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Silver Soul Online~もう一つの物語~  作者: 藍澤 建
一階層・始まりの街
64/89

《63》後日談・一階層

一階層の後日談です。

 一階層、始まりの街。

 正式稼働がされて初めてのフロアボス戦は、あっけらかんと幕を閉じた。

 ある者は恐怖に震えてこの世界を去り、ある者は嫉妬に狂ってPVPを起こし、ある者は『すげぇ』と笑い、ある者は次回以降はちょっと自重しようと心に決めた。


 二階層がオープンしてから既に一日が過ぎた。

 多くのプレイヤー達が心に胸を踊らせながら二階層の街へと旅立つ中、僕は未だ一階層に留まっていた。

 というのも。


「うはぁ、兄ちゃんもすげぇ注文してくるよなぁ。他の街に行ったらここよりも広い店いっぱいあるんだぞ?」

「でもここより腕のいい場所は早々ないでしょう? あったとしても僕はこの店を気に入ってるんで」


 目の前にはフロアボス戦のドロップアイテム『白虎の毛皮』を手にした店の店主さんが、困ったように、それでいて嬉しそうに相貌を崩しており、僕のローブをぎゅっと握りしめていた看板娘のツキちゃんが自信満々に胸を張ってみせた。


「お父さんはすごいんだよっ! 昔はどこかの国につとめめてたんだって、お母さんがいってた!」

「おー、それはすごいな……」


 言いながら彼女の頭を撫でていると、不機嫌そうに僕の手がぺしっと叩かれた。

 見れば僕を背中に庇うようにして立ちはだかったシロがツキちゃんのことを睨みつけており、対してツキちゃんは不思議そうにこてんと首をかしげた。


「ん? どうしたのシロちゃん?」

「……! ッ!」


 身振り手振りでツキちゃんに何か伝えようとするシロではあったが、残念ながら子供のツキちゃんにそれが伝わるはずもなく、彼女は楽しそうにニコニコと笑っているばかりであった。


「いや、なんかすいませんうちの娘が……」

「いえいえお気になさらず。ツキも同年代のお友達ができて嬉しいみたいですし」

「あー、いや、こちらこそですよ。うちの娘ってこう見えてもツンデレでしてねー。家に帰ったらいつ会えるんだいつ会えるんだってうるさいんですよー」

「あらあらまぁまぁ……」


 僕と奥さんでママ友会話をしていると、色々暴露されてムッとしたシロが僕の足をグリグリと踏みつけてくる

 この前この店に盗賊の外套を依頼しに来た時以来、シロとツキちゃんはお友達同士になったわけだが、これがまぁ相性がよかったのか何なのか、今では大の親友同士みたいな感じになっている。


 閑話休題。


 という訳で、一階層噴水広場前のこの店へと訪れた理由は、今度はシロの装備を整えてもらおうと考えたためだ。

 僕は件のフロアボス戦で見事MVPを獲得したということもあり、それなりの数のドロップアイテムを入手していた。

 そしてその中にあった『白虎の毛皮』を彼女用に白いマント、あるいは外套のような感じにしてもらいたかったわけだが。


「まぁ、たしかにとんでもねぇ素材だわな。通常毛皮製の武具ってのは炎に弱いっていう特性を持ってんだが、この毛皮は炎に対する完全耐性を持ってる。流石は白虎の毛皮と言うべきか、正直とんでもねぇクラスの装備が生まれるぜこりゃあ」

「じゃないとわざわざ持ってきませんよ」


 なにせあの白虎の素材だ。僕の装備してる影のローブくらいはを超えてもらわないと困るわけだ。


「で、もちろん出来ますよね?」

「っぁー、兄ちゃんも酷い性格してやがるぜ」


 僕の確認にそう返しながらも、彼は確かに笑っていた。

 その瞳を覗き込むと、店主さんはニヤリと大きく口を歪めて。


「俺を誰だと思ってやがる? こと布や革に関していえばそんじょそこらのヤツになんざ負ける腕ぁ持っちゃいねぇよ」


 自信満々にそう言った彼の言葉にフッと笑みを漏らすと、ツキちゃんとわちゃわちゃしてるシロへと視線を向けて口を開く。


「分かりました。時間としては……」

「あー、一週間、いや五日でどうだ!」

「うふふふ、三日で出来るわよねー、アナタ?」


 見れば右手をパーの形にして五日と答えていた店主さんは背後からの圧力により指を二本折りたたんでおり、その姿に思わず苦笑してしまう。


「分かりました、代金は……」

「いやいいぜ、兄ちゃんはツキの命の恩人だしな。それに何より、こんな滅多に見れない極上の素材を使えるんだ、俺のスキルアップを鑑みれば逆にこっちがなんかあげてぇくらいさ」


