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予言の紅星1 言い伝えの石板  作者: 杵築しゅん
レガート内乱 編

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6/23

別れの朝 

◇◇◇ ギニ先輩 ◇◇◇ 

 1083年5月6日朝、俺ギニ・ノルガ・バイヤは、殿下からの連絡文を読んでいた。

《 本日午後8時、極秘で出掛ける。いつもの場所に馬を頼む。護衛よろしく 》

 なんだろうか・・・明日は王妃様の誕生会、カシアさんのお披露目もあるのに、何処へ出掛けられるおつもりか?


 明日は王妃様の誕生日で軍学校は休みだし、今日の午後は本部に書類を持って行くことになっている。ついでにエントンに会って情報交換しておくか。

 本部での用事を済ませてから、俺は情報を集めるため各部署を回っていた。表向きは学生の就職活動の為なので、どこの部署も優秀な新兵を確保したいがために、お茶まで出してくれたりする。

 

 そんな中、ある上官から重要な情報を入手した。

 総司令官とヤグルデ指揮官が、外部から新しく人を雇ったと言うのだ。人手不足だからと説明されたが、中には他国の者や傭兵あがりの者もいて、どこの部署にも属さず、数人の指揮官の護衛をするらしいとのことだった。

 もうすぐ地方から多くの部隊が帰ってくるのに、どう考えてもおかしい・・・


『そろそろ動き出すつもりだろうか?各部隊の国王派の上官に、ハヤマを飛ばして状況を伝えておこう』


 俺が王都で情報収集ができるのは、ハヤマ(通信鳥)を扱うことができるからで、自分が管理しているハヤマの数は5羽である。このことは軍でも一部の人間しか知らない。

 ハヤマを扱うには能力(鳥との相性)が必要らしく、子供の頃にハヤマの雛鳥を助けて共に暮らしていたせいか、俺は鳥に好かれる体質?になっていた。


 扱えるようになった切っ掛けは、上級学校の時に、たまたま隣国カルート国からラミル正教会に来られていたファリスのエダリオ様にお会いしたことだった。

 5羽の内1羽は殿下専用で、日頃は王宮に待機させてあり、殿下の合図のみに反応するようにしてある。他の4羽は信頼できる上官との通信に使っている。


 国王派の上官のほとんどが王都に向かって帰還中で、頼れる上官が王都にいないのが、今の我々にとって最大の弱点である。

 国王様のすぐお側には、警備隊の国王派が就いているのだが、残念ながらお互い下手に動けないのが現状で、やきもきしながらの日々を過ごしている。

 国王様が、弟のクエナ様を信じたいと仰るので、表沙汰にできないでいるからだ。

 

 警備隊総司令官ロイガ様の情報によると、内乱の首謀者や協力者は、だいたい目星が付いているらしく、王宮の警備隊内の敵対勢力はほぼ排除できたらしい。

 警備隊の働きで、王宮の中はかなり安全になったと思っていたのに、今日の情報でまた不安になってきた。


 王宮内の守りは警備隊の仕事で、王宮の外を守るのが軍隊の仕事であるため、外からの攻撃には関与できても、王宮内に敵がいた場合は軍人は関与することができない。

 もしも明日の誕生会に、レイモン総司令官やヤグルデ指揮官の護衛として、怪しい奴等が入城してしまったら打つ手がなくなる。たくさんの招待客や高官たちが集まる中で、もしも事を起こしたら・・・


『しまった!!警備隊総司令官ロイガ様はエルフ公爵を迎えにミノスの街に行かれている。夕刻までには戻られるが相談する時間がない……こうなったら入城前の馬車を止めて話すしかない』


 俺はそう決めると、エントンの下宿に急いだ。エントンは午前0時から勤務に就くはずだ。そして明日は誕生会なので早く帰れると言っていた。

 エントンは特殊任務なので、軍隊所属だが王宮内の詰所に勤務している。名目は王様からの命令を本部に伝える伝令なのだが、今はバルファー殿下の見張りをしている。

 堂々と王宮内に入れる人間であり、もしもの時は殿下を守れるが、敵方の人間として動いているため、軍内で俺とは会うことができない。

 しかし、本当にいざという時のために情報を伝えておかなければ、役に立つことさえできない。




 エントンは、深夜の勤務になったので本部の近くに部屋を借りていた。俺が行った時は深夜勤務のために寝ようとしているところだった。


「それではギニ先輩は、明日の誕生会が危ないと考えているんですね」

「そうだ、明日ならどさくさに紛れて、護衛が王宮内に待機していてもおかしくない」

 

