《2》キャラクターメイキング
題名通り。
《Silver Soul Onlineへようこそ! まずは種族を決めてください!》
「唐突だな……おい」
僕はあまりにも流れ作業なその一連の言葉にため息を吐くと、その下にずらっと並んだその種族へと視線を移した。
上から順に――
人族
獣人族
森人族
土人族
竜人族
鬼人族
ランダム
と書いており、僕は思わず眉に皺を寄せた。
――これなんにも説明書いてないじゃん、と。
そう困惑しながらマウスを動かしていると、その名前に矢印を合わせるとその種族の説明が出てくるようになっているようだ。
人族
→平均的な初心者向けの種族。前衛にも後衛にも向いている。
獣人族
→基本的にほかの種族と比べて魔力量の少ない、獣の力を身に宿した種族。
森人族
→森を住処とする妖精族の末裔。エルフは魔法や弓に長け、ダークエルフは物理戦闘に長けている。
土人族
→大地とともに生きる妖精族の末裔。ドワーフは鍛治などの作業に長け、ノームは農作業などに長けている。
竜人族
→竜の力を身に宿した珍しい種族。基本的に魔法が使えず、前衛としてしか活躍できない。
鬼人族
→鬼の力を身に宿した珍しい種族。強さこそ優れているものの、カルマの値が低い状態で始まるため、NPCから疎まれる。
ランダム
→ランダムによって種族を選択する。ごく稀に上記の六種族以外のレア種族になる可能性がある。
それを見た僕は、一瞬で決断した。
「よし、ランダムで」
そう、ランダムである。
確かに上の六種族でも面白いだろう――だが、そこに面白みはあれど、ロマンはない。
とか言ってみたが、ぶっちゃけると単に『レア種族』に惹かれたのだ。ゼウスがこのゲームを作ったのなら、僕に馴染みのある『あの種族』もあるかもしれないしな。
僕は迷うことなくランダムをクリックすると、次の画面へと切りかわる。
そこに現れたのは全ての能力値に『1』と振り込まれたステータス画面であった。
──────
Str: 1
Vit: 1
Dex: 1
Int: 1
Mnd: 1
Agi: 1
Luk: 1
SP:10
──────
どうやらランダムの結果はゲームを始めてみなければ分からないらしく、今はこの『SP』とかいう数値をステータスに振らねばならないようだ。
「あっちの世界じゃ自動的に振り込まれてたからな……。ある意味こういうシステムは斬新というか、新鮮というか……」
思い出すは、もうステータスが振り切って『error』としか表示されなくなった僕の能力値。
まぁ、運勢値──LUKだけは表示されていたが、それもかなりの怪物的数値となっていた記憶がある。全くとんでもない奴もいたもんだ。
僕はそんなことを考えながらも、迷うことなくそのステータスを振り終えた。
その結果が――これである。
──────
Str: 4
Vit: 1
Dex: 1
Int: 1
Mnd: 1
Agi: 7
Luk: 2
SP:0
──────
微・極振りとでも言うべきか。
僕は元々、無限に湧き出てくるんじゃないかってくらいのMPにものを言わせてゴリッゴリ削ってゆく後衛であり、その上で前衛も完璧にこなせる万能タイプ――言い換えると器用貧乏だった訳だが、ゲームの中ではあそこまでの魔力は要求できないだろう。
だからこそ、いっその事後衛であることを捨てて前衛としてのキャラを作ってみたくなったのだ。
「まぁ、ゲームの中でまで魔法を使いたいとも思わないしな」
普通は逆だろうけど。
僕はそう呟きながら決定ボタンを押すと、次に出てきたのは五つの空欄だった。
それらの空欄の上には《スキル》と書かれており、なるほど次はスキルの決定かと僕は納得した。
「いやぁ、今までこういうキャラクターメイキングとかなろう小説とかで見てる側だったけど、こうして実際にやってみるとなかなか――」
カチッ。
僕はそう言いながらもその空欄を押し――絶句した。
口からは「へ? あ……、えっと………?」という言葉にもならない声だけが出てきて、僕の瞳はそのズラーッと並んだ文字の羅列を行き来していた。
あまりにも莫大なスキルの量。
ふと右上を見れば『全169種』と書いており――
「……はぁ、ここが一番、時間がかかりそうだ」
僕はこめかみをグリグリと押さえ、その画面との睨み合いを開始した。
その画面には薄らと、黒髪黒目の僕の姿が映り込んでいた。
☆☆☆
十数分後。
検索機能という存在に割と早い段階で気がついた僕は、それら百七十近いスキルの群れから五つのスキルを選び出していた。
その五つのスキルをもう一度見直した僕は「よし」と満足げに頷くと、その下の部分にある『決定』ボタンをクリックした。
そして再び画面は変わるわけだが――
「ん? 確認画面か?」
そこには今まで決めてきたステータスが映し出されていた。
───────────
【name】 未定
【種族】 ランダム
【職業】 旅人
【Lv】 1
Str: 4
Vit: 1
Dex: 1
Int: 1
Mnd: 1
Agi: 7
Luk: 2
SP:0
【カルマ】
±0
【アビリティ】
なし
【スキル 5/5】
・下級剣術Lv.1
・隠密Lv.1
・気配察知Lv.1
・見切りLv.1
・下級魔力付与Lv.1
【称号】
なし
───────────
「うん、いい感じ……かな?」
僕はそのステータスを見直して頷いた。
スキルに関しては出来れば『短剣術』が欲しかったのだが剣に関しては『下級剣術』しか存在しなかった。恐らく進化なり何なりで変化してゆくのだろう。
隠密と気配察知、見切りに関しては僕の戦闘スタイルに合致したから。
下級魔力付与は単に物理攻撃が効かない霊体なんかが出てきた時の対策だ。
職業、カルマ、アビリティに関しては『なんのこっちゃ』という感じだが、決める画面がなかったのだからそれはあまり考えても無駄ということだろう。
(もうちょっと親切に作って欲しかったよな……)
僕は内心でそう呟いてため息を吐くと、まるでそれを見計らったかのようにそのステータスが崩れ去ってゆく。
そしてその裏から出てきたのは、至極単純明快な問いだった
《最後に、あなたのお名前を教えてください》
その言葉に僕は苦笑する。
「まぁ、僕の名前なんてありきたりだからな。重複とかしてなきゃいいんだけど……」
僕はそう呟いてカタカタっと慣れない手つきで自分の名前を打ち込むと、パチンとエンターキーを押した。
《名前を検索中……その名前はシステムにより保護されていました。よって重複はありません。その名前を承認します》
そうしてその文字列もすぐに崩れ去ってゆき、その背後から僕へと向けてこんな言葉が現れた。
《ようこそ新しい世界へ》
――この世界は貴方を、ギンを歓迎します。
瞬間、パソコンの画面が光り輝き、僕は思わずぎゅっと瞼を閉じて、両腕で目を隠した。
直後、ドスンっと僕の身体が数センチ落ちたような感覚がして、それと同時に周囲からザワザワとした騒ぎ声が聞こえてきた。
(ま、まさか……っ!?)
僕は目を見開いた――そうでありませんように、と。
けれども開いた視界に広がっていたのは、日本とはかけ離れた中世ヨーロッパの町並みと、頭上に青と緑のマーカーの付いた人間達。
それを見て僕はあの言葉を思い出す。
「ま、まさか……新しい世界って――ゲームって、VRMMOの事なのか……?」
僕はそう、頬をひきつらせながら口にした。
さぁ行けギンよ、どこまでも!
今回の舞台はゲームの中です。