください。うるさすぎて僕らのヒーローアカデミーの映画見に行く時間もありません」
「いやそれ関係ない……ってあれ映画化したの!?」
そりゃあ数年前から異世界行ってた僕が悪いけど、何それ普通に初耳なんですけど。
そんなことを思いながら背後を見れば、そんな会話をした僕らに彼……どころか周囲にいる人々もまた先ほどとは違う意味で硬直しており、そんな彼らを見渡し、僕は苦笑を漏らしてこう問いかける。
「すいません、僕の店に何の用でしょう」
我ながら、あんまし良くないファーストコンタクトである。