 その言葉に改めて『NPCにもスキルアップなんてあるんだな』と考えながらも、今じゃとんだ有名人になった僕の姿に集まってきた人混みを見て、小さくため息を漏らした。


「いつもすいません。それじゃあ三日後、取りに来ますので宜しくお願いします。シロ、僕ギルド行ってくるけど、どうする?」


 見れば彼女は僕の言葉にビクンと身体を震わせ、すぐにたたたっと僕のほうへと駆けてくる。


「いいのか? ツキちゃんと遊んでなくて」

「……」


 僕の言葉にシロがちらりとツキちゃんの方へと視線を向けると、そこにはにこにことこちらへと手を振っているツキちゃんの姿があり、その姿に恥ずかしそうに顔を赤らめた彼女は、小さく手を振って返している。

 その姿に「成長したなぁ」と一人心の中で呟いていると、同じような顔をしていた店主さんと奥さんの二人と視線が交差し、思わずお互いに苦笑してしまう。


「そんじゃ、俺は早速だが制作に入らせてもらうぜ。兄ちゃんもいい素材頼むぜー?」

「はい、近い内にいい素材持って来ますよ」


 言いながら笑ってツキちゃんへと手を振ると、なんだか顔を赤くした彼女は恥ずかしそうに奥さんの後ろに隠れてしまう。そして不機嫌そうに僕の足を蹴りつけるシロ。

 前回来た時と、全く同じ最後であった。




 ☆☆☆




「「おお! 待ってたよ(ぞ)!」」


 二つの声が重なり、思わずため息が漏れる。


「なに、アンタら仲良かったっけ?」

「「いや? 初対面だけど」」


 場所は一階層の冒険者ギルド。

 その中に隣接されている小さな酒場の、それまた端の方にあるテーブルには、件の情報屋アスパと、このギルドの長たるギルドマスターが待ち構えていたのだ。


「いやー、ちょうど君の勇姿をギルドマスターに見せながら好感度をあげてたところなんだよー」

「がはは、好感度とか真正面から言ってくるあたり、逆に気を使わずに済んで楽ってものだがな」


 見ればアスパの手元には録画されていたのだろう、僕VS白虎の戦いが映り込んでいる。まぁ、流石にあの距離で『会話してた』なんて記録は残ってないだろうし、そこら辺は『疑われなくてよかったぁ』と安堵するべきだろう。どうせ他のプレイヤーだって録画していたに違いないし。

