表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Silver Soul Online~もう一つの物語~  作者: 藍澤 建
一階層・始まりの街
26/89

《26》魂の眷属

 そんないい感じのムードの中。


「んで、金額の方なんだがよ」

「……へっ?」


 アレクから伝えられたその言葉に、僕は思わず唖然とした。

 金額……? もしかしてこれってお金とるの?

 僕の頬をタラーっと冷や汗がつたい、それを見たヴァルキリー――改めシロが首を傾げる。

 けれどもそれを見たアレクは「がははっ」と笑みを浮かべて、僕の肩をバシバシと叩いた。


「がははっ、冗談だ冗談。本当はヴァルキリーの契約だ、かなりの金額を貰わなけりゃ割に合わねぇが、ギンと俺の仲だ。今回はちっとばかしまけてやるさ」


 何故だろう、この世界に来てからというもの、ずっと現地人の人にまけてもらってばかり居る気がする。

 僕は思わず申し訳なさそうな、なんとも言えない表情を浮かべてしまい、それを見たアレクは困ったように頬をかいた。


「あー、納得してなさそうな顔だな?」

「まぁ、流石にタダっていうのは……」


 アレクの言葉にそう返すと、彼は少し悩んだ様子を見せた後、何か思いついたようにポンと手を叩いた。


「あっ、ならこんなのはどうだ? 今のところこの店に来た外の人間はお前さんだけなんだ。だからよ、ギンは外の人間にこの店のことを触れ回ってほしい。いわゆる宣伝だな」


 そう言って彼はチラリと横のシロへと視線を向けると、小さく「歩いているだけで十分だとは思うがな」と口を開いた。まぁ、そこについては同感ですがね。


「でもそんなことでいいのか?」

「それでもまだ足りねぇってんなら、今度からちょくちょく俺の店に遊びに来てくれ。俺の店は従魔屋でもあるが、その従魔専用の食べ物なんかも売ってるんだぜ? ……ほら、昨日お前さんにも一つやっただろう?」


