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Silver Soul Online~もう一つの物語~  作者: 藍澤 建
一階層・始まりの街
24/89

《24》従魔屋

 その後、僕はギルマスのあとに続いて、一階のロビーまで歩いてきた。

 ちなみにだが、階段を降りた時にかなりのプレイヤーたちから驚愕の視線が向けられたが、もうそんなこと気にしてたら負けだろう。もちろん無視した。

 そして僕はそのままギルマスに挨拶をして帰ろうかと思っていたのだが――


「ギンよ。お主は第二階層へは行ける状況ではないな?」


 ふと、ギルマスがそんなことを聞いてきた。

 僕はその言葉に頷くと、それを見たギルマスは大きく僕へと頷き返してきた。


「じゃろうな。第二階層へと続く転移門が未だ姿を現していないのだ……。この話はその門が現れてからすることとしよう」


 ギルマスはそう呟くと、次の瞬間にはシリアスから一転、ニカッと笑みを浮かべて僕へと手を差し出してきた。


「ま、それはともかくとして、この街では十分に吸血鬼の意識改善はできたであろう! それもこれもお主のおかげじゃ。心から……心から感謝するぞ!」


 その言葉には拭いきれない喜びが滲み出ており、僕は頬を緩めて彼の手をガシッと握った。


「こちらこそありがとうございます。貴方がいなければギルドにすら加入できていなかったでしょう。こちらこそ感謝してもしきれませんよ」


 そう言うと彼は恥ずかしそうに頬をポリポリとかくと、話を逸らすかのように口を開く。


「まぁ、なんじゃ。Rクエストについては今回で一応ひと段落じゃ。第二階層へと行けるようになれば新たな依頼を出す故、それまでは自由に冒険し、時に普通のクエストを受けながらも頑張ってほしいのじゃ」

「はい、分かりました」


 僕はその言葉にそう返すと、どちらともなく固く握っていたその手を離した。

 気がつけばもう既に外は暗くなっており、僕はギルマスへと手を振りながら踵を返した。


「それじゃ、また明日にでもクエスト受けに来ますね〜」

「うむ! 待っておるぞ若き冒険者よ!」


 そうして僕はギルドから外へと出た。

 そこら中では魔法技術を使っているのか、街灯のようなものがポツリポツリと明かりを灯し始めており、夜空を見上げれば僕を照らす三日月が見て取れた。


「若き冒険者……か」


 そんな言葉、僕は初めて言われた。

 向こうの世界ではギルドにたどり着く前にダンジョンに放り投げられ、小国なら滅ぼせるだろう魔物達と連戦しまくっていたから、最初のギルドで僕より強い人物などギルマスを除いて他にいなかった。

 だからこそ、僕はどちらかと言うと『冒険者になりたての怪物』と言った感じだったのだが……事この世界では、僕はそこまで強くない。

 まぁ、ほかのプレイヤーにこんなこと話したら「は? なにそれ嫌味?」とでも言われそうだから口にはしないが。


「一歩一歩、地に足をつけて成長してくのも、また面白いかもしれないな」


 僕はそう言って頬を緩めると、寝床(テント)を張るべく歩き出した。

 この時の僕は知らない。

 翌日――あんなことになるだなんて。




 ☆☆☆




 翌朝。

 チュンチュンという小鳥のさえずりで僕は目を覚ました。

 チュンはチュンでもそっち系の朝チュンではなく、一人テントの中で目を覚ましたぼっち系の朝チュンである。

 昨日のようにいきなり称号を獲得したとかそういうインフォメーションがなることも無く、僕はテントの中で上体を起こし、ふぁぁぁ、と欠伸とともに身体を伸ばした。


「ううっ……はぁっ。これで三日目か……」


 不審に思われるのも嫌なのでアスパに聞いてはいないが、恐らくゲームが始まったのは四日前――その上で最高でも八時間連続ログインしか出来ない『とされている』このゲーム。間違いなく僕がゲーム内での最高ログイン時間を誇っていることだろう。

 ちなみにだが、八時間連続でログインすると強制的にログアウトさせられるらしく、休憩を一時間とる事に四時間のログインができるようになるのだとか。

 まぁ、全部ヘルプから仕入れた情報なのだが。


「んじゃ、とりあえず朝食でも食べに行きますかね」


 三日間もの間ずっと一人でいたからか、いつにも増して口をついて出てくるその独り言。

 けれどもその独り言に僕はさして何を思うでもなく、四つん這いのままテントの入口へと歩いてゆき、そのチャックをジジジッと開けた。

 そして――


「よぅ、昨日ぶりだな吸血鬼の(あん)ちゃん」


 僕はそのまま――ジッパーを閉じた。

 は、はははっ、どうやら僕はまだ夢を見ているようだ。

 何せ今テントを開いたら、目の前にどこかで見たような荒くれ者がヤンキー座りでしゃがみこんでいて、その上で今みたいな感じで話しかけてきたんですもの。夢じゃないわけがない。

