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予言の紅星1 言い伝えの石板  作者: 杵築しゅん
レガート内乱 編

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8/23

王座奪還への道 

 1083年10月、レガート国とカルート国の国境にまたがるハクバ火山の麓に、バルファーは拠点を作っていた。

 5月のクーデターから、マキの街に拠点を置いていたが、バルファー軍に加わる人数が増えたので、7月に拠点を3つに分けた。


〈拠点3〉は、バルフアーが居るハクバ火山の麓の基地。


〈拠点1〉は、陽動部隊として国中を移動しながら『バルファー王子が出た作戦』を展開し、レイモン国防軍を翻弄するために移動拠点とした。指揮を執っているのは、元警備隊総司令官のロイガである。


〈拠点2〉は、王都ラミルの軍学校に置いた。指揮を執っているのは教官ギニである。

 クーデターの翌日(王妃の誕生会の日)に、殿下と友人エントンの妹カシアのお披露目祝いをしようと、運良く休みを取っていたギニは、バルファー殿下をマキの街に隠した後、何事も無かったかのように任務に戻っていた。


 レガート軍内にいた味方の元国王派は、そのほとんどが地方に飛ばされていたが、扱えるハヤマ(通信鳥)を増やしたギニにとって、情報収集するのになんの不便も無かった。

 もちろん新兵就職担当者として、堂々と軍本部にも出入りし、中央の情報も得ていた。

 幸運なことに、バルファー捜索と討伐のため、軍人集めが必要となったレイモン国防大臣は、新兵の増員を命じた為、教官の補強が必要になり、その全ての人材を味方で賄うことにも成功した。

 まさか、王都にバルファー殿下の拠点ができているとは、全く気付かない新政権だった。


 現在、軍学校の教官は校長以外は全て味方である。新しい校長はクーデター首謀者の1人らしいが、軍のことは何も知らない上に仕事ができないので、サインをするためだけに週に1日だけ顔を出す。無役の能無しだったが、クーデターに協力したので校長にして貰ったようだ。

 

 こんな馬鹿げた人事は、軍以外の各部署でも当たり前のように行われている。

 そのため、新政権発足から5ヶ月で、国中の業務が混乱し始めていた。しかし自分の無能さを知られないように、新高官たちは問題を隠ぺいし、正そうとした者たちを罷免した。

 そして国民は、国防税を納めるため生活は苦しくなり、納められない者には重い罰が与えられた。


『前の王様は、民のことを第1に考えてくださったが、今度の国王は貴族の言いなりだ』 



 そんな噂や陰口を、国のあちらこちらで聞かれ始めた10月中旬、国王クエナは国中を巡行すると発表した。国王の偉大さと慈悲深さを民に知らしめるためである。


「王様、実はこれまで国民の税を、わざと重くしておりました。それは王様が慈悲深い王であると、民に分からせる為でございました。これから各都市を回られ、苦しんでいる民のために、王様直々に減税するとおっしゃるのです。そうすれば民は感謝し喜びの涙を流しながら、名君と讃えることでしょう」


国務大臣カワノ公爵は、重税で苦しむ民の不満が大きくならない内に手を打つことにし、国王クエナに進言した。


「そうなのか?民は苦しんでいたのか?」

「はい王様。しかしそれは、王様が民から信頼されるための作戦であり、バルファー討伐の資金を調達するために必要なことだったのです」

 

 カワノ公爵は無役の貴族たちを高官にする際、充分な見返りを得た上に、貴族税の軽減で潤った領主たちから、謝礼を取って利益も得ていた。それ以上の欲をかくのは危険だと、ギラ新教のドリル様から忠告され、今回の国王巡行の知恵も頂いた。


「先日、バルファー発見の情報がありました。どうやら国中を逃げ回っているようです。王様が巡行に出られれば、攻撃してくるかもしれません。しかし、そうなれば我々にとって大きなチャンスとなるでしょう。捜し出さなくとも良いのですから」


急に物騒な話を始めたのは、国防大臣レイモンである。


「国王である私を、おとりに使うと言うのか?」


クエナ王はたちまち不機嫌になり、レイモンを睨み付けた。


「王様、バルファーに味方する者は十数人しかおりません。それに巡行にはおよそ1000人の部隊を連れて行きます。国民の前で大罪人を討てば、王様のお力を見せつけることができます」


レイモンは、絶対に安全ですと念を押す。そう言われて巡行に行かないと、腰抜けだと思われるだろかと不安になったクエナ王は、巡行を承諾したのだった。





 バルファーは〈拠点3〉のハクバ火山の麓で、叔父であり、新しい王であり、討つべき敵クエナが巡行に出るという知らせをエントンから受けていた。


「恐らく、我々を誘き出す作戦かと思われます」


エントンは、掘り出した宝石を袋に納めながら意見を述べた。


「そうだろう。レイモンは、我々が十数人位しかいないと思っているだろうからな」


つるはしで土を掘り起こしながらバルファーが答えた。


〈拠点3〉は良質の宝石が産出される、鉱脈の上に作られている。

 バルファーを始めとする42人は、全員が坑夫の格好をして、毎日宝石を掘り出していたのだ。

 何をするにも金は掛かる。そこで、エントンとバルファーは一計を案じ、ハクバ火山を調べあげ、まだ手付かずの国境部分を買い取ったのだった。


 その資金は、レガート国側の土地を、バルファーを支援する数名の貴族から借り、カルート国側の土地はカルート国王から(カルート国側を無償で)調達した。カルート国王から調達できたのは、バルファーの妹ストファ王女のお陰だった。

