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予言の紅星1 言い伝えの石板  作者: 杵築しゅん
レガート内乱 編

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10/23

作戦開始 

◇◇◇ マヌル王子 ◇◇◇ 

 1083年12月3日、国王クエナは原因不明の熱と腹痛に襲われていた。

『あれだけ健康に気を付けているのに何故?』


 皇太子となったマヌルは、納得がいかない思いだった。もしや毒を盛られたのでは?などと考えてしまうと、王宮内の全ての人間が間者のように思えてくる。


「よいかマヌル、私が病だと・・・誰にも知られてはならぬ。大臣たちにもだ。巡行の疲れが少し出ているので、大事をとってしばらく休むことにすると皆に伝えよ。その間は・・・お、お前が私の代行をするのだ」


痛みに顔を歪めながら、クエナ王はなんとか体を起こして息子マヌルに指示を出す。


「はい父上、いえ王様。しかし、カワノ国務大臣にも知らせなくてよいのですか?」


 国王の代行をするのはいいが、全てを取り仕切っているカワノ国務大臣には、協力して貰った方が良いのではと思う。それに、自分の相談相手がいないのは不安でもある。


「もしも、3日経っても病が治っていなければ、カワノ国務大臣には知らせてもよいが、王宮で働く者たちにも知られないように注意しろ」


それだけ指示して、国王クエナはまた痛みに襲われ、王医師は痛み止を飲ませた。

 しばらく痛がっていたが、薬が効いたのか国王は眠りについた。


「原因は判らないのか?医者ならなんとかしろ!」


 マヌルは苛立ちを医者にぶつけるが、王医師は診たこともない症状にただ平伏して、原因究明に全力を尽くしますと言うほかなかった。


 次の日マヌルは会議に出席し、巡行疲れの国王に代わり、しばらく自分が国事を行うと大臣たちに告げた。

 カワノ国務大臣は面会を申し出たが、あと2日待てとマヌル王子に言われて、おかしいなと思いながらも2日待つことにした。

 2日後、一向に回復しない国王の病状を、カワノ国務大臣に相談しようと決心したが、3日目になっても4日目になっても、カワノ国務大臣は出仕してこなかった。そればかりか、ヤッデン警備隊総司令官までもが休んでいた。

 

 マヌルは『もしやカワノ国務大臣の裏切りか?』と疑い、カワノとヤッデンの屋敷に使いを送り、至急出仕せよと王命を出した。

 すると各屋敷の家令が、慌ててマヌルに面会を申し出て、主の病を告げた。


『なんの断りもなく出仕しないなど、国王に対する反逆と思われても仕方ない行いだ。ヤッデンや他の上官まで病気で休むとは、私をなめているのか反乱の準備でもしているとしか思えない』


 家令の言葉が信じられないマヌルは、怒りに任せてカワノの屋敷に小隊を連れて踏み込んだ。そして、そこで見たのは父クエナ王と同じ病で苦しんでいるカワノの変わり果てた姿だった……


「・・・」


 しかも、カワノの方が重症だった。家令や家族は、小隊を見てパニックになり「どうかお許しを」とマヌルに泣きながら懇願した。


「いつからだ?どうしてこんな病になったのだ!」


マヌルは、カワノの姿が明日の国王の姿のような気がして、絶望感と怒りで叫んだ。


「主人は4日前の夜突然苦しみ出し、2日前から口もきけなくなりました。原因は、原因は全く判りません・・・」


カワノの奥方は、憔悴しきった顔で答えた。


 カワノの屋敷を出た後、ヤッデンの屋敷にも行ったが、こちらはもう虫の息になっていた。休んでいる4人の上官の家に小隊を向かわせ確認させたが、皆が同じ病で臥せっていた。


「これは流行り病なのか?それとも巡行で何かあったのか?」


マヌルは独り言を呟きながら、言い知れぬ恐怖心を抱いていた。





◇◇◇ 卒業試験 ◇◇◇


 11月25日、軍学校の卒業試験は道路の整備から始まった。

 エントンから『国民の為になることをさせてください』と指示されていた教官たちは、出発前の会議で、街道ではなく小さな町や村の道を整備させようと決めていた。

 始めはブツブツ文句を言っていた学生たちだが、町や村の人たちに感謝されたり、お礼に野菜や差し入れを貰うようになってからは、何処のグループも自分たちの仕事(試験内容)に意義を感じるようになっていた。


 道路整備の他にも、各グループで国民の為に何ができるかを考えさせ、上官が許可を出せば、それらを実行させた。教官たちは、ただ命令に従うだけではなく、回りの状況や人の流れ、人々の気持ちを知ることができる、そんな兵士になって欲しいと指導した。


