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Silver Soul Online~もう一つの物語~  作者: 藍澤 建
二階層・マーレの街
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《66》マーレの街

 ――青い壁の街。

 そう言ったらモロッコのシャウエンをイメージするが、この街のモチーフはおそらくその街だろう。

 場所は二階層――マーレの街。

 周囲には青く塗られた街並みが広がっており、照りつける日光は一階層の比ではない。道行く現地人は半袖やノースリーブの上着に短パン、肌は照りつける日光により焼かれ、褐色肌が嫌でも目立つ。

 肌を撫でる風はどこかには潮の香りを乗せており、現状を改めて見渡した僕は、どうしようもなくその答えに行き着いてしまう。


「なるほど――海の街、か」


 言いながらも足元へと視線を下ろすと、褐色肌がそんなに珍しいのだろうか、不安げに周囲をきょろきょろとしながらも僕のローブにひしっと抱きつくシロの姿があり、何だか微笑ましげな光景だなー、と彼女の頭をかしゃかしゃ撫でて、すっと前方へと視線を向ける。


「ま、出遅れた感は否めないけど、なんとかこんとか、頑張って攻略するとしますか」


 そう笑ってシロの方へと手を差し出すと、それをぎゅっと握り返したシロと一緒に僕は海の街を歩き出す。

 はてさて、次のボスは大方『亀』かな。

 そんな感想を抱きながらも。




 ☆☆☆




「オウイェッス! シロたま久しぶりでちゅぶげっ!?」

「おーシロ、変態いるから気をつけないとなー」


 マーレの街、冒険者ギルド。

 青い外装に剣のマークがトレードマークなその場所に立ち入った僕は、隣のシロめがけて突撃してきた変態金ピカ野郎をシロの首根っこを掴んで回避、足を出して顔面から地面へとダイブさせた。


「っというか貴様ァ! そろそろ我らがシロたまに落としずらい油汚れの如くへばりつくのは辞めろと言ったろう! そういうのを世間一般ではストーカーと――」

「うるさいぞゴールド、シロが怯えてる」


 従魔と一緒にいて何が悪いんだろうか、とか思いながらも、本家本元ストーカーたるその男、ゴールドへとそう叩きつける。

 見れば……お年玉貰った時のお返しでもしたいかな、少し恥ずかしそうに僕の背に隠れた彼女を見てゴールドが吐血した。


「おうっ!? な、何たることだ! この私がまさかあのシロたまを怯えさせていただなんげふっ!?」

「ゴールドうるさい」


 瞬間、彼の背後から音もなく現れた青髪の少女――アオが彼の頭へと膝落としを叩き込み、あまりの痛みに悶絶したゴールドがギルドの床へと転がり込む。

 その姿を一瞥、そして不思議そうにこてんと首を傾げたシロを一瞥すると、改めて現れたアオへと視線を向けた。


「うっす、久しぶり」

「久しぶり、ずいぶん遅かったね」


 そういった彼女はゴールドの耳を掴んで無理矢理に引きずりながらも僕の方へと近寄ってきており、その姿に『自分もやってみたい!』とばかりに目を輝かせたシロの瞳をそっと両手で閉ざしてやった。


「あの、特殊プレイはシロの居ないところでお願いします」

「あ、いや、これは……」

「フハハハハ! 羨ましいか! 羨ましいか黒髪ロリコンぺド野郎! 私は敢えて運営側に『ショタ及びロリ、あとついでにクランメンバーから暴力を振るわれても問題ありません。というか推奨』というメッセージを送ったため、こうしてアオたまのちっちゃなお手手で耳をぎゅっーとごぶぅっ!?」

「ゴールドうるさい」


 瞬間、ゴールドの股間を迷うことなく蹴り上げたアオ。

 あまりの光景に頬を引き攣らせて内股になる僕、何か面白い光景を見逃したのではないか、と不満げに頬を膨らませるシロ、冗談が言えなくなるレベルで悶絶をし始めたゴールドを他所に、彼から視線を逸らした彼女は僕へと改めて微笑んだ。


