《4》初戦闘
まだこれだけしか出してないのに評価ついてて驚きました。評価ありがとうございます。
――吸血鬼。
その種族に僕は身に覚えがありすぎた。
というのも異世界へと転移した時、僕はある理由から種族が『人族』から『吸血鬼族』へと変化してしまっており、あの部屋に迷い込むまで僕はずっと吸血鬼として生きてきたのだから。
だからこそ、この赤い目を見た時は『もしかして』と思ったが、どうやら本当にその考えは当たっていたようである。
とりあえずふぅと息を吐いて気持ちを落ち着けると、僕はその『アビリティ』という欄へと視線を向けた。
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【アビリティ】
・吸血Lv.1
・自然回復Lv.1
・夜目Lv.1
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そこにはステータス確認画面では空白だった場所に三つの能力名が書かれており、僕は気になってそれらの名前へとタップした。
すると案の定現れるそれらの説明。
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・吸血Lv.1
吸血鬼特有の固有アビリティ。
相手の血液を吸うことで自身のHP、MP、APを回復させる。
・自然回復Lv.1
HP、MP、APを常時自動的に回復する。
・夜目Lv.1
暗闇の中で目が見えやすくなる。
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それらを見て僕は顎に手を当ててうーんと唸る。
ランダムによって出たレア種族であることは間違いないだろうが……多分これはその中でも『ハズレ』に位置する存在だろう。そんな気がする。
確かに『アビリティ』――しかもそれも三つだなんて、きっとそれだけでも他の六種族と比べたら一歩リード出来ているのだろう。
だが、それでもこれ以上の『チート種族』が無いのかと聞かれれば……、多分ゼウスのことだから作っている。
それに――
「問題はこれ……カルマが-100、ってことだよな」
僕はステータスのその数値へと視線を向けた。
――カルマ。
恐らくはどれだけ『罪』を背負っているのかを表した数字だろう。普通に考えて+だと良くて――たぶん、-だとかなり悪い。
その証拠に先程からNPCの人たちは皆眉を顰めて僕の周りから去ってゆき、子供たちなんて僕を見た途端に逃げ出してゆく始末だ。なんてこったい。
「もしかしなくてもアレか……、吸血鬼はその存在自体が『悪』とか、そういう話か」
僕は呆れたようにそう呟くとベンチから立ち上がった。
まぁ、現状はだいたい理解した。
ゼウスはどういう理由からかは知らないが、僕をこのゲームの中へと閉じ込めた。
この世界には実際にプレイする『プレイヤー』がいて、この世界で実際に生きている『NPC』がいて、防具をつけているのを見るに、きっと『モンスター』という存在もいるのだろう。
先程からなるべく周囲のプレイヤーたちを見渡してきた。安っぽい革の防具、そして薬草を嬉しそうに買い取るプレイヤーの商人。おそらくこの『silver soul online』はまだ始まって間もないのだろう。
そんな中で僕はレア種族で、NPCからの嫌われ者で、あんまりチートっていうわけでもない。
「嫌われてるのは面倒だが、あんまりチート過ぎるニューゲームって言うのも面白くないしな」
僕はそう言って笑みを浮かべると周囲を見渡す。
たまたま武器や防具を装備したパーティが目に入り、その歩いてゆく方向へと視線を向けると大きな防壁が見て取れた。
僕はそれを見てコクリと頷く。
「さて、行動開始だ」
僕はとりあえず、壁の外に出てみることにした。
☆☆☆
――Silver Soul Online。
このゲームの名前である。
どうやら調べたところによるとこの世界――というか、正確にはこのゲームが存在している世界は僕のいた地球とはまた少し違った場所。言うなれば『パラレルワールド』であり、その世界では既に『Virtual Reality』という技術が完成しているのだとか。
通りでゲームの中なのにも関わらず景色や感触、果ては匂いまでもが現実と区別がつかないわけで……と、話が逸れそうなのでこの話は置いておこう。
これは全知全能の神が作りしもう一つの世界。
貴方がたはこれより異世界へと転移する。
その世界ではNPCは生きている。
やろうと思えばなんでもできる。
建国するか? 大量殺人鬼となるか?
はたまた世界を救う英雄となるか?
