8 卒業試験の結末
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
★レガート国における、爵位順の説明。
国王→皇太子→王妃→その他の王子、王女→公爵→侯爵→伯爵→子爵→男爵→準男爵→騎士
★爵位の見分け方 名前の後の文字数で分かる。
◇公爵 ギ・グ・ダ など1文字
◇侯爵 エス・ミル など2文字 ◇伯爵(公爵家直系)ダギ・マグ・イグ・キエス など主家の1文字又は2文字を持つ2文字又は3文字
◇伯爵(直系以外) ミヤ・スノ など2文字 ◇子爵以下(主家直系)ナダギ・マリグ・シマグ など3文字
◇子爵以下(直系以外) ファヌ・フィン・エファ など3文字で小文字が入ることが多い
日頃ヘラヘラと僕の隣で笑っている印象のフィリップが、怒りに満ちた顔で放った言葉は、直ぐに辺りを騒然とさせた。
《《 たかが子爵家の子息・・・》》
これは大変なことになりそうだと、腕に自信もなく面倒なことが嫌いな者たちは、そろそろと後ろに下がり始めた。このままで終わる訳がないと、危険を察知したからである。
「弓や馬術で勝ったくらいで、何をいい気になってるフィリップ!!今の言葉、みんな聞いたな?」
「はい、聞きました!」
クラーの問い掛けに、取り巻きたちも激高して叫ぶ。
このままでは決闘にでもなりかねないと思ったコーズは、急いで教官を呼びに走って行った。
悪びれもせず、怒りの形相を変えないフィリップを見て、クラーはまるで最後通告のように言った。
「いいだろう。本当の権力というものを、お前たちに味会わせてやる!明日の卒業式を楽しみにしていろ!俺たちの親が動けば、お前らの居場所などレガート軍の何処にもないのだと、思い知ることになるだろう!は~はっはっ」
フィリップは、は~っと長い息を吐き、ガッカリしたようにこう言った。
「アルダス、俺は同じ人種じゃないよな?なあそうだろうソウタ?」
クラーたちには理解できない問い掛けを、後ろの僕たちにしてきた。
「心配するな。お前は赤ん坊の頃から正統派だったぞ!」
同じ伯爵家の子息として生まれ育ったソウタが答えた。
キシ組の皆は、子供の頃少しだけ貴族を笠に着ていたフィリップを知っている。そんな自分を恥じていたフィリップは、自分もこんな嫌な人間だったのだろうかと、心配になったようだ。
「良かった安心したよ・・・ クラー、残念だけど俺たち別に軍に入らなくても良いんだ。それに・・・俺たちの名前は親には言わない方がいいぜ!お前、家にも帰れなくなるぞ・・・」
視線を僕たちからクラーに移すと、先程までの怖い顔からか、憐れなものを見るような目をしてフィリップは言った。
「はあー?何言ってんだんだ?とにかく只では済まさないからな!!」
クラーが吠えた時、表彰式の為に校長や来賓、国王や軍の上官たちがやって来た。
教官を呼びに行っていたコーズは、僕の側に駆け寄ると
「大丈夫だった?状況はギニ教官にお伝えしておいた」と心配して訊いてきた。
「心配させたね。大丈夫だったよ」と、僕は笑いながら答えておいた。
コーズは、アルダスって鈍いのか、余程腹が据わっているのか、どっちなんだろうと考えながら、自分のグループの所へ帰って行った。
全員多少ざわざわしながらも、グループ毎に整列した。
ハース校長が武道場前に作られた壇上に上がり、今回の卒業試験の総評を話始めた。
そしていよいよ結果発表だ。校長が入賞したグループ名と得点を読み上げていく。そして、驚くことにバルファー王が賞金を一人ずつに手渡してくださることになった。
「第3位、クラーグループ35点」
校長が読み上げると、「ギャー」とか「やったー」とか叫び声があがった。最後までマルコのグループと競っていたからだ。その点差は僅か1点だった。
何様のクラーも、王様の前では神妙に賞金を受け取り誇らし気だった。
「第2位、コーズグループ37点」
クラーのグループと違い、皆から暖かい拍手が贈られている。ここの点差は2点なのだが、元々武闘派が少なかった割には、2位に落ちたとは言え、良く頑張ったと思う。
たとえ2位でも、王様から直接賞金を手渡される瞬間はメチャクチャ緊張し、どの顔も誇らしさと喜びで良い笑顔になっている。僕はもう1度拍手を贈った。
「第1位、アルダスグループ51点」
校長が得点を発表すると、大きな歓声があがった。文句なしの得点差で優勝だ。
王様の前に一人ずつ進み出て、賞金の金貨2枚を頂きながら、僕たちキシ組以外のメンバーは、感動のあまり泣いている者や、緊張しすぎて呼吸するのを忘れて青くなる者、金貨を持つ手が震える者など、まあ色々だ。
