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予言の紅星1 言い伝えの石板  作者: 杵築しゅん
レガート内乱 編

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14/23

王妃の座

 1084年1月12日、バルファー王はレガート城に帰ってきた。

 内門を通り抜けると、昨年5月まで暮らしていた懐かしい景色が目の前に広がる。前庭の大噴水を囲む庭木たちも、美しい石畳も、今は全てが白銀の世界になっている。ロイガ一行が入城した後も少し雪が積もったので、誰の足跡もついていない。


「この新たな1歩を、この白い世界に刻む1歩を忘れまい。これから我等で新しい歴史をつくる。覚悟はいいか!」


「はい王様!」「もちろんです国王!」「オーゥ!」


 バルファー王の掛け声と共に、入城する約200名(軍人、警備隊員、王宮で働く者たち、バルファー王に味方した貴族たち)は、それぞれに決心して軍礼をとったり、拳を振り上げたりした。

 バルファー王を先頭に足跡をつけながら入城して行く。

 

 王宮内にいた者たちは、全員大広間に集められ処罰を待っていた。

 黒マント姿で屈強なバルファー王が扉を開けて入ってきた。輝くオーラ一と精悍な顔を見て、驚く者、怖れおののく者、一部の人間以外は皆平伏した。


「レガート城で勤務していた者たちはご苦労だった。怖い思いをさせたろう。本日から3日間休暇を与えるので身体を休めるように。4日目からはまた勤務に戻ってくれ」


 集められていた者の内、医師、料理人、侍女など使用人たちに、バルファー王は労いの言葉を掛けた。

 もしかしたら処罰されるのではないかと震えていた使用人たちは、バルファー王の笑顔を見て安心して泣き出す者もいた。そして思い出した。あの優しくて身分に関係なく接してくれていた頃の殿下を。


「さて、今日は雪も降って寒い。さっさと片付けるからハース教頭、いやハース校長、書記を頼む」

「はい王様、いつでもどうぞ」


 バルファー王は、そこらに置いてあった椅子にドカリと腰掛け、処分を言い渡し始めた。

 

「先ずレイモン、お前は今から直ぐに、ソンヤ村に行き神の神判を受けてもらう。そしてマサキの街からアサギ火山にある修道会に送り、鉱山の鉱夫として死ぬまで労役を科す」


「神の神判とはなんだ?鉱夫になどせずここで殺せ!!」


レイモンは悪態をつき、ハージ警備隊司令官に剣の鞘で殴られて、直ぐに大人しくなった。


「マヌル、その顔は何がいけなかったのかと考えている顔だな。その答えを見付けさせてやろう。マヌルの身分を平民とし、1年間レガート国を働きながら回ることを命ずる。当然金は1エバー足りとも与えぬ。お前には監視の人間を付ける。逃げられると思うなよ!1年の後、レイモンと同じアサギ火山で鉱夫として労役を科す」


「・・・何故殺さぬ?」


処刑されると思っていたマヌルは、意外過ぎる処分に戸惑い、殺された方がましだと思い、ギュッと唇を噛んだ。


「楽な道を選べると思うな!」バルファー王は一蹴した。

 

 マヌルの前に1人の男が進み出てきて、バルファー王に軍礼をとった。そしてマヌルの縄を解いて荷物を前に置いた。どうやら旅支度の着替え等が入っている鞄のようだ。


「どうされました?これからは自分の荷物は自分で持つのです。私が必ず1年後にアサギ火山まで連れて行きます」


 マヌルは男の顔を見て複雑な顔をした。自分の監視をするその男は、かつての友であり部下であったスタミンだったからだ。



「エントン、後は任せた。俺は約束通りバルファー軍の皆と祝盃をあげる」


そう言うと、バルファー王はロイガや軍人、貴族たちを連れ、さっさと大広間から去っていった。


「やれやれ、我らが王は他の罪人には興味すら無いらしい……では私が処罰を言い渡す」


エントンはそう言いながら、ヤグルデとハグウェルの方を見た。


「お、お前はエントンではないか!なぜ、何故お前がここにいる?」

「寝返ったなエントン、卑怯者め!」


ヤグルデは呆然と、ハグウェルは激怒しながら叫んだ。


「本当にバカなんだな・・・エントン副総司令官は始めからバルファー王の右腕だったぞ。ついでに教えてやるが俺は左腕だった。はっはっはっ!!分不相応な地位はさぞ重かっただろうな」


ギニ司令官が、挑発するように自らの正体を明かす。


「ギニ!きーさーまー!」


ハグウェルは、縛られたまま噛みつきそうな勢いで立ち上がるが、部下だったハージ警備隊司令官に蹴られて吹っ飛んだ。


「では処罰を言い渡す。ヤグルデ、ハグウェル両人はヤシマ島にある強制収容所で、囚人たちの世話(食事の準備、掃除、作業の準備など)をせよ!お前たちはもはや囚人以下になった。殺されないように仕事しろ!あそこの監獄は荒くればかりだからな」


