1 卒業試験
レガート内乱の番外編です。
内乱の時に起こった、もうひとつのエピソードになります。
主人公イツキが、将来レガート軍に入隊した時に、関係する人々が含まれています。
1083年11月10日、この日軍学校では、毎年恒例の卒業試験の科目と日程が、武道場前の掲示板に貼り出された。
貼り出された用紙は何故か2枚。
右側の掲示板には、例年通りの試験内容が書いてあった。
1)筆記試験 11月20~30日{軍関係}武器、火薬、戦略、役割、食糧、医学
12月 4~10日{歴史系}各国について、関係、国境、言語
2)武術試験 12月12~20日 剣、弓矢、体術、馬術 (2つ以上)
左側の掲示板には、驚く試験内容が書いてあった。
★バルファー捜索のため各地方の部隊に合流する。
【11月20日までにバルファーが捕らえられなければ実行する】
期間11月20日~12月20日予定
(1)15人1グループで行動し捜索活動をする。
(2)部隊の仕事を体験する。
(3)グループで課題を解く。
(4)課題労働をする。
グループで競争し、総合成績上位グループには賞金を出す。(3位まで)
〈採点、評定は、教官と部隊の上官が行う〉
(注意事項)グループ分けは、8人のリーダー選出後、リーダーは5名まで自分のグループに引っ張ることができる。残りは平等にくじでグループ分けする。
掲示板を見た学生たちは、
「働くとか嫌だけど、賞金は欲しい」「あ~銀貨1枚でもいいからくれ!」
「俺、絶対捜索がいい!」「俺も~」
「いやいや、俺は勉強する方が良いぞ」
「グループのリーダーとかやってみたいかも」「お前じゃ無理!!」
「こんなの有りなのか?」「聞いたことないよな」
などと、まあいろんな意見というか感想を言い始めた。明らかに左側の掲示板に釘付けになっている。
それから暫くして、ある噂が学生たちの間で囁かれた。
「おいおい、聞いたか?バルファー捜索の賞金って、1位のグループには金貨2枚(2万エバー)らしいぞ!」
「だったら、15人で分けると1人1333エバー・・・すごい!まじ銀貨1枚じゃん」
「俺は、1人5000エバー銀貨5枚って聞いたぞ!」
「いやいや、そりゃ幾らなんでもないわぁー」
定かではない噂が広がるにつれ、勉強に身が入らなくなり、気もそぞろになっていく。教官たちは渋い顔をしながらも、バルファー殿下が捕まらないと判っていたので、あまり叱らずに我慢した。
11月19日、この日は朝から冷たい雨が降っていたが、学生たちは燃えていた。今からグループリーダーを決めるからである。
明日からのバルファー捜索が正式に決定し、午前中はグループ分けを決めて、午後からは出発準備をし、夕方からは派遣先の決定を、グループ対抗筆記試験で決定する。そして最後に賞金について説明があるらしい。
武道場では、立候補を含む推薦者投票が行われていた。
投票用紙を教官が読み上げると、黒板に次々と名前が記入されていく。新しい名前が挙がる度「ウオーッ!」とか「まじかよ」とか「お前自分の名前書いたろー!」と声が飛ぶ。
合計16名の名前が書かれたが、上位8名がリーダーに決定した。
1番票が多かったのはクラー19歳で、グレーの長い髪を後ろで束ね、瞳もグレーでがっしり体型。顔はごっつく、貴族の家の3男だった。
クラーが立候補した時、取り巻きが多いので1番得票が多いだろうと予想はできていた。
クラーは上級学校を素行が悪いため退学となり、子爵である父親に18歳で軍学校に入校させられた、やんちゃ君でありボス的存在であった。
2番目がコーズ18歳で、金髪のベリーショートに青い瞳、細身で頭が良く誰にでも優しい。顔はわりと整っている二枚目である。
3番目はマルコ17歳で、肩まであるグレーの髪に銀の瞳、長身で武術は全て得意である。剣においては1番の腕前だろう。統率力もあり精悍な顔立ちだが、短気なところもあり3番目となっている。父親は中尉として軍で働いている。
4番目のアルダス17歳(キシ公爵編の主人公)は、茶髪のショートに焦げ茶の瞳、体型は見た目よりがっしりしているが、身長は156センチと低いため、皆からよく頭を撫でられている。顔も可愛い系で人懐っこい性格なので、マスコット的存在でもある。
