バルファー登場
1083年12月20日、王都ラミルに1番早く到着したのは、マキの街にいたバルファー軍(旧国王派)だった。
始めはラミルの外で待機する予定だったが、さらりと軍学校まで行軍してしまった。
昨日マキ部隊の上官サームから、王都包囲網作戦の問い合わせをハヤマ(通信鳥)で受けた軍学校教官兼、軍学校拠点責任者のギニは、直接足を運びこう告げた。
「早く到着するマキ部隊と、キシの街から到着するキシ部隊は、蜂起したと思わせず、王命によって異動する途中、軍学校の学生たちを送ってきたと、本部に尋ねられたら答えてください」
「いやいや、それではあまりにも不信がられるだろう?」
マキ部隊のサームは、呆れた声でギニに文句を言う。
「たぶん大丈夫です。今からラミルの門番に、明日うちの学生が異動する部隊に送って来て貰うから、戻ってきたら軍学校まで直接来るよう伝えてください。と伝言しておきますから心配要りません」
「は?そんなんで良いのか?」
「はい、みんな気の良いバカですから、はっはっはっ」
「はっはっはってお前、本当に、本当に大丈夫なのか?」
大丈夫、大丈夫と言いながらギニは、キシ部隊にも同じことを言うために去って行った。
本当かよ・・・? 不安なまま緊張してラミルの門まで部隊が来ると
「お疲れ様です。異動大変ですね。ギニ教官から直接軍学校まで来て欲しいと伝言頼まれました」
と、にこにこしながら報告され、あっさりラミルの街に入れてしまった。
『大丈夫かよ、王都がこんなんで・・・』
と、サーム以下隊員たちは心配になったが、まあ、我々もバルファー軍の旗や印を掲げているわけでもないので、いつもの異動くらいにしか思われなかったのだろうと考えることにした。
そんなこんなで、マキ部隊とキシ部隊は同日無事に軍学校に到着し、一安心していた。
到着した2つの部隊約200名は、軍学校を拠点に活動することになり、久しぶりに学校の寄宿舎で汗を流して、くつろいでいた。
「ハース教頭、なんか拍子抜けした感じがするのですが、軍の統率はどうなっているのでしょう?」
マキ部隊のサームは、レガート軍本部の緊張感の無さと、有りもしない部隊の異動に、誰も疑問を抱かないことが心配になった。過去自分たちが本部にいた頃だと、こんなことは考えられないのだ。
「まあ、ギニ教官の日頃からの根回しが効いたのと、仕事しない上官だらけの本部の、現状が露見したというところだな」
ハース教頭は苦笑いしながら答えて、熱いお茶をカップに注ぐ。
「ところで、包囲網作戦は変更ですか?」
キシ部隊の上官タイガは、これからのことが気になった。
「その質問には、ギニ教官が答えることになっているが、今、人を迎えに行っているので少し待ってくれ。帰り次第全員の前で話をするだろう。2人とも教官用の風呂にでも入って休んでくれ。休めるのも今の内だ」
ハース教頭は2人を労い、風呂まで案内しようと席を立った。
午後7時、早めに夕食を済ませた2つの部隊全員と全学生が武道場に整列して、ハース教頭から王都ラミルと本部の現状について、いろいろと話を聞いていた。
「まあ本部については、今話した通りの現状だ。クエナ王になってからは、レイモン国防大臣が、軍も警備隊も指揮下に置いたため混乱も多く、仕事ができない賄賂貴族が上官になったことによる弊害は大きい」
「レイモンめ死ね!」
「腐った上官を辞めさせろ!」
「打倒クエナ政権!」
ハース教頭の話が終わると、皆が怒りの声を上げた。
「ではそろそろ本題に入ることにしよう!」
ハース教頭が手を挙げ、よく通る声で皆を静めると、後ろのドアから、頭まですっぽりマントに覆われた5人の男たちが武道場に入ってきた。
3人の黒マント姿の男が、整列している皆の前に立つと、その内の1人がマントを脱ぎながら号令を掛けた。
「バルファー軍総司令官と副総司令官に礼!!」
全員が慌てて起立し軍礼をとった。そして皆の視線が号令を掛けた男に集まる。
マントの下から現れたのは、精悍な目付きで皆を見るギニ・ノルガ・バイヤだった。
そしてまだ見たことのない、バルファー軍総司令官と副総司令官に熱い視線が集まる。教頭のハース始め、ここに居る全員が初めてその正体を知るのだ。
ギニ教官の隣に立つ2人がマントを脱ぐと、「ウオー!」とか「エーッ?」とか「嘘だろう!?」とか「何故あいつが!!」という声が上がる。
姿を現したのは、バルファー軍総司令官ロイガと、副総司令官エントンだった。
教頭ハース、マキ部隊のサーム、キシ部隊のタイガや20歳を越える軍人たちは、元警備隊総司令官のロイガが、バルファー軍の指揮を執っているのだろうと思っていた。
旧国王派の軍人は、全員が地方に飛ばされていて指揮が執れないはずだから、陽動作戦で国中を回っていた、ロイガ以外の人材はいないだろうと思っていたので、その姿を見て納得する。
皆が驚きの声を上げたのは、エントンに対してだった。
クーデター後もエントンは、レイモン国防大臣の右腕であり、カワノ公爵の義弟であるヤグルデ(バルファー暗殺担当者兼王宮指揮官)の部下として、バルファー捜索隊で働いていたのだ。