 

 ストファ王女は、カルート国皇太子32歳の元に、18歳の時に嫁いだのだが、わずか1ヶ月後に何者かに毒を盛られて亡くなってしまった。大国レガートの王女を、そのようなかたちで喪うことは、戦争にもなりかねない大問題だった。

 この時カルート国に出向いたのがバルファーだった。

 ことの真相は、皇太子には既に側室が2人いて、その内1人は王子を産んでいた。その側室が毒を盛りストファ王女を暗殺したのだった。

 

 カルート国王は、その側室をバルファーの前で切り捨て、その子(王子)と側室の一族の身分を剥奪し、国外追放とした。そして皇太子を次男に交代させ、ストファ王女の喪があけ次第、国王の座から降り賠償金を払うと約束し、戦争を回避してくれるように頼んだ。

 バルファーは、国王の座を降りる必要も、莫大な賠償金を払う必要もないと言い、ことを納めた。この時カルート国王に、大きな貸しを作っていたのだった。



 今月に入って、バルファー捜索部隊が、やっとハクバ火山にもやってきた。しかしそこには、真っ黒に日焼けした坑夫が、石と土にまみれて働く姿しか見当たらなかった。



「毎日体が鍛えられるなぁ」

「本当ですね殿下。たまに剣を持つと凄く軽く感じますよ。軍隊よりも過酷ですが、宝探しですから楽しいです」


などと笑いながら皆で昼食を食べ、身体のたくましさを自慢し合った。


「そろそろ資金も充分貯まった。次の作戦に移ろうと思う。3人ずつ10組に分かれて国中を回れ!そして本当に困っている人々に食料や衣類等を与え、秋の収穫を不当に徴収されていないか調べてくれ。くれぐれも、大軍を引き連れたバカどもに出会うなよ!」


 これまでに貯めた金を渡しながら、バルファーは全員の顔を見て指示を出した。


「はっはっはっ。承知しました!援助した民には、バルファー王子からのお心だと伝えます」


指示を受けた30人は、作戦決行の為に早速支度にかかった。


「エントン、これはギニ先輩に渡す金だ。それから身重のカシアを無事にカイ正教会まで送ってくれ。この手紙も頼むな」


バルファーは小声でエントンにお願いし、少しだけ恥ずかしそうに手紙を渡した。


「分かっております。きちんと馬車で送りますから」


2人は笑顔で肩を叩き合い、硬く握手をして別れた。





◇◇◇ レガート軍学校 ◇◇◇

 校長を除く教官たちは、秋風が気持ち良く通り抜ける会議室で、いわゆる職員会議をしていた。

 12月に卒業する学生たちの就職先について、希望調査書を書かせた結果が出たのである。


「どうなんでしょうかこの結果・・・?」

「ギニよ、お前の指導のせいだろうが!」


教頭のハース(40歳)は、ギニのとぼけた質問に、あきれた声で返した。


「えっ?俺のせいですか?」


ギニは立ち上がって抗議しようとするが、教官全員が「そうだろうが!」と言ったので渋々着席した。


「お前のせいで、貴重な俺の髪がまた少なくなった。お前のクラスだけ40人全員、バルファー捜索部隊希望になってるのはどういうことだ?」


ハース教頭は、すっかり薄くなった自分の頭を撫でながら、ギニのクラスの調査書の束を机の上に置いた。


 調査書には、採用部署が5つ書いてあり、第2希望まで記入できるようになっていた。


1、補給部隊  (食料や武器の買い付け、運搬。パシリ、まあまあ)

2、前線部隊  (戦いにおいて最前線で突っ込んで行く。使い捨て)

3、食料部隊  (とにかく食事をつくる。不味いと必ず殴られる)

4、監視部隊  (見張り、警備。ずっと立ちっぱなし、孤独、暇)

5、捜索部隊  (バルファーを探す。国中回れて楽しそう、自由)

 第1希望は番号を〇で囲み、第2希望は部隊名を〇で囲め

  

「お前の作ったこの調査書は何だ!?この捕捉は必要か?俺のクラスまで3分の2が捜索部隊希望じゃないか!!」


戦略指導教官のレポル(29歳)は、自分のクラスの調査書を指でトントンしながら文句を言う。


「俺のクラスは捜索部隊は半分だが、残りの全員が何故か補給部隊希望だ」


武器・火薬教官のビラー(27歳)は、フーッと長い溜め息をついた。


「俺は嘘がつけないんですよ先輩方。それに、かわいい新兵を死なせたくないし、殿下の後方支援も固めたいし・・・」


「そうじゃなくて、本部からの要求にどう答えるんだと言ってるんだ!最低でも1~4の部隊に各々10名は必要なんだぞ!」


ビラー教官は調査書を、机にバシバシ叩きつけながら叫んだ。


「ああ、そっちですか?」


またまたとぼけて答えるギニに、全員がハ~ッと頭を抱えた。


「はっはっはっ!ギニ先輩相変わらずですね。それなら、良い解決方法がありますよ」


笑いながら会議室に入って来たのは、王の腹心の友であり司令塔のエントンだった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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