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予言の紅星1 言い伝えの石板  作者: 杵築しゅん
キシ公爵領奪還 編

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20/23

5 謎の男

 この尋常ではない存在感・・・いったい何者だろう?

 僕はその男の視線を逸らすことができないまま、覚悟を決めた。

 敵でないのなら命までは取られないはずだから、本当の名前は状況を観てからで良いのではないだろうか・・・そう頭の中で考えて、今の名前を言った。


「私の名前は、アルダス・ファグ・マースです」


「軍学校の名簿にはアルダス・マースとなっていたが、何故自分に不利になる名前で入校した?お前の幼馴染みには伯爵家の子息もいるだろう。何故上級学校ではなく、軍学校に来たんだ?」


 いつの間に調べたのだろう?貴族であることを伏せて入校したのに……僕だけでなくソウタやフィリップのことも知ってるようだ。タイガ様には全て判っているということか・・・?


「上級学校には、行かなかったのではなく、行けなかったのです。レイモンはキシに住む貴族に、長男以外は上級学校に入学してはならないとの法令を出しました。軍学校でさえ知られたらどうなるか分からないのです」


 僕は悔しさを隠さず、理不尽な法令に縛られていることを知らない様子の2人に、訴えるように言った。


「なんだと!そんな、そんなことまでしていたのか?」


さっきまでの存在感に怒りが加わったのか、目の前の男の体温が上がったような気がする。レイモンの悪行に、本当に腹を立てているようだ。


「バカ息子は、バカ過ぎて上級学校を落第したのです。だから、自分の部下が優秀なのは嫌だったんでしょう。どんなに優秀でも進学できないんです。もちろん平民もです。友人のシュノーは凄い秀才なのに、レイモンが推薦状を書かないので、試験さえ受けられませんでした」


 僕は怒りが込み上げて、思わずドン!と机を叩いてしまった。平民は、領主又は貴族(伯爵以上)、又は中級学校長の推薦状がなければ、試験を受けることができない国法なのだ。


「中級学校長はどうした?推薦状を書かなかったのか?」


タイガ様は僕の話を聞いて、当然の疑問を訊いてきた。僕はその言葉を聞いて、辛い出来事を思いだしギュッと唇を噛み締め目を閉じた。そしてゆっくり息を吸って深く吐き、目を開くと言った。


「私の伯父は中級学校の校長でした。これまで伯父はこっそりと推薦状を書いていました。しかし3年前のある日、そのことを知ったレイモンは、伯父を処罰(子爵位を没収)し投獄しました。伯母は納得できなくて娘のマレーヌとともに、レイモンに面会を求めました。そして、そ、そして15歳だった従姉妹のマレーヌは・・・レイモンの息子ドルトンに・・・ら、乱暴されて自害し、伯母は悲しみのあまり1年後に病死しました。残った従兄弟がヨムです」


 気付くと僕は涙を流していた。今までこの話を他人に話したことなど無かったが、こうして話すと、悲しみが再び胸に込み上げてくる。涙で濡れる目でタイガ様ともう1人の謎の男を見ると、絶句して顔が歪んでいる。


 暫くの沈黙の後、謎の男は僕の方に、1歩2歩と近付いて来た。

 そして正面に来ると、僕の両肩に手を置き、泣きそうな顔をして辛そうにこう言った。


「すまない」と。


「・・・」


 涙が止まった僕は、どう返事をしたら良いのか分からず目をパチパチさせながら、タイガ様の方に視線を向けた。

 タイガ様は震える手でカップを持ち上げ、一気にお茶を飲み干すと、少し乱暴にカップを置いて、両手で自分の頬を「バシッ!」と叩いた。

 その音を合図にしたように、謎の男は僕の肩から手を離し、タイガ様と同じように自分で両頬を叩き、まるで気合いを入れ直したかのように「よし!」と叫んだ。


「アルダス、君の怒りと憎しみは、まだ核心まできてないだろう?レイモンは王都に居るけど、息子のドルトンなら明日にでも討てる。その為には、ドルトンを討つ大義名分が必要だ。先程の話ではダメなんだ。領主が格下の子爵に理不尽な行いをした位では、討つ為の大義名分とは言えない。私は君に、君の手で罰を与えて欲しいんだ!」


 謎の男は真剣な目で訴えてくる。何故だ?何故そこまで僕に拘るんだ?


