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Silver Soul Online~もう一つの物語~  作者: 藍澤 建
一階層・始まりの街
16/89

《16》今度は『S』

総合評価1000ポイント突破です!

いつもありがとうございます!

 この世界は階層世界である。

 そう、アスパは言った。

 ――階層世界。

 聞いたこともない言葉ではあったが、アスパの説明はわかりやすく、僕もすぐに理解することが出来た。


「全部で何階層あるのかは分からないけどね? ここが一階層で、このステージをクリアできれば第二階層、次が第三階層、第四階層……って順々に進むことが出来るわけだよ。そして最終階層をクリア出来たらゲームクリア、ってなわけさ!」


 なんだそのファンタジーな世界は。

 正直なところそう言ってやりたいが、けれども所詮はゲームの中の世界だ。そんなことにいちいち『それはおかしい』だの言っていても始まらないだろう。


「じゃあ、どうやったら次の階層に行けるんだ? なんの条件もなしに行けるわけでもないんだろ?」


 僕がそう聞くと、彼女はうんうんと頷きながら口を開く。


「もちろんだともさ! 次の階層へと行く手段はただ一つ! 東西南北に位置するエリアボス四体を倒し、その上で初めて発生する特殊なイベントをクリアすること! ちなみにβの時は二階層の途中までしか行けなかったけど、一階層のイベントはレイドボスの討伐だったね」

「れ、レイドボス……」


 なんだかその単語を聞いているだけで『ううっ』となる。

 単純明快に言うと、レイド組んだら絶対うるさい奴や自己中な奴とか出てきて面倒だろうな、という事だ。

 ……まぁ、本当にそうするしかなくなった時は仕方なく我慢するしかないのだろうけど。

 僕はそうため息を吐くと、それを見たアスパはぱちくりと目を瞬かせた。


「おや? もしかしてギン君ってばコミュ障?」

「違うわ!」


 コミュ障じゃない。断じて違う。

 僕はコホンコホンと数回咳をして空気を変える。

 まぁ、基本的にこの世界については分かった。

 この世界は全何階層からか出来ており、次の階層へと進むためには東西南北のボスと特殊なクエストをクリアしなければならないのだ、と。まぁそういう事だろう。

 ならば、次の質問だ。


「じゃあ職業は……」

「あぁそれ? Lv.5になったらギルドで転職できるはずだよ。まぁ、現状で転職してるのなんて片手の指でも数えられる程度だと思うけどね~。って言うかギルドで説明されなかった?」


 ――もちろんされてませんとも。

 僕は深い深いため息を吐くと、自分のステータスを思い出した。


(確か……僕のレベルは4だったか? ならあと一つレベルを上げれば転職できる、ってわけか)


 僕は内心でそう呟くと、僕の様子を見ていたのであろうアスパは額に手を添えてため息を漏らした。


「その様子じゃされてなかったみたいだね……。さっすがカルマ値-100。NPCからもかなーり嫌われてるみたい……ってまさか!? 風の噂で聞いたギルドで変な騒ぎ起こしてた初期装備って君のこと!?」

「……どういう噂かは知らないけど、多分それ僕のことだと思うよ。さっき言ったRクエストってのもギルマスに頼まれたヤツだし」

「この段階でギルマスと……。君は……アレかな? 私たちとは違うゲームをしてるのかな?」


 同じだと思うんだけどなぁ。

 内心でそう呟くと、アスパがペラペラとまた資料を調べ始める――のだが。


「えーっと、聞きたい情報はそれに加えてRクエストとやらについて、でいいんだよね? ものっすごくこっちが得してるからできうる限りのことは教えてあげたいんだけど……」


 そう言って彼女はパタンとその冊子のような資料を閉じる。

 彼女は申し訳なさそうにこちらへと視線を向けると、ふるふると首を横へ振った。


「ごめん、そのRクエストってやつ多分β時代にはなかった新しい種類のクエストだよ。正式稼働から未だに情報は入ってきてないし、βの頃のを見直してもそんな単語はどこにもなかった……。つまり君がRクエストとやらに辿り着いた一番手、ってことだね」

「情報なし、ってことか……」


 まぁ、これに関してはアスパの最初の反応を見た時から薄々感づいてはいたさ。先ほどの話でもしや次の階層へと行くための特殊クエストかとも思ったが、そもそも僕はボスを一体たりとも倒していないため、その可能性もないだろう。


「まぁ、これに関しては明日を待つ他ない、って感じかな」


 僕はそう言って空を見上げた。

 もう既に日は防壁の向こう側へと消え去っており、周囲は刻一刻と『夜』へと向かってゆく。

 まぁ、今日はなんだかんだ言っても初日なのだ。

 夜だから色々と試して見たい気もするが、あまり生き急いでも疲れるだけだろう。

 僕はそう決めると、アスパへと視線を向ける。


「なぁアスパ、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど……」


 その言葉にコテっと首を傾げるアスパ。

 僕は頬を緩めると――


「外泊できるテントと、街中で使っても迷惑にならなさそうな場所。あったら教えてくれないか?」




 ☆☆☆




 翌日。

 僕はテントの中で目を覚ました。


 《ポーン! 称号を獲得しました》


 そして、頭の中に鳴り響くその言葉。

 僕はあまりの異常事態に目をぱちくりと瞬かせると、黙ってステータスを開くことにした。

 そしてそこには――


 ─────────

【称号】

 小さな英雄

 月の加護 (new)

