「泥猫」の話 2
今日は八百屋のおっちゃんのとこから食料を獲ることにした。
八百屋のおっちゃんはでっぷりしてるから足も遅い。
いつもさっとくすねて路地に逃げ込めば追いかけてこなくなるし、逃走経路も複数ある。
本拠地とは別方向へ逃げ込めばそれだけで特定され辛いって「先生」も言っていたし、今日も大丈夫なはずだ。
獲るタイミングも大事だ。
おっちゃんが客と話しているときじゃなくて、会計しているときが狙い時なんだ。
今は若い姉ちゃんと話している。
この姉ちゃんが買うタイミングで獲りに行けば、あとはいつものように逃げるだけの簡単な仕事だ。
姉ちゃんがなにかを言ったのかおっちゃんの顔はデレデレだ。
姉ちゃんは財布を取出し、そのままおっちゃんの手に持っている果物を買うみたいだ。
店の近くに忍び寄っていた俺はそのままいくつかの食料を獲り、いつものように走り出した。
それに気づいたおっちゃんが何かを叫んだみたいだが、手にもつ果物とお金が邪魔して動き出せない。
そのまま俺はいつもの路地に逃げ込み走り続けた。
途中で止まると追いかけてくるおっちゃんに捕まるかもしれないし、ほかのやつらに獲物を盗られるかもしれないし。
いくつかの路地を走り抜け我が家についた。
そのまま我が家の前に立ち呼びかける。
「おーい、帰ってきたぞ。 今日もいつもの果物と野菜を獲ってきたよ。」
「兄ちゃんおかえり!」
勢いよく扉が開き妹分の「泥犬」が飛び出してくる。
いつもならそのまま今日の収穫を受け取り家に戻る妹分が、今日は立ち止まって俺を見ている。
いや、俺じゃなくてその後ろを見ているようだ。
気になって振り向いて見えたのは、八百屋で話していた姉ちゃんだった。
「君、小っちゃい割に結構な距離を走り抜いただけあって体力はすごいね。だけど逃げる時は追跡されていないかキッチリ後ろも見ておかないとだめだよ?」
後ろに立っていいた姉ちゃんはそんなことを言ってきた。
「・・・いつから追ってきてたの?」
「八百屋さんのところからかな?」
どうやら最初からついてこられていたみたいだ。
どうやってこの場を逃げ切るか考えていた俺に姉ちゃんは続けて言ってきた。
「八百屋のおじさんから野菜泥棒を捕まえてほしいって依頼があったから受けたんだけど、相手がこんな小っちゃい子だったとはねー。どうする?このまま捕まるなら痛いことはしないんだけど?」
やっぱりこの姉ちゃんは俺を捕まえに来たんだ。
このまま抵抗すると「泥犬」まで捕まるかも知れないし、なにより俺じゃ大人に勝てるような力もない。
おとなしく捕まるかと考えたとき、「泥犬」が飛び出してきた。
「お兄ちゃんをいじめないで!お兄ちゃんをいじめるとゆるさないんだから!」
いままでおとなしくしていた「泥犬」だが、俺が捕まると思ったのか姉ちゃんに向かって体当たりを仕掛けに行った。
俺は止めようと動いたけど、それより早く姉ちゃんが動いて「泥犬」を捕まえてしまった。
「あはは、威勢がいい嬢ちゃんだね。だけど今はお兄ちゃんをいじめてるんじゃなくて、お話をしているんだよ?だからおとなしくしててね?」
そう言って「泥犬」を捕まえたまま俺に向き直ると、
「妹さん?泥棒はよくないけど、なにか事情があるようだね。まずは君の話から聞こうか。そこの家が君たちの家なんだろ?このまま上がらせてもらっていいかな?」
そう言って拒否権のない問いかけをしてきて、そのまま我が家に入られてしまった。