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Silver Soul Online~もう一つの物語~  作者: 藍澤 建
一階層・始まりの街
22/89

《22》報酬と称号

 僕はその青い結界の中へと入ると同時、倒れるように座り込み、背中の方へと身体を投げ出した。

 大の字になって上を見上げると、青い結界と木々の隙間から雲一つない空が見えて、僕は「ははっ」と乾いた笑みを浮かべた。

 けれどもその笑みの間には少しずつ間隔が空いてゆき、僕は最後に「はぁ……」と大きなため息を吐いた。


「あー、ほんとマジで疲れた。もうしばらくボスとか絶対行かないね。うん、もう決めた。あとの三つは気が向くまで絶対行かねぇ」


 しかもヘルプによれば『最初のオススメは南の草原! エリアボスも一番簡単に攻略できるよ♪』とのことだった。もうその言葉を思い出すだけで心が折れる。


「あれより強いのが三体……ねぇ」


 しかもまだこれで第一回層だ。

 流石にどこぞのデスゲームのように全百階層とかではないと思うが、それでも気が遠くなるような気分である。

 僕は勢いをつけて状態を起こすと、近くの木の幹を背もたれにして座り直す。

 まぁ、気が遠くなるというのはそれだけ長く楽しめるということ。難しいというのはそれだけ成長できるということ。


「向こうの世界じゃ、ここまで苦戦することなんてほとんど無かったからな……」


 僕はそう笑みを浮かべると、コクリと頷いた。

 どうせあるんだ。グダグダ言っても仕方ない。

 それに今は、そんなことを考えるよりも先にはやるべき事があるだろう。

 僕は内心でそう呟くと、もういい加減慣れた手つきでメニューを開くと、その中からイベントリを呼び出した。

 するとそこに現れたのは様々な素材の増えたスクリーン。


 ──────────

 《イベントリ 10/50》

 ○初心者用ポーション×4

 ○荒くれ者特製のブツ

 ○グリーンスライムの体液×2

 ○狼の毛皮×8

 ○狼の牙×2

 ○狼の爪×3

 ○銀夜狼の毛皮×2

 ○銀夜狼の爪×1

 ○狼の銀槍×1[MVP]

 ○銀夜狼の宝玉×1[ソロ]

 ○モンスター大図鑑×1[初討伐]

 ──────────


「うお……って、初心者の剣とか装備一式忘れてきてるじゃん……」


 僕はその一覧の最後の三つがかなり気になってはいたが、放置しておいて誰かに取られても困るということで、イベントリ内の回収ボタンから初心者の剣、初心者の矢、そして白樺の合成短弓をイベントリへと回収した。ちなみに上から二番目には触れなかった。というか怖くて触れたくもない。

 それに加えて未だに装備していた矢筒とアゾット剣もイベントリの中へと収納し、そうしてやって安心してそれらの素材について見ることができるというもの。


「銀夜狼の毛皮と爪は……まぁ、ウルフの上位互換とかそんなもんだろうとして、問題は下の三つだよな……」


 それぞれ、槍、宝玉、そして大図鑑。

 まぁ、どれも気になる武器ではあるが、とりあえず出しても大丈夫そうなその槍から出してみることにした。

 僕はその名前をクリックする。

 すると目の前に現れるその説明文。


 ─────────

 狼の銀槍 ランクC-

 銀夜狼の素材を使って作られた槍。

 通常の物よりも少し短いが、その分壊れにくい。

 Str+9 耐久35/35

 ─────────


「へぇ……、なかなか強いな」


 僕はそう呟くと、その槍を取り出すよう操作した。

 瞬間、僕の手のひらに光が溢れ、その短めの槍を形成する。


「これが……狼の銀槍、か」


 僕はそう呟いてその槍を見下ろした。

 黒い革の巻かれたその柄の部分に、先端からは銀夜狼の毛皮を思い出すような白銀色の刀身が伸びている。

 まぁ、僕も槍は一通り使える自信はある。それこそどこぞの軍隊に入れば槍一本で将軍まで行けそうな具合には。

 だが――


「すこし、短いんだよなぁ……」


 僕はその槍の石突をトンっと地面へと付いてそう呟いた。

 僕の武器として使う槍は二メートル近い十字槍だった。に比べてこの槍は十字槍でもなければ二メートルの長さもない。……せいぜいが短槍や子供用、あるいは予備として使うのが精一杯だろう。


