雨のち晴れ
雨がやまない。
どんよりした灰色の雲が空を埋め尽くしている。
僕、綾小路隼人は静まり返った部室の窓を見つめながら、ため息をもらす。
「どうしたんです、綾小路先輩。浮かない顔して」
不意に聞こえた声のする方を見ると、新聞部の後輩である岩崎貴博が立っていた。
「いや、なんか、雨の日は息苦しいし寒いし…なんだか嫌だなぁって」
「僕は結構好きですよ」
「なんで?」
「雨が降っていると、綾小路先輩と沢山居られる気がするからです」
「貴博…」
ぎゅっ、と抱きしめられる感触。
確かに雨が降っていると、取材だの何だのと外に出たくなくなる。
「僕も、雨に射たれるのはあまり好きでは無いです。でも、こうして綾小路先輩を抱きしめられるのは幸せというか…」
「それは…僕もだよ」
なんだか微笑ましくて、小柄な貴博の首に顔を埋めた。
「貴博、温かいな。外じゃ雨が冷たいのに」
「…綾小路先輩も温かい…」
さっきまでの憂鬱が嘘のように、冷えた心臓が嘘のように。
「綾小路先輩。僕は絶対にあなたを離しませんよ」
「僕も離れないから」
なんだか余りにもベタな会話で、僕達は笑った。
「例え僕が消えても、僕は…」
「例えでも、綾小路先輩が消えるのは嫌です」
伝わる体温が、本当に温かくて。
「嘘でも消えるなんて言わないで下さい」
そう言った途端、貴博が唇を重ねてきた。
「っん…」
「綾小路先輩、大好きですよ」
答えようとしたのに、また唇を奪われる。
今度は、舌と舌を絡ませる深い口づけ。
貴博の尻に手を置き、もう片方の腕を背中に回すのが僕の答え。
例え僕が消えても、貴博が消えても、離さない………
翌朝、目が覚めると、窓の外は日が射し晴々としていた。