《27》シロの実力
その後、何とかフリーズから回復した彼女達。
キャストに言ってもいいのかは分からなかったが、彼女もアスパ曰くβテスターで信頼出来るらしいので、もう色々とぶっちゃけてやった。
すると――
「……え、こんなに貰ってもいいの?」
「うん、ちょっとこの情報は……ねぇ?」
「うん、ねぇ……?」
僕はアスパからどっしりとした布の袋を受け取る。
瞬間、僕の脳内にインフォメーションが鳴り響く。
《ポーン! プレイヤー『アスパ』から『36,000G』を受け取りました》
その金額、なんと三万六千G。
恐らく日本円に直して三十六万円である。
ボス、報酬、従魔屋、そしてその従魔の種類などの情報を売っただけでこれである。果たして驚いていいのか喜んでいいのか困っていいのか……。
僕のなんともいえない表情を見たのだろう、アスパは呆れたような表情を浮かべてこう言ってきた。
「あのさぁ……、未だに誰も挑戦できてないボスの情報に、加えて全くの未知の従魔屋、その従魔の種類に加えて新しい職業の会得条件の確立。その他もろもろ今後の期待も含めたらその値段になっちゃうよ」
今後の期待って……、別に何もするつもりないんだけどな。
そんなことを思っていると、アスパはどこからかメールでも来たのだろうか、何かをタッチした後に数秒虚空へと視線を漂わせ、ガバッと顔を上げた。
「いい所にいい依頼が来たよギンくん! 今からハイドさんの所がシルバーナイトウルフ、だっけ? それに挑戦するんだって! 情報提供してくるよっ!」
そう言うと返事も聞かずに彼女はどこかへと駆けてゆき、そこに残されたのはなんとも言えない表情で突っ立っている僕とキャスト。そしてローブの袖をギュッと掴んでいるシロ。
僕とキャストはお互いに視線を交わしてため息を吐くと。
「……悪目立ちすると、絶対面倒なことになるで」
「……悪目立ち、してるつもりないんですけど」
僕らの様子を、シロが不思議そうな顔で見上げていた。
☆☆☆
その後、キャストと分かれた僕達は、その足で壁の外のフィールドへと向かっていた。
やはり最も簡単な南へと向かうプレイヤーが多い中、ボスが攻略されたということもあってか、ほかの方角へと進む者達も一定数はいるようで。
僕達が今回向かった『西』のフィールド。
そこにもチラホラとプレイヤーの姿が見て取れた。
のだが――
「やっぱりシロは目立つよなぁ……」
その言葉に、僕の隣をテクテクと歩いていたシロが首を傾げた。
どうやらこのゲームはかなりアバターをいじれるらしく、シロくらいの白い髪は案外居るのだが、ここまで幼い上にマーカーのない存在というのはイレギュラーであり、それなりには目立っていた。
それこそ、その子はどうしたんですか、と数度話しかけられるほどに。間違ってもロリコン誘拐犯と間違えられた訳では無いから気をつけてくれたまえ。
閑話休題。
そんな訳で、南も攻略したわけだしとりあえずはその横の西へと着てみたわけだが――
「一体、どういう原理になってるんだろうな」
僕はその、水分という概念の見当たらない荒野を見渡して、そんなことを呟いた。
ここからあの森まで、たったの十数キロである。
あっちでは鬱蒼と木々が生い茂っていたのにも関わらず、ここにある木といえばもう既に枯れ果てて薄茶色となっている倒木だけだ。
僕はそのジリジリと照りつける日光を疎ましそうに見上げると、そう言えば僕って吸血鬼だったな、と思い出す。日光に当たるのは平気っぽいけど、絶対火とか光とかの属性耐性ゴミカスだろうな。まず間違いない。
と、そんなことを思っていると、チョイチョイとシロがローブの袖を引っ張った。
なんだとそちらへと視線を向けてみれば、彼女はどこからか拾ってきた枝を片手に持ち、地面へと何かを描き始めている。
「なになに……?」
僕はしゃがみこんでその絵を覗き込む。
するとそこには――えっと、なんだ。その……アレだ。ピカソのような素晴らしい絵画がそこには広がっていた。
例えるならば――そう、作品名『龍と亀』。
龍を片手握り、巨大な亀を片手に装備した人間……だよな? そのような生物がそこには描かれており、シロはキラキラとした視線を僕へと向けてくる。
まるで『上手いでしょー!』とでも言わんばかりのその瞳。僕はその瞳を見てふっと笑みを浮かべると。
「ごめんなさい、ヒントください」
シロは頬を膨らませ、枝を僕の脛をへと叩きつけた。
☆☆☆
その後、むくれてしまったシロは地面に。
『すてーたす』
らしき暗号を書き残してだんまりしてしまい、僕はその暗号を何とか解読した後に彼女のステータスを見るべく頑張ってみた。
すると僕のステータスに新しく加えられたそのシロの名前。それをタップすることで彼女のステータスが現れるらしい。
ので、僕は彼女のステータスを確認してみたのだが――
──────────────
【name】 シロ
【種族】 ヴァルキリー
【職業】 選定者
【Lv】 1
Str: 8
Vit: 3 +5
Dex: 1
Int: 8
Mnd: 3 +5
Agi: 6
Luk: 1
SP: 0
【好感度】
+22
【アビリティ】
・死の選定Lv.1
・素手採取Lv.1
【スキル】
・下級槍術Lv.1
・下級盾術Lv.1
・気配察知Lv.1
・見切りLv.1
・下級光魔法Lv.1
【称号】
なし
──────────────
「おいおい……、Lv.1でどんな強さしてるんだよ……」
僕は、そのかなり高いステータスを見てそう声を漏らした。
選定者といういかにも強そうなその職業に、聞いたことも見たこともないアビリティが二つ。ポテンシャルなら間違いなく僕以上であろう。
すると少しドヤ顔になったシロは僕の方へとテクテクと歩いてきて、そのスキルの欄へとビシッと指をさした。どうやら従魔はウィンドウを閲覧できるらしい。
僕はそんなことを考えながらもそのステータスの欄へと視線を向けると――
「……あぁ、あれ槍と盾だったのか?」
僕の言葉にシロはブンブンと首を縦に振った。どうやら当たりらしい。
想像にはなるが、盾と槍が使えるからあったら欲しい、とそんな所だろうか?
