女神様は寝言がかわいいです。
「...いひひ。」
目を瞑る。
「...ちくわ...いや。」
目を固く瞑る。
「...とまと...。」
眠ることに集中する。
「...ふあ。...もう朝。...まだ寝てるかな。」
まだも何も僕は一睡もできてない。
「ふふふ。どうやって起こそうかな。」
起こそうも何も僕はまだ眠れてない。
「ベタにフライパンとお玉かな。」
寝ていたとしたらやめてもらいたい。
「それとも普通に起こそうかな。」
ぜひそうしてほしい。
「でもせっかくだからなあ。」
普通に起こしてください。
「よし!抱き起こそう!」
「やめてください!」
女神様は何やら残念そうな表情だ。
「なんだいなんだい。
眠ったふりをしていれば僕のありがたい抱擁を受けられたというのに。
何が不満なんだい。」
ありがたいも何も眠ってた時にすでに抱きつかれてます。
「まあいいさ。
君はウブだからね。」
そう言うと女神様は起き上がる。
「まあ一緒に眠れただけでもいいさ。」
僕は眠れなかったんだけど。
「さあ今日は何を作ろうかな。
そうだねえ。
トーストでいっかな。」
めんどくさいらしい。
少しおぼつかない足取りでリビングへと向かう女神様の後ろをついていく。
「...ふあ。よく寝たよ。
君のおかげで快眠だねえ。」
僕は女神様のおかげでオールですよ。
「じゃ、ちゃちゃっと作っちゃうから待っててね。」
いつも通り僕は本を読んで待つ。
「君は本当に本が好きだねえ。」
たまたま読みたい本があったから読んでるだけなんだけど。
「できたよ!美味しいよー。」
テーブルに向かうとトーストに目玉焼きとベーコンが乗っている。
目玉焼きは半熟みたいだ。
さすが女神様。
「はい。塩だよ。」
そんなことまで知ってるなんて。
恐るべし女神様。
「いただきます。」
「食べて食べて!」
相変わらず女神様はキラキラした目で僕の一口目を見つめてくる。
「恥ずかしいんだけど。」
「何を今更!それとも食べさせてあげようか?」
いや、遠慮しておこう。
「ほら、早く食べないと冷めちゃうよ!」
それもそうだな。
「...じぃ。」
なんか加工してる?ってくらいキラキラしてる目は僕の一口目を逃さないよう必死に固定されている。
一回意識してしまうと駄目だ。
「あの、やっぱ恥ずかしいんですけど。」
すると女神様はサングラスを着用する。
いや、そういう問題じゃない。
いや、サングラスは何処から?
「ほら、早く!」
なんだかサングラスで急かされてどうでもよくなってしまった。
「どうだい?美味しいかい?」
うん。
さすが女神様。
完璧な半熟具合である。
ベーコンもカリカリで素晴らしい。
「美味しいです。すごく。」
「むふ。そうだろう!
僕の料理は何だって君好みさ!」
変な笑い声とともにドヤ顔で宣言されてしまう。
なんか悔しい。
「ごちそうさまでした。」
「おそまつさまです。」
いつも通り二人で食器を洗う。
「今日は何をしようか。」
「何でもいいですよ。」
何だかこの環境にすんなり順応している自分に笑いそうになる。
「あれ?何だい?何か面白いかい?」
笑ってしまったみたいだ。
「いや、女神様と同棲している状況に慣れている自分が少しおかしくて。」
すると女神様は少し表情を暗くする。
初めて見るその表情に戸惑ってしまう。
「何か変かい?
僕と過ごすことが。」
うん?