 ─────────


 ――なんと驚き、加護でした。


「……か、加護だと?」


 それには僕も驚いたが、すぐに首を横に振って頭を落ち着かせる。流石に寝起き一発目からこれは辛いものがあるが、こういう時ほど冷静に。そう、冷静にだ。

 僕はフゥと息を吐くと、僅かな期待を胸に抱きながら、その文字をタップした。

 のだが――


 ───────────────

 月の加護

 一晩を月の下で過ごした者へと贈られる加護。

 別名『一晩中プレイしていた暇人への加護』。

 月の下で全ステータス及び全能力向上。

 ───────────────


 ピクッ、ピクピクッ。

 その上から三行目に僕は頬を引き攣るのを感じた。

 まぁね? 確かに能力は強いさ。ソロな吸血鬼にピッタリの能力だから嬉しいよ。

 ただ――


「絶対他人に見せられない……」


 そう、ソレである。

 こんなの見せたら『え……これマジで? もしかしてニート?』とか言われかねない。そんな噂が広まったらもう最悪だ、もうこのゲームやめたくなる。物理的にやめられないけど。

 僕はパンパンを顔を叩くと、ステータスボードを閉じてテントから這い出してゆく。

 外は既に陽が昇っており、遠くの方では現地人たちが農作業を始めている。

 あの後アスパからイベントリに埋没していたというテントを貰い、その上で「鍛治師としての私に会いに来た時はサービスするよっ!」との言葉を貰ってこの場所を教えられた。

 ここは街の外れに位置する現地人たちの畑――よりもさらに防壁の付近に位置する、小さな林の近くである。

 まぁ、ここまで町の中心から離れれば現地人といえども僕に突っかかってくる者はおらず、僕も比較的安心して一晩を過ごせたわけだが。


「さて、今日はRクエストの日だったっけな」


 僕はそう言ってグググっと背中を伸ばす。

 今日はRクエストの日――つまるところ、またあのギルドへと顔を出さねばならない日であると言うことだ。

 思い出すは、僕へと集まる嫌悪感丸出しの嫌な視線。

 別に気にするほどのことではないとは思うが、それでも好き好んでいきたいという場所でもない。

 僕はボリボリと頭をかくと、そのテントを振り返ってこう呟いた。


「さて……、さっさと片付けて行きますかね」


 僕はテントをイベントリにしまい込むと、踵を返してギルドへと歩き出した。




 ☆☆☆




「ガハハハハっ! ようやく来おったか! 昨日からずっと待っておったぞ!」


 ギルドへと足を踏み入れた直後。

 僕を待っていたのは――ギルドマスターからのそんな言葉だった。

 それには思わず僕も目を点にしてしまったが、ギルマスはガハハっと笑いながら僕の背中をバシバシ叩いてきた。


「えっと……え? いや、今日は昨日言ってたクエストを受けに来たんですけど……」

「そんなもん昨日のアレで十分じゃろうが! ステータスで上をゆく者たち三人を前にして圧勝! あれだけでも十分クエストクリアとして問題ないわ!」


 え、えぇぇぇぇ……。

 その言葉に、僕は内心でそう声を漏らした。

 こっちとしては『対戦相手に勝てるかな……』と不安な気持ちで来ているため、まぁそれはたしかに助かった、と言わざるを得ないのかもしれないが――

 僕はチラリとそちらへと視線を向ける。

 するとそこにはものっすごい怖そうな荒くれ者が壁に背中を預けて立っており、その瞳は僕の方をじぃーっと見つめていた。


(やばい……、絶対あの人昨日受付のお姉さんが言ってた荒くれ者だよ……、ほらめっちゃこっちのこと見てる……と言うかもう既に睨んでるもん。うわぁ、めちゃくちゃ怒ってるよあの人……)


 僕は内心で冷や汗を流しながらそう呟くと、それを知ってか知らずか、荒くれ者はギランっとこちらを睨みつけながら壁から背中を離し、歩き出した――こっちに向かって。

 ってあれぇ? なんであの人こっち向かってきてるの? なんかめちゃくちゃ怒ってない?

 見ればウルフも泣いて逃げ出しそうな程に鋭い眼光を僕へと向けてくる荒くれ者。正直僕でも怖いくらいだ。

 僕は思わず身を縮め込むと、その荒くれ者は僕の前で立ち止まった。僕の身体に影が差し、とうとう頬にも冷や汗が流れ始めた。

 そして――



「ふっ、見直したぜ吸血鬼の坊主」

「…………はい?」



 荒くれ者はそう言うと、僕の声を無視して懐からとあるものを取り出し、僕へと投げてよこした。

 僕は思わずそれを受け止めてしまい、それを見た彼はふっと笑みをこぼして踵を返した。


「坊主、いつか俺の店に来い。いいブツを見せてやる」



 《Sクエスト『荒くれ者の店へ行け!』が発生しました。荒くれ者の経営する店へと行けばクリアです。クエストを受けますか? yes/no》



 僕はその有無を言わさぬ恐ろしさに、思わずyesを押してしまった。


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