「特殊プレイじゃ、ないから」

「あ、えっと……はい、すいません。なんか」


 言いながらもシロの両目から手を退けると、ゴールドが蹲っている姿を見て愕然と目を見開いたシロを他所にアオへと口を開いた。


「で、どうしたんだいこんな所で」

「それは、こっちのセリフ」


 僕の言葉にそう返した彼女は、スッと僕の背後に広がるギルドへと視線を向けてこう告げる。


「私は、南のボス攻略をしようとしてたら、そこの馬鹿が『シロたまの匂いがする。くんかくんか』とか言って駆け出したから、それを始末しに追ってきた」

「末期ですなー」


 もうそいつ手遅れですわ、と返していると、同時に僕らへと視線が集まっていることを感じて当初の目的を思い出す。


「あぁ、そうだった。そういえばギルド長からちょっと以来受けてたんだったわ……」

「……依頼?」


 そう、首をこてんと傾げて呟いたアオ。

 その姿に、『一階層のギルドマスターにこっちのギルマス宛の手紙を預かってたんだよ』と口を開きかけた僕は――


「やぁ、それは僕宛ての手紙ではないかな?」


 イベントリから手紙を取り出すと同時、響いた声に目を見開いた。


「……僕宛て?」

「イエスっ! その手紙から溢れる苦労人オーラ、僕の予想が正しければガイダーという名前も覚えられないような白髪爺からの手紙ではないかな?」


 え、あのギルマス、ガイダーなんて名前あったんだ。

 もしかして聞いてたかもしれないけど忘れてたわ。そう言わんばかりに声の方へと振り返ると――そこには、金髪のイケメンが立っていた。

 西洋ヨーロッパの貴族が如き服に包まれたその男は、どこかロミオとジュリエットに登場する『ロミオ』を彷彿とさせるようなオーラを纏っていた……の、だが。


「おいおい、見ろよあれ……。噂の吸血鬼がギルマスに絡まれてるぜ……」

「ちょ、だ、誰か助けなさいよ……」

「お、押すなってバカ! あのギルマスだぞ!?」

「か、関わりたくねぇよぉ! だ、誰か頼むから行ってくれぇ!」


 どうしよう、ギルドのカウンターから聞こえてくるギルド職員たちの悲鳴が徐々に嫌な予感を大きくしてゆく。

 まず間違いなくそれらの悲鳴が聞こえているだろう、隣のアオは嫌悪感に眉根を寄せ、シロは何が何だか分からないとばかりに僕のコートを握りしめ。

 そして、件のイケメン野郎はと言えば――


「……フッ、皆ったらツンデレで困るねぇ! そんなに僕のことが大好きなら言ってくれればいいのにさっ!」


 パチンっ、とウィンクと一緒に送られたその言葉。

 それを受けてギルド職員たちの顔が嫌悪に歪んだのが目に見えてわかった。

 その光景に……なんだろう、実は前のギルドがギルドだったから『吸血鬼にやる依頼なんぞない!』とか言われることも覚悟してた手前、何だか拍子抜け……って訳じゃないか。

 むしろ僕が吸血鬼であることが『さらっと流される』レベルで嫌がられている存在がいることに、何だか『関わりたくねぇ……』って気持ちが溢れてくる。

 が、けれども依頼を受けた手前無視することも出来ず――


「あ、あのぉ、一応お聞きしたいんですけど……」

「もちろん僕がギルドマスターさ!」


 聞いてもいないことを告げたそのイケメン。

 しかしながら他でもないその事を聞こうとしていた手前何も言うことが出来ず、やっぱりこの人がギルドマスターか、と思わず苦笑してしまう。


「……一応、向こうのギルドマスターから手紙を持ってきたんですけど」

「まぁ、見た感じそうだろうね! どれ、これで依頼完了ってことでいいかなっ?」


 そう言いながらもものすごーい『ジョ○ョ』みたいなポーズで僕から手紙を受け取るギルドマスター。

 その姿にギルドの中から少なくない舌打ちが漏れる中、ピッとカッコよく手紙を開封した彼はその中の便箋へと視線を落とす。


「ふむふむふむ……はははっ! なるほどなるほど! へぇ、そんな事があって……うんうん! いやー、さすがガイダーだ。まるでその光景が目に浮かぶくらいだよ!」


 そう独り言を漏らすギルドマスター。

 一階層ギルマスが依頼を出してまで届けたかった二階層のギルマスに向けての重要な手紙だ。その言葉に思わず『なんて書いてあったのかな』、と思っていると、僕の顔をちらりとみた彼は、ふぁさぁっと髪を払ってパチンと指を打ち鳴らす。

 そして一言。


「『最近部下がタメ口なんだけど……』だそうだよ!」

「あ、帰っていいっすか」


 予想以上にどうでもいいその情報。

 クッソどうでもいい、とばかりにUターンをして歩き出した僕の肩を焦ったように掴んだギルドマスターは、苦笑いを浮かべて口を開いた。


「あ、あははは……、き、聞いてたとおり冗談が通じないなぁ! ほ、本当は君についてのことを書いてあったんだよぉ!」

「……」


 その言葉に『これも嘘だったらどうしてくれようか』とばかりに彼へと振り返ると、ジトっとした視線を真正面から受けた彼は、パチンと指を鳴らしてこう告げる。


「ま、簡潔にいえば吸血鬼のイメージアップ、って奴だろうね」

「イメージアップ……」


 たしか一階層のギルマスにも言われたな。

 カルマが高いから、なるべく善行を積んで行くべきだ……とか何とか。それでとりあえず最初にー、みたいな感覚でシルバーナイトウルフ討伐に赴いたはずだ。

 もしや今回もその流れかな。

 思わずそう考えた僕を前には案の定、透明なミッションボードが現れており。


「他でもない彼の願いだ! ここは僕が、この近辺で最も住民達に被害を与えている魔物をお教えしよう!」


 《Rクエスト『空の王を討伐せよ』が発生しました。二階層、東のエリアボス『グリフォン』を討伐せよ!》


 ――Rクエスト。

 未だになんの『R』なのかは分かりかねるが。



「……おいちょっと待て、空の王とかグリフォンって書いてなかったか今」



 消えてゆくそのプレートを眺め、思わず僕は冷や汗を流しながらそう告げた。




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