草原にて
木一つないだだっ広い草原に、ぽつんとテントがあった。その横に、シンプルな作りのバイクが停められてあった。
少年は、そのなかで寝ていた。茶色いオーバーを丸めてその上に頭を乗せ、気持ち良さそうに眠っていた。
少年の横には、長さ50センチ程の黒い鞘に収められたナイフが置かれていた。
「おーい、ハル、時間だよー!」
ナイフが大きな声で、言った。
小さな男の子の様な声だった。
「もう八時?早いな」
ハルと呼ばれた少年が、くりくりした目を擦りながらつぶやいた。
ハルは起き上がり、真っ先にナイフに手をやった。
そしてナイフを鞘から取り出すと、鏡の様に輝く刃の中を覗き込んだ。
そこには、女の子が映っていた。髪は綺麗な白色をしていて、水色のワンピースを着ていた。
「いつから起きてたの?」
ハルは刃の中の女の子に尋ねた。
「一時間まえ」
女の子が微笑みながら言った。
「可哀想に」
ハルは笑いながら言った。
「なあ、リコ」
「ん?」
「今日は振り回すことになるかもしんない」
「覚悟しとく」
リコと呼ばれた刃の中の女の子はそう答えた。
「じゃあ」
ハルはそう言って、リコの刃を鞘に収めた。
それを腰に巻いてある革のベルトと服の間に差し、その上から枕にしていたオーバーを着た。
ハルは外に出て、大きく背伸びをした。そしてテントを手際よくたたんで、バイクの荷台にくくりつけた。荷台には、沢山の荷物が乗せられていた。
ハルはバイクにまたがり、エンジンをかけた。静かな草原に、エンジン音がこだまする。
バイクは軽い音をたてながら、草を蹴って発進した。