《67》蟲
本日二話目!
ちょっと短いかもです!
空の王グリフォン。
獅子の体に鷹の顔を持つ有名な魔物であり、空を駆け、風を操り、尽くを打ち倒すその姿は正しく空の王。
まぁ、近頃の若者からすれば『空の王とかリオ○ウスに決まってんじゃんマジ卍〜ww』みたいな感じかもしれないが、そんな奴らには『おいお前らグリフォンみて同じこと言えんのかコラ』とでも言ってやりたいくらいである。
「ちなみに『マジ卍』の意味は知らない」
「……?」
僕の言葉にシロがこてんと首を傾げた。
アレだな、シロにはいつの日かちゃんと自分の声で喋ってもらいたい僕だけれど、だからといって『マジうけるんですけど〜、マジ卍〜!』とか言い出したら、多分僕一秒と経たずに泣くと思う。
「とまぁ、それはそれとして――」
言いながらも立ち止まると、目の前の巨大な山へと視線を向けた。
なんとまぁ、見上げると首が痛くなるほどの青々とした山がそこにはそびえ立っており、ミノちゃんとバトった山道のようなわかりやすい『道』はどこにも見えず、あったとしてもそれはおそらく獣道だろう。
ということで現在位置、二階層マーレの街、東ステージ。
やっぱり最初は一番難易度の低い南からクリアして行ったほうがいいのかな、とは思ったけれど、あのギルドマスター曰く『迅速な対応は評価高いよ〜』との事だったので、南を飛ばして東ステージへと参った次第である。
「さて、と」
言いながらも周囲を見渡すと、それなりにプレイヤーの姿がチラホラと見えている。
いきなり南を飛ばして東に来ている奴らだ、それなりの実力者なのだろう。白虎戦で見た顔が数人いたため軽く会釈しておくと、同じような会釈が返ってくる。
かくして改めて森の中へと視線を向けると、膝丈まで伸びる草木に鬱蒼と生い茂る幹の太い木々の数々。
まずリーチの長い武器じゃ圧倒的に不利。おそらくシロの慎重に合わせた槍で何とかぎりぎり戦えるかどうか、と言ったレベルだろう。
これは人を選ぶステージだな、とか思いながらもシロへと視線を向けると、むふーと鼻息荒く槍を抱きしめている彼女と視線が交差する。
「それじゃ、準備はいいか?」
「……!」
元気いっぱいにサムズアップしたシロの頭をくしゃりと撫でると、腰の短剣へと手を添える。
さて、色々遅れちゃって、もしかしたら僕の知らない間にボス攻略が済んじゃってる所とかあるかもだけど。
とりあえず東、目指すはグリフォン。
「さ、今回のはガチで難関だぞ……」
そう苦笑混じりに呟いて、僕は森の中へと歩き出す。
あわよくば、シロがお気に召すような食料系の魔物が見つかりますように、と。
心の中で願いながらも。
☆☆☆
『キュピイイイイイイイイイッ!!』
甲高い鳴き声が轟いた。
ぐちゃねちゃぁ、と言った具合に崩れ去るその肉体を見て思わず口元を押さえた僕は、一拍遅れて青いポリゴンになってゆくその死体に運営側のあまりある悪意を感じてならなかった。
「……これは酷い」
「……!」
僕の声に槍を油断なく構えたシロが周囲を見渡し、ぎゅっと僕の背中に背中を合わせた。
見れば周囲には……いや何でこうなったのか分からないけど、僕らを囲むモンスターの群れが存在しており、それらの構成メンバーを見渡して思わず顔が苦悩と嫌悪にぐにゃりと歪んだ。
―――――――――――――――――
粘着芋虫
脅威度C-
―――――――――――――――――
デカカブトの幼虫
脅威度D+
―――――――――――――――――
コーカサスオオクワガタ
脅威度C+
―――――――――――――――――
「ねぇ、これ確実に虫嫌いのヤツ殺しに来てない?」
かくいう僕も……その、それなりには虫が嫌いだ。
苦手というかなんというか……気持ち悪いというか。
通常サイズならまだ何とかなるかもしれないが、その、ここまで巨大な芋虫だったりカブトムシの幼虫だったりよく分からない大きなクワガタだったり。
こういうのを前にすると……その、ものすごーい勢いで胃の奥からせり上がってくるものがある。
「……シロは大丈夫か?」
「……?」
僕の言葉に意味がよくわからない、とばかりのシロ。
もしかしてシロはアレか。どんなに気持ち悪い生物も可愛い顔して触っちゃうタイプの女の子か。
どうしよう、家に虫とか出たら対処できないタイプだから一家に一人は欲しいくらいの感じなんですけど。
そう言いながらもぐっと指を引いた僕は、同時に指先から出ていたワイヤーが視線の先のデカカブトの幼虫の首を締め上げ、同時に甲高い悲鳴が溢れた。
『キュピイイイイイイイイイイイイ!?』
ぐちょべちゃぁっ!
瞬間、断末魔の悲鳴とともにデカカブトの幼虫の体が内側から弾け飛び、びちゃりと頬にかかったよく分からない液体に思わず顔色が青を通り越して白に突入する。
「ぎゃあああああああああ!? ちょ、な、何これ! 今なんか顔にかかったんですけど気持ち悪いっ! ちょ、シロ僕のほっぺた何かついてない!?」
「……、……?」
しゃかみこんで彼女へと顔を差し出すと、彼女は少し照れたように頬を朱に染めながらも僕の頬へと手を伸ばして――
――ねちょぉっ。
そんな効果音が響きそうな感触に、シロの手につままれたデカカブトの幼虫の顔面の破片に、思わず声にならない悲鳴が漏れる。
「ぅぁぁぁぁぁ! ああああああああ!?」
ただ純粋に気持ちが悪かった。
というか、普通に吐きそうだった。
思わず近くの木の元に行って口を押さえて呻いていると、その光景を見て嘲笑うようにキュピキュピ鳴き声をあげる芋虫たち。
なんだこいつ等、僕のこと殺す気かこの野郎……。
あまりにも残酷で、そしてただ純粋に、どこまでも気持ちの悪いこいつらを前に怒りを滲ませ呻いた僕は、ぐっと拳を握りしめる。
「……し、シロちゃん? す、少し目を閉じててくれる?」
「……?」
僕の言葉にこてんと首をかしげた彼女ではあったが、すぐに何かを察したのか槍を背中に背負い直し、両目を閉ざして量の耳を手で塞ぐ。
あぁ、なんて出来た子なんだ。
その姿になんとも言えぬ感動を抱いた僕は――ぬるりと、真紅の眼光を煌めかせながら短剣を構える。
『……キュピ?』
不思議そうに首を傾げる芋虫共。
分かってるよ、お前ら全員倒したらその場で爆破、周りにいるヤツらに自分の体液ぶっかけて気持ち悪がってる様を楽しんでるんだろうコノヤロウ。
そう、ギリッと歯を食いしばった僕は一言。
「なら、胃の中ぶちまけるより先にお前ら全滅させてやんよ!」
そう叫んだ僕は、周囲に巡らせたワイヤーで奴らの首を絞めると同時、逃した数体めがけて走り出す。
『『『『キュピイイイイイイイイ!!』』』』
悲鳴が上がる。
連続して『ぐちょべちゃあっ!』と体が爆散し、僕の体が黄ばんだ体液にまみれていく中。
僕は白目を剥きそうになるのを堪えて剣を握りしめ。
「ひやあああああああああああああああ!!」
――その日、東の森からは人間のものとは思えない悲鳴と、胃の中をぶちまける男のうめき声が響いていた。