『もしかして、この2人は僕の出生の秘密を知っているのか?いや、そんなはずはない。だって、どうやって……』 


 ドルトンを討つ。それは願ってもないチャンスだ。きっとこの2人は味方だ。でも、本当にこの僕に討てるのか?どんな方法で討つんだ?頭がぐるぐるし始めた時、外からソウタの声が聞こえた。


「アルダス、大丈夫か?」


 きっと、タイガ様と謎の男の頬を叩く音に、危機感を感じたのだろう。

 とっさに2人の男に目をやると、何故か2人とも薄笑いをしている。


「入ってこい、ソウタ・マグ・ローテス」


タイガ様が外に居るソウタに声を掛けた。フルネームで。

 するとノックもせずに、ソウタはドアを開けて飛び込んできた。手に剣を持って。


「ソウタ、剣を納めろ!私は大丈夫だ」


青い顔をしたソウタを見て、随分と心配していたのだろうなと申し訳無い気がした。

 ソウタは直ぐに剣を鞄に納めて、目の前の2人に軍礼をとり、僕の斜め後ろに立った。


「さあ、もう一度言う。明日にでもドルトンに罰を与えるが、君たちはどうする?投獄するも良し、修道会送りにして強制労働させるも良し・・・殺すのは簡単だが、私はそんな楽な罰は与えたくない。自らを悔い改めるチャンスと同時に、苦痛を味遭わせなければならない。最後に訊く、君は誰だ?」


謎の男は、まるで挑むような目で僕たちを見た。


 ソウタは、何がなんだか分からず、僕の方を見る。でも直ぐに、これまでの僕とタイガ様のやり取りを思い出して、タイガ様の目的がドルトンを罰することだったのだと悟り、大きく目を見開きゴクリと唾を飲んだ。

 僕は今の話を聞いて、始めからずっと引っ掛かっていたものが何なのかに気付いた。



『何故こんなに上から目線なんだ?そういえば国王クエナを討つ・・・とか言ってたよな。しかも偽王呼ばわりだ……よく考えろ!目の前の謎の男は誰だ?歳は25歳くらい、精悍な顔立ち、堂々とした振る舞い、罰することが当たり前のように行える人間・・・元国王派のタイガ様に、最も信頼できる人間と言われる人物・・・』


 僕は自分の知りうる限りの人物を思い浮かべる。伯爵ではない。侯爵?いやもしかして公爵家の誰かか?しかしこんな若い当主はいないはず・・・


『あっ!!!』



 僕は姿勢を正してその男の前に立った。そして軍礼ではなく、正式な礼をとって言った。


「大変失礼しました。私は、私の本当の名前は、アルダス・グ・キシです。どうかその役目、この私にお与えください殿下」




 それから僕たちは、ドルトンを屋敷内に投獄監禁し、恐らく生きてはいないだろう兄バロマの、安否を確認し保護する計画を立てた。同じやるなら圧倒的強さで制圧し、レイモンの息の掛かった者全てを捕らえて、ことが終るまで(偽王を討つまで)軍の収容所に軟禁しようと決めた。

 バルファー殿下は、偽王を討ったら正式に僕をキシ公爵に復位させると約束してくれた。そしてヨムとシュノーの子爵家の復位も約束してくれた。

 隣でソウタが泣いて泣いて大変だった。これで堂々とアルダス様にお仕えできると喜んで、何度も殿下にお礼を言っていた。

 