 僕は「は、ははっ」と乾いた笑みを浮かべると。


「……? ひでぇじゃねぇかよ兄ちゃん。俺とお前の仲だろう?」

「ひぃぃぃぃっ!?」


 直後、荒くれ者がジッパーを開けて、テントの中へとその顔を突っ込んできた。

 それには思わず僕も悲鳴にも似た声を上げ、それを見た荒くれ者は面白そうに笑みを浮かべる。

 例えるならば――そう。やっとライバルに巡り会うことのできた最強のヤンキー、みたいな感じの闘争心丸出しの笑みだ。

 気がつけばテントの入口は完全に開かれており、その荒くれ者はニヤッと笑みを浮かべてこう告げた。



「なぁ、兄ちゃんよォ。……従魔って、知ってるか?」




 ☆☆☆




 従魔。

 またの名をテイムモンスター。

 あっちの世界では僕も『テイム』スキルを持っていたため、かなり強烈で凶悪な従魔たちを揃えていたのだが、アイツらとこの世界でいうところの『従魔』はすこしその意味合いが異なっているとのことだった。

 その際たる相違点。

 まず一つ目、従魔が滅ぶことがないということ。

 向こうの世界では従魔は死ねば復活なんて出来ない。もしもそんなことをしようとすれば、死を司っている神様を拝み倒して生き返らせてもらう他ない。

 けれどもこの世界での従魔は、主――マスターの身体のどこかへと事前にマーキングをつけておけば、戦闘中のHPバーを全損したとしても時間が経てば復活するのだとか。

 まぁ、その分好感度は下がるらしいのだが。

 そして二つ目。

 それは最初の一体は――『従魔屋』から、購入しなければいけないということ。


「へぇ……、ここが……」


 あの後なんとか落ち着いた僕は、顔は物凄く怖いけれど案外いい人な荒くれ者――名をアレクというらしい――に連れられて彼の店。つまるところ『従魔屋』へとやって来ていた。

 個人的には『麻〇』だの『覚〇剤』だの『脱法〇ーブ』だの、そういうものを取り扱っている店なのかと思っていたが、まさかまさかの従魔である。驚きを通り越してもはや何も感じなかったね、聞いた時は。


「俺は最初の転職を未だにしていない、一本筋の通った強い奴を探してたんだ。んで、ちょうどそこに居合わせたのが吸血鬼の兄ちゃんってわけよ。……ま、もう転職はしちまったみてぇだがな」


 聞くところによると、二体目以降の従魔を手に入れるには、一体目の従魔を売って新たな従魔をこの店で買うか、もしくは従魔がいる状態で旅人から転職し、新たな隠れ職業『従魔士』へとなって『テイム』スキルを取らねばならないのだとか。

 ……まぁ、僕はもう転職してしまったからその道は閉ざされてしまったわけだが――


「別に、だからって一体目の従魔を貰えないわけでもないんですよね?」

「ったりめェよ。兄ちゃんの力になれば、と思って色んな従魔を用意してきてんだぜ?」


 そう言ってアレクは笑みを浮かべると、机の上に小さな束になっているその紙の塔。そこから一枚の紙を取って、僕へと差し出してきた。


「従魔を買う際の注意事項、ってやつだな。三食必ず食事を与えること、仲間として大切にすること、経験値が分散されること、パーティ枠をひとつ使ってしまうこと。――そして、従魔もきちんと生きているということ」


 そう言って彼は僕の胸へとゴツンとその拳を当てると、真剣な表情を浮かべて僕へとこう問いかけた。

 けれども――


「兄ちゃんは、それらを全部守れるか?」

「当たり前でしょう」


 僕はそう即答すると、その注意書きの書かれた紙をビリッとやぶき捨てた。

 それにはアレクも目を見開いたが。


「今見た感じだと一般常識が守れていれば何を注意する必要もないわけでしょう? 僕らは単純に、彼らを仲間だと思って受け入れればいい。それだけだ」


 僕はそう、淡々と言ってのけた。

 そう、別に特に何かを注意する必要はないのだ。僕のパーティメンバーが一人増えると思えばそれでいい。

 その言葉を聞いたアレクは「ぐははっ」と笑い声を漏らすと、僕の肩をバシバシと叩いてきた。


「ぐははっ! 流石は俺が認めた兄ちゃんだ! よし、ならいっちょ、従魔と会う前に兄ちゃんの体にマーキングを付けとくか! どんな場所にどんなマークでも付けられるが、兄ちゃん何か希望はあるか?」

「いっっ……、ま、マーキング、ですか?」


 マーキング。

 それだけ聞けば犬におしょんをかけられるようなビジョンが浮かんだが、きっとそうではないだろう。だとしたらこのゲームはとんだクソゲーだ。

 と、そんな僕の予想はあっていたのだろう。僕の言葉にアレクは首を縦に振って口を開いた。


「あぁ。基本的に黒色で、見た目だけは刺青みたいなものだな。色を変えたかったりあとから場所を変えたかったりした、そん時はちょいとお高めな金額を頂くぜ?」

「あぁ、タトゥー的な奴ですか……」


 僕は彼の言葉にそう呟いた。

 刺青、タトゥー。

 その言葉を聞いた時、僕の頭の中には見覚えのある、というかついこの前まで身に覚えのあったある紋章が浮かび上がっており、僕は左手の甲へと視線を落とした。

 そこにはただ肌色の僕の肌があるばかりで、長年連れ添ってきたあの紋章は浮かび上がっていない。

 だからこそ、僕は彼へとこう告げた。



「じゃあ、左手の甲へと『円環龍ウロボロス』の紋章って、頼めますか?」



次回、今作品でのギンの相棒が登場。

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