《44》ゴブリンキング
本編は主人公変わって難しいけど、こっちはささーっと書ける不思議。
結局、キラキラとした瞳に断ることが出来ず、まぁ、今回限りということで僕は彼女らと共にボス攻略をすることとなった。
まぁ、向こうからしたら噂の吸血鬼の実力が気になるところだろうし、逆にこちらからすれば、ちょうどトッププレイヤーの実力を図ることの出来る良い機会だ。お互いの利害は一致いしていた。
――の、だが。
「……で、これは?」
視線を下ろす。
すると、何故かそこには僕の手を握って歩いている青頭――アオの姿があり、ちょっと視線を動かせば体中から負のオーラをあげているゴールドとシロの姿があった。
「ん? お兄ちゃんっていないから、どんなものかなって」
言いながらもにぎにぎと僕の手を握るアオ。
なんだろう、こっち来てから幼女にすごーくモテるんだが。
武器屋の女の子、ツキちゃん。
言わずもがな、我らがシロちゃん。
そしてこの子、アオちゃん。
どうしたもんかとため息を吐いていると、後ろから顔を真っ赤にしたゴールドが叫びをあげた。
「我らが汚れなきロリっ子女神、アオ様にまで手を出すとは……、ふははっ、良くぞ私の前で本性を表すことが出来たな汚らわしき狼よ! よし! 今すぐその場所を退け! 私がその手を握って浄化して差し上げねば!」
「おねがい、ずっと握ってて」
物凄い勢いで懇願してきたアオ。
そしてぞんざいな扱いを受けて胸を抑えるゴールド。
「く……あ、アオ様ッ! わ、私とその男……どちらを取るというのですか!」
「お前じゃない方」
「ふげらっ!?」
恍惚な笑みを浮かべて痙攣しているゴールドをお供のプレイヤーたちが引っ張って歩き出し、それを苦笑いしながら見ていた僕の横腹に、ズビシッと指がくい込まれる。
「うぐっ……、し、シロ?」
「……」
見れば不機嫌そうなオーラを全身から醸し出したシロがそこには立っており、その視線はじぃっと握っているアオの手へと向かっていた。
「へぇ、羨ましいんだ」
ズビシッと、横腹に第二撃が繰り出される。
ぐおぶっ、と変な声を漏らしながら蹲ると、それを見て何を思ったか、楽しげに声を弾ませたアオが追撃する。
「ちょうど、こんなお兄ちゃん欲しかった。せっかくだし、このお兄ちゃん、うちのクランに入れようかなー」
ズビシッ! ――第三撃目。
横腹を抑えてもがき苦しんでいると、どこからか高笑いが聞こえてきた。
「ふははははっ! ざまぁみろクソ野郎! 貴様のようなロリコンの末路には相応しいではなぶげらっ!?」
「ゴールドうるさい」
容赦なくアオの投擲した石ころが奴の額に直撃する。どうやらフレンドリーファイアはセーフらしい。
思わず苦笑しながらも、野良の猫のように警戒しているシロの頭を軽くなでた。
「大丈夫だって、シロのそばを離れたりしないって」
見れば不機嫌そうなオーラはだいぶなりを潜めており、彼女は顔を背け、げしげしと足元を蹴りつけてくる。今度はあんまり痛くない。
わかりやすいなぁ、と内心で微笑みながら。
「それにシロは大人だろ? こんなちっちゃい子ならまだしも、シロみたいな偉い子は我慢できるもんな?」
しゃがみこみ、視線を合わせてそう問うと、きらんっと瞳を輝かせたシロが物凄い勢いで頭を上下に振り始めた。
――計画通り。
シロは子供扱いされたくない。だがそれと同じくらいに構ってちゃんである。ならば大人扱いをした上で、我慢できるもんなー、と微笑んでやればそれでいい。
と、思っていると、今度はアオが不機嫌そうなオーラを発し始めていた。
「……私、子供じゃないもん」
「あ、えっと……」
見れば目をうるうるとさせたアオが僕の手を握りしめており、どこからか「なーかせた! なーかせた!」と小煩い声が聞こえてきたが、プレイヤー諸君が少しボコってくれたらしく、すぐになりを潜めてくれた。
「あ、えっと……、その……」
とりあえずなにか訂正しなければ。
そう思って――ぎゅっと、彼女を抱き抱えた。
「ふぇっ!? ちょ、ちょっと――」
顔を真っ赤に染め、慌て出す彼女を他所に。
――スッと腰からアゾット剣を抜き放ち、飛んできたその『矢』を打ち払う。
「大丈夫か?」
