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予言の紅星1 言い伝えの石板  作者: 杵築しゅん
キシ公爵領奪還 編

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22/23

7 武術大会

 1084年1月12日、僕たちバルファー軍は無血決戦で完全勝利した。

 

 レガート城では、全軍に近い人々が祝杯を上げ歌い踊り、夜中まで勝利の美酒に酔っていた。

 僕たち軍学校の学生は、午後10時には学校の宿舎まで帰り着いた。

 ラミルの街を包囲していたグループの者たちは、久し振りの風呂で暖まり、ゆっくりベッドで眠れるとはしゃいでいたが、今日の感動と興奮で、誰も眠れそうになかった。


 翌日は休みだと決定していたので、お互いのグループで、何を経験したとか、どんな上官だったとか、卒業試験で経験してきたことを、朝まで語り明かした。

 旅立つ前は、あれほどギスギスしていた人間関係も、すっかり打ち解けて連帯感が生まれている。僕のグループがそうであったように、他のグループも仲良くなっていた。

 しいて問題があるとしたら、グループ同士の対抗意識が強くなったことだろうか……


 

 13日の昼前、僕たちキシ組(フィリップを含む)5人は、バルファー王からの呼び出しで、レガート城に向かっていた。

 その道中で、キシの街での出来事、特にドルトンのクズ野郎を捕らえて、公爵邸を取り戻した話をフィリップにすると、自分だけ参加できなかったことを悔しがり、自分にリーダー投票をした奴等を呪うとまで言い出した。まあ、気持ちは分かる・・・物心付いた頃から、これ程長く僕から離れたことなど無かったから、きっと心配で仕方なかっただろうし、共に戦いたかったのだろう。

 

 だめ押しで僕の女装話をヨムから聞いたフィリップは、瞳から光は無くなり、口はあんぐりと開いたままで、ガクリと崩れ落ち、おいおいと泣き出してしまった。


「なにも泣くことないだろう」と言いながら僕がフィリップを抱き起こすと、自分も女装した僕とデートさせてくれと、泣きながら懇願されたが、当然脚下した。


「いいかみんな、僕は2度と女装はしないよ!これからもっと背も伸びるし、声だってきっと男らしくなるんだから!たぶん……」


そう言って、僕は走り出した。しかも《印》の力を少し使って。

 僕の《印》の能力は、運動能力全般において、俊敏性・機敏性・持久性・動体視力に優れており、こいつらの前以外の場所では、武術等本気を出したことが殆どないのだ。


『こんな幸せな日が来るなんて、入校した時には想像もできなかった。信頼できる友がいる、そして尊敬できる王がいる。神様感謝いたします』


 誰にも嬉し涙を見られたくなくて僕は走った。

 後ろから文句を言いながら追いかけてくる皆には悪いけど、なんだか思い切り走りたい気分なんだ。冷たい風が気持ちいい。僕は笑いながら、通りの向こうに見えてきたレガート城まで全力で走った。




 レガート城では、国王様から任命書と承認書が下された。


「本日1084年1月13日、アルダス・グ・キシをキシ公爵家の正統な後継者と認め、キシの領主に任命する」


バルファー王はニヤリと笑うと、こう付け加えた。


「明日行われる軍学校の武術大会と、卒業試験の表彰式には私も出席する予定だ。きちんと本気を出せよ!2種目はぶっちぎりで勝ってみせろ。命令だ!」


『領主なら、そのくらいやれってことか……僕が《印》持ちだと知ってるしな』


「ありがたき幸せ。必ずや領主としての責務を果たします。もちろん明日の大会でも期待にお応えしてみせます」


僕は深く礼をとった後、王の顔を見てにっこりと笑った。

 僕の任命の後で、ヨムとシュノーの子爵任命もして頂いた。2人とも父親が復位するものだと思っていたが、今回ドルトン捕縛とアルダスを助けて公爵邸を取り戻した功績により、自分たちが新たに子爵を拝領することになった。

