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Silver Soul Online~もう一つの物語~  作者: 藍澤 建
二階層・マーレの街
69/89

《68》山頂へ

どうも。

最近『コンビニのジュースってガソリンの二倍近い値段してるんだな……』と気が付き、即日水筒を購入した作者です。

とりあえず一話、明日もう一話出します。

「このクエストは諦めよう!」


 元気よく告げた僕の言葉に、シロが愕然と目を見開いた。

 このクエスト――つまるところ初期のアーマー君を彷彿とさせるようなあのナルシストギルドマスターから受けた『Sクエスト』、グリフォンの討伐である。

 まぁね? 僕にかかればグリフォンだなんてちょちょいのちょいだよ。もう縛りプレイでもなんでもかかって来いって感じの相手なんだよ。そうに違いない。

 が、流石にちょっと……その、あの、道中がね?

 道中がもうちょっとインセクトしてなかったら僕としても楽っちゃ楽だったんだけれど。

 流石にインセクトたちがパーリーしすぎてたっていうか、具体的に言うと僕、昆虫苦手って言いますか。


「……昔からお化けと昆虫だけは無理なんだよな」

「……!?」


 僕の突然のカミングアウトに、恐らく今までで『とりあえず性格クソだけど負けそうには無いでしょこの男』みたいなことを思っていたのだろう、シロが呆然とその場に立ち尽くし、その姿に思わず苦笑が零れた。

 正直な話アレですよ。完璧超人なんてこの世界にはいないんですよ。何かしら苦手なものがあって、トラウマがあって、弱点がないと人間って呼べないんですよそれ。

 たまにラノベの主人公である『頭脳明晰、運動神経抜群の完璧超人、あとイケメン』みたいなやつだって、案外心の中では『お虫怖いよぉ……』みたいなこと思ってるんですよ。僕みたいに。


「シロも将来選ぶとしたら、イケメンじゃなくフツメンにしろよー。イケメンは謎に自分の弱点隠してイキってるだけだからな」

「……!」


 僕の言葉にはたと目が覚めた様子の彼女はコクリと素直に頷くと、町中を歩く僕の隣へとたたたっと駆け足で寄ってくる。

 ぎゅっと僕の手を握った彼女の姿にほんのりインセクツにやられた心の傷が癒されるのを感じながらも、そろそろ逃避していた現実へと意識を持ってくる。

 ぶっちゃけた話、流石に『よし逃げよう!』ってわけには行かないと思う。

 じゃないとこの先、『ギン? あぁ、あの幼女とお化けと昆虫与えときゃとりあえず倒せる雑魚野郎だろ?』みたいな印象が延々とついて回ることになる。それはいけない。


「……ま、解決策なんてとっくに分かってるんだけど」


 言いながらも胸元のネックレスへと視線を落とす。

 聖獣白虎の力をそのまま使用できるこのネックレス。

 まぁ、近距離位置変換こそ使うことは出来ないけれど(多分あの力が使えてたらゲームバランス崩壊すると思う)、それを抜きにしても圧倒的なまでの能力が、このネックレスには眠っている。

 故に、これを使えば虫の大軍の一つや二つ、簡単に打倒することが出来る――のだが。


「……」


 視線を感じて隣を見れば、ありありと不安を瞳に宿したシロが僕のことを見つめており、その姿に思わず苦笑してしまう。

 いやはや、自分で言っておいてなんだけれど。僕が彼女に示せるとしたら強さだってことは明白だ。

 それ以外じゃ反面教師もいい所。性格顔面生活態度、あらゆる面において僕はあんまり優れちゃいない。

 故に、ここで強さまで彼女に見限られてしまったら、とうとう彼女に誇れる部分がなくなってしまう。それはいけない。


「……はぁ、二度と行きたくもないんだけれど」


 言いながら、僕はふっと立ち止まる。

 シロが少し驚いたようにこちらへと視線を向けてくる中、僕は来た道を振り返って口を開く。


「あの虫、爆発して体液撒き散らすのは半径三メートル、って所だったよな」


 半径三メートル。相手の命を刈り取った時点でその範囲内に居れば今回の二の舞になることは間違いなく、虫の体液を体に浴びてもなお正気でいられる――だなんてことはありえない。