エントンは嬉しそうに言いながら、その後睨み付けた。


「私は必ず戻ってくる、覚えていろー!」


ヤグルデは寝言を言ったようだが、『俺は直ぐに忘れてやるよ』とエントンは思った。


ドサッ?・・・さっき吹っ飛んだのに今度は倒れた。はあ~っ……ハグウェル、期待を裏切らない小心振りだな。


「その他の者は、全員投獄後しっかり調べ挙げ、その罪に応じた刑を与えるものとする。残った者らを直ちに投獄せよ!」


エントンの指示で、ハージ以下警備隊が罪人たちを連れて大広間を出ていった。

 

 

 エントンとギニは2人きりになった。窓際まで椅子を運び座ると、少しずつ解けていく雪を観ていた。


「それにしても、王は最後まで無血に拘られたな」


まるで最終決戦が終わったばかりとは思えない静けさの中、ギニは腕を組んで窓の外を見ながら言った。


「そうですねギニ先輩。1滴の血も流さず、武力を行使せず【無血決戦】で勝利する。夢のよな話を本当に実現させちゃいましたね」


エントンは窓を開けながら返事した。一瞬冷たい風が吹き込んだが、すっかり晴れた冬の空を見上げて、達成感が胸に溢れてきた。


「そろそろ行くか?うるさい酔っぱらいたちが呼ぶ声が聞こえるし」

「あっ!あいつら一番高い酒から飲んでます先輩!!」


窓の外、王宮の渡り廊下で飲んで騒いでいる同胞たちを見て叫ぶ。


「なに~、調子に乗るなよ~」


そう言うと、ギニは走り始めた。エントンも急いで窓を閉めて後を追った。




◇◇◇ カシア ◇◇◇


 1084年1月11日、朝起きるとなんだかお腹が張ってきたような気がする。

『おかしいなぁ・・・出産予定日は月末なのに』

念のために、産院に行ってみよう。


 カイの街の【教会の離れ】を出て産院に向かって10分歩いたところで、急に歩けないくらいの激痛が襲ってきた。

 路肩で苦しんでいると、道行く人たちが駆け寄ってきてくれた。

 ある人は産院に走り、数人の人たちは荷車で【教会の離れ】まで親切に運んでくれた。

 カイの街はがっしりした労働者が多いので、少し怖いと感じることもあるのだけれど、妊婦や小さな子供には優しいことが最近分かった。


 前の領主であったマイヤー侯爵が、「妊婦や子供を守れ」という決まりを作っていらしたらしい。領主は替わったけど領民は決まりを守っていた。


 午前10時、陣痛が本格的にやってきた。


「先生、大丈夫でしょうか? よ、予定日まで……まだ、ウッ……ああっ」

「大丈夫だよ心配要らない。この子はもう産まれたいんだ」


先生は笑って答えてくれたので、安心して産むことに専念しよう。きっと今頃バルファーも頑張ってるはず・・・うーっ痛い・・・


『キアフ、無事に産まれてきてね、お母さんも頑張るわ』


 午前11時過ぎ、【教会の離れ】に元気な産声が響いた。


「おめでとう!元気な男の子だよ」


痛みのあまり意識が遠退きかけた時、キアフの元気な声が聞こえた。


 生まれてくれて、ありがとう。


 産湯を使って綺麗になったキアフを、隣の布団に寝かせて貰った。


「お母さん似の綺麗な顔ですよ。とても珍しい黒い髪に黒い瞳、髪はママに似たのね。睫毛も長くて・・・なんて可愛いのかしら」


看護師さんが、可愛いって褒めてくれて凄く嬉しい。


「ただひとつだけ、お産の時に着いたものかも知れないけど、腕に赤くなってる所があるの、暫くしたら消えると思うから、あまり気にしないでね」


そう言って、産院の皆さんは帰って行かれた。




◇◇◇ カスミラ ◇◇◇


 1月5日、クロス・エダ・マローン侯爵は、バルファー殿下の王座奪還が目前に迫ってきたので、家族と共に王都ラミルに居を移していた。


「お父様、私どうしても王妃になりたいの!バルファー様は私に微笑み掛けてくださいました。これまで何処のパーティーでも、あんな風に微笑まれたことはないから、きっと私を気に入ってくださったのだわ!」


カスミラ・エダ・マローン侯爵令嬢は、父親のマローン侯爵の手を握りながらお願いする。


「しかしまあ、王妃とは大きく出るな・・・」


マローン侯爵は困った顔をして答えた。


「もしもバルファー様に、決まった方がいらっしゃるのなら、側室でも構いません。バルファー様の子供を産みたいのです。そう、必ず王子を、王子を産みます。お父様は国務大臣になられるのでしょう?大臣の娘なのです。誰も文句は言えないはずです。もしも願いが叶わないのなら、私、私は死にます!」


カスミラは脅すように言って、声をあげて泣き出した。


「分かった。バルファー殿下に聞いてみよう」


 娘のカスミラには、ついつい甘くなってしまうマローン侯爵は、明日の作戦会議の後で、バルファー殿下に訊いてみると約束させられてしまった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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