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予言の紅星1 言い伝えの石板  作者: 杵築しゅん
キシ公爵領奪還 編

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6 キシ公爵邸奪還

《印》について。

体のどこかに、まる、三角、四角、葉の形、線、半月、羽、など様々な形の あざ がある人が、印持ちである。

《印》持ちは、特殊能力の持ち主であり、その場所によって能力が異なる。

胴体部分だと、火・風・水・土等の能力を持ち、足だと身体能力、頭だと知能・念動力持ちである。

 1083年12月13日未明、レガート軍キシ部隊約100名が、それぞれの目的地に到着し配置に就いた。


 レイモンの屋敷(キシ公爵邸)を取り囲んだのは30名、レイモンによって取り立てられた貴族の屋敷5邸に12名ずつ計60名。警備隊との連携に5名が振り分けられた。


 僕は、1歩も足を踏み入れたことのない自分の家の前に立ち、開門を待っていた。

 重厚な正門前に並んでいるのは僕のグループ15名と、バルファー殿下、タイガ様の17名だ。残りの者たちは裏門、通用門を固めて、逃げてくる者を捕らえる段取りだ。

 制圧は、正門からの正面突破だ。日の出を合図に各屋敷が同じ行動に出る。


 昨夜連絡を取った使用人頭であるグレンが、正門の鍵を持って歩いて来るのが見える。

 グレンは、父が公爵を継いでからずっと、この屋敷を取り仕切っている過去の全てを知る人間である。


 父と正妻を乗せた馬車が、川に転落して亡くなった(殺された)時、僕は既に側室である母のお腹の中にいた。そのことを知る者は少ないが、グレンは僕たち(母とお腹の中の子)を守るため、父であるキシ公爵亡き後、今の養父(マース子爵)の元へ形式上、その側室として隠してくれた。

 養父は主家の為にと秘密を守り、本当の息子のように可愛がってくれた。

 門の前まで来るとグレンは、僕の隣に立つバルファー殿下に深く礼をとった。


「ありがとうございます殿下。レイモンの使用人以外は、昨夜の内に休みを取らせました。どうぞ心置きなく成敗くださいますよう」


「分かった。そうさせて貰おう」


バルファー殿下が言葉を掛けられると、グレンは門の鍵を開けた。ゆっくり静かに3メートルを越える門を開いていく。

 人が入れるだけ開いたところで全員が中に入り、もう一度閉めて鍵を掛けた。これで外から干渉されることはなくなった。


「おかえりなさいませご主人様。今日の日のために生き永らえておりました。さあご案内いたします」


グレンは僕の前で膝まずき、明るみ始めた空を見上げて立ち上がった。

 グレーの髪の半分は白くなり、60歳前なのに皺が多い。ずいぶん苦労を掛けたようだ。


 混乱するといけないので、グループの皆には僕たち(キシ組)の身分は伏せたままにしていた。一瞬「何?」ってポカンとしていたが、バルファー殿下の正体は知っているので、その挨拶は殿下に向けられたと解釈してくれたようだった。


 屋敷の中心にある玄関の両扉は、1枚板に鉄がはめ込まれていて、華美な装飾はされておらず、代々軍や警備隊を束ねる武闘派の家紋に相応しい顔だった。

 

 東にそびえるレガート山から朝日が昇り始め、一気に緊張が走る。


「タイガ、予定通り2手に分かれる。アルダス、ソウタ、ヨム、シュノーは俺に続け」


バルファー殿下の指示が飛ぶ。


「了解しました!!」


僕たちは、わざと大きな声を出し、くろがねの扉を勢いよく開いて突入した。


「アルダス、お前剣の腕はどうなんだ?」

「ご心配には及びません殿下。こんな身形ですが、私は《印》の持ち主ですから」


ドルトンの寝室がある2階の東館に走って向かいながら、僕はもうひとつの正体(秘密)をばらしながら、殿下の顔を見て笑った。


「では、脚の《印》なのか?」

「はい、太股です」

「それじゃあ最強だな!頼もしい限りだ。でも、俺にも暴れさせろよ!」


そんな会話をしながら前方を見ると、やっと警備の者たちが気付いたらしく、パラパラと駆け寄ってきた。


「我が名はアルダス。アルダス・グ・キシである。私に逆らう者はキシ公爵家に逆らう者、心して剣を抜け!」


今回の襲撃の首謀者はこの僕だ。殿下はあくまでも助っ人に過ぎず、その存在は表には出せない。


「なんだぁ?子供じゃないか。どうやって入ってきた?!」


血相かいて走ってきたくせに、僕たちを見てなんだこいつら的な扱いをする。身長180センチは越える大男6人は、まるでガッカリしたかのように叫んだ。

 明らかにバカにした態度だ。くそ~!!! 158センチ(1ヶ月で2センチ伸びた)、おまけに童顔(?)が恨めしい。

 

