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Silver Soul Online~もう一つの物語~  作者: 藍澤 建
一階層・始まりの街
20/89

《20》ギンの本領

 僕は急いでメールを閉じると、敏捷値を最大限活用しながらイベントリを開いた。

 上から順に初心者用ポーション、ウルフやグリーンスライムの素材が入っており――あった。一番最後。

 ――アゾット剣。

 イベントリの一番下にはその文字がしっかりと刻まれており、僕は考えるよりも先にその剣の名前をタップしていた。

 瞬間、僕の前に現れるその説明文。


 ──────────

 アゾット剣 ランクS+

 全能神ゼウスが作りし宝剣。

 所有者を剣自身が選定し、剣が認めた主以外は絶対に使うことが出来ない。

 宝玉を装着することによりモンスターを悪魔に堕として使役することが可能となる。

 壊れることがなく、宝玉に封印されたモンスターのランクによって剣の性能が変化する。

 Str+15 耐久∞

 使役悪魔:なし

 ──────────


「くっ、またチートな武器を寄越しやがって……」


 僕はそう呟いて笑みを浮かべた。

 簡単に思い浮かべることが出来る。


『最強に至る可能性を持つ武器だけは、与えてあげる。けど、あとは全て自分の強さ次第。……ギンくんはこの私の作ったゲーム、クリアすること、出来る?』


 絶対にメールの内容はそんなものだろう。

 僕はフゥと息を吐くと、きっと今も見ているのだろうその存在へと向けて口を開いた。


「良いよ、やってやるよ全能神ゼウス……。こんな強い武器が一つでもあれば――僕にとっては、それだけでも十分だ」


 僕はその武器をイベントリから取り出した。

 瞬間、僕の目の前に銀色の光が溢れ、僕はその光の中へと迷うことなく突っ込んだ。

 ――さぁ、選定しろ。

 どんな宝剣かは知らないが、この僕が宝剣程度、使いこなせないはずがない。それもアゾット剣――つまるところ短剣ならば尚更だ。

 僕の考えを知ってか知らずか、その言葉の直後にその銀色の光はさらなる輝きを放ちだし、次の瞬間、僕の手にズッシリとした、確かな重みが伝わってきた。

 僕はニヤリと笑みを浮かべると、その光の中からその剣を引きずり出す。


「アゾット剣……」


 その剣は、かつて僕が使用していた短剣に、どことなく雰囲気が似通っていた。

 漆黒よりも黒いその柄に、その先に伸びるは白銀色の刀身。その刀身には見たとこもない赤い文字が刻まれており――違うところといえば、刀身の形と文字の種類、そして、柄の先端部に取り付けられている青色の宝玉くらいなものだろう。


「なるほど、これなら……」


 僕はその柄をぎゅっと握りしめてそう呟く。

 次の瞬間、僕の背後の木の幹が銀夜狼の腕によって薙ぎ払われ、振り向いた僕の視線と、その鎧の間からこちらを覗くその視線が交差した。


『グラァァァァァァァァァァッッ!!』


 銀夜狼が雄叫びをあげる。

 もうお互いに油断はない。

 相手が同格――あるいは格上の存在だと身をもって知ってしまったから。

 だからこそ、お互い覚悟を決めようか。

 僕はニヤリと笑みを浮かべると。



「行くぞボスウルフ。命を賭けて――殺し合おう」



 僕はこの世界に来て初めて、死力を尽くして戦うことを覚悟した。




 ☆☆☆




 彼は走り出す。

 目の前には銀夜狼の姿があり、銀夜狼は迷うことなくギンへと向かってその腕を振り下ろしてくる。

 だが――


(何故だろうか)


 ドゴォォォォンッ!

 瞬間、その腕が地面へと激突し――ブシュッと赤色が舞った。


『ギャウンッ!?』


 ――銀夜狼の、だが。

 銀夜狼はその腕へと走った激痛にそう叫び声をあげると、その腕の方へと視線を下ろして――目を見開いた。


(ここが……夜だからだろうか)


 そこには顔の横で短剣を構えた姿のギンが居り、その短剣はギンの真横へと振り落とされた腕の半ばまでその刃を通していた。

 ――アゾット剣。

 初心者の剣の五倍もの攻撃力を誇り、その性能もその剣とは一線を画す。

 その最たるものが、魔力――つまりはMPをより効率よく通す、ということ。

 彼の使うマジックエンチャント。それは現実世界において魔力制御に長けた最強の『後衛』だった者が用いているため、通常では信じられないほどの威力と切れ味を誇る。

 初心者の剣や初心者の矢でさえ銀夜狼に通じるそのスキルは、アゾット剣に用いられることにより、絶大な進化を遂げた。

 青い燐光は銀色へと変化しており、銀色の光が夜の暗闇に薄い軌跡を伸ばしている。

 そして――爛々と赤く光り輝く、その両の瞳。


(全身の感覚が鋭く尖っている。身体中のキレが昼間よりもより一層増している)


 ズシャァッ!

