特別編 お正月【下】
あけましておめでとうございます!
【上】を見たい方は本編へ!
「いいねぇ! これはイン○タ映えするよ!」
僕はそう叫びながらシャッターを押していた。
視線の先にはきょとんと不思議そうに首を傾げるシロが佇んでおり、たまたま近くにいたキャストさんが呆れたようにため息を吐いた。
「アンタ、本編の【上】の一発目と言っとること正反対なんなけど、大丈夫なんかそこらへん」
「本編? 何ですかそれ」
意味不明なことを言い出したキャストさんにそう返すと、もうその姿だけでイン○タ映え間違いなしのシロの姿を激写してゆく。
時系列的にはよく分かっていないが今日は元旦、一月一日である。お前死んでんじゃなかったのかとか、上巻で暴れ過ぎだろとか、白虎どうした白虎とか、色々クレームはあるだろうがソレはソレ。
ぶっちゃけると『え、僕のバトルよりシロのシーン多いほうがいいよね?』って感じであるからして、今日はシロの魅力を余すところなくお伝えしようという考えだ。
「設定なんて、考えたらそこで試合終了ですよ。この作品だって作者が『VRもの書きたい……』ってだけで書き始めた駄作ですし」
「長く書いたが故に開けた境地やな……」
もうぶっちゃけるとあれだしな。本編の最初見直すと『あれ、なんかコイツ口調違くない?』ってなるからな。なーにが「まぁ、大した数じゃねぇか、ははっ」だよ死ね、大した数に決まってるじゃないか。
昔の自分の口調に怨嗟していると、不思議そうに僕の方へと寄ってきたシロが裾をくいくいと引っ張ってくる。
「ん? どうしたシロ。イン○タ使ってないのに写真撮ってどうするだー、とかか?」
「使ってなかったんかい……」
いや、だってなんかアレじゃないですか。
僕が今更「イン○タうぇーい!」とかやったらさらにキャラ崩壊する未来が見えてるじゃないですか。数年後には髪の毛銀髪になっててもおかしくない。
だからやらない。というかやれない。ゲームの中から出られないわけだし。
閑話休題。
前半から飛ばしすぎてる感が否めないために小さく息を吐いてテンションを吐き出すと、しゃがみこんでシロへと目線を合わせる。
「どうしたシロ、クリスマスの方が良かったか?」
「……」
ふるふると首を横に振ったシロは、スッと迷いなくある方向へと視線を向けた。
彼女の視線を追ってみれば、元旦からゲームの中に入り浸ってるゲーマー共が様々な屋台を開いているのが視界に入り、中にはいつもシロとお世話になっている串肉屋のおじちゃんの姿も見えた。
「あー……朝ごはんまただったか?」
「……!」
こくこくと、どこか不機嫌そうに頷いたシロは僕の手をぎゅっと握りしめてくる。
小さくキャストさんへと視線を向けると、彼女は『自分ももちろんやってるで』と言いたげな表情で人混みの中へと歩き去ってゆき、僕も覚悟を決めて立ち上がる。
「新年早々絡まれそうな予感しかしないけど……。うし、今年はなんだかいいことがありそうな予感がする!」
そう拳を握りしめた僕は、迷子にならないようにとシロの手を握りしめると、彼女を連れて人混みの中へと歩いて行った。
☆☆☆
「おやおやおや〜、これまた新年早々ゲームとはいいゴミ分だな?」
――早速絡まれた。
もう半ば分かっていたが、早速絡んできたプレイヤーはもちろんアイツ、厄介この上ないこと極まりないプレイヤー、ゴールドである。
「お前こそいいご身分だな。疾く失せろ。あと明けましておめでとう」
「はっはっは、貴様こそシロたまを置いて疾く失せろ。私は今日、シロたまにお年玉をあげるためだけにログインしているのだ。あと明けましておめでとう」
律儀にそう頭を下げてきたゴールドに頭を下げ返していると、金色の振袖を身にまとった奴は懐から取り出したポチ袋をシロへと直接手渡した。
「はいシロたま。おこじゅかいでちゅよー」
「……!」
気持ち悪いゴールドに対し、よく分からなさそうにしながらもしっかりとポチ袋を受け取り、ペコリと頭を下げる我らがシロ。見ればゴールドは今の行動だけで悩殺されてしまったようで、ぐふっと腹を押さえてよろめいている。
「し、新年早々、こんなに素晴らしいものを見れるとは……! 今年はいい事ありそうだ、な」
言いながらも、用は済んだのかゴールドはふらふらとどこかへと去ってゆく。けれども彼の姿が人混みに消える直前、ちらりとこちらを振り返った彼はたった一言。
「手ぇ繋いでるの羨ましい……」
とりあえず無視して反対方向に歩き出した。
☆☆☆
その十数分後。
朝食を探すべくさまよっていた僕らは出店を開いていたアスパに捕まり、その店内へと引きずり込まれていた。
「で、何これ……?」
「振袖だよーん。ゴールド君着てなかった?」
「いや着てたから聞いてるんだけど……」
鏡越しに映る僕はアスパの言う通り振袖に身を包んでおり、普段は寝癖がついてない時の方が珍しい頭髪も、しっかりとワックスで固められている。
「いやいいねぇ……。ギンくんってばイケメンってわけじゃないけど普段がだらしなさすぎるから、イザこうしてガチで正装してみるとギャップ萌えがとんでもないよ」