「……うん、まぁいいさ。次行こう次」


 僕はそう自分に言い聞かせるように呟くと、次のその『銀夜狼の宝玉』とやらの名前をタップした。


 ─────────

 銀夜狼の宝玉 ランクS+

 銀夜狼が持つ宝玉。

 討伐時、ごく稀に入手することが出来る。

 使い道は全くの不明。

 ──────────


「またお前か……S+」


 僕はまた現れたランクS+を見てため息を吐いた。

 まぁ、説明文を見て、と言った方が正しいかもしれないが。


「レアドロップの癖に使い道が不明……? 何考えてるんだこの説明文は……」


 僕もよく知るモンスターをハンターするゲームでなら防具やら武器やら、上位のものを作るには必ず必要となっていたこの宝玉。けれどもまさかここに来て使い道が不明ときた。

 まぁ、きっとこうしてドロップしているのだから何かイベントに使えたり、はたまた本当に武器を強化、した……り?


「っておい。これ『宝玉』か?」


 僕は思い出す。あの説明文を。


 ────────────────

 宝玉を装着することによりモンスターを悪魔に堕として使役することが可能となる。

 壊れることがなく、宝玉に封印されたモンスターのランクによって剣の性能が変化する。

 ────────────────


 それはあの短剣――アゾット剣の説明文。

 僕はまさかと思いながらもイベントリからアゾット剣を取り出すと、それと同時にその宝玉も取り出した。

 片や柄の先端に青い宝玉の付いたアゾット剣。片や奥に何か光の灯った赤い宝玉である銀夜狼の宝玉。


「もしかして……装着できたりするのか?」


 僕はゴクリと息をのみ、それら二つを近づけてゆく。

 すると次の瞬間、それぞれの赤と青二つの宝玉が光り輝き、僕の前に一つのウィンドウが現れた。


 ─────────

 銀夜狼の宝玉を取り込みますか?

 yes/no

 宝玉:なし

 ─────────


 気がつけば僕はニタニタと笑みを浮かべており、僕は一切迷うことなくyesの文字を押した。

 瞬間、赤い宝玉が光り輝き、パァンとポリゴンとなって消え去ってゆく。

 気がつけばアゾット剣の柄の先端に取り付けられていた青い宝玉が赤い宝玉へと変化しており、僕の目の前にもう一つのウィンドウが現れる。


 ───────────

 アゾット剣の能力が上がりました。

 Str+15→+18

 使役悪魔を切り替えますか?

 無し→デモンズウルフ

 yes/no

 ───────────


「いよっし!」


 僕は思わずそうガッツポーズをしていた。

 このウィンドウから察するに、宝玉だけ切り替えて使役悪魔だけはそのまま、という選択肢も取れるらしい。

 まぁ、個人的には「そもそも使役悪魔ってなに?」という質問をぶっ込みたいところだが……まぁ、そこら辺はおいおい試していけばいい話。

 僕は迷うことなくyesのボタンを押すと、直後に『デモンズウルフを使役出来るようになりました』とのウィンドウが出たので、そのままそのウィンドウを閉じた。


「まぁ、とりあえずは街に帰ってアスパにでも聞いてみるか。その後はクエスト報告に、あと転職だろ? あとは……」


 瞬間、僕の脳裏をよぎるあの荒くれ者の言葉。

『見直したぜ、吸血鬼の兄ちゃん』

 そして思い出すはあのSクエストとやら。


「……行きたくは、ないけど。それについてもアスパに少し聞いてみるかな」


 僕はそう呟いてよっこらせっと立ち上がる。

 ここはエリアボスから最寄りのセーフティエリアだ。ここで疲れたように座っているところを見られれば一発で「あいつボス討伐してきたな」ってのが分かるだろう。それは避けたい。