 ため息混じりにギルマスの正面に座り込むと、シロがアスパの正面、僕の隣に座り込む。


「で、話って言うのは……」

「ふむ、前に『銀夜狼』の討伐を依頼したのを覚えているか? あの時に次の依頼は二階層、つまりは次の街へ行けるようになってから、と決めておったのも」

「そりゃ覚えてますよ」


 薄らとだけど、という言葉がその後に続くわけだが。

 内心でそんなことを思っていると、満足げに頷いたギルマスは懐から一枚の便箋を取り出した。


「吸血鬼の意識改善の一環としてな、次の二階層、マーレの街のギルドマスターにこの手紙を渡すのだ。さすればまた新しい道が開けるであろう」


 《Rクエスト『手紙を届けよ!』が発生しました。二階層の冒険者ギルドギルドマスターに手紙を届けるとクリアとなります》


 案の定目の前に現れた新たなる『Rクエスト』にアスパが興奮したような声を上げる中、迷うことなくその便箋を受け取った。


「せっかくこの街にはある程度慣れてきたんだけど……またアレかな。好感度マイナスからリスタート、って感じかな」

「ふーむ……。お主の噂はある程度広まっておるからな。悪さをしないかもしれない吸血鬼、ということで品定めから始まるんじゃないか?」


 ギルマスの言葉に、まぁリスタートよりはマシか、と小さく嘆息すると、我慢の限界が来たらしいアスパが突然に声を上げた。


「と、言うか! ねぇギンくん、なんでここに私呼ばれたの! さっきからあのギンくんに呼ばれた要件が気になっていてもたってもいられないんだけど!」

「はいはい、分かってるって……」


 小さくギルマスを見れば、ふっと苦笑した彼はそのまま席を立ってどこかへと去ってゆき、すぐに僕とシロ、アスパの三人がテーブルを囲んでいる形となる。

 傍から見ればロリっ子を従えてる変態だな、と思いながらも、イベントりを開いてお目当ての素材を机の上へとどんと乗せる。


「頼みっていうのは単純明快。これらの素材でシロの槍と防具一式、それに僕の装備を一つ作って欲しい」


 その言葉にシロが驚いたように僕を見上げ、アスパが目の前にでんと出されたそれらの素材に引き攣った悲鳴を零してしまう。


「な、何これ……! 見たこともないんだけど!」


 そう呟く彼女の視線の先には、少し前にドロップして取っておいたミスリル鉱石、加えて白虎の牙、そして最後にもう一つ、とっておきの石っころが転がっている。


 ――――――――――――――

 白帝の炎石 ランクEX

 聖獣白虎の力が込められた小さな宝石。

 眩い光を放つこの石を埋め込まれた装備の所持者は聖獣白虎の力を使うことが出来る。

 破壊不可。

 ――――――――――――――


 見た途端に目を剥いてしまったのは言うまでもないだろう。

 宝玉シリーズがアゾット剣に装着して悪魔を召喚できるのだとすれば、この石は装備に埋め込むことによって相手の力を使用することの出来る、言うなれば装備に新たなスキルが宿るようなものなのである。ちなみにMVP報酬はこれだ。宝玉はもちろん落ちなかった。というかゲームバランス的に落ちるはずがなかった。

 閑話休題。

 この素材を見た当初はシロの装備に付属させようと思っていたのだが、彼女自身が頑なにそれを拒んだこと、そして何となく、この素材は僕専用な気がしたため、他の素材は全てシロに回し、この素材だけは僕に回すという流れになった。


「こ、これ……え、なに? やばくないの?」

「いや普通にやばいよ。だからこうして売ってないんじゃん」


 二号店で売ってない、それはつまりそれだけ重要だっていうことだ。そう呟くと、呆れたようにため息を吐いたアスパは額に手を当てて。


「了解したよ。シロちゃんの方は、その槍をとりあえず白虎の素材とミスリルで強化する流れかな。盾は……今回はどうしようもないとして、ヘルムに胸当て、籠手に膝肘当て、脚甲なんかをミスリルで作るって感じかな?」


 そう呟いた彼女の言葉は僕が想定していたことと全く同じだったため、流石は鍛治師と口を挟んだりはしなかった。

 だが、流石にこれだけは聞かないとまずいと思ったのだろう。アスパは眉根を寄せて僕へと視線を向けると。


「で、問題はギンくんの装備だよ。今のギンくんってもうその状態で自己完結しちゃってるでしょ? 他に装備いらないと思うんだけど……」


 まぁ、彼女の言うとおり、僕は今必要な装備はすべて整っている状態であり、彼女の言葉に合わせれば『自己完結』と、そんな言葉が良く似合うのだろう。

 だから今必要な装備があるって言うわけでもないのだが、それでも強いて言うならば。


「――ネックレスとか、作れるか?」


 僕の脳裏には、どこかに忘れてきた大切なネックレスの姿が過ぎっていた。




 ☆☆☆




【name】 ギン

【種族】 吸血鬼族

【職業】 盗賊

【Lv】 12

 Str: 18 +26

 Vit: 12 +7

 Dex: 15 +2

 Int: 12

 Mnd: 12

 Agi: 54 +9

 Luk: 23

 SP: 0


【カルマ】

 -73


【アビリティ】

 ・吸血Lv.1

 ・自動回復Lv.1(new)

 ・夜目Lv.4

 ・モンスター博士

 ・執念


【スキル 6/6】

 ・中級剣術Lv.3(↑1)

 ・隠密Lv.9(↑2)

 ・気配察知Lv.8

 ・心眼Lv.3(↑2)

 ・中級魔力付与Lv.3(↑2)

 ・軽業Lv.8(↑1)

 ・危険察知Lv.6(↑1)

 ・糸操作Lv.4(↑1)


【称号】

 小さな英雄、月の加護、孤高の王者、最速討伐者、ウルフバスター、生への執念、白虎の加護(new・炎耐性)


【魂の眷属】

 ・従魔:ヴァルキリー


 ──────────────


【name】 シロ

【種族】 ヴァルキリー

【職業】 選定者

【Lv】 10

 Str: 30 +9

 Vit: 18 +10

 Dex: 10

 Int: 18

 Mnd: 12 +8

 Agi: 17

 Luk: 10

 SP: 0


【好感度】

 +40


【アビリティ】

 ・死の選定Lv.2(↑1)

 ・素手採取Lv.3


【スキル】

 ・下級槍術Lv.6(↑2)

 ・下級盾術Lv.2

 ・気配察知Lv.5(↑1)

 ・見切りLv.6(↑3)

 ・下級光魔法Lv.4(↑1)


【称号】

 なし

次回、お待ちかねの掲示板回!

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