「う、うん……」
抱えていた彼女を下ろすと、なんだか真っ赤になってソワソワとしている。嫌な予感しかしないが……まぁ、アレだ。今はそれどころじゃないってことで置いておこう。
今は――
「シロ、槍持って周囲警戒。おいゴールド、そろそろ真面目になれ、待ちに待ってた敵襲だぞ」
「なに!? 敵襲だと!?」
一瞬にして真面目モードになったゴールド。本当にこいつは……小一時間くらい説教してやりたいくらいだが、まぁこういう奴なんだと割り切ろう。
「敵の数は?」
「……確認できるだけで五。かなり高速で木々の中を移動している。向かって右の、今矢が飛んできた方の森だな」
呟きながらも背中の弓と矢を手に取ると、ググッと矢を振り絞る。
「了承した。おい貴様ら、アオ様はいきなり抱きつかれて放心中だ。三人でアオ様をお守りしろ。森の中は私とこのロリコン、シロたまの三人で行く」
「おい、さり気なく『たま』とかいうな――ッ」
矢を放つ。
その一撃は寸分違わず動き回っている気配の一つへと吸い込まれてゆき、森の中からつんざくような悲鳴がこだまする。
「まず一匹。声からして……猿か? いや、ちょっと違うか」
「な……」
目を見開いて唖然としていたゴールド及びプレイヤー達だったが、すぐに森の中から憤慨したような叫び声が聞こえてきて意識を戻す。
「お、おい! 大丈夫なのかこれは!」
「知るか。おおよそ仲間がやられて怒り狂ってるんだろう。あと少しで来るぞ」
返した言葉に、ニヤリと笑ってゴールドが剣を抜く。
「森に囲まれた山道……、森の中ではアオ様の独壇場だが、こうして森から出来たのならば私の出番だ。貴様は心配しておらんがシロたま! ご注意を!」
「……!」
ぎゅっと槍を構えることでシロが返事をし、何だかんだで仲のいい二人に思わず苦笑してしまう。
「さて、僕も――っと」
再び飛来してきた矢を打ち払うと同時に、それらのモンスターが山道へと飛び出してきた。
然してそれらの魔物は見覚えのある容姿をしており――
「ゴブリンか……!」
─────
ゴブリン
脅威度D
─────
緑色の体躯。
でっぷりとした腹に細い手足。
鬼のような歪な顔に、黄色い八重歯が覗いている。
僕が知る――正しくゴブリンである。
「ゴブリン!? モンスターが一切出てこないと思ったら……」
「大方私達が逃げられないよう、奥まで入ってきたところを狙ったのだろう!」
一人のプレイヤーが呟いた言葉にゴールドがそう返す。今回ばかりは同感だ。
矢を使えている事実、そしてこの戦術から見るに……それなりに知性は高いのか? あるいはボスがいるのかもしれないが……いずれにせよ。
「ま、コイツらは楽勝だろう」
ゴブリンが棍棒を大きく振りかぶり、その隙に懐へと飛び込み、すれ違いざまに剣を一閃する。
ゴブリン……脅威度はDランク。シルバーナイトウルフ戦帰りに確認したのだが、南のステージにいた一角ラビットと同格である。
それが残り三体、まぁ、大丈夫だろうと。
そう思っていた――その時だった。
「――ッ!?」
一瞬にして、周囲が薄暗く包まれる。
視界の端でゴブリンが光となって消えてゆくのを眺めながら――ふと、反対側の森の中から突如ものすごく大きな気配が生まれたのを感じ取る。
それも――三つ。
「ど、どうなって……」
混乱するプレイヤー達を振り返る。
彼らの背後にはとてつもなく大きな影がにじり寄っており、その姿を見て咄嗟に叫ぶ。
「おいッ! 後ろだ!」
アオを含めた四人のプレイヤーが声に弾かれたようにその場から飛び退き、直後にその場所へと巨大な棍棒が振り落とされる。
「ぐっ……」
「アオ様!」
小さくアオの悲鳴が漏れたが……僕には、駆け寄っていられるだけの余裕はなかった。
視線の先にいたのは、引き締まった体に、二メートルを遥かに超える体躯を誇る巨大なモンスター。
そのモンスターを見て、思わず引きつった笑みを漏らしてしまう。
──────
【MID-BOSS】
キングゴブリン
脅威度B+
──────
「MID……中ボス。こんなに強くて大丈夫か?」
――中ボス。
なるほど北エリアが一番難易度高いって……そういうことかと。
改めて実感した僕だった。