下手をすると女の子に間違われそうなアルダス(いろんな意味で人気)が、これから奮闘し、仲間に発破をかけ、手を取り合って1ヶ月を乗り切って、無事に軍学校まで帰れるのか・・・と、一部の教官は不安を覚え、なんでもこなせるレポル教官を担当にした。
リーダーになった8人は、仲の良い者や武術や勉学に秀でている、メンバー5名を集めようと、早速勧誘を始めた。
もちろんリーダーたちに選んで貰おうと、自ら売り込みにいく者も多い。
クラーのグループは直ぐに5人が集まった。元々取り巻きがいたので武術系を3人、勉学系を2人選んだ。
アルダスは、幼馴染み(同じ町出身)を3人、アルダスのファン?から2人(立候補者は20名いた)を選んだ。
コーズ、マルコも直ぐに決まったようだったが、他のリーダー4人は苦戦したようだった。
グループの他のメンバーは、くじで決めることになっている。
仲の悪い者や出来の悪い者が、グループの中に1人や2人は必ず入ってしまうが、軍とはそういうところである。
ブツブツ言いながらも、なんとか8つのグループができあがった。
出来上がったグループを見ると、能力の高いメンバーが揃った、クラーのグループが断トツで優勝できそうだった。
次はマルコのグループ、3番手がコーズ、アルダスのグループは8番手位の予想順位である。
アルダスの幼馴染みは、良く言えば個性派揃いだし、わざわざ選んだファンの2人は、体力のみで武術も勉学もごく普通だった。
くじで集まったメンバーも偏った能力の持ち主でばかりで、おまけに大変仲の悪い奴等だったのだ。
アルダスのグループを見たクラーは、「ライバルにはなり得ない」と笑い、仲の良いコーズでさえ「ドンマイ」と肩を叩いた。リーダーとして8番目に選ばれたヨッテでさえ「勝った!」と、訳の分からないことを言った。
アルダスの幼馴染みだけど、リーダーに選ばれてしまったフィリップは、くじで選ばれた10人に向かって悔しそうに叫んだ。
「くそー、俺はリーダーなんてやりたくない!お前ら、アルダスに何かしたら殺す!!」
アルダスのグループに入ってしまったクラーの取り巻き4人と、日頃からチビのアルダスを馬鹿にしたり、女の子扱いしていた5人を睨み付けて言う。
「はははっ、大丈夫だよフィリップ。なんとかなるって」
アルダスは呑気に答えて、自分のグループに入ったメンバーに向かってこう言った。
「賞金が欲しい人?」
「はいはい!」、「銀貨欲しい!」、「当たり前なことを聞くなボケ!」
『へへへ、そうだよね。口の悪い奴もいるけど、良かったぁ。みんな貧乏そうで』
アルダスは、にこにこ笑いながら、非協力的そうな皆の顔を見ていた。
◇◇◇ アルダス ◇◇◇
夕方のグループ対抗筆記試験の直前に、グループのみんなを集めて僕は言った。
「どうやら賞金はひとり金貨1枚らしい。そして、今からある筆記試験の成績も、今回の評定に含まれるそうだよ。他のグループには内緒だけどね、さっきレポル教官がこっそり教えてくれた」
そう小声で言い終わると、人差し指を口に当て「ひ・み・つ」と念を押した。
さっきまで悪態ついていたクラーの取り巻き4人も、意地悪な5人もコクコクと頷いて、回りに聞こえないように「金貨1枚」と呟やき、小さくガッツポーズをとる。
筆記試験は3位だった。クラーの取り巻き4人も無い頭を絞って頑張ったようだ。
1位だったクラーは、派遣先の希望をミノスの街にした。バルファーが潜んでいる可能性が高く、治安も環境も良いからだろう。
2位だったコーズは、マキの街を選んだ。理由は一番近いからだろう。
3位だった僕は、キシの街を選んだ。キシは物資が豊富で活気がある。何よりも自分の故郷であり、キシ部隊には、軍の中でも評判の上官タイガ様がいる。
11月20日早朝、8名の教官と8グループの学生計120名は、それぞれの目的地に出発した。
{ 補足 }
軍学校は15歳~20歳までが入校できるのだが、平均は17歳くらいである。
軍学校を卒業すると、上位兵として入隊できる。軍学校に入校せずに入隊すると、一般兵(下位兵)からのスタートとなり、中位兵、上位兵へと出世していく。
(ちなみに、少年兵として働けば16歳になると中位兵になれる。上級学校を卒業すると少尉からのスタートである。エントンやギニは上級学校を卒業しているので、いわゆるエリートコースということになる)
いつもお読みいただき、ありがとうございます。