軍学校の全員に秘密になっている、王様と共にレイモンのバカ息子を捕らえた思い出もあり、喜びもひとしおである。
王様が11人分の賞金を手渡されたところで、キシ組の僕たちにこう言われた。
「ギニ教官の話によると、君たちはこれまで、本気で武術の授業に取り組んでこなかったそうだね。最後だけ本気を出すというのはどうなんだろう?そこで、君たちの分の賞金は没収することとした!」
もの凄く含みのある笑みを浮かべて、王様は僕たちに告げられた。
「え~っ???」会場がどよめき始める。
校長も知らなかったようで、椅子から立ち上がり、どうしたものかと、おろおろしている。
「「「えっ、マジで・・・!」」」
僕たちキシ組は顔を見合わせながら、ちょっぴりガッカリした。
何故かクラーと取り巻きの皆さんが、嬉しそうに拍手をしている。しかし他の学生たちから睨まれ、拍手は止めたが、「ざまあみろ」とか「好い気味だ」と言う声は聞こえてきた。
「そこでだ、没収する金貨8枚の内6枚を、各競技で1位だった者に優秀賞として1枚ずつ与える。そして残り2枚は、4位のグループの賞金とする。これは、武術大会が急遽決まったせいで次点となったグループへの、救済措置である」
王様がそう告げられると、その場にいた全員は少し考えた後、その意見(命令)に賛同して、大きな拍手と歓声を贈った。
「では、1位をとった優秀な学生は私の前に出よ」
王様の命に従い、僕はソウタと一緒に前に出た。
弓で同点1位になった、僕とソウタとフィリップは金貨1枚を受け取った。
次は馬術で、フィリップがまた1枚受け取り、体術で僕がまた1枚受け取った。最後に剣でマルコが1枚受け取り、マルコはそのまま4位グループの代表として、2枚の金貨を受け取った。
「今私と共に前に出ている学生は、グループで優勝した者たちと、各競技で優勝した者たちだ。もう1度その功績を称え拍手を贈ろう」
王様の言葉と拍手に合わせて、一段と大きな拍手と喝采が僕たちに贈られた。
『王様、なんだか余計に恥ずかしいんですが、わざとですよね?』
僕は王様の方を向いて視線を送ると、にんまりと笑顔を返された・・・ふうっと息を吐きながら、僕はやっと元の位置(列の1番後ろ)に戻った。
隣の隣から殺気を纏った視線を感じてチラリと見ると、クラーがメチャクチャ睨んでいる。自分より目立ったのが悔しかったのか、2度も王様から賞金を受け取ったのが気に入らなかったのか、いい加減うざい!
「さて、今回の卒業試験は、上官たちからとても有意義だったと報告を受けている。そこで、以後の卒業試験は諸君等と同じように、地方の各部隊へと派遣し、その後同じような方法で武術大会をグループで競うものとする。この方式は諸君等の後輩たちに受け継がれ伝統となるだろう。これからも諸君らの働きが、レガート国の礎となるよう期待する」
バルファー王の訓示を聴いて、学生全員の胸に熱いものが込み上げてきた。
「我ら一同、王様の御言葉を胸に、国民の為に命を惜しまず、使命を果すことを誓います」
「誓います!!!」
学生代表のコーズの挨拶に続き、全員が誓いを立てた。
これで全てが終わり、明日の卒業式を待つばかり・・・と思っていたら、何故かキシ組だけ校長に居残りを命じられた。
解散仕掛けていた学生たちは、「何事?」「まだ何かあるの?」と足を止める者が大勢いた。いやいや、お前ら帰っていいぞと心の中で叫んだが、校長の隣に王様がいらしたので、興味津々で僕たちを眺めることにしたようだ。
「これから、王様が特別任務(命令)を与えられる。謹んでお受けするように」
校長がとんでもないことを言ったような・・・?特別任務?・・・僕たち5人は思い当たることもなく、何がどうなるのか判らないまま、王様の近くまで行き、整列して命令を待った。
遠巻きに様子を観ていた者たちは、少しずつ僕らの方へ近付いてくる。クラーと取り巻きたちなどは、まるで罰でも受けるのではと期待するかのような目付きで、ニヤニヤしながら直ぐそこまで近付いてきた。
演説台の上には、5枚の命令書?が置いてある。おそらく前以て用意されていたに違いない。
『何だろう?卒業式が終わったら、直ぐキシに帰らなければならないはずなのに……』
王様は、真剣な目で僕らを見て、一人ずつの名前を呼び始めた。
「ヨム・マリグ・カミス前へ」
【えっ?フルネームだ!!】僕たちは驚いて顔を見合わせた。
せっかく貴族だとバレないように生活してきたのに・・・何故?