いや、むしろ最初っから抵抗なさすぎて笑っちゃったんだけど。
まあ、女神様と同棲って状況に陥る人はそんなにいないだろうけど。
そういう点では女神様と過ごしているのは変だよね。
「いや、逆に違和感を感じなさすぎて怖いくらいだよ。」
そういうと女神様はいつも通りの笑顔を浮かべて頷く。
「そうだろうねえ。
君と僕は運命共同体だからねえ。」
そもそも何で僕は女神様と同棲しているんだろう。
「あの女神様。
今更だけど、何で僕はここで女神様と生活しているんですか?」
「愛し合う二人が一緒に暮らすのに理由なんていらないよ!」
きーん。
真横で叫ばないでほしい。
「それともこんなに美しくて家庭的な僕に何か不満でもあるのかい?」
えらい自信である。
確かに女神様は非常に綺麗な顔をしている。
料理も上手いし、部屋も綺麗に掃除されている。
いや、女神様だから何でもありなのかも。
「もういいよ!
君なんて大きら...大好きだ!」
そう言って女神様は何処かへ走り去っていく。
どういうことなのか。
走り去っていく女神様の後ろ姿を見ながら僕は食器を洗う。
なんか今までさらっと溶け込んできたけど、この状況は一体何なんだろう。
確か女神様はここは天界だと。
僕は所有物だと言っていた。
僕は死んでて地球には帰れないとも。
僕が知っている情報が少なすぎる。
まあ状況はいくら考えても答えは出ないだろう。
女神様について考えよう。
女神様について知っていることは美人であること。
髪は黒くて長くてサラサラしてていい匂いがする。
目は少しだけつり目でぱっちりしてて少し茶色っぽい。
まつ毛が長い。
肌は白くてすべすべしている。
口は小さくほんのりと赤く肌の色と相まって可愛らしい。
鼻も少し高くてシュッとしている。
背は僕より少し小さくすらっとしてるけど胸はしっかりある。
手も足も長くて細くてスタイル抜群。
爪も綺麗。
これらは主に昨日一晩中眠れなかった成果である。
いや、僕は一体何を考えているのだろうか。
『...うえーん。』
隣の部屋からわざとらしい泣き声が聞こえる。
とりあえず向かうべきか。
「どうしたんですか急に。」
「僕は泣いているんだよ!
とにかく慰めてくれよ!」
何で泣いてるのかもわからないしどうやって慰めればいいのだろう。
とりあえず頭を撫でてみる。
「にへへ。
君は本当に僕のことを知り尽くしているねえ。」
嘘泣きから一瞬でふやけそうな笑顔になる。
本当に表情豊かだこの女神は。
「よくわかりませんけどもう大丈夫ですか?」
「あと10分はそうしてないと僕はまた泣いちゃうかもなー。」
白々しく満面の笑みで堂々と宣言する女神はやっぱり美人だ。
「僕は幸せだよ。」
いつものようなふにゃふにゃした笑顔は子どもっぽい。
「そうだ!僕も君を撫でてやろう!
そしたら僕も君もハッピーじゃないか!」
どうやら妙案を思いついたらしい。
女神の手が僕の頭を撫で始める。
「どうだい?
幸せだろう?」
その笑顔を見るとそんな気がしてくるから不思議だ。
「...僕は幸せで胸がいっぱいだよ。」
この女神はいつも幸せそうだ。
『...いすきだよ。』
***
目を覚ます。
目の前には横向きの女神の寝顔がある。
どうやら僕は膝枕をされているらしい。
女神は笑顔のまま眠っている。
僕は起こさないように膝枕から抜け出す。
至福のひと時ではあったが女神の体制がきつそうだったための苦渋の決断である。
昨日一晩中眠れなかったからってこんなにころっと眠ってしまうとは女神に申し訳ない。
そのままソファにでも運ぼうか迷っていると女神は僕の膝に頭を預けてきた。
「...oh。」
素晴らしい。
美人の寝顔見つめ放題だ。
寝顔すらニコニコな美人さんは本当に幸せそうだ。
一緒に寝るとなると心臓に悪かったが、膝枕くらいなら何とか。
しばらく見つめるとまたも女神は寝言を呟き始める。
「...とまと。」
トマト好きなんだろうか。
「...はわい。」
行きたいんだろうか。
「...楽しかった。」
行ったんだ。
女神ハワイ行ったんだ。
「...もう食べれない。」
ベタだなあ。
「...とまと。」
トマトそんなに食べれる?
