表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
予言の紅星1 言い伝えの石板  作者: 杵築しゅん
キシ公爵領奪還 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/23

4 キシ領の現状

 土砂崩れ現場の仕事も最終日、午前中に仕事は終了する予定だ。後は道路脇に避けて盛った土が固まるのを少し待って、順調に固まり始めれば終了となる。

 

 残りの仕事をそわそわしながら仕上げている皆の姿を見て、もう少しして弁当(パンに干し肉を詰めた物)を食べたら、キシの街へ繰り出すべきか、近くを散策するべきかと思案していたら、村長さんと孫娘(14歳)がやって来て、お礼に昼食を村でご馳走したいと申し出てくれた。


 僕は、キシの街はまた次の機会もあるからと皆を説得して、村人たちの好意に甘えることにした。

 みんなブーブー文句を言うかと思ったら、孫娘のアーリーが凄く可愛かったので、鼻の下を伸ばしながらオッケイしてくれたのだった。


 村人たちは、本当に暖かいもてなしをしてくれた。貧しそうな村なのに、かえって申し訳ない気がする程だ。

 昼食の途中で、なんだか違和感があったのだが、それが何か分かったのは、ソウタが村長にある質問をしたからだった。


「あのー、若い男性が少ないですがまだ仕事中ですか?」と。


 すると、俯いたまま金髪の三つ編みを触りながらアーリーが答えた。


「秋の収穫が2週間前に終わって、領主様に納めに行ったら、規定よりも少ないと難癖をつけられ、その分を労働で納めよと命じられたの。だから父も兄も村の男の人も、レイモンの屋敷の塀を新しく造らされているわ。国王様がこの前来て減税すると言われたはずなのに」


話し終えるとアーリーは、青い瞳からポロポロと涙を零した。 


 女の子の涙に慣れていないホイ、ブルネ、ドグ、オーエンたちは立ち上がっておろおろする。


「あのクズ、まだそんな勝手なことをしてたのか」


僕は怒りのあまり、つい皆の前で軍のトップであるレイモンのことを、クズ呼ばわりしてしまった。


「滅多なことを言うもんじゃない!誰かに聞かれたら大変じゃ」


村長の言葉で俯くと、ヨムが僕を援護するように堂々と言った。


「僕たち4人はキシの街の人間です。クズでなければゴミですね!キシの領民は全員そう思ってますよ」


「おいおい、何だそれ?国防大臣ってどんだけ嫌われてるんだ?」


意地悪5人組リーダーのホイは、僕と幼馴染み3人、アーリーや、村人たちの怒りの顔を見ながら驚いたように訊ねた。



「前の領主キシ公爵様は本当に尊敬するお方じゃった。しかし濡れ衣を着せられた上に殺された。後に残った嫡男モリス様は7歳と若かった為、後見人として公爵様の従兄弟にあたるレイモンが、全ての実権を握ったのじゃ。本来ならモリス様が15歳になった時、正式に公爵家を継がれるべきなのだが、病弱を理由に何故かレイモンが公爵になった」