僕はメニューからイベントリを開くが、盾も槍も買った記憶はなく――って、あれ?
「そういや、あの槍って……」
思い出すはシルバーナイトウルフを討伐した際に得たあの報酬。
モンスター大図鑑と銀夜狼の宝玉と。
そして――
「狼の銀槍……」
僕はそうつぶやくと同時にイベントリからその槍を取り出すと、それを見たシロが目に見えてその瞳をキラキラと輝かし始めた。
――狼の銀槍。
僕が使うには少し短すぎるその槍。サブウェポンや短槍として使おうかとも思っていたが……どうやらいい感じに運に恵まれたらしい。
「シロ、この槍しか無いけど……使えるか?」
迷うことなく首を縦に振りまくるシロ。
そのヘッドバンギングさながらの様子に僕は苦笑すると、シロへとその槍を手渡した。
すると彼女は心底嬉しそうにその槍を受け取ると、その槍を胸に抱いてペコッと頭を下げた。
言葉で言うと「ありがとう」だろうか。
「どういたしまして」
僕はそう言葉を返すと、彼女は少し驚いたように顔を上げた。
その顔には「なんでわかったの?」と言った感情が透けて見えるようで、僕は日本にいた頃を少しだけ思い出した。
「うーん……、昔から他人の考えてることを読むのは得意でさ。だからこそ知り合いには天職は詐欺師だなとか言われてたんだけど……。まぁ、そのお陰でこうして簡単なことくらいは分かっちゃうんだよ」
と、そんなことを言っていると、僕達のすぐ近くに一つの光が浮かび上がった。
それはモンスターがポップした証。
周囲へと視線を向けるとそれを狙っていそうなプレイヤーの姿はなく、僕はシロへと視線を向けた。
「それじゃ他に人もいないようだし、初戦闘と行きますか」
そういった瞬間、ポーンと光がはじけて新たなモンスターがポップされる。
そこに居たのは――小型の猪。
と言っても異世界でなんやかんやしていた僕基準での『小型』であり、大きさは子供一人分くらいだろうか。……こう考えると中型かもな。
そんなことを考えていると、モンスター博士のアビリティが発動したのだろう。その猪の上にHPバーと名前、そしてその脅威度こランクが表示される。
──────
突撃猪
脅威度 C-
──────
「おお……ウルフよりも上か」
僕はその簡潔な文章を見てそう声を漏らした。
ウルフの脅威度がD+だったはず。あいつらは群れると更に脅威度が上がるはずだったから……、数頭の群れ=コイツ、ということになる訳か。
と、そんなことを考えていると、その猪は僕らの姿を捉えたのだろう。ズザァッズザァッと後ろ足で砂埃をあげ始める。
それを見て僕は――
「よしシロ。とりあえず初見だから様子見――」
そう言おうとした途端、僕の隣をシロが駆け抜けて行った。
それには僕も思わず目を見開いてしまったが、彼女は僕をちらりと振り返った。
その様子からはまるで『腕試しする』と言っているようでもあって、僕は苦笑しながらもそれに追随する。
腕試しするからと言っても、だからといって後方から黙って見ているわけには行かない。魔法を使えれば後方からでもなんとか出来たが、今の僕がそれを成すにはかなり接近していなければならないのだ。
僕は腰のアゾット剣へと手を伸ばしながらも突撃猪へと接近すると、突撃猪は二人が一直線上になったのを好機と見なしたのだろう。グッと大地を踏みしめた。
なんというわかりやすいモーションだ。やるならもっと分かりにくくやればいいだろうに。
僕はそんなことを考えて――
「――ッッ!」
瞬間、シロの持っていたその『狼の銀槍』淡い光を帯び始め、直後の、シロはその猪の頭蓋へとその槍を突き立てた。
『ピギャァァァォォォォ!?』
叫び声をあげる突撃猪。
その様子に僕は思わず目を点にして立ち止まってしまい、その断末魔の叫びを聞いたシロは、僕の方を振り返ってブイっとピースをした。
直後、彼女の背後で突撃猪がポリゴンとなって消え失せてゆき、その様子を見た僕は――
「……あれ、これってもしかしてすぐに抜かされるんじゃ……」
そんな、一抹の不安を覚えた。
次回からは完全な不定期です。