 故に、結論――




 ☆☆☆




「遠距離から、一匹残らず叩き潰す……ッ!」


 シュンッ、と魔力を帯びた矢が放たれる。

 それは森の中、木々の隙間を縫うようにして飛翔し、百メートル先の虫の頭を穿ち、貫いた。


『――ピィ……ッ』


 か細い断末魔が響くと同時、『ぐちょべちゃあっ』と気色の悪い音を立てて周囲へと体液をまき散らす芋虫。まじきもい。

 まぁ、木々の隙間からほんのり見えてるだけだからまだマシだが、それにしたってこの森はプレイヤーを精神的に殺しに来てるとしか思えないな。

 言いながらも芋虫の死体のある場所へとやって来ると、事切れた芋虫が青いポリゴンになって消えていくのが視界に入る。


 ――僕の立てた対処法。


 それは三メートル以内に虫を一切入れず、遠距離から圧倒的火力を持って進行方向の敵を殲滅する、と言ったものだった。

 まぁ、良くいえば単純明快。悪くいえば脳筋の所業。

 いずれにしても現状できることは限られていて、強すぎる力でのゴリ押しは遠慮したいという気持ちもある。そんなことしたって面白くもなんともないしな。

 なればこそ、対処法も限られてくるというもので。


「シロ、回り道せずに真っ直ぐ山頂まで駆け抜けるぞ。進行方向上の敵は全部屠るから気にすんな」


 言いながらも弓に矢を番えて――撃ち放つ。

 ビィンと僅かな弦の音を残して虚空を走った矢は、十数メートル先の木の影から『はいっ、ひょっこり○んっ』とばかりに顔を出した芋虫の顔面を撃ち抜いた。

 倒れゆく芋虫に心の中で『ナイスひょっこり〜』と声を上げながらも、背中の矢筒から二本まとめて矢を引き抜いた。


「……」


 僕の言葉を聞いて、どこか『やっと本気になったか、これだからスロースターターは疲れるぜ』みたいな雰囲気をまとわせたシロは、背負っていた槍を構えて走り出す。

 その歩みには一切の迷いはなく、前から思ってたけど僕、なんだか信用されすぎじゃない? と苦笑しながらも前方へと向けて矢を二本打ち放つ。

 同時、木の影からひょっこり現れる芋虫二匹。

 その二匹の額へと寸分違わず吸い込まれていった矢はそれぞれの頭部を貫通し、悲痛な断末魔と共に二つの体が破裂する。


「……!?」


 おそらく彼女もそれらの気配には気がついていたのだろう、槍を投擲しようとした姿で硬直した彼女は一瞬、僕へと恨みのこもったような視線を向けたが、すぐにぷくっと頬を膨らませて走り出す。

 けれどもその後ろ姿は少しだけ嬉しそうでもあり、なんだか娘から期待されるお父さんってこんな気持ちなのかな、とか思いながらも、彼女に続いて走り出す。

 まぁ、僕が虫嫌いなことには変わりない。

 ぶっちゃけた話、虫なんて近寄りたくもないと思うし、何なら『今この瞬間、地球上に存在する虫という虫が燃え尽きたりしないかな』とか思った回数だって数しれない。

 だから、このステージだってもしも自分一人で挑んでいたのだとしたら、きっとさっき街まで戻ったタイミングで完全に諦めていただろう、そう思う。

 そして、そんな推測が出来るからこそ、こうも思う。


「……やっぱり完璧超人なんているはずも無い、か」


 そう呟き、僕は再び矢を番える。

 どれだけ強くても、どれだけ一人に慣れてても。

 やっぱりどこかで、壁にぶつかる。

 一人で生きるには、限界があるのだと。

 そう、前の世界で学んだことを思い出し、僕は一人苦笑した。




 ☆☆☆




 数十分後、僕らは山頂にいた。

 ……ん? 道中?

 いやいや聞かないでおくれよ。

 いやだって、まさかカブトムシまで倒したら爆発するとか思わないじゃん。

 カブトムシの幼虫が足元からひょっこりしてくるとか思わないじゃん。限界まで気配を遮断して木の上から降り注いでくるとか思わないじゃん。

 とまぁ、色々と予想外に見舞われた結果、やっぱり虫の体液まみれになった僕らは、近くにあった川に飛び込み、互いの体中に付着していた奴らの体液を洗い流して今、山頂に立っていた。


「……」


 ここはモンスターポップの溢れる森の中。装備を外して乾かす、なんてことが出来るはずもなく、髪や装備からポタポタと水を滴らせるシロは、目の前の真っ赤な結界を見てぎゅっと槍を握りしめた。

 ――ボスエリア。

 つまるところ、例のSクエストの討伐対象のいると思しき場所である。

 視線の先――結界の中は遮蔽物のない、山頂に広がる大きな広場が広がっており、その中に奴の姿は見当たらない。


「……シロ、今回の奴は白虎よりは強くないとは思うけど……たぶん、ミノちゃんと同じくらい強いからな。やばいと思ったら深追いするなよ?」


 一階層の北で戦ったミノタウロス――通称ミノちゃん。

 何だかんだで僕のことを一番追い詰めた難敵。

 短剣使いに因縁でもあるのだろうか、とまで思えるあのミノちゃんよりも、多分今回の敵は強い。

 故に彼女へと注意を促したわけだが――


「……!」


 見れば彼女の瞳は決意に揺れていた。

 その瞳を見て思い出すのは、白虎戦。

 止まる気がないと言わんばかりに白虎へと突っ込んでゆき、そして見事に一突き浴びせてみせた。

 ……今の彼女を言い表すとしたら『危うい』だろうか。

 どんな敵にすら突っ込んでいってしまうような危うさがある。だからこそ保護者としては止めるべきなのだろうが――


「まぁ、大丈夫か」


 言いながらも、弓を返還してアゾット剣を呼び出した。

 ここは現実にほど近いけれど、それでも所詮はゲームである。

 死んだらそこで全てが終わり、というわけでは決してなく、たとえ死んだところで次がある。一度の失敗が最後になる可能性が、全くと言っていいほどに皆無な世界。

 なら、ちょっとくらいのやんちゃっぷりは見逃してやろう。

 それになにより、僕がついてる。


「それじゃあシロ、さくっと行こうか」


 十中八九『さくっと』だなんて行かないだろうけれど。

 それでもあえてそう言ってのけた僕は、彼女を引き連れ赤い結界の中へと足を踏み出す。


 さぁ、VSグリフォンの開幕だ。




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