あれこれと明日の打ち合わせをして、警備隊総司令官に会うために下宿を出ようとすると、エントンが少しだけ待ってくださいと言って手紙を書き始めた。

 それは明日の誕生会で、殿下の婚約者としてお披露目される予定の、妹カシアさんへ宛てた手紙だった。


「ギニ先輩、お願いがあります。この手紙を今晩殿下に渡してください。殿下が出掛けられる先は妹の所だと思います。殿下から妹に渡して頂きたいのです」


そう言って、エントンは短い文章の手紙を俺に託した。



 それからの俺は大忙しだった。

 警備隊総司令官ロイガ様の馬車を城下の入口で止めて、怪しい奴等のことや、明日の警備について打ち合わせをして、殿下のために馬を用意し、飯を食って、午後8時前には待ち合わせ場所で待機した。


 殿下が指定されたいつもの場所は、庶民が陽気に唄って呑める酒場の近くで、王宮内から秘密の地下道(見張られていると知っていらっしゃるので特別に)を通って出られる出口の側だった。

 明日の王妃様の誕生会のために、来賓や貴族が前日から王都に到着し、町は活気に溢れている。きっと遅くまで賑やかだろう。

 こんな夜なら、喧騒に紛れて殿下と2人が出掛けても、気付かれる心配は無さそうである。



「ギニ先輩すいませんね」


平服を着た殿下が、笑いながら声を掛けてきた。婚約者に会いに行くのが嬉しくてたまらないのか上機嫌だ。


「ギニ先輩って呼ぶのは、お止めくださいと何度も言いましたよね?」

「そうだっけ?」


いつものように惚けて殿下は馬に乗り、片道1時間のエントンの家へと出発した。




◇◇◇ ビター邸 カシア◇◇◇

 明日は王妃様の誕生会。もう今夜しか時間がないのに、バルファーが来てくれなかったらどうしよう・・・

 自分でも何故こんなに不安になるのか分からない。明日はお城でお会いできるのに、どうしても会わなければならない気がする。


『お願いバルファー早く来て!』


 部屋の窓を開けて、馬の足音が聴こえるのを祈るように待っていると、ようやくひづめの音が近付いてきた。急いで玄関まで迎えに出て、バルファーの姿を確認すると、その場でしゃがみ込んでしまった。


「カシアどうした?具合が悪いのか?」


バルファーは慌てて馬から飛び下り、私の元まで駆け寄った。


「いいえ、大丈夫です。ご心配をお掛けしました」


バルファーに抱き抱えられながら、2人は屋敷の中へ入った。

 管理人のリンダは、いつものリビングではなく、今夜はこちらのお部屋へどうぞと言って、私を支えながら歩くバルファーを、2階の奥にある部屋へと案内した。そこは亡くなった両親の寝室だった。

 品の良いテーブルと椅子、長椅子は窓辺から月を観るのによさそうな場所に置いてあり、奥には大きなベッドがあった。


「明日のお披露目の前に、両親に紹介したかったの」


そう言いながら、私は両親の肖像画の前に立って微笑んだ。


「はじめましてバルファーです。ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。この度婚約しましたことをご報告申し上げます。必ず幸せにしますので安心してください」


私の肩をそっと抱きながら、バルファーは両親に挨拶してくれた。


「そう言えば、エントンから手紙を預かってきたぞ」


バルファーは私に手紙を渡すと、上着を脱ぎソファーに腰掛けた。

 私は部屋に用意してあったお茶を淹れてから、何だろうと思いながら手紙の封を開ける。

 するとそこには短い文章でこう書かれていた。


『明日という日を待つな。お前の想いを遂げてよし。兄はお前の幸せを心から祈る』と。


 私は震える手で手紙を封筒に入れ、ある決心を胸に抱いて机の上に置いた。

 それから2人で、明日のお披露目の話を楽しく始めた。

 2杯目のお茶を淹れてから「申し訳ありませんが少しお待ちください」と言って、私は同じ部屋の中にあるドアを開けて入って行った。

 