 子爵家の長男ではなく、子爵になったのである。


「これからもアルダス、いやキシ公爵を助け責務を果たすように」


バルファー王から直接御言葉を頂き、呆然としていた2人は、慌てて礼をとった。


「お言葉胸に刻み、命を掛けて責務を果たします」


2人は声を合わせて、勇ましく返事をした。


 僕らキシ組5人は、これからのキシの街の将来について、熱く語り合いながら宿舎に帰った。




 14日朝、レガート軍の上官たちの希望により急遽決まった武術大会は、グループ戦となった。

 各種目(剣、弓、体術、馬術)に、各グループから2名代表を出し、16名による競い合いとなる。

 代表に選ばれた者は、最高3種目まで出場が認められ、5位までの入賞者に得点が入る。1位が5ポイント、順位が下がる毎に1ポイント減っていく。


 大会前に、これまでの卒業試験の成績が武道場前の掲示板に貼り出された。

(1位)、コーズのグループ28点。(2位)、アルダスのグループ26点。(3位)、マルコのグループ23点。(4位)、クラーのグループ21点。(5位)、フィリップのグループ20点だった。


 コーズのグループの1位よりも、僕のグループが2位だったのを見て、掲示板の前は騒然となった。他のグループの奴等は意外な結果に驚き、僕のグループのメンバーは、武術大会さえなければ2位で金貨1枚貰えていたのにと、ガッカリしたり「金貨が~」と泣き叫ぶ残念な奴(ホイ、ルカヨ、デキ)がいた。勝手に泣いてろ!

 

 僕たちキシ組は、できるだけ目立たず静かに卒業するという目的の下、武術はかなり手を抜いていた。下手に目立って勤務地がバラバラになったり、誰かが引き抜かれては困るし、優秀さを認められ本部で勤務なんて絶対嫌だった。

 地方のキシの街で領民を守るために働く。これが望みだったのだから・・・

 しかし何故か、ヨム、フィリップのイケメン2人のせいで、常に目立っていたが。

(注)本当は、いろんな意味でアルダスが1番目立っていたが、本人には自覚なし。


「おいアルダス、どんなずるい手を使ったのか知らないが、武術はごまかせないぞ!お前たちなど、俺様の前に膝まずかせてやる。リーダー同士俺様と戦ってみたらどうだアルダス!」


明らかに勝ちを確信したかのように、クラーが挑発してきた。


「クラー、代表を決めるのは僕たちだ!勝手な口を挟むなよ!」


元クラーの手下のヤレバが心配して、僕の前に立って文句を言う。


「へえ~っ、お前もアルダスのファンか?そんな口を利いていいのか?俺は子爵家の子息だぞ。俺の取り立てがなければ、お前のような能無しは軍ではやっていけないんだぞ!」


クラーは自分の手下が、僕をかばったのが余程気に入らなかったらしい。


「クラー、僕は昔の僕じゃない。僕らに負けていたことがそんなに悔しいなら、正々堂々と勝ってから威張れよ!」

「そうだそうだ!!!」


他の元手下だったデキ、ルカヨ、オーエンもヤレバに賛同する。


「クラーお前さ、子爵家の子息だって言うの止めた方がいいぞ。お前より爵位が上の者が聞いたら笑われるぞ」


珍しく、シュノーが嫌味を言っている。確かに笑えるけど・・・


「フンッ!平民風情が」


そう言ってクラーは去って行った。


「あのさあ皆には悪いけど、僕を剣と体術と弓に出場させて欲しいんだ。ダメかなあ?」


僕は両手を胸の前で組み上目使いで、みんなにお願いしてみる。


「うっ……」

「止めてその顔、身体に悪い」


なんでだ?ガルロ、ドグ、僕は女装してないぞ!?


