《3》レア種族
ランダム、レア種族。
これは外せない。
「こ、ここは……」
僕は思わず周囲を見渡した。
目に入るのはレンガや石によって出来た家に、石畳の広がる広場。そしてその中心の大きな噴水。
そして、僕はその噴水の前に座り込んでいた。
視線を身体へと下ろせばいつの間にか衣服はファンタジーでよく見るような布の服へと変わっており、混乱する僕へ、頭の上に青いマーカーが乗った人々が嘲笑にも似た笑みを浮かべて来る。
「おい……アイツ見ろよ? 初期装備で死に戻りだぜ?」
「初期装備で街の外出るか? フツー」
「ぷっ! あの顔っ、多分まだ自分が死んだってこと気づいてねぇんじゃねぇのか?」
初期装備? 死に戻り?
僕はよくわからないその単語に首を傾げながらも、とりあえず立ち上がって近くのベンチへと腰掛けた。
次第に僕に集まる視線は少なくなってゆき、僕はそれを見計らってため息を吐いた。
「ったく……、チュートリアルも何も無しで放り込むのかよ……。しかもよく考えたらアバターすら決めてないし……」
僕はペタペタと顔や髪を触ってみる。
どうやらこの身体は先ほど部屋にいた『昔』の身体そのもののようで、鏡こそ無いが、きっと日本にいた頃と同じ黒髪黒目の状態だろうことは察せられる。
「はぁ……、どうせなら向こうの身体と同じく、目の色くらいは変えて欲しかったよな」
異世界では僕は種族の特性上、瞳の色が赤かった。
黒髪赤目というのは思っていた以上にカッコよく、正直自分でも気に入っていたのだが――まぁ、始めてしまったからには仕方ない。
僕は立ち上がって噴水の近くまで歩いてゆくと、一応の確認としてその溜まっている水を覗き込む。
揺れる水面にボンヤリと僕の顔が映り込み――
「……はっ?」
その赤い瞳を見て、僕は思わず硬直した。
☆☆☆
ピコンッ。
そんな音が響き、僕はやっと硬直から開放された。
よく見れば視界の右上に《メニュー》と書かれた文字が浮かび上がっており、メールのようなアイコンが明滅していた。
「め、メニュー……?」
とりあえず口にしてみる。
すると案の定僕の目の前には薄く青みがかった透明なウィンドウが現れる。
もしかしてメールでも来……
────────
【メニュー】
○ステータス
○イベントリ
○フレンド一覧
○メールボックス
○マップ
○攻略掲示板
○各種設定
○ヘルプ
○ログアウト《禁止》
────────
おーっと、それどころの話じゃなかったな。
僕は思わず目を見開きその一番最後の文字へと視線を向ける。
「ろ、ろろ、ログアウト……き、禁止っ?」
――デスゲーム。
そんな言葉が脳裏を過ぎる。
けれども周囲を見れば、それこそ初心者装備としか思えないような装備を着用している青マーカーの人達が大勢居り、よく目を凝らせばその頭の上にアバターネームが現れた。
恐らくはこの青マーカーが『プレイヤー』の証で、その他の老人や子供なんかの上についている緑色のマーカーが『ノンプレイヤーキャラ』――NPCの証なのだろう。
それらを見て分かったのは、誰ひとりとして悲観的な空気を纏っていない、という事だ。
(デスゲーム……じゃないみたいだな。ならログアウト禁止なだけで何度死に戻っても大丈夫……だったとしても、ここまで悲観的な空気が皆無なわけがないか)
そう考えていると、なんだか嫌な予感がこみ上げてきた。
僕は思わずヒクッと頬を引き攣らせる。
「ま、まさか……閉じ込められたのって、僕だけ……?」
何故だろう、物凄くそんな気がしてきた。
と言うかあのゼウスがどんな理由でそんなことをしたのかは不明だが、サムズアップして『ゲームやり放題。やったね、ギンくん』と言ってくるゼウスが目に浮かぶようだ。
僕は半ばその事実を確信してため息を吐くと、ふと、あることに気がついた。
「……って待てよ? ログアウト禁止ってことは……、アイツらにも会えないってことだよな?」
そう、その事についてである。
正直欠如している記憶も気になるのだが、多分アイツら――僕の仲間達は死んじゃいないだろう。僕が頑張って守ってるはずだからな。
だからこそ今はアイツらが生きていると仮定して物事を考えるとする。すると――その、どうだろう?
『へぇ、私達放ったらかしにしてゲーム。ゲームしてたんだ? なに? 最先端のVRMMO? へぇー……』
『カカッ! ……色々と、覚悟はできておるのじゃろうな? 主様よ』
『クハハハハッ! ときに主殿よ……、殴る蹴る魔法を打ち込む全てありのデスマッチをしないか?』
とりあえずあの三人の声が頭を過ぎる。
間違いない――今帰ったら殴られる。
僕は頭を抱えながらもそんなことを確信し――
「せ、せっかくのVRだもんなぁ〜。や、やらなきゃ損だよなぁ……、うん、そういうことにしておこう!」
とりあえず、現実のことは考えないことにした。
☆☆☆
ということで、とりあえず現状や現実世界のことについて全てを頭の片隅に放り投げた僕は、再びそのメニューへと視線を移した。
────────
【メニュー】
○ステータス
○イベントリ
○フレンド一覧
○メールボックス
○マップ
○攻略掲示板
○各種設定
○ヘルプ
○ログアウト《禁止》
────────
「『不可』じゃなくて『禁止』ってところがまた……」
僕はどうしても目がいってしまうその場所から強引に視線をそらすと、その一番上の項目へと視線を向けた。
「ステータス……か」
現実以外のことで一番気になることといえば、なぜ僕の瞳が赤色になっているのか、という事だ。
種族の選択画面で見た中なら『鬼人族』なら目が赤色になってもおかしくはない。鬼だしな。
けれども――
僕は《ステータス》の文字を指でタップする。
すると画面が切り替わり。そこには――
─────────
【name】 ギン
【種族】 吸血鬼族
【職業】 旅人
【Lv】 1
Str: 4
Vit: 1
Dex: 1
Int: 1
Mnd: 1
Agi: 7
Luk: 2
SP:0
【カルマ】
-100
【アビリティ】
・吸血Lv.1
・自然回復Lv.1
・夜目Lv.1
【スキル 5/5】
・下級剣術Lv.1
・隠密Lv.1
・気配察知Lv.1
・見切りLv.1
・下級魔力付与Lv.1
【称号】
なし
────────
僕は疲れたように空を見上げた。
雲一つないその青い空を眺めながら、僕はため息混じりにこう呟いた。
「レア種族……こんなに簡単に当たっていいのか?」と。