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Silver Soul Online~もう一つの物語~  作者: 藍澤 建
一階層・始まりの街
45/89

《45》戦闘狂

『いずれ最強へと至る道』の二次創作が出ててびっくりしました。

「これは……また面倒な」


 思わず苦笑いを浮かべて剣を構える。

 視線の先には、件のキングゴブリン。

 そして――その後に追随する、ゴブリンとは格の違う二体の巨体。


 ―――――

 ホブゴブリン

 脅威度C+

 ―――――


 キング三匹じゃなくて良かった、と安堵すべきか。

 弓まで使うゴブリン三匹の他にこの三匹まで相手にせねばならない、と緊張するべきか。

 ホブゴブリン二体に関しては、まだC+と厄介ではあれど倒せないというレベルではない。

 問題は――あの巨体、キングゴブリンである。

 その脅威度は流石にセイクリッドオーガには及ばないものの、僕が戦ってきたシルバーナイトウルフ、並びにアースバッファローと同格である。

 にも関わらず、あの二体と比べて体格が劣るということ。

 それはつまり――この体格で、あの二体と肩を並べられるだけの力を発揮できるということ。


「おい貴様、なんだあの大きいのは……。先ほどの言動から鑑定スキルか、それに類するものを持っているのだろう?」

「……キングゴブリン。南と西にいたエリアボスと同格の化物だな」

「な――ッ、え、エリアボスと同格!? なぜそのようなモンスターがこんな所で――」


 放心状態から立ち直ったアオがそう叫ぶが――残念ながらそうゆらりくらりともしていられないようだ。


『GAAAAAAAAAAAAA!!』


 不快な咆哮が響き、周囲のゴブリンたちが一斉に襲いかかってくる。思わず舌打ちを漏らし、シロへとアイコンタクトを取る。


「アオ! シロに後ろのゴブリン三体へと向かわせるから、仲間を連れて討伐してくれ! ゴールド、お前は僕とあの三体を相手にする!」

「……クッ、それが妥当か。了承した! アオ様!」

「……分かった! すぐ倒してそっちに行く!」


 アオ達がシロに追随して駆け出し、それを見送った僕は視線を感じてゴールドの方へと視線を向ける。


「……何故、アオ様でなく私を選んだ? クランリーダーはあくまでもあの方だぞ」


 その言葉に、小さくアオの背中を振り返る。

 ……まぁ、たしかに強い。実際、あのハイドに並ぶくらいには強いと思う。

 けれどそれは――あくまでもゲリラ戦での強さだと思う。


「彼女はおそらく僕の同類――障害物のある場所での戦いを得意としてるんだろう? お前も言ってたし……それに、見れば分かる」

「……そうか」


 じっと僕の顔を見ていた彼ではあったが、呆れたようにため息を吐く。


「まぁいい、貴様は『本物』のようだ。本来ならば大金を叩いてでも我らがクランに勧誘したいところだが――生憎と、ロリコン枠は埋まっている。何よりお前の性格が気に食わん」


 彼は剣を構える。

 なるほど――金持ちか。

 リアルで剣道でもやっているのか……いや、構えからして、他のVRゲームで培った技術か。ほかのプレイヤーを見てきた分、構えを見ただけですぐに分かった。

 ――コイツは強い。


「生憎と、お前見たいなぺドのいるクランなんてこっちから御免被りたい。何よりシロと仲良くしてるお前が気に食わん」


 アゾット剣を構え、もう片方の手を小さく伸ばす。

 期せずして、お互いにフッと笑って――



「「だからせいぜい生き延びるなよ、クソ野郎」」



 瞬間、一斉に駆け出した。




 ☆☆☆




 先に前に出たのはもちろん僕。

 確かにゴールドは強い――だが、流石に僕と同じ働きを出来るかと聞かれれば、首を横に振らざるを得ない。

 故に――


「ゴールド! 余った一体をやれ! 残り二体は僕がやるッ」


 標的を定める。

 こちらが受け持つのは――キングと、向かって右側のホブゴブリン。

 アゾット剣を薬指と小指に挟め、背中の矢筒から矢を三本取り出した。


「フッ――」


 二本を同時に構え――打ち出す。

 それらは寸分違わずキングゴブリン、そして右側のホブゴブリンへと吸い込まれてゆく――しかし、ホブゴブリンは体をそらして急所を避け、キングは拳の振り下ろしによっていとも簡単に矢を封じてしまう。