 彼はアゾット剣を振り抜いた。

 瞬間、赤色のポリゴンがはじけ、銀夜狼はギリッと痛みに歯を食いしばる。

 けれどもその程度の痛み、眼球を抉られた時に比べればどうとでも我慢ができる。

 だからこそ銀夜狼は振り下ろした腕を薙ぎ払う。

 だが――


「フッ」


 瞬間、その腕の薙ぎ払いを視認したギンは、トンっと空中へと身を投げ出した。

 身体は地面と平行に。その状態できりもみ回転するように身体を動かすと、放たれたその薙ぎ払いをその腕をそのまま躱し――否、流して見せた。

 しかも直後、ギンが着地したと同時にその腕からビシャッとポリゴンが弾け、思わず銀夜狼も後ずさってしまう。

 けれども銀夜狼はグッと歯を食いしばるとその後ろ脚へと力を込める。

 ここで引いたら負ける。そんな気がするから。

 だからこそ、銀夜狼は決死の覚悟で攻撃を繰り出した。

 連打連打。

 薙ぎ払い。

 叩き上げ。

 叩き潰し。

 噛みつき。

 そして、体当たりを食らわせた。

 対してギンは。


(あぁ、今、入った(・・・))


 昔から彼には、戦闘中にそんな感覚を覚える時があった。

 それは戦闘中だけではなく、スポーツの最中、集中して作業をしている最中。その他にも様々な時にそんな感覚に襲われた。

 歯車が噛み合うような。

 あるいは、スイッチが切り替わるような。

 そんな感覚。


「フゥっ」


 息を吐く。

 受け流す。

 斬りつける。

 突き刺す。

 躱す。

 まるでそれら全ての攻防の最適解が頭に浮かんでくるような。それでいて考えるよりも先に身体が動いているような。そんな感覚にすら陥ってしまう。

 ――まるで、全能感。

 そんな状態でギンは何度も何度も攻防を繰り返し、そして――


「ハァァァァァッ!!」


 瞬間、剣を振り抜くと同時に銀色の光が煌めき、ザシュッという音と共に赤色のポリゴンが大量に弾けた。


『グヴッ!?』


 濁った悲鳴が木霊する。

 ギンは振り下ろしたその短剣を血を払うかのようにスッと振ると、黙って背後を振り返った。

 そこには身体中に傷を負い、そして首を半ばまで切断された銀夜狼の姿があり、奴は『グ……ヴゥ……』と呻きながらもギンの方へと視線を向けた。

 その瞳には未だに『戦い』の意思が宿っており、それを見たギンは、ニヤリと笑みを浮かべた

 そして――


「悪いな、僕の勝ちだ」


 直後、銀夜狼の身体がパァンッとポリゴンになって砕け散り、それと同時にギンの頭の中へとファンファーレが鳴り響く。


 《ポーン! エリアボス・シルバーナイトウルフを討伐しました。1000経験値を獲得しました》

 《ポーン! レベルが上がりました》

 《ポーン! レベルが上がりました》

 《ポーン! 称号を獲得しました》

 《ポーン! 称号を獲得しました》

 《ポーン! 称号を獲得しました》

 《ポーン! MVP討伐報酬を受け取りました》

 《ポーン! ソロ討伐報酬を受け取りました》

 《ポーン! 初討伐報酬を受け取りました》


 それらを聞いて、ギンは。



「あー……、もうしばらく。ボスとは戦いたくないな」



 そう、心底疲れたように呟いた。




 ☆☆☆




 パリィン!

 何かが割るような音がした直後、周囲は夜から昼へと時間が戻った――やっぱりアレは『シルバーナイトウルフ』特有の演出だったらしいな。

 と、そう思った時のことだった。


「ぐぅっ……」


 突如として重くなる身体。

 僕は思わず膝をつくが、けれどもすぐにとある称号が頭に浮かび上がった。


「あぁ……、月の加護、って奴か」


 僕は思い出す、先程までの超絶的な動きを。

 もう一度アレをやれ、と。そう言われたら僕は迷うことなくこう告げる。いや無理ですから、と。

 それほどまでに先程の僕の動きはおかしかったのだ。そしてこの重くなる身体……。これもそれも月の加護が効いていたと考えると全て話が噛み合うだろう。


「って、あんまりここに長居するのもな」


 僕はそう呟くと立ち上がった。

 少しフラフラはしているが、あまり長くここにいるとあの悪夢のような狼が再びリポップする可能性がある。そんなことになったら間違いなく死ぬね。うん、もう一度やっても勝てる気がしない。

 僕はそう呟くと、ボスエリアの結界から外へと歩いて出てゆき、そのまま比較的近くにあるセーフティエリアへと向かおうと、そう思ったその時だった。


 《ピコンッ! 第一回層の南のエリアボスがプレイヤーによって討伐されました。よって、現時点でのリザルト集計結果を発表します。メールボックスからご確認ください》


 僕はその機械のような声を聞いて、思わず頬を引き攣らせた。


「……こ、これって、間違いなく僕のことだよな」


 いや、そもそも考える余地がないとさえ言える。

 なにせ、たった今僕は南のエリアボスを倒し、そして結界から出たところなのだから。

 僕は「はぁ」とため息を吐くと。



「……まぁ、名前出てないから大丈夫か」



 そんなことを呟いて、セーフティエリアへと向かったのだった。

次回、掲示板回です。

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