「いいよアルダス。ケガしたら僕が抱っこして医務室に運んでやるから」


ソウタが嬉しそうに、含み笑いでそう言った。


『えっ?抱っこ?』『抱き締める?』『俺の腕の中に?』

気のせいか、僕はそんな声が聞こえた気がして、背中がゾクッとした・・・


「よし!いいよ。アルダスの望みを叶えよう。リーダーに従うよ」


ナイヤがそう言うと、他の皆も目をキラキラさせてコクコクと頷いた。





 王様と上官たちが見守る中、武術大会は始まった。


 始めの試合は弓だった。僕とソウタとフィリップは全ての的に命中させた。当然同点1位で僕のグループは10ポイント獲得である。

 これまで本気を出してなかったので、僕らの1位は「奇跡だ!」「まぐれだ!」と言われ、随分回りを驚かせたようである。

 僕のグループの皆は、10ポイント獲得の奇跡を、小躍りしながら喜んでいた。

 まあ本当は、小さな頃から日々訓練に明け暮れていたのだから、皆とは経験値も努力度も違うのである。


 次の試合は馬術。産まれた時から伯爵家で育ったソウタと、馬術が得意なヤレバが出場した。ヤレバはクラーの妨害で落馬し、医務室送りになった。どこまでも汚い奴である。

1位はフィリップ、さすが伯爵家育ち。2位はクラー、3位はソウタ。取り敢えず3ポイント獲得である。


 3番目は体術、トーナメント方式でAとB8人の2ブロックに分かれ、勝ち上がりで決勝戦までいく。

 僕とソウタは「決勝で会おう」と約束して、取り敢えず3回勝つ!と気合いを入れた。

 

 今回僕は、相手にまともに組ませず、襲ってきた相手との体重差を利用して、腕をとり速攻で投げ飛ばした。

 会場にいる誰もが、一瞬の出来事に何がどうなったのか理解できず(倒された相手も)、気付いたら僕の3メートル先に相手が転がっているという、不思議な光景にポカンとしていた

 小さな僕が、大きなガチムチ男にあっさり勝利し、息ひとつ乱れてもいない様子に、勝ち上がる程に会場は静まりかえっていく。


 順調に勝ち決勝戦までくると、相手はなんとクラーだった・・・何故だ?

 ソウタを見ると嬉しそうに手を振って、しらっと5位決定戦に向かうところだった。絶対わざと負けたな!直接やれ(負かせ)ってことかよ・・・


「どうやって勝った。色仕掛けか?お願いでもしたのか?フンッ、俺は甘くないぞ!」


 相変わらずの態度をとるクラーに、哀れみさえ覚えてきた。どうやら僕の戦いを観てなかったようだ。折角だから瞬殺してやろう。

 教官が「始め!」と開始の号令を出す。僕はわざと構えず、ただ立っていた。

 バカにした笑みを浮かべ、クラーは勢いよく突進してきた。


 ドーン!!!体重がありガタイがいい分、音は凄かった。


 3秒でかたはついた。投げられた本人は、まだ現実が理解できていない様子で、起き上がりキョロキョロしている。自分の腕に何か当たったくらいの感触しか無かったはずだ。

 勝利の行方を、固唾を飲んで見守っていた観衆は静まりかえっていたが、直ぐに大歓声へと変わっていった。

 これで僕が5ポイント、ソウタが1ポイントで6ポイントゲットだ。


 あまり目立ち過ぎても良くないから、剣は他の者に任せてもいいか。いくらかの賞金は既にゲットできたはずだな……と思いながら観客席をチラリと見ると、バルファー王が腕組みして何故か僕を睨んでいた・・・へっ?サボっちゃ駄目ってこと・・・?


 最後の剣は僕とヨムが出ることにした。剣も体術と同じトーナメント方式で行われる。いつも軽い剣で戦ってきたから、若干の不安はあるがまあ仕方ない。

 2回戦目でまたクラーと当たってしまった。当然勝つには勝ったが、あまりの怪力で打ち込まれた僕は、3回戦目(準決勝)のマルコの時には、腕が痺れてまともに剣が握れなかった。残念ながら敗退である。

 決勝はマルコ対ヨムだった。ハース校長が後から言っていたけど、ここ10年の中では1番記憶に残る名勝負だったらしい。

 結局勝ったのはマルコだった。本気を出したのに負けたからか、珍しくあのヨムが悔しがっていた。



 全ての競技が終わり、後は結果発表と表彰式を待つだけである。

 僕のグループの優勝は間違いないのだが、最後まで威張らなければ気の済まないクラーがやってきて、


「お前たち平民は、金貨など見たことないだろう。まあ俺たち貴族は端金の為に本気など出さないものだ。せいぜい喜んで有り難がれよ!」


クラーと取り巻きの貴族の子息(子爵、男爵、準男爵の子供)たちは、負け惜しみを言いながら、「貧乏人!」「平民風情が」と汚い言葉を大声で浴びせてきた。


「くだらない!たかが子爵家の子息、しかも3男のくせに・・・」


腹に据えかねたフィリップが、僕の前に立って爆弾発言をした。

 一気に気温が3度位下がり、クラーと取り巻きの皆さんの顔が引きつった。

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

いよいよ次はクライマックスです。

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