お腹いっぱいトマト食べるってなかなかきつそうなんだけど。
「...とまと。」
トマトすきだなあ。
かわいいなあ。
「...は!
なんか嬉しいこと言われた気がする!」
言ってないです。
目を覚ました女神ははてなマークを浮かべている。
なんだ?
「なんで僕が膝枕を?」
あ、寝る前は膝枕をしてたもんね。
そりゃ不思議か。
「何が?」
からかってみる。
「え。
どういうこと?
まさか夢!?
せっかく君を膝枕してたのに!
僕のもの感が素晴らしかったのに!」
まるでこの世の終わりかのような顔をしている。
...僕の膝の上で。
「ま、いっか。
膝枕されてるし。
ふひ。」
切り替えはや。
さすが女神。
「夢の中の君の寝顔は見放題で幸せだったんだけど。これもいいねえ。」
恥ずかしい。
もうそろそろ足が痺れてきた。
「その顔は足が痺れているね?
ふひひ。」
悪い笑みだ。
嫌な予感がする。
「降参したいなら今日は一緒にご飯を作る。
おーけー?」
頷くしかない。
「じゃあ今日は手巻き寿司だ!
君に巻いてもらうよ。
そして、食べさせてもらうからねえ。」
何故かドヤ顔。
いや、それ巻くだけじゃん。
作るって言っていいの?
勝手に食べさせることになってるし。
「じゃ、行こうか!」
そのままリビングへ。
女神はてきぱきと準備をしている。
「君も準備手伝ってね。」
そう言って女神は食器を手渡してきた。
「落とさないようにね!」
なんかバカにされている気がする。
僕は子どもか。
「よくできたね!
じゃ、これも宜しく!」
そのまま僕は女神にバカにされながら手伝う。
「じゃ、いただきます!」
「いただきます。」
やはり美味しい。
「じゃ、約束通り僕に手巻き寿司作ってよ。」
そうだった。
何にしよう。
女神は何が好きなんだろう。
「僕はねえ、錦糸卵とサーモンとキュウリが好きだよ!」
教えてくれるんだ。
とりあえず全部入れてみるか。
あと何入れよう。
「酢飯も!」
酢飯は入れるよ。さすがに。
ボケなのかな。
「これでいい?」
とりあえず好きって言われたやつ多めに全部入れてみた。
「わあ!
君が作ったものならなんでもいいよ!
たとえちくわが入っていようが食べ切っちゃうよ!」
女神はちくわが嫌いなのか。
覚えとこう。
「ふごくおいひいよ!」
食べながら喋らない。
リスみたいに頬張ってる。
思わず笑ってしまった。
「...ん。なんだい?」
「いや、女神様頰張りすぎですよ。
リスみたいです。」
そう言うと何が嬉しいのか女神はニコニコし始めた。
「つまりかわいいってことかな?
ぬへ。」
どう受け取ったらそうなるのか不思議だ。
確かにかわいいんだけど。
「ごちそうさまでした。」
「おそまつさまです。」
食べ終わった僕たちは食器を洗ってテレビを見る。
『...明日は雨が...』
「あらぁ。
残念だねえ。」
何がだろう。
「よし、じゃあお風呂も入ったし寝よっか!」
ニッコニコである。
昨日寝てないから今すぐ眠れそうだ。
そのまま部屋に向かうけど何故か女神はついてくる。
「...なんでついてくるんですか?」
「?
一緒に寝るって約束してるじゃん。」
きょとん。
女神は首を傾げ本当に不思議そうだ。
かわいい。
はあ。
僕は今日も眠れないみたいです。