全てはあなたの行動次第。
さぁ、この先には無限の可能性が広がっている。
無限の可能性から貴方だけの未来を掴み取れ。
それこそがこのゲームの代名詞。
武器や防具などは好きなものを装備できて、例えば防具の上に防具を重ね着しようがすべて自由。
PKやNPKも犯罪者――赤マーカーになる覚悟ができているのならば自由であり、主だった反則事項と言ったらアバター改造やハラスメント行為くらいだろう。
この世界では自分の行動によってその先の未来が無限に広がっており、努力次第でどんな未来をも掴み取ることが出来る。
評判としては『そんなわけが無い』と一笑にふされているが、ここまでのリアリティと、更にはこのゲームの製作者を知ってしまえばその言葉を疑うことは僕にはできなかった。
閑話休題。
この世界には、モンスターという存在が存在する。
魔物でも、怪獣でもなく、モンスター。
倒せばポリゴンとなって砕け散り、イベントリにアイテムを落としてくれる。そんなご都合主義の塊のような存在。
プレイヤーたちは最初、冒険者ギルドへとはいって依頼をこなしてゆく訳だが、その中でモンスターとの戦闘が避けられない場合が出てくる。
正確には通常のプレイヤーは全てを決め終わった後に『チュートリアル』なるものがあるらしく、そこでモンスターと戦うらしいのだが……、その時に問題になってくるのが戦闘経験の無さである。
考えても見てほしい、一般人がゲームの中といえども剣を振り回してドラゴンを討伐できるか? 答えは断じて否である。
だからこそ、このゲームにはHP、MPの他に『AP』というゲージがあり、それを消費することによって様々な技――『アーツ』を発動することが出来るのだそうだ。
「『スラッシュ』ッ!」
『ぴぎぃっ!?』
場所は街を出てすぐの場所に位置する草原。
その安っぽい革鎧装備の少年が大声でアーツを叫ぶと、その剣が淡い光を放ち、直後に彼の身体は熟練者のような見事な袈裟斬りをそのモンスターへと放つ。
その相手――グリーンスライムは核にその一撃が当たったのか、断末魔を上げながらピクピクと痙攣。すぐにポリゴンとなって消え去ってゆく。
「うーん、こんなもんかな」
僕は一人そう呟いた。
以上がこの十数分間に僕がメニューの『ヘルプ』から拾ってきた情報なのだが、実際にはチュートリアルの方がよほど詳しく、わかりやすくて情報が多いのだとか。
何故僕にはチュートリアルが無いのか、というか何でこのゲームはこんなにも僕に対して不親切なのか。
「ま、説明無しで異世界に連れてこられた、とか思ってればいいか」
どうせ閉じ込められてるんだし。
僕はそう呟くと、メニューからイベントリを開く。
今のイベントリには五十種類のものが入るようになっており、それぞれ一つの種類に対して九十九個まで入るとのことだった。ちなみに中の時間は止まっており、Lv.10毎に十種類イベントリの収納スペースが増えるとのことだ。
ちなみに最初から入っていたのは、皆さんお馴染みの『初心者ポーション』と――コレである。
僕は小さな四角の中に映っているその剣のマークをタップすると、それと同時に僕の手の中に光が集まり、一振りの剣を生み出した。
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初心者の剣 ランクD
初心者が使う剣。
特殊な素材で出来ている。
扱いやすいが切れ味は悪い。
Str+3 耐久∞
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まぁ、文字通り初心者の剣だ。
気がつけば僕の背中にはその剣の鞘が取り付けられている。
僕は再び剣へと視線へと下ろすと、柄をぎゅっと握って軽く振ってみる。
周囲からは『一人で何してんだコイツ』と言ったような視線を向けられるが、僕はそれらを完全に無視すると、そのその剣の切っ先をたまたま近くにポップしたグリーンスライムへと向ける。
「……さて」
先程から観察していた様子だと、グリーンスライムはアクティブ――つまるところ、敵を見つけ次第攻撃してくる気性の荒いタイプのモンスターだ。
グリーンスライムはこちらへと気がついたのかぷよんぷよんとこちらへと向かってくる。
それに対して僕もゆっくりと歩き出す。
「エンチャントマジック」
瞬間、僕の握っていた剣が淡い青光に包まれる。
それは僕のスキル『下級魔力付与』の能力で、魔力を剣に纏うことで切れ味を上げ、魔法攻撃力を付与する。
僕はIntが低いから大して攻撃力は上がらないとは思うけど――
「こいつ程度なら――十分だ」
瞬間、僕は駆け出した。
グリーンスライムは触手のようなものを伸ばしてくるが、見切りスキルによってその触手がどのように動くのか赤い線で表示される。
僕はそれらを最低限の動きで躱すと、すれ違いざまに、その剣が核を通るように振り切った。
今の僕の動きを見ていた周囲のプレイヤーたちは皆目を見開いて固まっており、僕がその剣を背中の鞘に収めると同時、パァンっとスライムがポリゴンとなって霧散する。
《ポーン! グーンスライムを一体倒しました。10経験値を獲得しました》
僕はその機械のように冷たい声を聞きながら、黙って更に奥へと歩を進めていった。
種族がめちゃくちゃ強くてその力だけでゴリ押し、とかあまり合わない思うので、どちらかと言うと技術で圧倒するスタイルです。