 その言葉に思い出すは、イベントリの中に眠っていた名前からしてヤバイあのアイテム。

 どうやら『ブツ』と書いて『従魔フード』と読むらしい。なんて分かりにくいアイテムなんだ。

 僕は軽くため息を吐くと、頬を少し緩めてアレクへと視線を向けた。


「はぁ……、分かったよ。そこまで言うならお言葉に甘えさせて貰うとするさ」

「おうよ、甘えとけ甘えとけ」


 僕の言葉に彼はそう言ってしっしっと手を振った。


「ってな理由で、お前さんたちは早速宣伝にでも行ってきやがれ。ギン、お前さんがいるとうちの従魔たちが怯えて商売にもなんねぇぜ」


 言葉だけ聞けば辛辣だが、けれどもその顔には笑みが浮かんでおり、その言葉が本心ではないことは簡単に理解ができた。

 僕は「了解」と呟くと、隣に立っているシロへと視線を向けた。


「そんじゃ、行くかシロ」


 彼女はコクリと頷いて、ローブの袖をぎゅっと掴んだ。




 ☆☆☆




 《ポーン! Sクエスト『荒くれ者の店へ行け』をクリアしました。報酬のアイテムがイベントリへと送られました》


 店から出た途端。僕の脳内にそんな声が響き渡った。


「あー……、そう言えばクエストだったっけ」


 完全に忘れてた。

 もうこれはあれだな。朝一からアレクの顔を見たせいだな。あんなに印象的で威圧的なものを見ればこうなるのも仕方ない。

 僕はメニューの右上へと視線を向けると、そこには今の時刻である『7:46』という数字が刻まれており、僕はシロへと視線を下ろして口を開く。


「シロは……アレか? 僕達と同じもの食べても平気なのか?」


 すると彼女は迷うことなくコクリと頷き、ビシッと近くにあった出店へと指をさした。

 恐らく『あれが食べたい』という奴だろう。

 僕は「はいはい」と歩き出しながらもそう呟くと、彼女は嬉しそうにしながらテクテクとあとを付いてくる。なぜか袖を掴んだままで。

 そんなこんなでその出店の前までたどり着いた僕は、とりあえずその店がなんの店なのだろうかとメニュー表を探して――


「……あれ? もしかして噂の『魔王様』?」


 ふと、その店のカウンターの奥からそんな声をかけられた。

 その呼び方に何とも言えない表情を浮かべえ顔を上げると、そこには青色のマーカーの付いた女性プレイヤーの姿があり、隣にいたシロがコソッと僕の背中へと隠れた。


「あの……、その呼び方ってなんなんですか? 普通にやめてもらいたいんですけど……」

「あー、すまんすまん、未だに君の二つ名が決まってなくてなー。とりあえず一番印象的だった二つ名で呼んでみたんやけど……お気に召さなかったみたいやな」

「そりゃあ……まぁ」


 なにせ、あっちに本物の魔王様いた訳だしね。

 僕は内心でそう呟くと、雰囲気エセ関西弁な彼女は店の奥からこちらへと歩いてきた。

 腰まで伸びる金髪に、黄金色のその両の瞳。耳が隠れている代わりに頭の上の方から二つの獣耳――狐の耳が生えており、彼女が狐の獣人族なのであろう事は想像できた。


「まぁ、まずは自己紹介や。私の名前はキャスト。見ての通り狐の獣人族で、攻略の合間とかパーティメンバーの都合が合わない時になんか、こうして店を出してるってわけや」

「あー、初めまして。ソロプレイをしてますギンって言います。こっちの後ろに隠れてるのがシロって言います。ほら、シロ挨拶」


 その言葉に僕の後ろからちろっと顔を出したシロは、軽くキャストさんへと頭を下げた。

 そして、ズッキュゥゥゥンッ! という音と共に胸を抑えるキャストさん。もう嫌な予感しかしないね。


「かっ、かか、可愛ぃぃぃぃぃっ!? な、何やの子っ!? マーカー出てないけど……」

「同感だねっ。今度は何をやらかしたのかなー?」

「えーっと。何から言えばいいか……って、あれ?」


 予想通りそう叫びだしたキャストさん。

 けれども予想外だったのは、僕の背後からかけられたその言葉だった。

 僕は聞き覚えのあるその声にギギギッと後ろを振り返ると、そこには額に青筋を浮かべた情報屋の姿が。

 けれども彼女はニッコリと笑みを浮かべると。


「メール送ったんだけど気づいてないのかな? 称号と報酬と、あとその子について教えてくれない?」


 僕はボス戦の最中に送られてきた一通のメールを思い出して、ハハッと乾いた笑みを浮かべた。




 ☆☆☆




 その後、とりあえずご飯を食べながら話をすることになった僕達ではあったが。


「あー、もうシロ。お前も女の子なんだからそんなに口を汚したらダメだぞ……、ほら」


 僕の隣には口の周りをお好み焼きのソースでベッタリと汚しているシロの姿があり、僕は近くにあった手拭きでその口元を拭ってやる。

 そして、その様子を見ていた二人が一言。


「「……もしかして、その子ってギンくんの娘さん?」」

「違うわ!」


 断じて違う。

 確かに保護欲をそそられるこの娘ではあるが、彼女はあくまでも僕のパートナーだ。娘ではない。

 と、そんなことを考えながらも口を拭い終えると、彼女は再びそのお好み焼きへとフォークを突き刺してゆく。

 それを見て僕はやっと一息つくと、箸をその切り分けられたお好み焼きに伸ばしながら口を開く。


「えっと、この娘は僕の従魔だよ」

「「……へ?」」


 案の定、そんな声を出す二人。

 けれども僕はそれを無視してお好み焼きを一口大に箸で切り分ける。


「まぁ、この情報については従魔屋の店主さんから広めてくれって言われてるわけだし、逆に広めてほしいわけなんだけど。……あぁ、それとは別に従魔士への転職の仕方も分かったぞ。これは何かしら対価は貰うけど」


 ……まぁ、これから先のプレイヤーたちは、その大半が普通にしてたら取れるとは思うけど。

 そんなことを考えながらもそのお好み焼きを口へと運ぶ。

 それと同時に口の中に広がる甘しょっぱいそのソースとマヨネーズ、そして香ってくる青海苔の微かな香り。

 僕はその想像以上のクオリティに、少し頬を緩めてこう告げた。


「おお……、このお好み焼き美味しいですね」

「ん? おおきに……って、今それどころやないやろ!」

「そ、そうだよ! 従魔ってそもそも何さ!?」


 僕の言葉を皮切りに始まったそれらの言葉の嵐。

 僕はそれらを聞いてため息を吐くと、それらの情報を一から情報屋+一名のプレイヤーへと伝え始めた。



 ~中略~



 大体のところを伝え終えた僕。

 そんな僕を待っていたのは、燃え尽きたように白くなっているアスパと、愕然とした様子でフリーズしているキャストさんだった。

 何だか話しかけても無駄そうだったので、とりあえず彼女らが復活するまで、ステータスでも見て暇を潰しておこうか。確かSPも振り分けてなかった気もするし。

 いい加減慣れた手つきで、僕はメニューからステータスウィンドウを呼び出した。


 ───────────

【name】 ギン

【種族】 吸血鬼族

【職業】 盗賊

【Lv】 7

 Str: 13 +21

 Vit: 7

 Dex: 10 +2

 Int: 7

 Mnd: 7

 Agi: 31 +9

 Luk: 18

 SP: 6


【カルマ】

 -73


【アビリティ】

 ・吸血Lv.1

 ・自然回復Lv.7

 ・夜目Lv.3

 ・モンスター博士Lv.1 ・危険察知Lv.1


【スキル 6/6】

 ・下級剣術Lv.8

 ・隠密Lv.6 (↑1)

 ・気配察知Lv.7 (↑1)

 ・見切りLv.8

 ・下級魔力付与Lv.7

 ・軽業Lv.5

 ・


【称号】

 小さな英雄、月の加護、孤高の王者、最速討伐者、ウルフバスター


【魂の眷属】

 ・従魔:シロ(ヴァルキリー)

 ──────────────


 即、敏捷値に極振りした。

 もうステ振りに関してはその一行で済むだろう。

 けれど。


「……ん? よく見たらカルマがちょっと上がってるな」


 恐らくはRクエストとSクエストを達成したからなのだろうが……、まさかあの銀夜狼を倒してもこれだけしか上がらないとは。やはりこのゲームはかなりのハードモードのようだ。

 それに――


「魂の眷属……ねぇ」


 僕は隣に座っているシロへと視線を向けた。

 彼女は僕に言われた食べ方を気にしながらも、黙々とお好み焼きを口の中へと突っ込んでいっており、僕の視線を感じたのかもきゅもきゅと咀嚼しながらも僕の方を見上げてきた。

 雰囲気から、何か用かと聞いているような感じもしたので、僕は「何でもないよ」と、そう笑って返したのだった。


そろそろ不定期投稿になりそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