《6》南の森へ
「フ――ッ」
『ぴぎぃっ!?』
一閃。
再び一撃にてグリーンスライムが息絶え、ポリゴンとなって消え去ってゆく。
そして頭の中に響く五回目のファンファーレ。
だがしかし、今回のソレは二回連続だった。
《ポーン! グリーンスライムを一体倒しました! 15経験値を獲得しました!》
《ポーン! レベルが上がりました!》
「……ん? レベル?」
僕は先程までとは違うその通知にそう言葉を漏らすと、とりあえず気配察知で周囲にモンスターがいないことを確認してステータスを開いた。
───────────
【name】 ギン
【種族】 吸血鬼族
【職業】 旅人
【Lv】 2
Str: 5 +3
Vit: 2
Dex: 2
Int: 2
Mnd: 2
Agi: 8
Luk: 3
SP:3
【カルマ】
-100
【アビリティ】
・吸血Lv.1
・自然回復Lv.1
・夜目Lv.1
【スキル 5/5】
・下級剣術Lv.2 (↑1)
・隠密Lv.1
・気配察知Lv.2 (↑1)
・見切りLv.2 (↑1)
・下級魔力付与Lv.2 (↑1)
【称号】
なし
───────────
「おお! レベル上がってる!」
見れば全てのステータスが平均的に『1』上昇しており、ステータスに振り分けられるSPが『3』上昇している。
チュートリアルとかそういうの全くなかったから今初めて知ったが、どうやらレベルアップすると全能力値が一つ上がり、振り分けられるSPが『3』上がるようだ。
あくまでも経験則でしかないのだけれど。
僕は初めてのレベルアップのよるステ振りに内心でニヤニヤしながらも、迷うことなくステータスを振り分ける。
──────
【Lv】 2
Str: 6 +3 (↑1)
Vit: 2
Dex: 2
Int: 2
Mnd: 2
Agi: 10 (↑2)
Luk: 3
SP:0 (↓3)
──────
――超攻撃型。
しかも攻撃力は『初心者の剣』で+3されているため、実質的には敏捷地が十、筋力値が九の超脳筋ステータスである。
僕はステータスを閉じると、ウィンドウへと落としていた視線を周囲へと向けた。
「ここまで来ると……、流石に誰も居ないな」
街を南に進んでおよそ数十分。
街の近くは多くのプレイヤーたちの姿があり、もうモンスターの狩りじゃなくモンスターの取り合いをしているんじゃないかという程だった。
それに比べてこの付近にはプレイヤーの姿は見当たらず、心持ちスライムも大きく、そして強くなってきたように思える。
――まぁ、全部一撃だから分かんないんだけど。
僕は前方へと視線を向ける。
そこには青々と生い茂る木々が生えており、奥の方へと視線を向けるとかなり暗くなっているように思える。
「うーん……、強そうなのが居そうだな」
今まではヘルプででも名前が出てきていた『グリーンスライム』とごく稀に『一角ラビット』という魔物が出てくるだけだった。正直手慣らしに丁度いい程度の相手だ。
だがしかし、この森にはヤツが出そうな気がしてならない。
「調子に乗った新人殺し――なんとかウルフ!」
そう、なんとかウルフである。
場合によっては『フォレストウルフ』だったり『レッサーウルフ』だったりするわけだが、速度と攻撃力、その二つに関していえばスライムやラビットの比ではないだろう。
そのうえ今の僕の防御力は正しく『紙』だ、
一撃でも喰らえば負けだと思った方がいいだろう。
だからこそ、嫌でも慎重にならねばならないのだが――
「だからっていって、いつまでもグダグダ考えてたってしょうがないよな」
僕はそう呟いてコクリと頷く。
武器よし、防具なし、回復薬よし、覚悟よし。
僕はフゥと息を吐き出すと、隠密を使って気配を隠しながら、その森の中へと足を踏み入れたのだった。
☆☆☆
――いた。
森の中へ入って数分。
僕はその姿を発見した。
視線の先には灰色の毛皮の狼の姿があり、その狼は兎の肉を貪り食っていた。
僕はとりあえずその狼のレベルを見ようとして――
(ってあぁっ! も、モンスターのレベルって下級鑑定スキルなきゃみれないんだった!)