『まあいいさ、油断大敵って思い知らせてやるよ!』


「シュノー、捕縛をよろしく!行くぞソウタ、ヨム!」


掛け声と同時に敵の中に斬り込んでいく。先頭を行くのはソウタで2番手が僕。速攻で右手右足を狙い、正確に斬りつける。

〔ヒュン〕

 僕たちの剣は特殊な剣で、シュノーが考案した変わった形をしていた。殺傷能力は低いが、とにかく薄くて軽い。打ち合いには不向きな強度だが、柔らかいので折れ難い。中心部に長細い菱形の空洞がある。

 この剣の凄いところは、振る度に〔ヒュン〕と音が出るところだ。人は一瞬音に気を取られるが、音は剣先よりも後ろで鳴る。音を追いかけた時、既に剣はその身に届いているのだ。


「うわー!!」


ソウタは右腕狙いで、僕は右足狙い。ヨムは容赦なく何処でもいく。(狙うのが面倒と言うか俊敏性にかけるからだな)

〔ヒュン〕、〔ヒュン〕


「なんだ?いつの間に・・・」


 2人は剣を落とし、2人は動けなくなる。1人は目を押さえて叫んでいる・・・

 残るはあと1人。形勢不利と観てドルトンの部屋へと急ぎ、慌ててドアを叩く。


 命に別状は無くても、僕たちの剣はよく斬れる。出血は少ないが確実に腱まで届く優れ物だ。戦意喪失の5人の武器を集め、後をシュノーに託して前に進む。



「ドルトン様大変です。直ぐにお逃げください!ドルトン様ー」


警備の者がドアを激しく叩いていると、ガチャリと音がした。


「うるさい!!俺はまだ寝てたんだ!」


と、怒り心頭でプルプル震えながら、クズ野郎が部屋から顔を出した。

 状況が理解できないのか、無礼な部下を叱りつけるために、自ら廊下に出てきた。


「ほんとバカで良かったな」


いつの間にかドルトンの背後に、剣を抜いたバルファー殿下が立っていた。

 部屋に籠られたら面倒だなと来る途中で話していたが、期待以上のバカで少しガッカリだ。残った男がドルトンの前で盾となるが、挟み撃ち状態では、もう決着はついたも同然。ドルトンは剣さえ持っていないのだから。


「剣を捨てろ!」


ソウタが大声で威嚇する。追い詰められた男は迷ったが、ドルトンから「何をしている、早くやっつけろ!」と命令され、選りに選ってヨムに斬りかかった。


〔ヒュン〕


「ぐわあー・・・」


男は剣を放り投げ、両手で顔を押さえている。


「チィッ」と言ってヨムは、自分の顔に飛び散った返り血を腕で拭いている。美男子の顔が血塗れって・・・怖いよヨム……


「お、お、お前ら何者だ?俺様が誰だか判っているのかー」


ガタガタと震えながらドルトンは吠えたが、煩かったのかバルファー殿下が、後ろ頭を鞘で殴って気絶させた。

 その後数人の傭兵が襲ってきたが、誰もケガすることもなく、制圧は成功した。


 吉報として、兄モリスの生存が確認されたが、長年に渡る軟禁と薬による中毒で、廃人同然の姿であった。


「兄上、遅くなってすみません。やっと自由になれますよ。弟のアルダスです兄上」


視点さえ定まらない兄上を見て、悲しみと怒りで涙が出た。



 僕としては、ドルトンに自分の正体をきちんと告げたかったが、気絶したまま起きなかった。

 陽が昇ってから、警備隊とソウタやフィリップの親(伯爵)や兄弟、私兵たちが、約束通り正門前に集まって来た。

 傭兵は軍で、それ以外は警備隊に引き取って貰った。

 ドルトンは屋敷の地下牢に監禁した。


 ふと気付くと、バルファー殿下の姿が無かった。タイガ様によると、次の目的地に向かわれたそうだ。


『殿下、本当にありがとうございました。王都でまた御会いしましょう』


 バルファー殿下が偽王を倒し、僕が正式にキシ公爵を拝領するまで、ソウタの父ローテス伯爵が屋敷と後始末を、フィリップの父マクダス伯爵がキシの街の政務を執り行うようお願いした。





 12月14日、僕は約束通り女装をして皆と街で買い物をした。

 全員上機嫌だったが、僕は時間が経つにつれて、不機嫌になっていった。

 女装をしている男だと分かっているはずなのに、

「荷物持つよ!」とか、「馬車が来ます。危ないですよ」と守ろうとするし、終いには、いい男ぶって優しくしたり敬語を使ったり、緊張して喋れなくなったり・・・何なんだ?

 

 ヨムの奴なんか、お茶飲みに寄った店で、僕が椅子に座る時、椅子まで引いてエスコートする始末だ。お陰で本物のお嬢さん方に「なんて素敵なの!美男美女ね。羨ましい~」とか言われてしまった。


『もう2度と女装はせん!!!』



 1083年12月15日、キシ部隊30名を基地に残し、僕たちはレガート軍の一斉蜂起に参加し、王都ラミルに向けキシの街に別れを告げた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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