「シュノー・ディグ・マホル前へ」
王様はヨムとシュノーを演壇に上げて、特別任務命令書(特命書)を読み始めた。
「ヨム、1年間の上級学校編入を命ずる。その後、王宮警備隊に着任するものとする」
「シュノー、1年間の上級学校編入を命ずる。その後、ミリダ王立先進学院に留学するものとする」
バルファー王は、ニヤリと笑って、とんでもないプレゼントをくれた。
「ヨム、シュノー、子爵であることを忘れず、誇りを持って努めよ」
『僕たち唯一の心残りである、上級学校卒業の夢が叶えられるのか本当に・・・』
「承知しました。御命令に従います」
2人とも嬉しそうだ。僕も嬉しい!!良かったなヨム、夢の王宮警備隊だ。良かったなシュノー、憧れの先進学院だぞ!僕は夢を見ているのか・・・?
「ソウタ・マグ・ローテス、フィリップ・イグ・マクダス、両名は前へ」
ソウタとフィリップは期待を胸に壇上に向かう。
そうこれは、王様から僕たちへのご褒美なのだ。そして上級学校に入学できなかったことへの償いなのだろう。
「両名に1年間の上級学校編入を命ずる。その後、ソウタはレガート軍副指揮官(ギニ教官は出世した)の補佐を、フィリップはキシ公爵の警備隊長の任に就くものとする。伯爵家の子息としての責務を果たせ」
「承知しました。御命令に従い、責務を果たします」
この2人も夢が叶った。『おい、フィリップ泣くなよ・・・』
「なあ、ヨムって子爵様なのか?」とか「う、嘘だろう、俺シュノーに荷物持たせた……」とか「はく、伯爵家の子息?」とか、色々驚きの声が上がっている。ふとクラーの方を見ると、当然のことながら真っ青だ。取り巻きの皆さんは、まるで自分の人生が終わったかのような顔をして、地面にへたり込んでいる。
「アルダス・グ・キシ前へ」
こうなったからには、堂々とするしかない。僕はギャラリーの皆さんの方を見て、にっこり極上の笑顔を作った。
「ギャー!」とか「うそー!」とか声がしたが、放っておこう。
僕は王様の少し前で、深い礼をとった。そして姿勢を正して1歩前へ出た。
「アルダス・グ・キシ、1年間の上級学校編入を命ずる。公爵の責務を果たしながらの学校は大変だろうが、善き領主と成るべく、また貴族のトップとして己を厳しく正し、私の片腕になれるよう励め」
「承知しました。身を捨てる覚悟で励みます」
僕たち5人は、演壇を下りて軍礼をとった。
泣くまいと思っていたが、何故か涙が溢れてくる。フィリップ、ソウタ、ヨム、シュノーが僕を取り囲み、頭を撫でたり、肩を叩いたり、背中に抱き付いたり、正面からハグしたりする。
僕たちの円陣?の回りを、大声援を贈りながら、大勢の学友たちが取り囲んでくる。僕たちの正体が判っても歓迎してくれるようだ。クラーは倒れて医務室に運ばれて行った。
1084年1月15日、厳かに軍学校の卒業式がとり行われた。
父兄や来賓が混乱しないように、僕らの身分は極秘であると、校長から事前に指示が出ていたので、煩わしい挨拶や社交辞令を聞かずに済んだ。
式が終わった後フィリップが、「クラー、父上は来てないのか?」と訊ねる天然振りを見せた。悪意は無くてもクラーには、充分過ぎる程の恐怖だったらしく、走って逃げて行った。
1年後、レガート軍の任務であった道路整備は、新しくできた建設隊が受け持つことになった。建設隊長にはキシ部隊でお世話になったモスリブ大尉が、指揮官に大出世して着任した。
そして僕の同期の殆どが、新設された建設隊に異動願いを出し着任した。きっとこれから建設隊の中心となり頑張ることだろう。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
読んでくださる皆さんのお陰で、完結までたどり着けました。本当に感謝です。
【予言の紅星1 言い伝えの石板】はこれで完結です。
軍学校の登場人物は【予言の紅星2 予言の子】のレガート軍入隊編に出てきます。
良かったら読んでみてください。