「ソウタ、まずは作戦を決行して、一斉蜂起を成功させ偽王を討つことを考えろ」


僕にそう言われて「申し訳ありません」と謝りながらも嬉しそうだった。




 翌日、僕たちに出された課題は2つ。本当は2日間で1つの課題を提出する予定だったのだが、タイガ様が「よーし、今日中に2つとも出せ」とか無茶を言ったけど、課題の内容を見て僕たち全員は「簡単じゃん」と思った。

 今はすっかり仲良くなったグループのメンバーたちは、互いに意見を言い合い、どんどん課題の回答を書き込んでいった。

 

 課題1は【国民が求めているものと、軍がすべきこと】だった。

 キシの街に来てから、毎日のように話し合ってきた内容だ。自分達が話してきたことを、そのまま書けば良いのだ。代表して益々僕の下僕化、いやファン度が上がったガルロに書記を頼んだ。


 課題2は【レガート軍を変えるとしたら何が必要か】だった。

 全員一致で、軍上層部の一新と答えが出た。しかし、その理由や方法についてはどう書けばいいのか迷った。

 僕はしれっと、方法はさ《軍内部でクーデターを起こす》とか、《いっそのことバルファー軍を作って、今の国王と政権を討つ》とか良いよね!と笑って言ってみた。


 始めは「それはヤバイって」とか「あり得ねーし」とか反論していたが、僕と、幼馴染み3人がにこにこと笑っているのを見て、「えっ?有りなの?」とか「まじ?」と身を乗り出して、僕の顔を覗き込んできた。


「僕はやるよ!手始めに明日、レイモンの息子のドルトンを捕らえるつもりさ」と、爆弾発言をした。


「「…………」」


キシ組を除く11人は、ヨム、ソウタ、シュノーの顔をキョロキョロ見て、僕が言ったことが真実か確かめようとする。ソウタが鞄の中から剣を出したのを見ると、飛び上がって驚いた。


「この作戦が成功したら、僕は女装を披露する約束なんだ。まあスゲー自信はあるけど」

「ちょ、ちょと待てよ。俺たちだけの秘密って言ってたじゃん!」


僕の発言の後を、ヨムが不満そうに文句を言う。


「そうだよ、絶対ヤバイよ!去年女装した時も、超絶美人の女の子にしか見えなかったから、もしも軍の人に見付かったら、襲われるって!」


シュノーが凄く心配そうに言う。何故か回りから、ゴクリと唾を飲み込む音がしたような気がしたが、まあいいか。


「僕はさ、僕の作戦に協力してくれた人にだけ、女装を披露するって言ったはずだよ」


「いやいや、やっぱり駄目だ!フィリップが知ったら殺される。てか、俺の理性が心配だ。いいかお前ら、絶対にアルダスの作戦に協力するなよ!味方の手勢が100人はいるから成功間違いなしだけど、危険だからお前らは止めとけ!いいな!」


ヨムはむきになる振りをして、他の情報をさらりと載せて皆を睨むように牽制する。


「いや俺は、大切なアルダスを守らなければならない!アルダスファンの代表として参加したんだ。だから俺にはアルダスを守る義務がある」


ドグが手を上げて、僕の方に近付こうとする。それを見たガルロも手を上げて近付いてくる。


 なんやかんやの意地悪5人組は、本当は僕のことが気になっていたらしく、最近では他のファンたちと違って、「自分達はアルダスを守るナイトだ」と言い出していた。だから当然、5人とも一斉に手を上げる。

 ワガママ大王クラーの手下4人も、「もう卒業だし、クラーに従う必要なんか無いよな!」と顔を見合わせて手を上げた。これで全員参加が決定した。



『これって、喜ぶべきなのか?悪を倒すとかじゃなくて、僕の女装目当て・・・全然嬉しくなーい!!』


 アルダスの女装で皆を参加させる作戦を考えたソウタは、ひとりご満悦の笑みを浮かべていた。 


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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