 12月5日、最初の課題の提出日がやってきた。テーマは【国民が求めているものと、今、軍がすべきこと】についてだった。

 12月12日、最終課題は【レガート軍を変えるとしたら何が必要か】だった。

 どちらの課題もグループで意見をまとめて提出し、教官と上官が評価して学校に送ることになっている。


「なかなか着目点は良いですよね。道路整備も上手くこなせるようになったし、国民目線で回答してあります。今年の卒業生は大いに見込みがありますよ!毎年この試験をやりましょう」


 学生たちが滞在した8ヶ所の上官たちは、皆同じようなことを教官に告げた。


「特に最終課題については、軍上層部の一新などと辛辣な意見が出ています」


嬉しそうに軍の大佐が、回答文を読みながら言う。

 最終課題は、決して本部の上層部には見せないと伝えてあったので、素直に思ったことを書いたようだった。


『エントンのもくろみ通りになったな。まあ賞金にも釣られてはいるのだが、そろそろ仕上げに取り掛かるか』


 バルファー殿下の王都包囲網発令まであと3日と迫り、教官たちは気を引き閉めて行動を開始した。


 そして迎えた12月15日、軍学校の全学生を含む、地方にいた90%のレガート軍兵士たちは一斉蜂起した。





◇◇◇ カシア ◇◇◇


 バルファーから毎月届く手紙を何度も読み返して、カシアは幸せを感じていた。

 あの夜、たった1度のわがままで、大切な命を授かることができた。

 兄エントンから、安全のためカイ正教会の【教会の離れ】で生活するように言われて2ヶ月。12月のランドル山脈に近いカイの街は、すっかり冬の景色へと変化していた。


『ずいぶんとお腹が大きくなってきたわ。きっと男の子、私には判る。バルファーに似てたらいいな……』

 

 カシアがお腹を擦りながら呟くと、赤ちゃんが元気よくお腹を蹴った。

 出産予定日は1月末頃で、お産は【教会の離れ】ですることになるだろう。


 バルファーからの手紙には、必ず最後に「君に会いたい」と書いてあった。「私も会いたい」と手紙を読む度に、カシアはつい声に出してしまう。そして手紙を胸に押し当て、はーっと長い息を吐く。

 今月の手紙には、上手くいけば出産前に迎えに行けるかもしれないと書いてあった。

 そして、少し気が早いけど赤ん坊の名前を考えたと、男の子の名前だけが書いてあった。


 僕たちの子どもの名前は、キアフ・ル・レガートにしよう。


『ええバルファー、とっても良い名前。キアフ。キアフちゃん、パパが素敵な名前をくださったわ。これからはずっとキアフって呼ぶわね』


お腹の子どもに話し掛けながら、何度も名前を呼んでみた。

 ちなみに、女の子だったら産まれてから名付けたいらしい……


『とうとう王座奪還の戦いが始まる。どうか無事でいて!そして笑顔で迎えにきて』


 カシアは、カイ正教会の大聖堂でいつもより長く神に祈った。そして元気な男の子が産まれますようにとお願いした。




◇◇◇ バルファー ◇◇◇


「この度は、いろいろお世話になりました。計画通り蜂起します。これは、お借りしていたお金です。どうぞ確認してください。王座奪還が叶ったら、約束通り国務大臣のポストを用意しましょう」


バルファーは金貨700枚(700万エバー)が入った袋を、男の前に差し出し礼を言った。


 男の名はクロス・エダ・マローン侯爵。鉱山を買う資金を出してくれた男である。

 バルファー軍を応援してくれる、数少ない金持ち貴族であり、裏で前国王暗殺に手を貸した人間を調べ挙げてくれた人物でもある。

 マローン侯爵は、広い領地は持っていないが、木材を扱う権利を持っていて、商人のように国中に屋敷を持っていた。今日はヒミ川の終点であるヤマノの街の屋敷で会っている。

 まあ、国務大臣という見返りは要求されたが、決して悪い人間ではない。むしろ鼻の利く人間なのだろう。


「ところで、どうやって700万エバーを返せたのでしょう?何か良い儲け話でも?」


そこを訊くとは、流石金持ち貴族だなとバルファーは感心したが、「それは秘密にしておこう」と答えておいた。

 そこへドアをノックして、美しく着飾った娘がお茶を運んできた。私の娘ですとマローンが紹介する。


「カスミラと申しますバルファー殿下。お城の舞踏会では何度か御目にかかっておりますが、こうしてお茶を御出しできるなんて、夢のようでございます」


と、完璧な所作で礼をとった。いかにも金持ち貴族の令嬢といった感じだ。


「これはカスミラさん、マローン侯爵にはお世話になっています」


全く記憶にないなあ・・・と思いながらも挨拶を返した。そして何故か、婚約者となったカシアが初めて自分に礼をとった時のことを思い出し、つい笑顔が零れてしまった。


 その笑顔が、バルファーにとって最悪の悲劇を招く引き金になってしまうとは、この時は気付くはずもなかった・・・


 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

いよいよ反撃開始です。

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