今更になって、そんなことを思い出した。
実はスキルを決める時に『下級魔力付与』を選ぶか『下級鑑定』を選ぶかものすごく迷ったのだが、結局相手の情報なんて他のプレイヤーから聞けばいいや、と考えてしまったのだ。
あの頃の自分にこう言ってやりたい――誰とも知らない人に話しかけ、その上で情報を寄越せなど、そんな無礼極まることをお前に出来るのか? と。
答えは断じて否である――絶対に無理だ。
(はぁ……、そういう意味では情報屋とかいたら便利なんだけどな)
対価を払う分罪悪感がなくて楽だしさ。
僕は小さく息を吐くと、スッと目を細めた。
そういうことを考えるのは後だ。
今は目の前の敵を倒すことだけを考えろ。
僕は両腕から力を抜いてさらに小さな息を吐くと、自分の身体中を通る大きな管を思い浮かべた。
魔力、気配、殺気、相手に自分の存在を教えかねない要素はすべてその管の中に流し込め。
流し込んだらそれらをゆっくり、ゆっくりとかき混ぜる。
管からは何も漏らすな、休むことなく円環させ続けろ。
相手に自らの存在を――気付かせるな。
僕は草むらからスッと立ち上がる。
――音はない。
草むらを少し迂回して歩き出すが、風は向かい風で匂いは届かず、気配も魔力も殺気も――そして音すらも僕の身体からは消え去ってゆく。
狼は気付かない――気付けない。
僕はスッと音もなく狼の背後へと移動する。
流石にそこまで接近すれば直感も働いたのだろう。狼が驚いたように僕の方を振り返ったが――もう遅い。
ズシャァッ!
僕は左手で狼の頭蓋を掴み、右の手に握った剣で狼の喉を掻っ切った。
瞬間、狼の喉からは鮮血に見えなくもないポリゴンが吹き出し、数秒もしないうちにその身体はポリゴンとなって霧散してゆく。
《ポーン! ウルフを一体倒しました! 50経験値を獲得しました!》
その声を聞きながらも、僕はうーんとその剣へと視線を向けた。
「うーん……、リアルでの気配の消し方とかはそのまんま通じるっぽいけど、やっぱこう、短剣じゃないと上手くいかないよな……」
そう、喉を掻っ切るのはやはり短剣の方がやりやすい。
正直元日本人がなんてことを『やりやすい』などと……と思うかもしれないが安心してくれ! 僕も異世界で喉掻っ切ったことあるやつなんて、せいぜいがオークとか極悪な盗賊とかだけだから!
……言ってて気付いたけど、何に安心していいのか分からないな。
「はぁ……アイテムでも確認しよ」
僕はため息一つにそう呟くと、いまだなれない動作でメニューのウィンドウを出した。
どうやらヘルプによるとメニューの出し方は二通りあるらしく、メニューと口にするか、もしくは右手のどれかの指を上から下へと手首のスナップを使って振り下ろすのだ。
後者に関してだが、これは自分で『やろう』と思ってやらなければ開かない設定になっているらしく、戦闘中に間違ってメニューが開くようなことはないようだ。
閑話休題。
僕はメニューからイベントリを選択すると、今まで倒したモンスターのドロップアイテムがズラッと並び出てきた。
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《イベントリ 6/50》
○初心者用ポーション ×5
○グリーンスライムの体液 ×4
○グリーンスライムの核 ×1
○一角兎の皮 ×1
○一角兎の肉 ×1
○狼の毛皮 ×1
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「おお……、結構あるな」
やはりぱっと目に付くのは初心者用ポーションだろう。この中でも特に異彩を放っている。
次にグリーンスライムの核、そして狼の毛皮かな?
グリーンスライムの核は何となくレアドロップっぽいけどあれだけ大量に殺戮されているんだ。きっと値段も落ちているだろう。
逆に狼の毛皮は普通のドロップ品のようだが、ここまで人影がないと言うことはここまで来れているプレイヤーは少ないのだろう。
「これは金儲けの予感……」
僕はそう呟いてニヤリと笑みを浮かべた。
メニューの端っこに出ていたのだが、今の所持金は1,000Gなのだそうだ。Gの読み方は分からないがとりあえずは『G』としておこう。
流石に日本円と全く同じとは思えないから、とりあえず1Gを十円と仮定しても、それでもまだ一万円である。安物の革の防具をひとつでも買えば吹っ飛んで行くだろう。
に対して僕は防具と呼べるようなものは皆無。ウルフと真正面から戦ってみないと詳しいことは分からないが、恐らく攻撃さえ喰らわなければやっていけるだろう。
それが一頭か二頭か……三頭以上同時に相手するとなると辛いだろうが、やっていけないことは無い。
僕は剣を背中の鞘に収めると、周囲を見渡してこう言った。
「さて、ウルフちゃんはどこにいるのかな?」
とりあえず、決定――ウルフ殲滅。
普通はLv.2じゃ絶対無理です。