 僕はフゥと息を吐くと、アゾット剣をいつの間にか腰に現れていたその鞘へと差し込んだ。

 さて、行きますか。

 と、そう歩き出そうとしたが、僕は一つ報酬を忘れていることに気がついた。

 ――モンスター大図鑑。

 文字からすればこのゲームの中のモンスターが乗っている図鑑だろうか? だとしたら恐らくアスパにとんでもない値段で売れそうだが……。

 僕はそんなことを考えながらもイベントリからその名前をタップして――


 ─────────────

 モンスター大図鑑 ランクA

 モンスターの情報が記されている図鑑。

 アビリティ『モンスター博士』を取得できる。

 効果:使用することでモンスターを一目見ただけで、名前、ランク、HP、状態異常を確認できる。

 使い捨てのため、一度しか使えない。

 使用しますか?

 yes/no

 ─────────────


 僕は迷うことなく、yesを押した。




 ☆☆☆




「……もう、あれだな。ここまで来たら称号まで確認しとくか」


 数分後、木の上で僕はそう呟いた。

 あの後モンスター大図鑑を使用した僕は、とりあえずその性能を調べるために周囲のウルフを捜索し、実際に相対してみたわけだが、そのモンスター大図鑑の役に立つことと言ったらそれはもう凄かった。

 ウルフの場合は、名前、ランクが一瞬で頭の中に浮かんできて、ウルフの頭の上に緑色のHPバーが浮かぶのだ。

 正しくこれこそが僕の追い求めていたスキルであり、もうそれはそれは喜んだものだ。


 そして、ここからが本題。

 僕は喜び終わってウルフの方へと視線を向けたのだが、そこにはウルフの姿はなく、見れば遠くの方へと逃げてゆくウルフの姿が視界に入った。

 その時は咄嗟にあいつ――『禍神』の存在を頭に思い浮かべたが、あの時とは違ってそのウルフは僕自身を怖がっているようにも見えた。

 だからこそ、称号を確認しようというわけだ。


「まぁ、ボスを討伐したんだ。そりゃ狼の天敵とか、そういう称号付いててもおかしくないだろうしさ」


 僕はそう呟くと、メニューからステータスを呼び出した。

 するとそこには、以前と比べてかなり成長した僕のステータスが。


 ───────────

【name】 ギン

【種族】 吸血鬼族

【職業】 旅人

【Lv】 7

 Str: 12 +21

 Vit: 7

 Dex: 7 +2

 Int: 7

 Mnd: 7

 Agi: 26 +9 (↑5)

 Luk: 13

 SP:6


【カルマ】

 -78


【アビリティ】

 ・吸血Lv.1

 ・自然回復Lv.7 (↑3)

 ・夜目Lv.3 (↑2)

 ・モンスター博士 (new)


【スキル 6/6】

 ・下級剣術Lv.8 (↑3)

 ・隠密Lv.5 (↑1)

 ・気配察知Lv.6 (↑1)

 ・見切りLv.8 (↑3)

 ・下級魔力付与Lv.7 (↑3)

 ・軽業Lv.5 (↑2)


【称号】

 小さな英雄、月の加護、孤高の王者(new)、最速討伐者(new)、ウルフバスター(new)

 ──────────────


「って、スキルとかめちゃくちゃ伸びてるな……」


 もう下級剣術や見切りに至ってはLv.10目前だ。確かヘルプで『スキルはLv.10で上位スキルに進化するよ♪』と書いてあったはずだから……まぁ、気長に待つとするか。

 だから、今の問題は――


「この、三つの称号だよな」


 僕はそう呟いて、それら三つの称号をタップした。


 ────────────

 孤高の王者

 ボスをソロで討伐した者の証。

 ソロ行動中にスキルレベルの成長率が増加する。

 ────────────

 最速討伐者

 一番最初にボスを討伐した者の証。

 Agi+5

 ────────────

 ウルフバスター

 ボスウルフへとその力を示した者の証。

 狼型敵モンスターとの戦闘時、被ダメージ減少、与ダメージ増加。狼型敵モンスターを確率で恐慌状態にする。

 ────────────


「……」


 さて、ますま何からツッコメばいいのだろうか。

 孤高の王者とか何かかっこよくね? とか。

 最速討伐者って、僕が初めてだったのか、とか。

 力を示したって、あのボスウルフ僕のこと認めてたのか、とか。

 まぁ色々あるが――



「とりあえず、ステータスを他人に見せるのはやめておこう」



 僕はそう、決心したのだった。

称号の数は間違いなくトップですね。

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