「ふっ、もしも狙ってやっていると言ったら……?」
「いや単にだらしないだけでしょ?」
……よく分かったなこの野郎。
いっつも毎朝毎朝シロに寝癖をペチペチやられているのを思い出しながら視線を横に移すと、そこにはお団子にした髪を簪で止めたシロが立っており、彼女は青い着物に身を包んでいた。
「……?」
僕の視線を感じたのか、彼女は僕を見上げて首を傾げて来たのだが、それがまた『ここにゴールドいたら死んでたな』ってくらい可愛い。アスパでさえ悶えているほどにだ。
「え、やばくないこの破壊力。彼女持ちの僕でさえグラっときたんだけど」
「やばいね! シロちゃんの破壊力もだけどギンくん見たいのと付き合う女の子もかなりやばい気がする! 一応聞くけど変な子だよね?」
「いやいやそんなー」
ことがあるのだが、そこら辺は言わないでおく。
すると勢いよく僕を見上げたシロが大きく目を見開いているのが視界に映った。
「ん? あぁ、言ってなかったっけ、僕の彼女のこと」
「……!」
ぶんぶんと首を縦に振る彼女の姿に少し苦笑しながら、綺麗に整った彼女の髪を優しく撫でる。
「ま、いつかは会ってもらうことになるかもだし、楽しみに待ってなさいな」
そう言うとシロはなんとも言えなさそうに顔を俯かせたが、今回ばかりはどうすることも出来やしない。そもそも閉じ込められてるわけだしな。
彼女の頭から手を退くと、すっと彼女へと手を差し出す。
「まぁソレはソレ、これはこれだ。今、この時間においては僕の相棒はシロ、他の誰でもないお前だよ。だから心配するなって、一人になんて絶対しないから」
その言葉に、彼女が大きく目を見開いたのが分かった。
彼女、って言うのは言ってみれば人生の相棒だ。
チャラチャラした奴らは『とりあえず付き合う』とかふざけたことをよく抜かすが、付き合うならば結婚まで考えて付き合うべきで、責任も取れないのに付き合うのはただの馬鹿のする事だ。
そして少なくない時間を一緒に過ごしてきたシロはそこら辺、僕はしっかり考えてるって察していたのだろう。だからこそ彼女と聞いて愕然とした。もしかして自分は捨てられてしまうんだろうかと。
だからこそあえて言おう。
――僕がシロを見捨てるはずがないだろう、と。
見れば彼女の瞳はウルウルと潤んでおり、思わず苦笑してしゃがみ込み、振袖の裾で彼女の目元を拭っていく。
「あー、もう。ほら綺麗にお化粧したんだろ? 泣いちゃったら台無しじゃないか……」
「……っ、っ」
僕の言葉に耳まで真っ赤にした彼女はぷいっと体ごとそっぽを向くと、たたたっと店の奥の方まで走っていってしまった。
そして気がつく。アスパと並びに店の店員さんたちが、そして店の前に集まっていた大勢のプレイヤー達がニタニタしながらこっちを見ていることに。
「な、なんだよっ」
「「「「べっつにぃ〜?」」」」
ニタニタしながら声を重ねてきたプレイヤーたちに思わず青筋が額に浮かぶ。
イラッと顔を歪めてアゾット剣を召喚すると、途端にアリの子を散らすようにして逃げていったプレイヤー達ではあったが、これが演技だと見抜いていたアスパだけは顔色一つ変えずにその場に立っている。
「さすがギンくんだねー。最高の反面教師でありながら、それでいて普通の教師としての面も持っている。……もしかしてどこかの学校で教師とかしてる?」
「してるわけないじゃん……」
ため息混じりにそう返すと、「教師って似合うと思うんだけどなー」と続けるアスパから視線を切って店の奥へと視線を向ける。
そこにはワタワタとしながら化粧直しをしているシロの姿があり、その姿に小さく笑ってしまう。
「でもまぁ、性には合ってるかも」
「ふふっ、でしょー?」
将来僕は、旅に出てみたい。
世界のいろんなところを回って、いろんなものを見て、いろんなものを助けて、いろんなものに笑って泣いて怒って、世界というものを知ってみたい。
まぁ、今はこうして寄り道というか休憩というか、しているわけだが、それでもいつまでもこうして平和な日常を謳歌できるとは考えていない。
いつか僕は、あの世界に戻るだろう。
命をかけて戦い、意地を突き通し合う、意思の強さがものを言うあの世界に。
死んだとか死んでないとか、そういうの関係なしに『戻る』術は既に託してきた、
だからいつか舞い戻る。
その結果どうなるかは分からない。
もしかしたら今度こそ完膚なきまでに殺し尽くされるかもしれないし、悲惨な未来が待っているかもしれない。
けれど。
「信じなきゃ、そんな未来は掴めない、か」
フッと笑って、しんしんと雪の降る冬の寒空を見上げる。
信じやきゃ何も掴めない。
自分にはできるって、そう考えないと何も始まらない。
だから、今度こそは――
「……!」
こちらへと駆けて来る足音が聞こえてきた。
見れば顔を赤く染めたシロが大魔王みたいなどキツイ化粧をして立っており、それに吹き出すアスパ、不安そうに佇む店員さんなんかの姿を見ながら。
「……イン○タ映えしそーだな」
テキトーにそんなことを呟いて、視線を逸らした。