あの夜、バルファー殿下の暗殺に失敗したヤグルデは、エントンと共にバルファー殿下の見張りをしていたスタミンに、捜索の指揮を執らせていた。
しかし3ヶ月経っても捕らえられないスタミンに対し、学友であったマヌル王子は、「全てはお前の責任だ」と激怒して罷免してしまったのだった。その後、何人かの捜索指揮官を任命したが捕らえられず、12月1日付けでエントンが指揮官(大尉)に任命されたのだった。
レガート軍の、新国王派も旧国王派も、エントンのことをバルファー捜索の為に、国中を駆けずり回っているヤグルデの部下として認識していた。
そのため、旧国王派でありバルファー軍の皆には、主であるバルファー殿下を捕らえようとしている【敵】として、憎まれていたのだった。
エントンが【味方】だと知っていたのは、軍学校の教官とバルファー殿下の側近だけだったが、若いエントンが副総司令官であるとは、軍学校の教頭でさえ知らなかった。
「改めて、副総司令官のエントン・ファヌ・ビターだ。ここに居る全員が驚いたということは、私がスパイとしての仕事を上手くこなしていたと思って良いのだろうな。お陰で誰からも疑われることなく、王宮や本部に出入りし、捜索する振りをして自由に国中を動き回れたよ」
乱れた銀髪を手櫛で直しながら、爽やかな笑顔でエントンは挨拶した。
ポカンとしていた隊員たちは、話の内容を理解すると拍手し始めた。そして「すっげー」とか「騙された~」とか「かっけー」とか叫びだし、次第に拍手は大きくなってゆき、武道場が割れんばかりになった。
「よーし!みんな座れ!これから総司令官ロイガ様が大切な話をされる」
ギニ教官は興奮を落ち着かせるように叫び、用意されていた大きな黒板を前に出した。
「総司令官のロイガだ。これから偽王討伐のための作戦を説明する」
低く深みのある声が響くと、隊員たちの顔付きがスッと引き締まった。
ロイガが作戦を話し始めると、エントンはそれを分かり易く黒板に書いていく。
【王都包囲網作戦】は、【レガート城包囲網作戦】と名を変更された。
王都ごと包囲すると街が混乱し、国民が戦いに巻き込まれ、経済が混乱する。しかしレガート城だけを包囲すると、戦いは王宮周辺のみで済み、国民の生活はほぼ守られる。
もちろん、バルファー軍が全員王都内に進軍するのではなく、半分の軍勢は、外から新国王派に援軍が来た場合と、王都から逃げ出す新国王派を捕らえる為に、王都を包囲させておく。
作戦が変更になった経緯としては、2つの部隊が既に王都に進入できており、5日以内には他の2部隊も進入できそうだと考えたからであった。
「これからは、頭脳戦になるぞ!ここに居る全員が役目を果たせれば、年内中に勝利できるだろう!」
ロイガ総司令官が、檄を飛ばす。
「必ず勝つ!!」とギニ教官が拳を振り上げ叫ぶと、「必ず勝つ!!」と全員が拳を振り上げた。
盛り上がってきたところで、エントンが前に出て右手を上げる。すると武道場は一瞬で静かになった。
「思っていたより【敵】がバカだったのと、たまたま新政権が混乱しているとの情報も入った。我々は良いタイミングで蜂起したようだ。そこで、最終目標である【打倒クエナ政権】と【バルファー殿下の王座奪還】を、《無血決戦》で勝ち取りたい!」
エントンは、黒板に《無血決戦》と大きく文字を書きながら、不敵な笑みを浮かべながら言った。
「・・・?」
全員が何?どういうこと?と互いの顔を見合せながらキョロキョロする。
「無血決戦とは、圧倒的強さで血を流すことなく【敵】を降伏させることだ」
今度は力強い声で言いながら、両腕を組んだ。
隊員たちは「おーすげー」とか「無血最強」とか言いながら、何故かエントンと同じ様に腕を組んだ。(きっとカッコ良く見えたんだな……)
「そこで、皆の任務を説明する。10人1組で班を作れ。リーダーを決めたらリーダーは俺の所へ集合、残った者はギニ教官から指示を受けてくれ」
エントンの指示で、全員が一斉に動き出した。どの顔もやる気と気力に満ちている。
「よーし!自分のすべきことは理解したな。今回《無血決戦》を決断されたのはバルファー殿下だ。そうでしたよね殿下?」
ロイガ総司令官が、武道場の後ろで、マント姿のまま座っている2人の男の方を見て言った。
「?」
「えっ、殿下?」
「今、殿下って言った?」
「ええー!!!」
全員が一斉に後ろを振り向く。
2人のマント姿の男は、ゆっくりとマントを脱いでいく。はじめに顔を出したのは、元バルファー捜索隊指揮官スタミン・ロムスだった。以外な男の登場に会場はざわめいた。
そして、もう一人の男がマントを脱いで「みんなご苦労!」と、キラキラ輝く銀髪、銀色に近いグレーの瞳で、嬉しそうに声を掛けた。
その神々しさに、バルファー殿下を見たことのない隊員たちも、殿下であると一瞬で理解し、慌てて起立して軍礼をとった。
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