「……なるほど、厄介なもんだ」


 ホブゴブリンが肩に突き刺さった矢を引き抜くのを見ながら、呟くと、向かって右の方向へと方向転換、一気に駆け出した。


『GUAAAAAAAAAAAAAA!!』


 攻撃されたことに怒ったのか、キングが咆哮を上げ、肩から血を流すホブゴブリンがこちらへと駆け出してくる。

 そして、もう一体の無事なホブゴブリンも。

 しかしながら、ボス級一体にホブゴブリン二体も相手するのは実に面倒くさい。故にお前はそっちの相手を頼みたい。


「ッ!」


 大きく引いた弓を放つ。

 その魔力を帯びた、正真正銘本気の一撃は無傷のホブゴブリンの足を貫き、奴はその場に磔となる。

 そしてその背後に――遅まきながら、奴の姿が現れる。


「クッ、早くないか貴様!」


 ゴールドの振り下ろした剣がホブゴブリンの背中に大きな傷跡を刻み込み、鮮血が弾ける。

 しかし、さすがは上位個体。未だに命を刈り取るには至っていないのか、そのホブゴブリンはゴールドを睨み付け、咆哮を上げる。


 ――これで一対一、そして一対二だ。


「……さて、向こうにはシロを送ったわけだし、多分数分もしないでこっち来るだろうしな」


 そもそも、相手は所詮ゴブリン三匹だ。いくら弓を使うと言っても、運が良ければもう終わってる可能性も考えられる。

 ゴールドの受け持ってるホブゴブリンもすぐに終わるだろうし……いずれにせよ、ここまで援軍が駆けつけるのは時間の問題。

 なればこそ――

 ふと、足を止めて振り返る。

 視線の先には怒り狂い、目を充血させたキングゴブリン、並びにホブゴブリンの姿があり――


「さて、こっちもさっさと終わらせるか」


 瞬間、一気に奴らへと駆け出した。

 一瞬の停止からの――逆走。今の僕の速度はそんじょそこらのボスにだって負けてない。そんな速度をフルで使った『奇襲』に、一瞬だけ二体は硬直を見せる。

 そしてそれだけの硬直があれば――とりあえず一体は完封出来る。


「ハッ!」


 アゾット剣が銀色の魔力を吹き上げる。

 視線の先には、今になってやっと正気へと戻ったホブゴブリンが、カウンターに一撃を繰り出すべく棍棒を振り上げていた。

 ――だが、まっすぐ振り落とされるだけのカウンターほど、躱しやすいものもそうそう無い。


「BAAAAAAAA!!」


 振り落とされる棍棒。

 それを――アゾット剣で切り飛ばす。

 一瞬の硬直の後に剣は虚空を切り裂き、棍棒はその半ばで完全に切り落とされる。

 それにはホブゴブリンも目を見開き、さらに連続して奴の左肩へとアゾット剣を抉りこみ、棍棒の残りを握っていた右腕へと小さく触れる。

 ――これで、仕上げは完了。


「――跪け」


 パチンと、大きく指を鳴らす。

 直後に奴の右腕が左肩に突き刺さったアゾット剣の柄へと叩きつけられ、奴は痛みに呻いて膝を付く。

 ――糸操作。

 この数日でマスターした能力は、糸へ粘着性を持たせること。そして、糸を自由自在に伸縮させること。

 今回は奴の右腕とアゾット剣の柄を糸で繋ぎ、単純にその糸を収縮させただけ。

 まぁ、どこぞアニメのキャラクターの糸バージョンだ。

 膝を付いた奴の肩へと足を載せると、弓を奴の後頭部へと引き絞る。


「まず一匹」


 呟き、弓を放つ――その直前。

 頭の中に大きな警鐘が鳴り響き、嫌な予感に駆られてその場から飛び退いた。

 ――次の瞬間、先程まで僕のいた場所へと巨大な棍棒が叩きつけられる。

 もちろんその範囲内にはホブゴブリンの姿もあり、ホブゴブリンはその棍棒に押しつぶされた。


「……なるほど、戦闘不能になったと直感した途端、迷うことなく味方を見捨てるか」


 視線の先には巨大な棍棒を握りしめたキングゴブリンの姿があり、奴の真っ赤な瞳はギロリと僕の姿を睨み据えていた。

 その体は以前戦ってきた二体のボスよりも数段小さいものの――そこから放たれる威圧感は正しく『本物』だ。


「……これが中ボスとか、これ攻略大丈夫かな」


 下手すればあのオーガクラスの奴が出てくるんじゃないかと、思わず冷や汗を流しながら考える。

 けれど、それならそれで運がいい。


「あの時は悪魔召喚やら時間制限やら、ちょっとばかし『戦い』って感じしなかったからな……」


 向こうの世界では、色々と背負っちゃってたから戦いを『楽しむ』なんてことは、後になるにつれて忘れていった。

 楽しんでるどころじゃなかったから。負ければ即死。それどころか仲間まで皆殺しにされる。

 そんな状態で戦い続けていたから、戦いを楽しむなんてことはずっと昔に忘れてしまっていた。


 ――けれど、ここは違う。


 負けたところで、シロなら不機嫌そうにげしげしと僕を足蹴にしながらも、きっと許してくれるだろう。

 ここで行われているのは命のかかっていない戦い。

 楽しんでもいい――戦いだ。

 なればこそ、久しぶりにその感情も、思い出せるというもの。


「――消化不良。あんな勝ち逃げみたいなことされて、腹に来てないわけがないよな」


 獰猛な笑みを張り付け、キングゴブリンを見据える。

 先程まで敵意を剥き出しにしていた奴は、僕の瞳を見て思わず一歩後退る。

 ――戦闘狂。

 かつてそう呼ばれていた頃を思い出して。



「さて格上、負ける準備は十分か?」



 拳を握りしめ、一気に駆け出した。


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