「そうなんです。それからというもの悪行も不正もやりたい放題です」


村長とアーリーの母が唇を噛み締めながら言うと、村人からは啜り泣く声が聞こえた。


「警備隊はどうしたんです?文句を言わないんですか?軍は?軍は助けてくれないのですか?」


今度はクラーの手下組リーダーのヤレバが、村長に質問する。


「何を言っとるんじゃ。レイモンは軍のトップ、汚いことや尻拭いは軍の人間にやらせるんだ」

「・・・」


軍の実状を聞いて、僕たちキシ組以外のメンバーは、凄いショックを受けたようだ。みんな俯いてしまった。


「でもお爺様、1年前に来られたタイガ様は、私たちの味方だわ。そしてバルファー殿下も見守ってくださってるし」


アーリーが涙を拭きながらそう言ったので、皆はやっと顔を上げることができた。


『この村長は何者だ?どうしてそんなことを知っている』


 僕は幼馴染みのヨム、ソウタ、シュノーの方を見た。そして視線が合うとヨムが村長に訊ねた。


「村長はどうしてそんな詳しいことをご存知なのですか?」


 村長は暫しの沈黙の後、辛そうな顔をしてこう言った。


「わしは、前のキシ公爵様の時に、屋敷の庭師をしていたんじゃ。30年間な」

「では、白いバラ園を造った庭師の方ですか?」


僕は思わず訊いてしまった。いつも母が楽しそうに懐かしそうに話していた、素敵な庭のことを思い出して。


「はて・・・確かに白いバラ園を造ったのはわしじゃが、どうしてそれを知っていなさる?」


村長は緊張した顔で、逆に訊ね返してきた。


「こいつの母親が昔、少しの間屋敷に奉公していたんです」


ソウタは慌てて僕の代わりに答えてくれた。


 村長は僕の顔をまじまじと見て、「イレーヌ様?……いや、そんな、そんなはずはない」と小さな声で、独り言を言った。 


 僕は、母の名は聞き漏らさなかったが、村長からの視線は逸らしてしまった。



 これ以上の長居は不味いと判断して、僕はグループの皆にある提案をした。


「なあみんな、もう少し時間があるから、村の入り口のでこぼこの道に、土を運んできて綺麗に舗装しないか?」と。


「そんな、もうこれ以上申し訳ないです」


アーリーがそう言うと、ヤレバが前に出てきて言う。


「ご馳走のお返しと、軍が迷惑を掛けたお詫びです」


ヤル気満々で右腕を上げ、腕の筋肉を自慢する。釣られたように他の筋肉バカ、いやいやマッチョな皆も筋肉自慢を始めた。


 うん、アーリーに気に入られるよう必死なんだねみんな。まあ結果オーライだけど。


 こうして初めの任務は無事終了した。僕たちは気付かなかったけど、レポル教官は、毎日仕事ぶりを遠くからチェックしてたらしい。そして村長にも僕たちの感想を訊いていたらしい。


 実は後から判ったことなんだけど、3回行った道路整備は、タイガ様が事前に村長や町長から陳情を受けていて、学生にやらせると約束をしていたらしい。ただし、その事を僕たちには気付かれないようにと指示されていたらしい。

 あの人らしいと僕は思ったが、いろいろ気付かされたことも多かったし、思わぬ出会いもあった。

 


『どうやら敵ではないらしい。むしろこの国の腐敗ぶりや、レガート軍のこれからを、僕らに考えさせているようだ。しかし考えるだけではどうにもならない!真の目的は何だ?』



 1083年12月9日、キシの街に来て2週間が過ぎた。

 明日からは筆記試験が始まる。どんな課題が出るのか楽しみでもある。今夜は、キシの街に遊びに行っても良いと許可が出たので、みんな大はしゃぎだ。


 街の案内はヨムとシュノーに任せて、僕はタイガ様と向き合わなければならない。

 ソウタはどうしても残ると言う。僕の護衛として本来の役目を果たすつもりだろう。

 ソウタは伯爵家の3男で、代々我が家の護衛として仕えていた家の子供である。

 

「アルダス様、どうされるのですか?真実を話すなら素性も知られてしまいます」


グループの全員が街に出掛けて2人きりになると、軍学校に入る前の呼び方に戻って僕を心配する。

 1番心配性のフィリップも伯爵家の次男だが、今回は本人がグループのリーダーになってしまったので居ないが、もしもここに居たら絶対に付いてくるだろう。

 ヨムとシュノーは子爵家の長男だったが、レイモンによって爵位を奪われてしまった。

 

「ソウタはどう観る?」

「確かに敵ではないでしょう。レイモンに従う気が無いようですし、前国王派であることは間違いなさそうです」


ソウタはこっそり用意した剣を鞄に忍ばせながら答えた。


「そうだな、先に向こうの目的を聞き出すしかないな」


僕は覚悟を決めて部屋を出た。ソウタは1歩下がって付いてくる。向かうは指令室。

 指令室の前に来ると、ソウタにここで待つように指で指示し、ドアをノックして自分の名前を告げた。


「タイガ様、アルダスです。入っても宜しいでしょうか?」


ゴクリと唾を飲み込む。僕らしくもない、何故だか緊張してきた。


「入りなさい」


タイガ様の声がして、失礼しますと言ってドアを開けた。

 中に入ると、タイガ様以外にもう一人男がいた。その男はドアの方に背を向けて椅子に座っているので、顔を見ることはできない。


「この男のことは心配要らない。私の最も信頼できる人間だ」


タイガ様はそう言うと、僕を目の前の椅子に座るように指示して、熱いお茶を3つのカップに淹れている。ハーブの香りが部屋中に広がる。

 爽やかな香りとは裏腹に、僕は後ろ姿の男が出している空気というか、威圧感というか、オーラのようなものに恐怖に似たものを感じていた。

 タイガ様は机の上に僕の分のお茶のカップを置くと、にやりと笑ってこう言った。



「俺は、いや俺たちはレイモンを倒す!お前はどうしたい?」


 突然の話に一瞬意識が飛んだが、直ぐに立て直して答えを考える。

 レイモンを倒す・・・それは願ってもないことだが、今レイモンは王都ラミルだ。

 僕らは間もなくラミルに帰るが、タイガ様はキシの上官。勝手には動けないはずだ。


「軍の上層部を討つことが目的ということでしょうか?しかしタイガ様はキシの上官、軍を抜けてラミルに入るのは得策とは思えません。確かに私はレイモンが憎いし殺したいです。でも、ただ殺したのでは、あいつの罪は明らかになりません。私は、私はあいつを罰したいのです!」


僕は立ち上がり、両手をぎゅっとっと握って叫ぶように言った。


「なるほど、タイガの言う通り面白い人材だ。私もレイモンを罰したいと思っている。国務大臣のカワノもだ。そして真に討つべきは偽王クエナだ」


そう言うと、背を向けて座っていた男は立ち上がり、ゆっくり僕の方に振り向いた。



「君が本当の名前を言ったら、私も名乗ることにしよう」


一段と強いオーラを放ちながら、その男は真っ直ぐ僕の目を見て言った。 


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