 バルファーは、カシアが夜食の用意でもしに行ったのだろうと思いながら、溜め息をついていた。


『せっかく会えた貴重な時間なのに、夜食よりも側に居て欲しいんだけどな』


などと思いながらも、顔は緩んだままで、カシアが戻ってくるドアの方を見ていた。

 ようやくガチャリと音がしてドアが開いた。

 そこには、さっきまで着ていたドレスではなく、夜着に着替えたカシアが立っていた。どうやら、ドアの向こうは浴室だったようだ。



「バルファー、お、お風呂で汗を流して、ゆゆ、ゆっくりして帰ってください」


精一杯大人の女性としてふるまい、バルファーを見つめて私はバスローブを渡した。

 心臓がドキドキし過ぎて、息が上手くできない。


『でも、でも今夜しかない気がするの。神様、勇気をください』


 バルファーはバスローブを受け取りながら、緊張しながらも自分を誘っているような様子の、愛しいカシアの潤んだ瞳を見つめる。


「そんな瞳で見つめられたら、帰れなくなるよ?」


バルファーはギリギリの理性を保って答えながら、カシアをそっと抱き寄せる。


『石鹸のいい匂いだ』


 カシアは微かに震える唇で、ゆっくり息を吸って、止められない気持ちを、愛を、言葉に託した。


「はい、帰らないでください。空が明るみ始めるまで、私に時間をください」


 バルファーのシャツをぎゅっと握り締めながら私は答えた。

 バルファーは、私を強く抱き締めて「愛している」と囁いてから、隣の浴室へと向かった。 





 一方、1階のリビングに通されたギニ先輩は、リンダから風呂を勧められていた。


「いやいや、もうすぐ帰りますから、どうぞおかまいなく」


本当は1日中駆けずり回ったので、風呂には入りたいとは思うが、そういう訳にはいかないだろう・・・殿下はまだかなぁと思って2階を見上げる。


「殿下のお戻りは、明け方になると思います」と、リンダが爆弾発言をし、ギニ先輩は口をパクパクしていたが、にっこり笑うリンダの案内で風呂に入ることにした。




 午前2時半、突然玄関の呼鈴が鳴った。


 何事かと慌てて玄関の扉をドッター夫妻が開けると、青ざめて生気を無くしたエントンが立っていた。


「リンダ、すまないが殿下とカシアを起こしてきてくれ」


力のない低い声で、絞り出すようにエントンは言った。


「エントン様、それはあまりにも無粋ではありませんか!」


リンダは、やっと想いを遂げて眠っているカシアのことを思い、エントンに訴えた。

 しかしエントンは、言葉を発せず2階を指差し、起こしに行くよう命令した。


 物音と声を聞き付けて、ギニ先輩が起きてきた。


「どうしたエントン?何があった?」


普通ではないエントンの様子に、ギニは嫌な予感がした。


「クーデターです。王様も王妃様も、エルフ公爵他数名も・・・暗殺されました。首謀者は王弟クエナとカワノ公爵、レイモン総司令官と配下の者たちです。既に新王を宣言しクエナが王座に就きました」


 エントンは涙を流しながら、ガクリと肩を落とし両膝をついて答えた。


「なんだと!王様が暗殺されただと?」


2階から下りてきた殿下が、怒りの声をあげた。


「はい、申し訳ありません。私が交代で王宮に入った直後の犯行でした。奴等は殿下が逃げたと思い探しています。私が城の近くでミノスの方向へ、走り去る馬を見たと証言したので、ミノス方面に捜索部隊が出ました。私は近くを探してくると言って帰ってきたのです。1分でも早くお逃げください。ここから回り道でミノスの反対方向のマキの街に向かいましょう」


エントンは涙を拭いて、言葉を失い青い顔で殿下の側に立っているカシアを見て叫んだ。


「しっかりしろカシア!早く支度をするんだ。殿下をお助けするのだ!」


 殿下を助けるという言葉で正気に戻ったカシアは、リンダに水と食料その他の準備を指示し、自分は2階に駆け上がった。

 カシアの後を追って、着替えのため殿下も2階に上がっていき、エントンとギニ先輩、ドッターの3人は急いで準備を始めた。



「カシア愛している。必ず迎えに来るから信じて待っていてくれ。偽王を倒し俺が国王になる。落ち着いたら連絡するから」


バルファーはカシアを強く、強く抱き締めた。


「はい、信じてお待ちしています」


カシアは歩き始めた愛しいバルファーの腕を引き寄せて、自分からキスをした。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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